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風鈴の契約者  作者: 海藤
13/15

10 妹姫



陛下に大人しくついていく俺だが、勿論会話なんてない。

気まずい雰囲気が漂うだけだ。

気まずいって思っているのは俺だけかもしれないけどな!


王宮の段々奥の方に行ってる気がする。

王宮がかなりデカイってのは知ってるが、結構歩いているからかなり奥の方にいるんじゃないか?

てか、俺みたいな一般市民がこんな所まで来ていいのか?


ぐるぐると色々考えながらも、陛下に大人しくついていっている俺は、陛下がぴたりっと足を止めたのに気づいて、急いで自分も止まる。

ここは奥庭か何かだろうか。

整えられた綺麗な庭がそこにある。

流石王宮、職人が定期的に来てるに違いない。


彩香サイカ


陛下の口から出た優しげな声に俺は思わずぎょっとする。

どう見ても威圧的で怖い陛下に似合わない声だ。

って、それは流石に失礼か?


「…兄さま?」


ひょっこり庭の木陰から顔を出したのは小さな女の子。

うん?女の子…だよな?

いや、男の子には見えんが、そうじゃなくてなんつーか違和感が…。

ぱたぱた小さな足音を立てながら陛下の方に駆け寄ってくるが、俺の存在に気づいたからなのか、びくっとなって足を止める。


彩香サイカ、コレは平気だ。お前に危害を加えん」


じぃっと探るかのように俺の方を見るその子。

お、俺は何もしないぞ、陛下の言う通り危害を加える気なんてさっぱりないぞ!


「……ほんとう?」

「私がお前に害を与える存在を放置するわけないだろう」


俺を避けるように陛下の方にちょこちょこっと近づいてくる子。

このくらいだと、年齢は5歳くらいか?

着てるもんは結構いいモノっぽいし身分高い子だよな。

あれ?確か陛下を”兄さま”って呼ばなかったか?


佐久耶サクヤ、この子は私の妹だ。お前にはこの子の遊び相手を頼みたい」

「遊び相手、ですか?」


警護とかじゃなくて、遊び相手…。

警護とかしろって言われても困るけど、遊び相手って何でだ?

普通そういうのって、同年代の子供とかにならないか?


「何か不満があるか?」

「いえ、ありません!!」


ありませんとも!疑問はあるけどな!

その疑問も怖くて言えないけどなっ!


彩香サイカ、何か不満があればすぐに言え。気に入らなければすぐに替えるからな」

「…うん」

「仮にもコレは契約者だ。”何かあった時”は壁にでも使え」

「かべ?」

「守ってもらえという事だ」


女の子は、陛下の言葉に対してちょっと考えた後にこくりっと頷く。

にしても俺って壁ですか、陛下。

そりゃ、万が一何かあった時にはこんな小さな女の子放り出して1人で逃げたりなんかはしないが、壁扱いはちょっと凹む。


佐久耶サクヤ、仕事はあくまで遊び相手だが、万が一何かあった時には…」

「勿論お守り致します!」

「当然だ。彩香サイカには警護の者をつけてはいるが、万が一の可能性も否定できないからな。何か質問は?」


俺は勢いよく首を横に振る。

質問があるかと言われれば、質問だらけだ。

けど、質問なんて出来ると思うか?!

一般市民の俺が、国の頂点に立つ陛下に気軽に質問なんて出来るわけないっての!


「質問がなければ、これを受け取れ」


陛下から銀色の腕輪を渡される。

鏡のように磨かれた綺麗な銀色の細い腕輪。

商家の手伝いをしているから物の価値ってのがある程度分かるが、これ、結構いい値段するんじゃないか?


「これは彩香サイカの部屋までの通行許可証と思ってくれていい。明日以降これを身につけ、王宮内に入る時は門番にそれを見せろ」

「はい」


素直に俺はその腕輪を受け取り、右腕にはめる。

うん?これ、精霊の加護があるのか?

どんな加護かは良く分からんが、精霊の気配が残ってるよな。

腕輪は少しゆるいくらいなんだが、俺の腕で固定されているかのように動かなくなる。

腕を振ってもすっぽり抜ける事はないだろう。


にしても、精霊の加護があるモノって珍しいよな。

加護の内容ってのは制作者によって変わるんだが、結構色々あるらしい。

精霊の加護があるモノってのは契約者なら作る事はできる。

精度に関しては作成主の器用さがモノを言うだが、勿論俺は器用じゃないもんでその手のものを作るのはかなり苦手だ。


「明日は日が昇る頃にここに来い。今日は以上だ」


陛下が俺の額にとんっと指をあてる。

軽く触れただけで、その行動に何の意味があるのかさっぱり分からない俺は、唐突にぐらりっと自分の身体が揺れた気がした。

思わず倒れると思った俺は、足に力を入れて踏ん張ろうとする。

っと、あ、れ?何だ?


きょとんっとしながら俺は周囲を見回すが、周囲はさっきまでいた王宮の奥ではなく、炎秦区エンシンクの外れだった。

人の姿は殆ど見えないが、ここは確かに城下町で見覚えのある炎秦区エンシンクだ。

え?え?え?何だ?!

何が起こったんだ?!


さっきまで王宮にいたのは夢か幻かとも思ったが、腕に光る銀の腕輪がそれを否定する。

ぐらりっと自分の身体が揺れた時に感じたのは、空へと舞いあがる時に感じる時と同じ浮遊感だった。

あ、そう言えば闇って…。


(流石、闇李アンリ。闇の属性をきっちり使いこなしてるね~)

(…やっぱり、俺は闇の力で飛ばされたのか)


闇と光の力の特色と言っていうのか?

