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風鈴の契約者  作者: 海藤
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03 商家の仕事



17歳ともなると、男ならば仕事に就いているやつが殆どだ。

家が商家だったりすると大抵はその手伝いが仕事になるだろう。

商家でもなんでもない家のヤツは、軍へと志願したり、どこか雇ってくれる店をさがしたり、街を離れて村で農家の手伝いをやったりと色々だ。


俺の仕事は実家の商家の裏方。

接客はもとより取り引きなんかは、知識や経験がないとやらせてもらえないので、俺は基本商品の運びこみだ。

後は、ちょこちょこ遠出して商品を受け取りに行ったりなんかもする。

幸いフィラに色々連れまわされたお陰で体力にもそこそこ自信はある。


(今日は、これを運び終われば終わり?)

(いや、あと港の方に荷物が届いているらしいから、そっちも取りに行かないとな)

(港ね…、もしかして外とも取り引き始めたのかな?)

(外の国と連絡が取れたような事、ちょっと前に親父が言ってた気がするからそうなのかもな)


俺の住んでいる汪秦オウシンの首都は、大きな河に面している場所にある。

河を越えて巨大な草原を越えれば別の国になる。

河との反対側にもちらほら小国があったりする。

嬉しいのか悲しいのか、そのあたりにフィラと一緒に行った事があるので、その文化や特色なんかも知ってたりする俺である。

その情報を親父に教えてみたりする事もあるんだが、それが切欠だったのか、それとも別方面から何か情報を仕入れたのか、数年前から親父が外の国に興味を示しているのは知っていた。


(港だとジェスヴィリアだよね…)

(確か、汪秦オウシンと並ぶくらいの大国だろ?)

(2000年くらい続いてる歴史ある大国だね)


どこか意味ありげな言い方をするフィラ。


(何かあるのか?)

(ちょっと、精霊の間でも意見が分かれれて特殊な国なんだよね、あそこ)


フィラが言う特殊の意味が俺にはさっぱり分からない。

ジェスヴィリアには何度かフィラに連れまわされて行った事があるが、行ったのは村か森か街道くらいだ。

国外では人の多い所にはあまり行かないようにしている。

人の多い所の面倒事は大抵時間がかかるからだ。


(揉め事起こりそうな取り引き相手なのか?その国って)

(いや、大丈夫だとは思うけど、ある事についての価値観がこの国の人達とは違うと思うんだよね。そこを気をつければ全然普通だろうし)

(なんだ?価値観ってことは宗教関係か?)

(似たようなものかな)


どの国にも宗教ってのは存在する。

大抵精霊を崇める宗教なんだが、その精霊を創った神なんて架空の存在を崇めてる宗教なんかもあるみたいだ。

ちなみに、精霊ってのは世界が自然に創りだしているので”神様”なんつー意志を持った存在はいないとの事。

少なくとも精霊王達はそう認識しているらしい。


(とにかく港へ行くぞ)

(何か騒動起こるといいね!!)

(不吉な事を楽しげに言うなっ!)


今店の裏にある荷物を運び終えた俺は、兄貴に一言声をかけて港へと向かう事にした。

取り引き先が何でも、取り引きの物が何でも、運営関係に関わってない俺にはあまり関係しない事だ。

とにかく仕事だ、仕事。







普段頭の中で会話している時フィラはどこにいるかと言えば、ちゃんとすぐそばにいるらしい。

ただ、見えないように存在をかなり薄くしているようで、俺がちゃんと力を使えば見えるようなんだが、声も聞こえるし、存在もなんとなくだが感じ取れるので、別に力を使ってまで姿を見ようとは思わない。

