09 選考試験3
2次試験を通過したのは、恐ろしい事に全員契約者だった。
契約者って珍しいんじゃないのか?
いや、ここまで揃うと、そうでもないような気がしてくるぞ。
なんとかフィラを言葉でなだめて、俺は他の2次合格者と一緒に横一列に並ぶ。
列から少し離れた所に腕を組んで見守るように立っている廉様、その隣にどこか楽しそうに見える陛下も立つ。
俺達の前には姫様とヤな感じの金髪男2人だ。
「最終試験は私が担当致します。私はジェスヴィリア王宮騎士、ジャスティ・リズ・ジークルトと申します。この試験に合格しました方々は、私の下について姫様をお守り頂く事になります」
金髪男は綺麗な笑みを浮かべてるんだろうが、この場では絶対逆効果だ。
何しろ合格したのはほとんどが男。
ほとんどってのは、中性的な顔立ちのヤツもいるから、性別どっちか良く分からんヤツもいるからだ。
んで、モテる顔立ちの男ってのは、基本性格がとんでも良くない限りは同性からは嫌われるもんだ。
いや、だって、見ててムカつくだろ?
顔がいいってだけで女の子が集まるんだぞ!
男なら誰もが一度は夢見るだろう可愛い女の子に囲まれる状況…それを顔がいいってだけで成しえるのは腹が立つ以外の何ものでもないだろ。
「最終試験は、私が引いたこの線…」
金髪男はすっと腰の剣を鞘から抜いて、ひゅっと振りぬく。
ざんっという音とともに、地面に綺麗な線が一本引かれる。
うお、王宮騎士って名乗るだけあるな。
精霊の力使うの上手い。
普通、剣を振りぬいただけで地面に線が描けるわけがなく…中にはその普通じゃない事をやらかすヤツもいるが…精霊の力を使って地面に傷をつけていた。
「この線から、私と姫様がいる所までたどり着く事。何の事はない、ごく簡単な事です」
俺達が並んでいる場所から線の引いてある所までは、あっという間の距離だ。
走っていけば、瞬き3回くらいしているうちに着いてしまうだろう距離。
「勿論、多少の障害はありますが…、精霊の使い手である真の契約者の方々でしたら簡単な障害ですよ」
なんだ?真の契約者ってのは。
精霊との契約者を契約者って呼ぶのは分かるけど、精霊の使い手とか真の契約者なんて聞いた事ないぞ。
ジェスヴィリア特有の表現か何かか?
「ですが、その前に…」
金髪男がその場で抜きみの剣をゆっくりと上げ、ひゅっと振り下ろす。
さっきと同じで光の精霊の力を…
「っづあぁぁぁ!!」
叫び声とともに1人、その力で吹き飛ばされる。
おいおい、ちょっと待て!
加減とかしてないよな、今の。
吹き飛ばされたヤツは、結構離れた場所の塀にぶつけられたようで、塀の所で土ぼこりが上がってる場所が見える。
塀に勢いよくぶつかったら、痛いなんてモンじゃ済まないぞ。
骨の一本二本くらい絶対に折れる。
何考えてるんだ、コイツ…。
「姫様は闇を嫌いますから、闇の方には退場していただきました」
にこりっとやった事が何でもない事のように笑う金髪男。
ああ、確かに吹き飛ばされたヤツには闇の精霊がついてる。
精霊が心配そうにふよふよしてるって事は、生きてるってことだよな。
けど、精霊がすごく心配そうにしてるってことは結構酷い怪我のはずだ。
俺はこっそりとそいつが倒れているだろう所に向けて、癒しの力を使う。
「では、始めましょう」
金髪男が光に包まれる。
同時に、俺達受験者全員が金髪男の方から強い圧迫感を感じたはずだ。
ある程度強い精霊ってのは、その存在感がすごい。
人間は、その存在感を圧迫感としてとらえるらしい。
フィラもその気になれば、そこに立ってるだけで人間も精霊も動けなくなるくらいの存在感ってのがある。
それなりに強い精霊と契約しているんだろう金髪男はそれを解放しただけだ。
存在感に圧されて動けないヤツ、なんとか足を踏み出しているヤツ、色々いるが俺は動かないでいた。
別に動けないわけじゃない。
このくらいならフィラに比べれば大したことない訳で、やろうと思えば普通に走って向こうに行く事だってできる。
俺は吹っ飛ばされたヤツの方をちらっと見る。
それから姫様の方もちょっと見る。
姫様は金髪男がやった事なんか気にしていないように見える。
まぁ、命を狙われるかもしれない自分を守る人間は強い方がいいんだろうから、金髪男に簡単に吹き飛ばされるようなヤツじゃだめなのかもしれないわけで、金髪男を咎めないのは分からないでもない。
けどなぁ…。
あー、なんつーか。
とにかくヤなんだよな。
姫様を守るヤツを選ぶ試験なんだろーけど、それに受かった所で姫様を守ろうって気分になれるのか、守ろうと思う気持ちを持ち続けられるか分からない。
1人2人と、ゆっくりとだが金髪男の合格線を越えるヤツらが出てきている。
途中でばったり倒れてしまうヤツ、俺みたいにここから動かない、動けないでいるヤツもいえる。
(サクは動かないの?)
