第6話 新しいお仕事。
『おい、チビ、リックを誘って、朝飯に行こう。』
チビと交代交代に新聞2紙に目を通して、隣の部屋のリックを誘って食堂に降りる。1階の食堂は時間が少し遅いから、随分と空いていた。壁際の、窓から遠い席に座る。
『リック、お前、今日はどうするんだ?』
『うん。仕方ないから、家に帰るかな。』
ほどなく焼いたソーセージとジャガイモ入りのオムレツが運ばれてくる。パンは丸いライムギパン。チビが渾身の力でちぎってうまそうに食べている。昨日も思ったが、こいつは何でもものすごく美味しそうに食べる。
『そういえばさ、このチビ、仕事探してるんだって。お前のところのビアホールで雇わない?』
『え?雇ってくれるの?っていうか、お兄さん、お店持ってるんだ!』
パンをもぐもぐしながら、チビが即座に反応する。
『泊るところもある?あると嬉しいんだけど。』
『いいけど…お前らさっきからフルール語なんだけど、なんで?』
リックに指摘されるまで気にもしなかったけど…このチビ、そう言えば普通にフルール語だ。
「あ…話せます。ブリア語。問題ありません。」
「そう言えばお前昨日、スペーナ語も話してたけど…」
「え?そう?」
そう言いながらソーセージを食べ始めるチビ。
…そう言われると…食器の扱いも綺麗だ。奉公に出されていたと言っていたが、よほど厳しいところだったんだろうか?怪しい。
「お前、フルール語も前の勤め先で習ったのか?」
「うん。必要に迫られて。あとイング語。スペーナ語は挨拶ぐらいならできるかな。」
「何歳から働いてたんだ?」
「8歳。」
「……」
結構、苦労してんだな。
「ラースはどうするの?僕と一緒に行く?」
「行かねえ。このチビを送ってって、そこで待ってるよ。どうせまたトンボ返りだろう?」
「多分ね。あ~行きたくない。」
リックが上品に紅茶を飲んでいるのを眺める。物憂げな横顔だ。まあ確かに、こいつの家は今回ばっかりは本当にめんどくさそうな状況だ。
宿を出て、リックを見送ってから、チビを連れて南街道の乗合馬車に乗り込む。
リックが持っているブルワリーと、直営のビアホールはフルール国との国境沿いの街にある。フルール国からビール目当てに来る観光客もいるので、言葉が通じるのはめっけものかもしれない。ここからだと1泊2日の旅だな。
「ねえねえ、お兄さん、」
「ラース、な。お前は?」
「フィンだ。よろしく。ラースは思ったより面倒見がいいんだな。ありがとう!」
フィンは朝のうちに宿で針と糸を借りて縫ったんだ、と言っていた切り裂き傷のある布のリュックからメモを取り出して何やら書き込んでいる。
覗いてみると、几帳面な字で、乗合馬車代 1400ガルド。と書き込んでいるところだった。
俺に借りた金をメモしているようだ。面白い奴。
昼に乗り継いで、大河沿いを下る。夕方に今日の宿をとる街に着いた。
「この街には…ワイナリーがあったよね!」
フィンがキラキラした眼差しで俺を見る。
「今年の新しいワインの試飲ができるかな?ね?ね?ね?」
「……」