そもそもフィラと一緒にいる所を目撃されない為に、フィラと脳内会話をしているのであって、力を使ってしまえば契約者である事がバレてしまう。


契約者である事がバレれば連行され…いや、別に犯罪者じゃないんだが、扱いは同じようなものだと俺は思っている。

契約者ってのは貴重な存在だから、なんらかの拘束はされるだろう。

そんで、多分余計な義務とかそいういうのが発生するんだ。

なんか面倒そうなので、俺はそういうのは正直御免だ。


佐久耶サクヤ君、こっちだよ!」


港についた俺を、先に来ていた店の人が見つけて場所を知らせるように手を振っているのが見えた。

俺も軽く右手を上げてその人の所に駆け寄る。


「遅くなりました」

「いやいや、佐久耶サクヤ君にはいつも助かってるよ」

「運び込む荷物ってのはどれですか?」

「う~ん、実はちょっと扱いが難しいものでね。荷車を使わないで手で運んで欲しいんだ」

「手で?」

「割れモノだからね」

「あ~、そう言う事ですか」


割れモノというのは大抵が陶器やガラスなどの工芸品だ。

特にガラス細工はこの国では珍しいから、ちっさいものから大きいものまでそこそこ裕福以上な人達に良く売れる。

荷車に積んで運んでも通常は割れたりしないように、ちゃんと布や紙でつつまれて箱詰めされているんだが、万が一ってのがある。

やっぱり商品割れたら損害デカイしな。


「小さいのが多いから何度か往復してもらう事になるけど、大丈夫かな?」

「平気ですよ。体力だけが自慢ですから!」

佐久耶サクヤ君は若いからね~」


運ぶ荷物の箱を俺はひょいっと持ち上げる。

意外と軽い…、けど落としたらとんでもない事になるから気をつけないとな。


「夕方までには運び終えて欲しいから頼むね」

「分かりました」

「それじゃあ、私は取り引き先の相手と話をしてくるから、宜しくね」

「はい、任せて下さい」


俺は小走りで店の方に向かう。

港から店までは歩いて行ける距離だ。

小走りで往復すれば、夕方までに十分間に合うだろ。


(あ、珍しい。これってディースの硝子細工だ)


中の商品を風で探らせたのか、箱の中身がフィラには分かるようだ。


(知ってるのか?)

(ディースの硝子細工は昔から有名だよ?綺麗で繊細だからね)


相変わらず変な事に詳しい情報通だよな。

精霊なのにどっから情報仕入れてくるんだか。

商人の親父よりも全然いろんな事に詳しいし。


(どこから、そんな情報仕入れてくるんだ?)

(精霊達から)

(精霊達から?)

(風ってのは存在する場所が、火や水、大地みたいに限定されているわけじゃないから情報収集にはもってこいなんだよ)


そう言うことか。

風ってのは確かに部屋の中とか、外とか関係なく存在する。

洞窟の中でも地下でも空の上でもだ。

つまり、それはどこにでも風の精霊は存在するって事で、その風の精霊の頂点に立つフィラにとってはどこで何が起こっても筒抜けって事になる。

てか、フィラの干渉外の領域ってのはないのかよ。


(情報ってのはどんな時でも武器になるから大事だよ)

(もしかして、盗賊とか山賊とかの情報ってのは…)

(勿論精霊達に聞いた情報)


どこそこに山賊がいるだの盗賊の住処があるだの、どこからそんな情報仕入れてくるのかちょっと気になってたんだが、そう言うことだったのか。


(その気になれば世界征服もできるよ?)

(怖い事言うなっ!)

(え~、サクならできるのに…)

(できるとしても、んな恐ろしい事なんぞ絶対にやらん!!)


全く、いつもそうだか恐ろしい事をさらっと言うもんだ。

つーか、本当にフィラは精霊王か?

それともこの世界の精霊王ってのはこんな考え方してるのが普通だったりするのか?

