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話せなかった君へ

作者: 巳ノ星 壱果
掲載日:2026/05/12

もし、あの頃の自分に言葉をかけられるとしたら。

あなたなら、何を伝えますか?

 暗くて地味な女の子。クラスのお友達は一人だけ。

 命令口調だけど、本当は優しいお友達なんだ。


「どうして話さないの?」


『………(知らない人、怖い)』


「壱果ちゃんだよね?」


 少女はこちらをチラリと見た。そして逃げた。


『……』


「ここに隠れてるの、わかってるよ」


『だれ?』ボソリと呟く。


「未来の壱果だよ。私も昔そうだったから、わかるんだ」


『未来から来たの?でも、少しだけ私に似てる。親戚の人?』


「そんな感じかな。ちょっとだけ心配だったから、会いに来たんだ。これは私と壱果ちゃんの秘密だよ」


『え?』


「なんで話さないの?いつもママの後ろにいて」


『家にはいつもママの友達がいて、すごく嫌なの』


「だから嫌なことがあったら、鍵をかけて隠れるんでしょ。ハムスター、可愛いよね」


『……もしかして、タイムマシーンで来たの?』


「まぁ、そんな感じかな」


『私はどうなっているの?』


「普通かな。でも、たくさんお話ができるようになるよ」


『じゃあ、あの国の言葉もお話しできるようになる?』


「残念ながら、できなかった。発音が気になって、話せなかったの。でもね、それよりもっと強いものを手に入れるんだよ」


『すごいもの?それってなに?

 私、スポーツも習い事も、何もうまくいかないの』


「辛かったよね。周りがみんな優秀で。お兄ちゃんと比べられて、辛いでしょ?」


『……もしかして本当に未来から来たの?』


「そんな感じかな」


『私はどうなってる?ちゃんとお話できる?』


「できるよ。心から信用できる人にだけ、話せるようになるよ。おじいちゃんが言ってたよね?信頼できる数名の友達がいればいいんだって」


『なんで、それ知ってるの?おじいちゃんはいつも壱果に言うの。人は時に裏切るって。嘘をつく人もいるって』


「だからこそ、心から信用できるお友達が、ちょっとだけいればいいんだよね」


『……うん。お姉ちゃんはやっぱり……』


「ちょっとだけ辛いこともあるかもしれないね。でも、話さないことで得をすることもあるんだよ。いつか気づく時が来る。長い長い道のりだけど」


『わたし、話さなくてもいいの?』


「うん。合わない人とは話さなくていいよ。心の目で見えるようになるから、大丈夫だよ。それにあなたは、信頼できるお友達がちょっとだけできる」


『信じられるお友達?』


「何も言わなくてもわかってくれるお友達ができるんだよ。そっと寄り添ってくれて、本当に信頼できるお友達だよ。信じられない人と一緒にいるよりとても楽しいよ」


『ほんとうに?信じられない……』


「信用できないお友達が100人いるより?」


『信じられるお友達が、少しだけいればいいって、おじいちゃんが言ってた。

 もしかして、私の気持ちを分かってくれている?』


「もちろん。それよりもあなたは、どんどん強くなるんだよ」


『つよくなれるの?』


「たくさん怖い思いもするし、悲しいこともある。でもね」


『うん』


「逃げないで、自分の気持ちをちゃんと見つめられるようになる」


『あと、何年くらいかかる?』


「最低でも、20年はかかるかな」


『想像なんて、できないよ』


「でもね、それに気づいた時、長い闇から抜けた瞬間がわかるよ」


『私の人生、どう進んでいくの?』


「全部は教えられないかな」


『どうして?長い闇...って』


「ゴールがわかることって、とても怖いと思うの。だから伝えないよ。でもね、好きなように、ありのままで生きていける」


『ほんとうに?私、好きなように生きていいの?』


「いいよ。ママもパパも、いい人だよ。それがわかるのは、大人になってから。自分は恵まれてるって、いずれ気がつく時が来る」


『今は想像もつかないよ』


「人生で2回、てっぺんに立つ。登ったと思ったら、崖に落ちた気分になることもあるけれど、あなたは、ものすごく強くなる。もがくことになる。耐えられる?」


『自信がないよ。私は何のお仕事をしているの?』


「いくつか経験するよ。でもね、一つだけじゃない」


『え?』


「迷って、悩んで、それでも選び続ける」


『ちゃんと決まらないの?』


「決まるよ。でも、変わっていく。時に立ち止まってもいい。でも、自信を持って。追い込まれてもいい。あなたはそのくらい強くなる」


「じゃあ、もう時間だから帰るね。本気になれば、何にでもなれるよ。可能性は無限大だから。諦めないで」


『え……』


「実りある人生になる。周りの目じゃなくて、自分の気持ちが一番の敵。でもね、見えない手が押してくれる、そんな日が来るよ。私が伝えたかったことは、それだけだよ」


 気がついた頃にはあの女の人は居なくなっていた。




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