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結婚祝い


 とある結婚式場。花嫁の控室に荷物が届けられた。


「あら、私宛のお届け物? 誰からかしら?」


 少し大きめのピンクの箱には可愛らしい真っ白なリボンが付けてあった。送り主の名は「井上カヨ」と書かれてあった。


「ん~井上カヨさん……心当たりないなぁ。和樹の知り合いかな?」


 花嫁は式場のスタッフに今日のもう一人の主役である新郎を呼んできてもらうよう頼んだ。程なくして新郎の和樹が花嫁の元にやって来た。


「どうした春奈? なんか荷物が届いたって?」


「そうなの。あなた井上カヨさんって知ってる?」


 その瞬間、真っ白なタキシードに身を包んだ和樹の顔がサッと青ざめた。


「いや……おれは知らないな」


「そう。じゃあとりあえず開けてみましょう」


 ウェディングドレスのスカートをよいしょと持ち上げながら春奈が箱のリボンに手を掛けた。するすると白いリボンが解かれていく。


「ちょ、ちょっと待ってくれ! 式が終わってからでもいいんじゃないか? もう時間もあまりないし」


「大丈夫よ。ちょっと中を見るだけだから」


 少しいたずらっぽく笑いながら春奈が大きな箱の蓋を持ち上げた。


「ひぃっ!」


 小さな悲鳴を上げながら和樹は尻もちをつきながら後ずさる。式がすでに始まったのか、司会者の話すマイクの音が微かに控室に響いた。


「どうしたのよ和樹? まるで爆弾でも仕掛けられてるみたいなリアクションじゃない」


 あははと笑いながら春奈は蓋を無造作に床に置いた。箱の中には大きな熊のぬいぐるみが入っていた。春奈はそれをひょい掴んで抱きかかえた。


「まぁ! かわいい! 素敵なプレゼントね。私が熊のぬいぐるみが好きって知ってたのかしら」


 ぬいぐるみを抱き締めながら春奈は嬉しそうに笑っている。和樹はほっと溜息を吐いた後ゆっくりと立ち上がった。


「あら? まだ何かあるわ――」


 箱の中にはこれまた可愛らしいリボンが付けられたワインボトルが一本入っていた。ラベルには二人の名前が書いてある。


「わぁ! 高そうな赤ワインじゃない。私が好きなものばかり送ってくるなんて、本当に誰なのかしら?」


 彼女は早速飲みたいと言ってワインオープナーとグラスをスタッフにお願いした。


「おい春奈! さすがに時間ないぞ!」


「ちょっと位いいじゃない。どうせ私はあんあり飲み食い出来ないんだから」


 スタッフがポンっとコルクを抜いてからグラスにワインが注がれる。二つのグラスを手にした春奈が和樹の方へと近付いた。


「はい。じゃあ乾杯しましょう」


 渋々受け取った和樹のグラスにチンっと春奈のグラスが当たる。だがお互いグラスを口に運ぼうとしない。


「どうしたの? 飲まないの?」


「いや……春奈が先に飲めよ」


「先に飲めってどういうことよ? おかしな人ね」


 軽い笑みをこぼしながら春奈がワインをぐいっと飲んだ。その瞬間、彼女は「うっ」と胸を抑えながら膝をついた。


「おいっ! どうした! きゅ、救急車を呼んでくれ!」


 春奈の顔を覗き込みながら和樹が大声を上げる。近くにいたスタッフが何事かと駆け寄ってきた。すると春奈はすっと姿勢を正して立ち上がった。


「ふーっ。やっぱりこのドレスきついわね。ってどうしたの和樹? そんなに慌てて」


 顔面蒼白の彼の顔にはびっしょりと汗が流れていた。そんな彼を見つめる春奈の顔はどこか愉快げだった。




 式は滞りなく進んで行った。友人たちの余興も終わった頃、いつの間にか膝の上にぬいぐるみを置いていた春奈が呟いた。


「あら? ぬいぐるみの中にこんな物が」


 彼女が手にしていたのは一枚のDVD。それを見た和樹は険しい顔になった。


「きっとお祝いメッセージよ。せっかくなんで流してもらいましょうよ」


「お、おい! どこの誰かわからん奴のだぞ!」


 春奈は和樹の言葉も聞かずに席を立った。そしてニコニコと笑いながらそのDVDを手渡した。その場で頭を抱える和樹。やがて会場の照明が落とされスクリーンに映像が流れ始めた。


 どこかの天井が映し出され、男女の激しい息遣いが大音量で流れ出す。会場内はざわつき、慌てて止めようとしたスタッフを春奈が手で制した。


「ああ! カヨ! 愛してるぞ!」


 それは明らかに和樹の声だった。彼とカヨと呼ばれた女が何をしているのかは誰もが察した。新郎側の両親は呆然と映像を眺め、新婦側の両親はどういう事だと和樹に詰め寄る。


 和樹はその場ですぐ様土下座をした。頭を床に擦りつけてひたすら謝罪をしている。それは浮気を認めたも同然の事だった。


 映像が終わり静まり返る会場。その静寂を打ち破るかのように「バチンっ!」という激しい音が鳴り響いた。




「離婚成立おめでとう」


 とある夜景が見えるバーの一角で二人の女性が祝杯をあげていた。


「ありがとう。なかなか見物だったわよ」


 シャンパングラスを傾けながら春奈は嗤った。


「あの人ったらあなたが爆弾作れるって話、完全に信じてたわよ」


「爆弾と薬物に精通してるリケジョね。まさかそんな陳腐な嘘に騙されるなんてね」


 二人は互いの顔を見合わせながらクスクスと笑い合った。


「最後のビンタはスカッとしたなぁ。あの浮気男を懲らしめる事が出来てほんと助かったわ。井上カヨさん」


 春奈の微笑みに隣に座る彼女もまた微笑みを返す。


「いいのよ。お互い様だから。さて、じゃあ次は私の番ね。どんなサプライズしてくれるか楽しみだな~。ね、井上カヨちゃん」


 そう呼ばれた春奈がぐいっと一気にシャンパンを飲み干しニヤリと笑った。

 

「期待しててね。私からのとっておきのお祝い」






二人がやったのは同じ偽名を使った交換ハニトラでした。

最後まで読んで頂きありがとうございました。

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