いや、それはそれでものすごく怖いんだが……深く考えるのはやめよう。







フィラと脳内会話をしながらも、港から店に荷物を全て運び終えるのにあまり時間はかからなかった。

夕方くらいになると思っていたんだが、日が沈むまでまだ時間がありそうだ。

とりあえず他に仕事ないか兄貴に聞いてみるか。


佐久耶サクヤー」


名前を呼ばれて声の方を見れば、兄貴がこっちに近づいてくる所だった。

俺のすぐそばに積まれた商品を見て、満足そうに笑う。


「随分と早く済んだんだな」

「数は多かったけど、軽かったしな」

「おいおい、軽いってちゃんと丁寧に扱っただろうな?」

「勿論、1個1個手で運んで静かにここに置いたぞ」

「それならよし」


面倒な事は正直好きじゃないんだが、仕事は別だ。

手伝いとはいえ、俺がやってる仕事に対してちゃんと給料ってのは支払われる。

金を貰うってことは、それなりの働きをするのは当然の事だからな。


「兄貴、他に何か運ぶ物とかあるか?」

「特に急ぐものはないな。今日はここで上がってくれ」

「りょ~かい」


ってことはちょっとの間暇ってわけか。

どこか行くにも時間が足りないし、どうするか。

たまには適当に空を飛びまわるってのもいいよな。

いや、近々フィラに連れまわされる可能性を考えて身体を休めておくべきかもしれん。

待てよ、変に身体を休めたりしたらフィラが”これなら大丈夫だろう”と思って予想以上の厄介事を持ち込んでくる可能性もあるわけで…


佐久耶サクヤ…」

「んあ?」


考え事をしながら歩き出した俺は、兄貴の呼びかけにものすごく適当な返事を返してしまう。

妙に真剣な表情をしている兄貴がまだそこにいた。

って、何だ?


「お前、このままでいいのか?」


………は?

このままって、どういう意味だ?


「何かやりたい事があるんじゃないのか?もし、家の事が心配でそれを我慢しているんだったら我慢しなくてもいいんだぞ」

「いや、別に……てか、もしかして、俺、仕事の邪魔してる?」

「いや、そんなことはない!お前が手伝ってくれて凄く助かってるし、お前がいいならこれからも手伝ってくれると嬉しい。けどな…」

「けど?」

「お前が何か我慢をして、家にいてくれるならそんな必要はないんだってことを言っておきたかっただけだ」


そりゃ、俺のやってる仕事なんて品物の納品なわけで、誰にでもできるような事だ。

俺がいなくなった所で家は困らないだろう。

人が足りなければ誰かを雇い入れればいい。

力持ちでしっかり働いてくれるような人とかな。


「とりあえず別にやりたい事もないし、俺は現状満足だぞ」

「そうか?」

「ああ」

「そう……か」


兄貴はほっとしたような、でもどこか残念がってるようなため息をつく。

まだ何か俺に言いたそうな目を向けてきたが、すぐに諦めたかのように目を伏せる。


「じゃあ、ゆっくり休んでくれ」

「あ、ああ、分かった」


兄貴はそこか寂しそうな表情のまま、店の方に戻っていった。

一体なんだったんだ?

俺、最近兄貴に変な事でも言ったか?

そんな覚えはないんだけどな。


(多分昔からのサクの行動のせいでしょ)


…は?

頭の中に響くフィラの声に、俺は思わず顔を顰める。

てか、昔からの俺の行動でなんであんな言葉が兄貴からでてくる事になるんだ?


(何かを思い出したように唐突にどこかに行ったり、昔からふらっといなくなってちょっとキズこさえて帰ってきたりとか)


いや、それ、全部フィラに付き合わされた事だぞ。

唐突にどこかに行くってのは、新しい精霊の子が生まれたから連れ去られるように俺もいっしょに森に行ってるだけだし。

ちょっとキズこさえて帰ってくるのは、多分盗賊退治かなんかだ。

今はもう傷なんて負う事は殆どないんだが、昔はやっぱり傷の1つ2つあったからな。


(でも、なんでそれがさっきの兄貴の言葉に繋がるんだ?)

(うん、だから、それが、日常に不満を持つ冒険好きな少年というように捉えられているんじゃないのかな~と思うんだよね)

(それで?)

(日常に不満を持つ少年が商家の手伝いで満足なんてするはずないわけで、なにかでかい事やりたいけど家族が心配で出来ない状態だ……って思われてるんじゃない?)


ああ、それで兄貴はやりたい事があるなら気にしないでやれと言いたかったわけだな。

って、それ勘違いだろ?!

俺は別に冒険好きでも、日常に不満も持ってるわけでもないぞ!!


(お兄さんが覚悟してるなら、次はやっぱりある程度大きめの事件に関わったりしても面白そうかもね~)

(まてぇぇ!兄貴の覚悟があっても俺にはそんな覚悟はないっ!)

(えー、そろそろ大きい事件に首突っ込んでみようよ~)


大きい事件って何だ?!

というよりも、フィラからしたら今まで関わって来たのは大きい事件じゃなかったのか?!

俺にとっちゃ、十分大事件だったぞ!


ちょっと一度じっくり話し合う必要があるかもしれないな。

基本、俺が本当に嫌がることはしてこないフィラだが、嫌じゃなくても面倒な事はなるべくしたくない。

気が付いたら引き返せない所までどっぷりつかってたなんて事になりたくないしな!

とにかく、近々兄貴の誤解といておかないと。



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