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風鈴の契約者  作者: 海藤
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02-5 <閑話> 契約者

精霊とか契約者とかの色々説明。三人称の閑話です。




フィラこと、フィルレーラは風の精霊王である。

退屈が非情に嫌いな、風の精霊達を統べる王である。

精霊王とう存在は、勿論風だけではない。

水、火、大地、光、闇、それぞれに精霊王は存在する。

だが、その精霊王は人前にその姿をあらわす事は稀である。


精霊王の持つ力はあまりにも大きい。

精霊王と契約できずとも、その力を我が者にしたいと考える人間はどこにでもいるのだ。

だから、フィラが人間と契約をしたと聞いた他の精霊王達は、その情報を全てもみ消した。

広がらぬよう、人間に伝わらなぬよう、フィラの契約者である人間が権力ある者に取り込まれる事がないように。


これは少年が風の精霊王であるフィラと契約をして少し経った頃の話である。







「で、何でオレの所に来てんの?」

「ん~、一応断っておいた方がいいかな~と思ってね」


新緑の髪の少女フィラは、燃えるような深紅の髪の青年と向き合っていた。

青年の名はファルシオン、火の精霊王である。

風と火の相性は元々良い。だからなのか、フィラとファルはお互いある程度気軽に話ができる付き合いをしている。


「そーいやー、お前、人間と契約したんだって?」

「別に前例がないわけじゃないでしょ?確か光のが2000年前だか人間と契約したとか聞いた事あるし」

「いや、ありゃ、何の因果か光の精霊の加護が面白いほどぴっちりきっちりかかってる珍しい人間だったからだろ?普通、王が人間と契約なんて無理だしな」


精霊王の力は強大過ぎて、相性が良い人間であっても人間の方が精神的にも肉体的にも持たずに契約がされないのが一般的だ。

人間は精霊王の存在を知ってはいても、精霊王と契約できる人間がいるなどとは思いもしないだろう。


「契約しようと思えば結構簡単にできるもんだよ。ちょっと面倒だけどね~」

「…面白そうだからやってみるか的な感じでやったんだな」

「うん!」


きっぱりと肯定をするフィラ。

フィラの反応に巨大なため息をつくファル。


「だが、一度契約したら解除は難しいぞ」

「知ってる」

「後で後悔して無理やり解除なんてことになったら、お前への負担も小さいものじゃなくなるぞ」

「分かってるよ」


再びため息をつくファル。

退屈な事が嫌いな風の精霊王フィラは、楽しいと、面白いと思える事に全力だ。

それによって自分へ何か負担があっても、それを素直に受け入れる。

それすらも面白いと思ってしまう所もある。


「てか、どうやってお前に相応しい契約者なんて見つけたんだ?オレ達みたいな存在を受け入れられる契約者なんて、そうそういないだろ?」

「契約のやり方をちょっと変えれば相手なんてよりどりみどりだよ」

「やり方?」


現在の一般的な契約方法は2通りと言っていいだろう。

精霊が人間の性質などに惹かれて、精霊から契約を持ちかける場合。

これに関してはその人間が生まれもった資質が高い場合が殆どなので、特に人間や精霊への影響に関して問題なく契約は行われる。

2つ目の方法は人間が精霊へと契約を呼びかける方法だ。

これはうっかり自分の資質以上の精霊に呼びかけてしまった人間などには最悪死が訪れる。

その為、契約というのはかなり慎重に行われる事が多い。


「自分の力を抑えて契約、徐々に馴染ませていくって方法」

「はあ?!!」

「力の微妙な制御なんて勿論王じゃなきゃできないから、この方法は王にしかとれないけどね」


精霊としての力を最も下位まで抑え契約し、その契約が馴染むに従って契約相手の人間が耐えられるだけの力に少しずつ戻していく。

しかし、この方法はかなり面倒だ。

一朝一夕で終わるわけもなく、年単位での調整が必要になってくる。

確かに精霊王ならば可能な方法だろうが、誰もそんな方法を思いもつかないしやろうとも思わないだろう。

精霊王達は、人間と契約する事にそれ程までの価値を見出していない。


「ちょっとまて。ってーことは、お前の契約相手って……」

「うん。とりえあえず目にとまったその辺にいる少年」


さらっととんでもない事を言うフィラ。

ファルはその言葉に頭を抱える。


「だって、資質がある子って大抵権力絡んでくるような家に生まれてるし、そういうのって動きに制限つきそうで面白くないでしょ?だから、その辺の普通の子を育てた方が色々面白そうだったから」

「それで、フツーの人生歩めるようないたいけな少年の道を無理やり捻じ曲げたわけか」

「えー、人の人生無理やり変えたような言い方しないでよ。一応同意だよ」

「一応か」

「うん、一応」


契約者というのは、基本的に所属している国に「保護」されている。

資質がある者はその力をふるったその瞬間から国に目をつけられて引き込まれ、自ら契約を望む人間は、国の上層部の許可なくしてその契約の儀式は出来ない為に国の管理下に置かれる。

