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風鈴の契約者  作者: 海藤
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11 闇の精霊


早朝、日が昇る前に俺は王宮へと向かった。

日が昇る頃にあの子の部屋に行かなけりゃならないって事は、勿論俺は日が昇る前に家を出なければならない。

というより、日が昇る頃って普通まだ寝てるんじゃないか。

そんな時間に行ってもいいんだろうか。

そう思いもしたが、陛下が指定したんだからその時間までに行くしかないだろ。

俺は、陛下に逆らえない小市民さ!


王宮の門番に腕輪を見せれば、驚くほどすんなりと通してくれた。

おお、腕輪効果すごいぞ。

で、王宮の中に入ったはいいが……。

ど、どこにいけばいいんだぁぁぁ!!


昨日は陛下についていっただけだから、こんなバカ広い王宮のどこに連れてかれたかなんて覚えちゃいないぞ。

一度通った道は忘れない…なんて特技があるわけもなく、俺は門をくぐってすぐに途方にくれる。


(サク、とりあえず右)

(フィラ)

(右奥の方から入っていけば近いから)

(分かるのか?)

(王宮には何度か忍び込んだ事あるって言った事あるじゃない?王宮内はほぼ把握してるよ)


ほぼ把握するほど忍び込んだのか?

そーいや、陛下に見つかった事あるとかって言ってたよな。


(細かい事は気にしないで、レッツゴー!)

(れっつご?)

(とにかく行こう、サク)

(ああ、そうだよな)


フィラに言われた通り右側へと進む。

間に合わないと怖い事になりそうだから、少し速足で。

にしても、王宮ってのは豪華だよな。

広いし、飾りというか彫刻というか、所々細かい装飾がすごいしな。


(そーいやさ、フィラ)

(何?)

(俺は今回の仕事を引き受けた事は後悔しないけど、フィラはいいのか?)


昨日聞くべきだった事なんだが、親父達の説明とかなんとかで色々バタバタしてフィラに聞けなかった。

俺が知る限りフィラは身分が絡むような事に関わるのは嫌いで、俺もそういうのは好きじゃないわけで、今まで表立ってその手の事に首を突っ込む事はなかった。

だから、俺が一般市民でいられたわけで、家の手伝いなんて事もできていたわけだ。


(何で?)

(今回のってどっちかって言えば、権力が絡むような事だろ?)

(サクが納得して決めた事だから別にいいよ)


随分とあっさりと、気にしていないかのようなフィラの声。

え、いいのか?


(私が今まで権力関係に首突っ込むのが嫌だって言ってたのは、サクの意思を捻じ曲げられて拘束されるような事態になるかもしれないからだよ)

(へ?)

(サクが納得してるなら、私は全然構わないよ。大体契約している精霊って契約相手に無償の好意があるんだよ?逆に言えば、好意がなければ契約なんてしないわけだしね。だから、サクがいいなら私もいいに決まってるでしょ)

(は?何だそれ?)

(あれ、言ってなかったっけ?人間と契約した精霊ってのは、契約相手の人間に対して無条件で好意を抱くんだよ)

(あ~、…けど、俺とフィラじゃちょっと契約が特殊だろ?)

(特殊でも契約は契約だよ。大体サクの事好きじゃなかったら、無理やりでも契約解除してるから)


…えーっとだな。

あー、その…、なんか本気で照れるぞ。

嫌われてはいないんだろうってのは分かってたが、そうさらっと言われるとかなり照れる。


(この手の好意を逆に利用する人間とかもいるけどね)

(ああ…)


どんな悪い奴であっても、契約している精霊は契約者に従う。

精霊の善悪と人間の善悪ってのは違う。

人間にとって一般的な悪い行為であっても、契約者が命じれば精霊はそれを行う。

フィラ程の精霊になると、フィラ自身で考えて俺に意見言ってきたりするけどな。

それはそれで俺は助かる。

俺だって間違う事があるわけだから、素直に従ってもらっても困る。


って、うん?

何か足の方をすらっと通り抜ける物体が…。

あれは小精霊か何かか?

ふよふよしている若干黒い物体。

じっとそれを見続ければ、くるりっと振り返るそれ。


「……闇の精霊か?」


風の小精霊に良く似ているその姿、黒い髪に黒い眼の1枚だけ布をまとったようなちまい精霊。


― だれ?

「俺は佐久耶サクヤ

― しゃくにゃ?

「…どーして、精霊ってのは俺の名前呼べないんだ?」


正直頭を抱えたくなる気分だ。

風の小精霊もそうなんだが、どうも俺の名前が呼びにくいのか分からないが、皆が皆”サク”と呼ぶ。

フィラもそう呼ぶからってのもあるんだろうが、当のフィラは別に俺の名前を呼べないわけじゃなかったりする。


「サクでいい」

― さく?

「そう、サクだ。ここで何してるんだ?」

― なに?……さんぽ?

「散歩?1人でか?」

― ちがう。みんなと

「みんな?」


俺が首を傾げれば、その子の周りにぽんぽんっと音を立てて同じ小精霊が現れる。

空間操作が出来る闇なわけだから、突然の出現はおかしくないだろう。

おかしくないんだろうが、この数はなんだ?!

