第18話 新聞記者。
4月から始まったヘンリック様中心の政務は、6月末には一通り落ち着きを見せた。
貴族会議で一連の報告と、今後の連絡がある。
また聞きのまた聞き、で話が湾曲されるのを防ぐため、新聞関係者を貴族会議の末席に招き入れる決定をしたのは、マルガレータ様だ。良い判断だと思う。
国中の貴族が一堂に集まっている。今日は父の代わりに、兄が出席しているのが見える。
私は書記官と一緒に、皆が一望できる真横の席に着く。
「おい、日日新聞のライナーが来てるぞ?」
「あいつ、フルールのデイリー新聞の記者とも知り合いか?」
「この前はスペーナの記者とも話してたよ。仲良さそうだったぜ?」
「まったくな。政治面ではあいつの特ダネにはかなわないからなあ。ほら、賢妃が戻る、なんてネタ、どこから拾ってくるんだろうな?」
「え?じゃあ、今日の発表って、やっぱりあの逃走令嬢が王妃になるって話か?」
「どうかな?」
それはどうかな、と私も思うわよ。
たまたま聞こえた会話に思わずうなずく。
腕に報道、の腕章をつけた記者たちが集まってきている。今日は重大発表があると聞きつけて、フルールからもスペーナからも来ているようだ。新聞社だけではなく、大衆雑誌とかからも来ているようだ。記者たちの身元は調べ上げられ、一覧表が私の手元にも届いている。
…へえ、日日新聞はただのゴシップ紙、ってわけでもないのね?私が逃走中、フルールの修道院に行ったんじゃないか?とか、ご令嬢の私物がフルールの川沿いで見つかっただの…。いろいろ楽しませてもらったわ。
ざわめきの中、聞きなれた声がした気がして、ふっと顔を上げてみる。
え?
黒髪に、わざとらしい黒縁眼鏡…ジャケットにタイ。隣の記者と何やら話し込んでいる。
え?
<報道・日日新聞>
腕章に驚く。
ラース?
…あはは。そりゃあ詳しいわ。政治も、逃走令嬢のことも。
なーんだ、ヘンリック様の駒?
ヘンリック様はどこにいてもブリアの情報もフルールの情報も入ったわけだ。ごまかしたい情報は上手にごまかして。なるほどね。
「フィーネ様?顔色が悪いようですが、大丈夫ですか?」
書記官が声をかけてくれたおかげで、我に返る。
「大丈夫よ。さすがに少し、緊張するわね。」
国王陛下、その隣にヘンリック様とマルガレータ様が並んでお座りになる。