契約は、双方が契約において得られるもの、失うものを十分に理解した上で行われるのが通常である。


「好奇心ある少年はウッカリ獣が多い森に行っちゃって、そこにあらわれた私が「契約するなら助かるよ~」と契約をね」

「まてまてまてまてー!そんなあっさり風味の契約をしたのか?!」

「いや~、だって、あの子ってば契約してとばかりにオイシイ状況になっちゃうから、つい弱味に付け込んじゃった」


酷い精霊王である。

しかし、それがこの風の精霊王の性格である事を、悲しい事にファルは理解していた。

取りあえずその契約者に内心同情するだけに留める事にする。


「物心つく前の子だと、同意かどうか曖昧になっちゃうかもしれないから、一応物心ついてからの年齢の子にしたんだよ。あと、なるべく幼い方が成長とともに身体に馴染ませる事が出来るから、もしかして完全に契約できちゃうかもしれないし」

「精霊王との完全契約なんかできたら、その契約者は最強になるぞ」

「人間の中では、って注釈がつくけどね」


精霊王と契約したからといって、世界最強というわけではない。

精霊王の契約者は完全な契約ができれば、精霊王並にその属性の力を使う事はできるようになるのだが、結局は人間でしかない。

人間と精霊王、どちらかを選べと言われれば、精霊達は精霊王を必ず選ぶだろう。

そして精霊王との完全なる契約者になる事はとても難しい。

前例となっている光の精霊王との契約者も、光の精霊王と同等の力を得る所までは行かなかったらしいのだ。

フィラと契約した相手も、現在は仮契約状態のようなもの。

仮契約で一生を終えるか、はたまた何かの奇跡が起こって完全に契約がなされるかは分からない。


「未知な事に挑戦するって面白いでしょ?」

「面白いかもしれないが、下手したら規模がとんでもない事になるぞ」

「だから面白いんでしょ」


ぐっと拳を握りしめるフィラ。

自分の考えている以上の事が起こるかもしれない事を考えると、フィラは楽しくなるのだろう。


「んでもなぁ、その契約者が極悪非道、とまではいかなくても、力に溺れるようなヤツになったらどうするんだ?オレ達の力ってのは、ちょっとだけでもかなり強い方だぞ?」

「あ、それは多分大丈夫だよ」

「何でだ?」

「あの子、炎の属性だから」


ぴたりっとファルの表情が止まり、少し顔を引きつらせながらもどこか納得したような表情を浮かべる。


「オレが言うのもなんだが、炎属性は比較的単純なヤツが多いからな…」

「うん、だから、成長の方向性を間違えなければ変な考え持たないと思うし」


人間には生まれもった属性というものがある。

資質のある者はその属性の精霊と契約する事ができ、精霊に呼びかけ契約する者は自分の属性の精霊に呼びかけるのが普通である。

そして人間の性格というのは、生まれもった属性に左右される事が多い。

火の属性の人間は単純で純粋で、良く言えば素直だ。


「だから、オレには”断っておいた方がいい”なのか?」

「うん、そう。あの子が成長しても精霊と契約できる資質があるとは思えないけど、火を無理やり風に捻じ曲げるわけだし」

「捻じ曲げるっつっても、風と火の相性はいい方だから、そんな無茶苦茶でもないだろ」

「だから一応なんだってば」


ファルが気にしない事はフィラには分かっていただろうが、自分の属性の人間が別の属性となってしまう事を気に入らないと思う精霊もいるかもしれない。

精霊王同士が話をつけて納得しているのならば、精霊達も何も言わないだろうし何かする事もないだろう。

とはいえ、フィラの契約者が強い火属性を持っているわけではないので、実際何か問題になる可能性は限りなく低かったりする。


「ま、とにかく、オレや他の精霊達に害を及ぼすような事件だけは起こすなよ」

「大丈夫!精霊関係は、相手が何かしてこない限りは手を出す気はないから」


にこっとフィラは安心させるように笑みを浮かべる。

その笑みが何か含みがあるようで不安が残るのだとは、ファルは言えなかった。


風の精霊王フィルレーラは、退屈嫌いな分、それを紛らわす為に策略を巡らすのも好きらしい。

素直で単純な傾向がある火の精霊王であるファルシオンには、フィルレーラの考えている事は完全には分からないだろう。




数年後に、フィラと少年との契約は完全になされる事になる。

元火属性の少年は素直な少年であり、風の精霊王との契約も、その力も、そしてその力の使い方もあっさり素直に受け入れたからだ。

それは精霊達の間では小さな噂とはなったが、人間達の間に広まる事はなかった。

かくして、ひっそりこっそりと、ここに本人の自覚なく最強の契約者が誕生したのであった。



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