話せなかった君へ
もし、あの頃の自分に言葉をかけられるとしたら。
あなたなら、何を伝えますか?
暗くて地味な女の子。クラスのお友達は一人だけ。
命令口調だけど、本当は優しいお友達なんだ。
「どうして話さないの?」
『………(知らない人、怖い)』
「壱果ちゃんだよね?」
少女はこちらをチラリと見た。そして逃げた。
『……』
「ここに隠れてるの、わかってるよ」
『だれ?』ボソリと呟く。
「未来の壱果だよ。私も昔そうだったから、わかるんだ」
『未来から来たの?でも、少しだけ私に似てる。親戚の人?』
「そんな感じかな。ちょっとだけ心配だったから、会いに来たんだ。これは私と壱果ちゃんの秘密だよ」
『え?』
「なんで話さないの?いつもママの後ろにいて」
『家にはいつもママの友達がいて、すごく嫌なの』
「だから嫌なことがあったら、鍵をかけて隠れるんでしょ。ハムスター、可愛いよね」
『……もしかして、タイムマシーンで来たの?』
「まぁ、そんな感じかな」
『私はどうなっているの?』
「普通かな。でも、たくさんお話ができるようになるよ」
『じゃあ、あの国の言葉もお話しできるようになる?』
「残念ながら、できなかった。発音が気になって、話せなかったの。でもね、それよりもっと強いものを手に入れるんだよ」
『すごいもの?それってなに?
私、スポーツも習い事も、何もうまくいかないの』
「辛かったよね。周りがみんな優秀で。お兄ちゃんと比べられて、辛いでしょ?」
『……もしかして本当に未来から来たの?』
「そんな感じかな」
『私はどうなってる?ちゃんとお話できる?』
「できるよ。心から信用できる人にだけ、話せるようになるよ。おじいちゃんが言ってたよね?信頼できる数名の友達がいればいいんだって」
『なんで、それ知ってるの?おじいちゃんはいつも壱果に言うの。人は時に裏切るって。嘘をつく人もいるって』
「だからこそ、心から信用できるお友達が、ちょっとだけいればいいんだよね」
『……うん。お姉ちゃんはやっぱり……』
「ちょっとだけ辛いこともあるかもしれないね。でも、話さないことで得をすることもあるんだよ。いつか気づく時が来る。長い長い道のりだけど」
『わたし、話さなくてもいいの?』
「うん。合わない人とは話さなくていいよ。心の目で見えるようになるから、大丈夫だよ。それにあなたは、信頼できるお友達がちょっとだけできる」
『信じられるお友達?』
「何も言わなくてもわかってくれるお友達ができるんだよ。そっと寄り添ってくれて、本当に信頼できるお友達だよ。信じられない人と一緒にいるよりとても楽しいよ」
『ほんとうに?信じられない……』
「信用できないお友達が100人いるより?」
『信じられるお友達が、少しだけいればいいって、おじいちゃんが言ってた。
もしかして、私の気持ちを分かってくれている?』
「もちろん。それよりもあなたは、どんどん強くなるんだよ」
『つよくなれるの?』
「たくさん怖い思いもするし、悲しいこともある。でもね」
『うん』
「逃げないで、自分の気持ちをちゃんと見つめられるようになる」
『あと、何年くらいかかる?』
「最低でも、20年はかかるかな」
『想像なんて、できないよ』
「でもね、それに気づいた時、長い闇から抜けた瞬間がわかるよ」
『私の人生、どう進んでいくの?』
「全部は教えられないかな」
『どうして?長い闇...って』
「ゴールがわかることって、とても怖いと思うの。だから伝えないよ。でもね、好きなように、ありのままで生きていける」
『ほんとうに?私、好きなように生きていいの?』
「いいよ。ママもパパも、いい人だよ。それがわかるのは、大人になってから。自分は恵まれてるって、いずれ気がつく時が来る」
『今は想像もつかないよ』
「人生で2回、てっぺんに立つ。登ったと思ったら、崖に落ちた気分になることもあるけれど、あなたは、ものすごく強くなる。もがくことになる。耐えられる?」
『自信がないよ。私は何のお仕事をしているの?』
「いくつか経験するよ。でもね、一つだけじゃない」
『え?』
「迷って、悩んで、それでも選び続ける」
『ちゃんと決まらないの?』
「決まるよ。でも、変わっていく。時に立ち止まってもいい。でも、自信を持って。追い込まれてもいい。あなたはそのくらい強くなる」
「じゃあ、もう時間だから帰るね。本気になれば、何にでもなれるよ。可能性は無限大だから。諦めないで」
『え……』
「実りある人生になる。周りの目じゃなくて、自分の気持ちが一番の敵。でもね、見えない手が押してくれる、そんな日が来るよ。私が伝えたかったことは、それだけだよ」
気がついた頃にはあの女の人は居なくなっていた。




