第9話 ドキドキ。
「そうだなあ…名前はフィンのままでいいだろう。お前はフルール国出身で俺の知人。これから行く職場は制服があるからいいとして…着替えをいくつか買うか。」
「……」
「ちなみに着替え一式、6000ガルド。昨日の飲み代半分で5000ガルド。飲み過ぎだ。」
慌ててメモ帳に金額を書き入れているフィン。面白い奴だ。
ブリア南部のいたってありきたりの庶民用のワンピースとカーディガン。靴も、よくあるフラットなもの。髪にスカーフ。カバンも買った方がよかったか?縫ってはあるけど、切り裂き跡が痛々しいし。
フィンはさすがに反省したのか、今日はおとなしい。少し、脅しすぎたかもしれない。
チーズを少なめにしてもらったリゾットを食べている。
「はああ、私もう、ワインは飲まないわ。」
「へえ。」
思わず笑ってしまった。いつまで続くかな。
その日はそのまま買い物に出かけて、着替えやらカバンやら、を買い込んだ。
使っていたカバンは念のために良く切り刻んで捨てた。どこでどう足が付くかわからないからな。弓用の胸当ては処分に困ったので、とりあえず預かる。国境付近にでも捨てておこう。
その日の夕食時、宣言通り、フィンは水を飲んでいた。
俺は魚料理に合わせて、白ワインにした。あっさりした飲みやすいワインだ。
「うまいワインだよ?飲まないの?」
「…今日はいい。ラースに迷惑かけるといけないだろ?」
「へえ。」
あんまりおとなしいのもつまらない。にぎやかな奴なのに。
毛布をもう一枚借りて、部屋に戻ってソファーに横になる。さすがに身元が分かって、こいつをソファーに寝かせるわけにはいかないし。
「私がソファーで良いよ。」
「いやあ、そうもいかないでしょ?お嬢さま?」
「だって…もう貴族籍も抜けたし。平民だよ。それに…」
「ん?」
「そ、それに…ど、どうせやることやっちゃったんなら、一緒に寝たっていいじゃない?」
「……」
こいつ…面白いな。やっぱり。大胆なことを言っているが、顔は真っ赤だ。
しばらく何かまた考えてるな?と思っていたら…
「…そうかあ、やることやったんなら、もう王城に呼び戻されることもないじゃないのね?その手があったか!」
「おい。」
「まあ、ここだけの話だけど…あの王子じゃこの国も終わりよネ。早いとこ第二王子を呼び戻して、体制を整えないと。フルール国からはともかく、スペーナから人が流れているって言うのはあまりよくない兆候よネ。あの国は…国力が弱った国が大好きだから。そのうちスペーナ国から王様が派遣されたりする前に、手を打たないとね。」
「…まあ、そうかもな。そこまでバカじゃないだろう。」
「そう思いたいけどね…いいように新聞を使って国民をあおっておいて、逆にあおられないように気を付けていないと…だわね。まあ、私にはもう関係ないけど。」
言うだけ言って、服を脱ぎだした。ぎょっとして見ていると、綺麗にたたんでいる。
「先にお風呂に入って来るわね~」
と、下着姿で風呂に向かった。そうか…そう言えば、使用人のいるお嬢様って他人に裸みせるのにあんまり抵抗がないのかもな…。
…ドキドキして、損した。