第8話 真実はひとつ?
目が覚めたら、頭がガンガンする。
どうしたんだっけ?
ラースとワインを飲みに行って…おばさんたちの会話にイラっとして…途中から記憶がない。さすがに飲みすぎたかな。
ベッドに寝ているところを見ると、ラースが連れてきてくれたんだろう。
サイドテーブルに乗っている水差しからコップに水を汲んで、グイっと飲む。
美味い!
さあ、まだ寒いし、もう一寝しようと毛布にくるまって…え?
ええええええっ?
隣に上半身裸でラースが寝ていた。え?髪を固めていないので、寝癖が付いてて結構カワイイ…じゃ、なくて…
ええええええっ?
ワタシ、ドウシテ、オトコモノノシャツ キテイルノカシラ???
シカモ…コノシャツノシタ…何もないんだけど????
え?
「おや、起きたの?フィン、もう少し寝ようか。今日はゆっくりしよう。昨日遅かったし。(お前がのぼせて)」
ラースに腕を引かれて、布団に埋まる。いや、ちょっと…もう…何がなんやら…。
「え、あ、そ…」
「どうしたの?昨日はあんなに激しかったのに。(議論が)」
頬杖ついて、短い私の髪を掬うラース。顔が近い!
「え?」
「君の激しさに、俺も参ったよ。(飲みすぎだよ)」
「あ…」
「覚えてないの?ふふっ…まあ、真実は一つじゃないんだろう?君にとってこの朝はどうなんだろうね?(この酔っ払い。何も覚えてないな?)」
「え?」
「で?俺のこと、どうする?ねえ、フィーネ嬢?」
「……」
え?
「おや?沈黙は肯定だと思ってもいいのかな。いっそ、新聞ネタの通り、俺と恋人同士になる?一晩きりじゃなく。」
「……」
にっこり笑って、私の唇に指を滑らすラース…その笑顔…怖いわ…。
「それとも…お前が嫌いな新聞に、この特ダネを売ってもいいんだよ?」
恐喝??
「だいたいさ、危ないって。今まで風呂とかどうしてたの?」
「それは、まあ、宿で体拭いたり…くらいで。」
「それで、弓用の胸当てまで…そこまで必要そうな胸でもなかったけど?」
グーで殴ってもいい?
「まあしかし、国内にいたのは賢明だね。下手に身元引受人もいないで国外に出てたら、今頃売り飛ばされてたんじゃない?」
はい。ごもっともで。
「そこはさすが、賢妃、と言われるだけのことはあるね。」
え、と…褒められてますか?皮肉ですか?
「まあ、まだ早いし、寒いし、とりあえず寝よう?俺を襲わないでね?くくっ。」
「……」
毛布は一枚なので、背中をラースに預ける形で潜り込む。寒いし。
眠れるはずないでしょ!と思っていたが、背中が暖かくなって、寝てしまった。
目が覚めたら、お日様が結構高い時間だった。良く寝たなあ~。後のことは、その時考えよう、と、気持ちを切り替える。起き上るとラースはベッドにいなかった。
窓際に置かれたソファーで、新聞を読んでいるようだ。
「起きた?着替え用意しておいたから。あ、と、その前に風呂場に来い。」
何のことかと思ったら、風呂場で髪を染められた。ラースとお揃いの黒だ。
「フルール国ではポピュラーな色だからな。うん。いい感じだ。」
そう言って、ごしごし髪を乾かしてくれた。誰かに髪を触られるのも1か月ぶりだ。
うちの屋敷の侍女たちはみんな元気かなあ…
ほぼ乾いたあたりで、着替えを渡される。ちゃんと下着までそろっている。
「着替えたら、昼飯に行こう。」
そう言ってラースはソファーに戻ってさっきの続きの新聞を読んでいた。
この男…女性用の下着まで買ってきたのかしら?しかも、サイズぴったり。
「着替えは宿のおかみに頼んだんだ。髪染めと新聞は買いに行ったけどな。変なこと考えてるだろう?」
あら?