第22話 番外編 陛下の結婚式。
「僕の結婚式の当日に、お前の奥方から、王城の前の広場の使用許可申請が出ていたから、許可したけど、何する気?」
「ああ。ブルワリー組合の連中とイベントをするらしいですよ。国内やフルール国からもたくさん人が集まるから、いい宣伝になると言っていましたから。」
明日に控えた陛下とフルール国王女アンジェリーヌ様の結婚式。
城の前の広場では、テントを張ったり、即席の椅子やテーブルが並べられている。
料理のブースは、テント一つにつき1日5000ガルドの使用料を払えばだれでも出店できる。もちろん、身元審査はある。
俺はサムエル侯爵になったが、同時に、引退した宰相の代わりに陛下にこき使われる日々だ。家には月に1週間しか帰れない。新婚なのに。昨年結婚して1年。12週間しか新婚生活を送っていないんですけど?
「領地は奥方一人でも大丈夫でしょう?」
陛下…俺、まだ新婚なんです。
うちのビアホールも料理ブースを出している。テオをはじめとして、準備は男衆のみだ。俺の嫁はビール樽を積んだ荷馬車と明日王都に入るらしい。
式当日。10月の澄み渡った青空だ。
教会式を終えて、陛下と王妃がバルコニーに立つ。集まった民衆の拍手と喝采で空気が震えるほどだ。陛下の後ろに控える。
ん?楽団?
うちの地元のお祭りの音楽?が、聞こえた気がした。
…おいおい。
南から…にぎやかな楽団の後に、大きなビア樽を積んだ荷馬車。綺麗に飾り付けられて、その樽の上に…フィン?何やってるの???
【アデリナ・ブルワリー】の赤い旗を振る、制服姿の俺の嫁。赤いスカートに黒のエプロン。
後ろに続く荷馬車にはやはり制服姿の女の子がぎゅうぎゅうに乗って観客の頭上に花を振りまいている。
え?北からももっと大きなビア樽を積んだ、これまた綺麗に飾り付けられた荷馬車。御者台に青いスカートの女の子が立って【エッカルト・ビア】の大きな旗を振っている。
広場に次々と、荷馬車が到着する。茶色の【ブルクハルト・ブルワリー】
黄色の【アーデルトラウト・ビア】
…荷馬車が、旗を振り、楽団を従えて次々と広場に入ってくる。
荷馬車の割り振りはされているらしく、コの字にならんでいく。圧巻だね。
最後に入ってきたのは、王都に一番近い【エデルガルト・ビア】
ここには女の子じゃなく、恰幅の良いおやじが乗って旗を振っている。
正面に付けたエデルガルトのおやじが、バルコニーに向かって乾杯の歌を歌いだすと、群衆が一斉に歌いだした。
「あははははっ!お前の嫁は面白いな!」
「…はあ。」
「あの中に入れないのが残念だなあ。なあ、アンジェリーヌ?」
「まあ、陛下が行きたいなら、私もお供しますけど?」
わあわあと乾杯が始まったらしい。
来賓席にも料理が運ばれ、小さなグラスでいろいろなビールが提供されているようだ。
陛下のところには念のために、うちの料理を運ばせる。ビールは細いグラスにいろいろな種類が届いた。
「なあ、ラース。またデカいビアグラスで心置きなく飲んでみたいな?」
「そうですね。うちでよければ、ご招待しますよ。今年のビールもよくできましたから。」
にぎやかに乾杯の歌が聞こえてくる。
三人でグラスを合わせる。
乾杯!




