第4話 飲み比べ。
北部に向かう乗合馬車の停車場の売店で、新聞を2紙買う。
<良い朝新聞>、という割と大手の新聞と、<日日新聞>というタブロイド紙。
馬車に揺られながら、新聞を広げる。
【第一王子殿下、ついに結婚か?番狂わせ!お相手は子爵令嬢!】
【真実の愛!子爵家令嬢の手を取った第一王子殿下!】
どちらも。一面を飾っていた。すごいね。タブロイド紙は子爵令嬢の妊娠まで書き添えてあって、面白おかしく、かなり大きなおなかの子爵令嬢と思われる女性を抱く第一王子まで描かれている。
【賢妃、逃避行?】
あら、私のことを賢妃に例えてくれてるの?どれどれ、と読んでみると、
【第一王子の正式な婚約者だった侯爵令嬢は、その日のうちにフルール国に逃避行?修道院を目指した傷心の侯爵令嬢】
よしよし。傷心、は余計だけどね。
まず北から。
飲んべえのおじさんお勧めの、エッカルト・ビール。濃厚な黒ビール。香ばしさが癖になりそう。
次はおねえさんお勧めのアーデルトラウト・ビール。ガツンと来る、アルコール高めのビール。
少し東に進んで、シュナイザー・ビール。エールタイプのさっぱりフルーティー。いくらでも飲めちゃう。
も一度西寄りに戻って、ブルクハルト・ビール。ブラウン色のラガービール。軽やか~まろやか~これも飲みやすい!
で、1か月かけて一番初めのエデルガルト・ビールに戻る。
最初にここで飲んだ時はビール自体ほぼ初めてだったので、こんなものかと思ったが、色の薄い、ドライな味わい。どんな料理にも合いそう!!なんか…おじさんたちの言ってたこともわかるなあ。
うちの領地でも作ろうかな?オリジナルビール。いいかもな。
そんなことを考えながら、ビールをお替りして、焼きソーセージとイモ、豚肉の煮物を平らげる。カウンターのお隣には身なりの良い男が二人で飲んでいる。平民の格好をしていても、タダものじゃなさそう。
…まさか…タブロイド紙の記者じゃないよな?
もう一杯お替りして、ほんの少しお隣の二人の話に耳を大きくする。フルール語?
『…ここまで来たら、家に帰ればいいだろう?お前の母君だって、待ってるだろう?』
『まあ、いいじゃないか。どうせまたフルール国に帰るんだし。あの国ではビールは飲めないし。』
『そりゃそうだけど。自分の家がもめてるときに、いいのか?こんなにのんびりして?』
『ああ。しばらくゆっくりビールを飲んでる暇もなくなりそうだしな。』
『ま、それは否定しないけど。』
あらあら。友人同士、って感じかな?フルールには多い黒髪と、金髪の兄ちゃん。
記者ではなさそう。フルール国の商人、あたりかな。
イモの残りをもぐもぐ食べていたら、酔っ払いの男がドンッ、と私の椅子によろけてぶつかった。
『あ、ごめんね!』
今度はスペーナ語かよ?国際色豊かだな。
『問題ないよ~』
そう言うと、酔っ払いはよろけながら出て行った。
イモを食べ終わって、グイっとグラスを空けて、お勘定に向かおうとして…
そう、この店は大き目な店なので、お会計は後払い。お財布をリュックから取り出そうとしたら…リュックに切り裂き跡があって…げええ!財布!私の財布!!無い!
「お、坊主、やられたな。最近このあたりもいろんな奴が出入りするようになったから気を付けな。スペーナあたりから流れ者が入ってたりな…財布、抜かれたんだろう?」
隣の黒髪の兄ちゃんに話しかけられて、こくこくっと頷く。
「仕方ないから奢ってやるよ。おーいお姉さん、お勘定!この子は俺らの連れだから、一緒でいいよ~」
おお、正に、地獄で神?
「じゃあなあ、気を付けて帰れよ!」
一緒に店を出たのは良いが…無一文だ。
『お兄さん…僕、泊るところがないんですが…さすがに10月の寒空に置いてったりしませんよネ?』
通じないといけないので、フルール語でお願いしてみた。