ぽんぽんっと音を立てながら現れる小精霊……だぁぁぁ!一体何人いるんだ?!


これだけ小精霊がいる場所って言ったら、精霊の生まれる場所くらいだと思ってたが違うのか。

闇の精霊が生まれる場所は海の最深部のはずだ。

ここは海でも何でもなければ、汪秦オウシンの王宮内である事は確実な事であって、これだけ闇の小精霊がいる理由がさっぱりわからん。


― だれ?

― しらないひと

― サクだって

― サク?

― アンリがいってたヒト?

― わるいヒトじゃないよ

― サクはこわがらない

― こわくないなら

― 姫さまよろこぶ


わらわらと集まっている小精霊達は互いに話をしている。

ふっと前方に気配を感じた気がした。

精霊達を見ていた俺がふっと顔を上げると同時くらいに、目の前の空間がぐにゃりっと歪む。

歪んだ空間がぱっくり割れて、ひょこっと小さな女の子が出てくる。

って、陛下の妹じゃないか!


― 姫さま

― 姫さま、サクだよ

― アンリが言ってた姫さまのそばびと

「サク?」


その子は精霊が言う俺の名前に首を傾げながら、ゆっくりと俺の方に視線を向ける。

俺の姿を目にとめると、目がこぼれるんじゃないかってくらい大きく目を開いて驚く。


「えーっと、はじめまして…でいいのか?今日から俺が君の遊び相手って事になる佐久耶サクヤだ。呼びにくければ精霊達と同じようにサクで構わない」


俺はしゃがみこんでその子の視線に合わせるようにゆっくりとそう言う。

見降ろされるってのは、子供であってもあまり気分のいいもんじゃないだろ。

仲良くなる為には、相手の目線に合わせるってのは大切な事だ。


「こわく…ないの?」

「うん?」

「闇の精霊がたくさんいるの、こわくないの?」

「何で怖くなるんだ?」


その子の問いに俺の方が首を傾げる。

数の多さにはちょっと驚いたし、ここに何でこんなにたくさんの闇の精霊がいるのかも疑問に思う所だが、ただそれだけだ。


「精霊が怖いって発想が俺には良く分からん。こういう小精霊ってのは可愛いって表現が的確だと思うぞ」

「かわいい?」

「可愛いだろ?小さいし、精霊ってのは純粋だし、素直だしな」


まぁ、素直すぎて困る事もあるんだけどな。

特に付き合いが長い、森にいる風の小精霊。

年々遠慮ってもんがなくなってくる。

自分の欲望に忠実に素直で遠慮なく飛びかかってくるわけだ。


そんなことより、だ。

遊び相手と対面出来たからと言って、ここでずっと話しているわけにもいかない。

陛下に言われた場所には行かないとまずいだろ。


「ほら」


俺はその子に右手を差し出す。

差し出された手に、その子はこくりっと首を傾げる。


「昨日の場所に行かないとまずいだろ。歩いて行くと時間がかかるだろうから一緒に行こう」


手を差し伸べたのは、俺が抱えて向かった方が早いからだ。

小さい子供の歩幅ってのはかなり小さいもんだ。

ちょこちょこ歩いていったら時間がかかっちゃうだろうしな。


「空間ぬければすぐだよ?」

「それは俺がちょっと苦手だから勘弁してくれ」

「だめ?」

「諦めてくれると嬉しいと俺は思う」

「…わかった」


しょぼんっとするのを見ると、こっちが悪い事をした気分になってくる。

あ~、だー、子供は笑ってるのが一番だ。

うん!

俺はひょいっと問答無用でその子の身体を抱き上げる。

びくりっと肩を震わせたが、俺に敵意や害意がないのがわかったのか大人しく抱きかかえられる。


(フィラ、道案内頼む)

(任せて!ふふ)

(…なんだよ)

(よ・う・じょ・しゅ・み、なんだね!)

(違うわぁぁぁぁ!!)


風の力を使ってふわりっと身体を浮き上がらせる。

室内で飛ぶってのはちょっと危険だけど、この方が移動時間が短くて済むだろ。

俺が風の力を使った事に、腕の中の子は再度驚いていた。

契約者って事は昨日陛下から聞いてたから、別に驚くような事でもないんだけどな。


「一気に行くぞ」

「あ…うん」


周囲の闇の精霊達を見回して、ゆっくりと俺は飛ぶ。

ゆっくりと言っても歩くより早く、全速力より遅くくらいだ。

ぽんぽんっと消えたり現れたりする闇の精霊達。

あー、そっか、空間移動できるわけだから、もうちょっと速くしても平気か。


「あ、あの!」

「うん?」

「わたし、彩香サイカ!」

彩香サイカ?」

「うん!!」


嬉しそうに俺の腕の中で頷く子…彩香サイカ

あ、そーいや、初めて笑ったよな、今。

やっぱり、子供は笑顔が一番だ。

よし、せっかく遊び相手になったわけだから、彩香サイカが喜ぶような事たくさんするか!




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