表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

笑わない女は気味が悪いと婚約破棄された

作者: たま
掲載日:2026/03/20

いつも読んでいただきありがとうございます。

他にも作品がありますので読んでもらえたら嬉しいです。

十六歳の誕生日。私は婚約者である亮介の家で、両親と親族が見守る中、小さなケーキのろうそくを吹き消した。

その瞬間、彼は冷たい声で言った。

「やっぱり、お前は俺の隣に立つには相応しくないな」

部屋の温かい空気が、一瞬で凍りついた。叔母が持っていたティーカップが、ソーサーに触れる小さな音だけが響く。

「笑わない女は気持ち悪い。品がない。今日で婚約は解消だ」

私はゆっくり顔を上げた。胸の奥で、長い間押し殺していた感情が、静かに形を変えていく。

亮介は、私が泣き崩れると思っていたのだろう。あるいは、必死に謝ると。

彼の隣で、母親が薄く笑っている。この家では、亮介の理不尽が「当然」だった。

「化粧はするな」「俺より目立つな」「俺より成績がいいのは許さない」「笑うな」

二年間。私は彼の「理想の婚約者」になろうと、自分を削り続けてきた。

でも、どれだけ小さくなっても、彼はさらに狭い枠の中へ私を押し込めようとした。

「わかりました」

自分でも驚くほど穏やかな声だった。

「婚約解消ですね」

亮介の顔に、一瞬だけ戸惑いが浮かぶ。

「でも、一つだけ聞いていいですか?」

私はケーキの上のろうそくをそっと抜いた。

「婚約が解消されたということは、私はもうあなたの“所有物”ではない。あなたの決めた型に従う必要もない。そういうことですよね?」

彼は鼻で笑った。

「ああ。お前はもう俺とは関係ない。好きにすればいい」

「ありがとうございます」

私は初めて、心から笑った。亮介が「品がない」と言った、歯を見せる笑顔で。

「では、私の“やりたい放題”を始めさせていただきます」


次の月曜日。

学校で、亮介は信じられない光景を見た。

私はピンクのリップグロスをつけ、彼が「派手すぎる」と禁止していたスカートを履き、友人たちと廊下で大笑いしていた。

「おい、何だその格好。すぐ消えろ」

怒りに震える声。

私は目を瞬かせた。

「亮介くん。婚約は解消されましたよ?」

「あなたに私の服装を指図する権利はありません。それに――」

私は小さく笑った。

「『消えろ』なんて、とても品のない言葉ですね」

周囲の生徒たちがクスクス笑い出す。

亮介の顔が、みるみる赤くなった。


彼は成績でも私を抑えつけてきた。

でも婚約解消の週の小テストで、私は学年一位を取った。

掲示板の前で、亮介が睨みつけてくる。

「お前、わざとやったな」

「勉強も“やりたい放題”の一部です」

私は肩をすくめた。

「あなたが『許さない』と言っていたことを、全部やってみようと思って」


その日から、私は本当にやりたいことを始めた。

美術部で大胆な抽象画を描き、文化祭では野球部の模擬店を手伝い、休み時間には思い切り笑い、時には歌まで口ずさむ。

亮介は最初、私を軽蔑しているふりをしていた。

でも私が、かつての自分とは別人のように輝き始めると、彼の苛立ちはどんどん強くなった。

彼は私を元の殻に戻そうとした。

陰口。非難。命令。

でももう――

私は、その声に傷つかなかった。

婚約という鎖が外れた今、彼の言葉はただの雑音だった。


ある放課後。

図書館で、私と亮介は二人きりになった。

「お前、変わったな」

「ええ」

私は本をめくったまま答えた。

「本来の自分に戻っただけです」

彼は少し黙ってから言った。

「あの誕生日のこと……言い過ぎたかもしれない」

私はゆっくり彼を見た。

「亮介くん」

静かに言う。

「あなたが言い過ぎたのは、あの日だけじゃありません」

「二年間、ずっと私を小さくしようとしてきた」

そして続けた。

「でも、人は誰も――誰かの都合で用意された檻に入る必要なんてないんです」

亮介は何も言えなかった。


卒業式。

私は代表で答辞を読むことになった。

壇上に立ち、青空を見上げる。

「誰かの“相応しい誰か”になるために、自分を捨てる必要はありません」

「笑うことも、輝くことも、挑戦することも」

「それは誰かの許可が必要なものではなく、私たちの当然の権利です」


校庭で写真を撮っていると、遠くに亮介の姿が見えた。

彼は一瞬こちらを見て、すぐ顔を背けた。

その背中は、昔よりずっと小さく見えた。


「これからどうするの?」親友の麻衣が聞く。

「大学で心理学を学びたいの」

私は笑った。

「それから、もっともっと“やりたい放題”するつもり」

「亮介のことは?」

私は空を見上げた。

春の風が桜の花びらを運んでくる。

「彼は大切なことを教えてくれた」

「誰かの所有物にならず、自分自身でいることの素晴らしさ」

「だから――むしろ感謝してる」


婚約解消は、終わりではなかった。

それは始まりだった。

誰かの理不尽な枠ではなく、自分の人生を歩き始めるための――

十六歳の私への、最高の誕生日プレゼントだった。

そして私は知っている。

もしまた誰かが、私を狭い型にはめようとしても。

私はきっと――

その型を踏み台にして、もっと高い空へ飛び立つのだと。


面白いと思ったら、下の評価★ボタンやブックマークをお願いします!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