闇と光の属性は空間操作が得意だ。

属性ごとに得意不得意ってのが勿論あるわけで、風は主に補助を得意とする。

勿論風でも空間を飛ぶってことはできなくもない。

何度かやったことあるが、あれは力の消費量と操作の難しさが半端じゃない!

正直、絶体絶命なんかじゃなければ使いたいとは思わないな。


(陛下の機嫌を損ねれば、こうやって勝手に飛ばされるってこともあるわけだな)

(飛ばされるだけならいいよね。渡る空間の間に攻撃仕掛けられて、空間渡った後には肉ミンチとかになることもあるだろうし)

(こ、怖い事をさらっと言うなぁぁぁ!!)

(大丈夫だよ、サクなら。なんとかなるなる)

(そういうお気楽思考はどっからでてくるんだ…)


いくら俺でも、そんな事されたら無事じゃ済まないぞ。

その前にそんな事ないように、きっちりがっちりしっかり気をつけるけどな!


(んでも、断らなかったんだね)

(うん?)

(結構素直にあっさり引き受けてたじゃない?サクってこういう身分とか絡むような事って直接的には関わらなかったし)


フィラがそういうのを好まないってのもあるんだが、確かに今まではそうだった。

今までそこそこ身分あるやつと対面した事はあるし、裏から関わった事はある。

直接関われば面倒な事になるだろうと分かっているから、直接手を貸したりはしなかった。

けど、今回は仕方ないと俺は思う。


(あの状況で断れると思うか?)

(断れるんじゃない?)

(できるかぁぁ!!あの迫力の前で断りの返事が出来るヤツがいたらすごいと思うぞ?!)


精霊の力をこっそりでも使った俺も悪かったのかもしれないが、あのこっそりを見破る陛下がすごすぎるんだ!

有無を言わせないかのような迫力。

流石王だと思う。


(どうしても嫌なら、どうにかしようか?)


フィラは基本的に俺が本当に嫌がる事はしないし、俺が嫌だと思う状況になればどうにかしてくれる。

してくれるのはありがたいんだが、俺はそういう時は大抵断る。

何故かと言えば、その手段が大問題だからだ。


(ちなみに、その”どうにか”ってのはどうするつもりなんだ?)

(えーっとね)


ものすごく嫌な予感しかしないんだが…フィラ。


(その1、闇李アンリと他数名にあの場にサクがいなかったかのように暗示をかける)

(フィラにしては穏やかな案だな)

(その2、闇李アンリ抹殺)

(まてこらぁぁぁ!!何でいきなり抹殺とか物騒な話になるんだ?!)

(やだなぁ、サク、冗談だって)


本当に冗談か?!

その冗談っぽい本気な言葉を何度か聞いた事あるぞ?!


(とにかく、だ!冗談にしても何にしても、フィラの案は却下だ)

(暗示くらいならなんとかなるよ?)

(そこまでして断る酷い仕事でもないだろ?)

(そう?)


何しろ、あの子の遊び相手だ。

何かあれば守るようには言われているが、俺の仕事は遊び相手で警護専任の人間は他にいるって言ってたしな。

陛下の妹であの幼さなら、専任の警護が1人って事もないだろ。

それに、俺みたいな一般市民をひょいっと遊び相手につけるってことは、長期間の仕事ってわけでもないだろうし、大抵身分の高い奴の側に付ける相手ってのは、身元がしっかりしたそこそこ身分のある奴って決まってるしな。


(それに子供の遊び相手なら、森の小精霊達と遊ぶのとあんまり変わらないだろ?)


風のちっこい精霊達とは、森に行くたびに遊ぶ。

というより遊ばされる。

同じように…ってのは無理だろうが似たようなものだと思っていれば、小さい子の遊び相手って仕事はそう難しい事じゃないと思うんだよな。


(サクって……)

(うん?何だ?)

(いや、別に気にしないで。サクはサクのままなら、あの子の遊び相手だろうがなんだろうが大丈夫だろうから)


人間の子供と精霊を一緒のように扱ったのがまずかったのか?

いや、フィラならそんな事気にしないと思うんだが…まぁ、いいか。


(取りあえず、兄貴達に報告しないとな!)

(明日は朝も早いだろうしね)

(そう言えば、日が昇る頃に来いって言ってたよな)

(だね)


早朝から家を出るなら、やっぱり一言必要だろう。

なにより、明日から家の手伝いが出来ない事は言わないとマズい。

急だから、親父達には悪いよな。

俺の手伝ってる仕事が大層なモノじゃない事は分かってるが、人が減るってのは大変だろうし。


「よし!頑張るぞ!」


とにかく急いで店の方に顔出すか。

この時間じゃ、まだ親父達も店にいるだろうし。

ああ、そうだ。


(フィラ、当分はいつもみたいな暇つぶしはなしだぞ)

(ええ~!って言いたい所だけど、今回はいいよ)

(な、なんだ?やけに素直だな)

(今回の仕事はサクの家の仕事とは違って簡単に放り投げられないってものだからね)


なんか妙に素直なのが気になるが、そうしないって言うんだから多分大丈夫だろう。

フィラが何かの情報知ってて、実はあの仕事が危険だったりなんて事がない事を祈りたい。

遊び相手だ、ただの遊び相手なわけだ。

危険なんてないだろ、うん、ないだろ。



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