第5話 借りた金と恩は返す。
『お前と同じ部屋にするわけにはいかねえしなあ。』
金髪の兄ちゃんの方がやさしそうで親切そうだったけど、そう言って黒髪の兄ちゃんが私を引きずって部屋に入った。贅沢は言わない。野宿は勘弁だ。
『ソファーでいいだろ?ほれ、毛布。言っとくけど…金を盗んだり荷物あさったりしたら、タダじゃおかねえからな?』
そう言いながら、予備の毛布を一枚放ってよこした。
『しません!しません!いつかこの御恩と借りた金は返しますから!!本当に助かりました!ありがとうございます!』
『あ?まあ、大した金でもないから、それはいいけどな…』
『あの…襲ったりしないでくださいね?』
『は?俺が?お前を?』
『いや、だってわかんないでしょ?今時はかわいい男の子が好きな殿方もいるって聞くし。』
『……』
言うことは言ったし、もういい加減に眠かったので、遠慮なくソファーを使わせてもらって、毛布にくるまる。
いや~あんなところで無銭飲食で捕まったり、野宿して保護されたりしたら…。
助けてくれたのがフルールの人で良かった!ブリア国の人だと、根掘り葉掘り聞かれて面倒そうだし…。とにかく助かった。明日から、仕事でも探すか…。
いろいろ考えているうちに、眠ってしまった。
*****
人の気配がして、ガバリッと起きる。
見慣れない少年が、ソファーに座ってコーヒーを飲みながら新聞を読んでいた。
あ…昨日拾った奴か。
『あ、起こしちゃった?おはようございます!お兄さんの分のコーヒーもあるよ。宿代にツケにしたけど。』
にぱっ、っと笑って挨拶したその子は、また新聞の紙面に視線を戻した。ちゃっかりかい。
この宿は頼んでおくと、朝、新聞をドアの隙間に届けておいてくれる。それを引っ張り出して読んでいるんだな。
『お前、字が読めるのか?』
カバンから着替えを出してシャツを羽織る。ボタンを締めながら、チラリとその子を見る。昨日は目深に帽子をかぶっていたから気が付かなかったが、綺麗な金髪だ。まあ、フールでもブリアでも珍しくはない髪色ではある。
『読めるよ。前に勤めていたところで習った。読み書きと、計算とか。いろいろ。』
難なく答えている。
読み書き計算?商家に奉公に出されていて、逃げ出してきたくちか?あり得るな。
少し冷めてしまったコーヒーに口をつける。
『なあ、チビ?なんでコーヒーにしたんだ?』
『ん?僕は本当は薄い紅茶が好きだけど、お兄さんはフルールの人なんでしょ?コーヒーの方がいいかと思って。』
『ふーん。で、そんなに真剣に何を読んでいるんだ?』
『ああ。仕事を探してるんだ。お金すられて無いし、お兄さんにお金返さなくちゃいけないだろう?』
『……』