(動かない……でいると思う)
(何で”思う”なの?)
だよな。
迷ってるってのが事実であって、このまま不合格ってのもちょっと勿体ないと思う俺もいるわけだ。
だが、元々受かるなんて思っていなかったから、ここで落ちた所で別に悔しい気持ちも殆どなかったりするのも事実。
(あの金髪が気に入らないなら、ボコって下剋上すればいいんじゃない?)
(まてまてまて!)
どーして、お前はそうやって物騒な思考に行くんだ!
(試験、終わっちゃうよ?)
(まぁ、いいさ)
(サクなら軽く合格できたのに?)
(元々、受かるって思ってなかったし、どうしても受かりたくて試験受けたわけでもないしな)
半ば押し付けられたように受けたわけだし。
苦労して手に入れてくれただろう推薦状だろうが、親父も兄貴も俺が受かるなんて思っちゃいないだろう。
そもそも、だ。
俺がプロの襲撃者なんかと向き合った所でまともに太刀打ちできるとは思わんし。
こういう護衛の仕事は向かないと思うんだよな。
「試験はここまでとします」
金髪男の終了の声が響く。
線を越える事ができたのは4人。
「彼ら4人を合格者とし、明日より私の部下とします。よろしいですか?」
金髪男がにこりっと笑みを向けたのは陛下にだ。
「届出を出しておけ、今日中に受理するよう言っておく」
「お願い致します」
陛下に頭を下げはしたものの、絶対に敬っていないだろう事が分かる。
陛下もそれは全く気にしてないようだ。
姫様は合格したヤツらの所にかけよって、精霊の力で癒しを与えていた。
圧迫感で消耗した体力や精神力を回復してるんだろう。
癒しが本当に必要なのは、ふっ飛ばされたヤツなのになぁ…。
姫様に癒されながら金髪男に何か言われながら、姫様とヤツらがそのままこの場を離れていくのが見えた。
これから、申請とか準備とかするんだろーな。
気がつけばそろそろ日が沈みそうな時間だ。
結構短時間で終わったように思えるが、それでも時間はかかったんだろう。
「何故、合格できるのにしなかった?」
唐突にそれでいて思ったより近くで聞こえた声に、思わず俺はびくりっとなる。
少々顔を引きつらせながら陛下の方を見てみれば、思ったより近くにいて、俺の方をじっと見ている。
こ、こわっ…!
「お前ならば、あの線を越える程度の事できただろう」
何故って、ここでなんとなく…って言っていいもんか。
「何?もしかして、コイツって自分の意思で合格蹴ったのか?」
興味深々とばかりに陛下に気軽に聞いてる廉様。
陛下にそんなふうに話しかけられる廉様はある意味すごいと思う。
俺には絶対に無理だ。
「隠れて癒しの力を送ってたという事は、余裕があったということだろう」
「癒し?」
「そこのヤツにだ」
陛下が視線を向けたのは、ようやく立ちあがる事ができるほどに回復した吹っ飛ばされた闇の契約者。
てか、何でバレてんの?!
属性が風って事で、一応隠蔽類は得意だと思ってたんだが、何で分かったんだ?!
「アイツの精霊ってそこそこ強い存在感だったってのに、それに耐えて癒しの力まで使う余裕があったのか」
「風の癒しの力は制御がそう簡単ではない。更にそれを見えぬように隠して見せたのだからな」
い、癒しって難しいのか?
俺、結構契約してからすぐの頃に覚えたぞ。
フィラも癒しの力覚えないと後で大変だから早く覚えろって言ってたし。
「名は何と言う?」
「さ…佐久耶と申します」
って、言い方でいいんだよな?!
いいんだよな?!
敬語なんて殆ど使わないから、陛下に対する言葉遣いなんて分からんぞ!
「出身は?」
「炎秦区です」
「炎秦区か…」
陛下はちらっと廉様の方を見る。
廉様は陛下に軽く肩をすくめるような仕草をする。
それが何を意味しているのか、俺にはさっぱり分からん。
「あー、もしかして、あの子に付けるつもりか?」
「コレは闇精霊を嫌っているようには見えないからな」
「けど、あの子はちょっと特殊だろ?」
「駄目なら消せばいいだろ」
廉様がものすごく呆れた表情をする。
コレって俺のことですかね?
しかも、ものすごく物騒な言葉が聞こえたのですが…。
消すって、消すって、消すって?!
陛下と廉様の視線が同時に俺へと向けられる。
に、睨んでないってことは分かるんだが、睨まれているような気分になる。
「佐久耶と言ったな」
「は、はい!」
「ついてこい。あの姫の警護兵よりもいい仕事をお前にやろう」
いやいや、俺は警護兵みたいな仕事はやったことがないわけで、それよりいい仕事もらっても満足に果たせないと思うのですが!
…と言いたいが言えない。
いや、だってな、陛下の迫力というか言葉って、否定できない雰囲気満載なんだぞ!
逆らったら殺されそうな雰囲気だ。
素直に陛下に大人しくついていく俺。
一応内容聞いて、無理そうだったら断ればいいわけだしな。
断…れるよな?
選択肢くれるよな?
問答無用ってことないよな?