第12話 チョコレート。
「目をつぶれ、フィン。」
「ん?こう?」
間抜けな顔で目をつぶるフィンの口に、チョコレートをねじ込む。
「ん?チョコレート?チョコレートね!」
久しぶりにフルールから帰ってきた。今回は随分と間が空いた。2か月ぶりになる。もう新年が開けて、もうすぐ2月、という頃になってしまった。リックは完全にフルールを引き払うことになって…引越しの手伝いやら、土産の買い出しやらに駆り出されていた。そのついでに、チョコレートの小箱を買った。リックに冷やかされたけど、ほんのお土産だし。
ちょうど休みだったフィンを誘って、新しくできた観光客向けのカフェに向かう途中、ポケットにしまっておいたチョコレートでささやかないたずらをした。
…こいつは、期待を裏切らずに大喜びする。
リスみたいにほっぺをチョコレートで膨らませたフィンが、黒髪を風に揺らしながらくるくる回っている。
「いつぶりかしら!チョコレート!ありがとう!美味しい!」
…何でも美味しいな、お前は…。
「仕事はどうだ?」
「なんとね!ラースがいない間、ジョッキを片手で2個も持てるようになったのよ!」
「プッ」
「お姉さん方は片手で5個ぐらい持つのよ?両手で10個よ?すごいわよネ!私も頑張るわ!」
「そうか。」
両手をにぎにぎする怪しい手ぶりで、フィンがジョッキがいかに重いものかを力説している。
すっかり寒くなったので、二人とも厚手のコートを羽織っている。一生懸命話しているフィンの鼻の先が赤い。寒いよな。
「あと、支配人に言われて、帳簿も付けてる。それから…フルールからの観光客用にフルール語でメニューの補足を入れてみた。あと、観光用のパンフレットと案内看板とか。」
「なるほどな。」
カフェで、薄い紅茶とコーヒーを頼む。
店内は暖炉に火が入っているが、コートを脱ぐほど暖かくもない。
追加でチーズタルトとサクランボケーキを頼んで、暖炉の近くまで移動する。
「手を出してみろ。」
「ん。」
すっかり凍えてしまったフィンの手を両手でこすって温める。
何か勘違いした店員に、
「あらまあ、ごゆっくり」
と笑って声を掛けられた。いや、店が寒すぎるからだろう?
こんな感じで、ブリアとフルールを行き来するときに、フィンの様子を見に立ち寄る。もちろん、帳簿も見るけど。
ブリアの王都からの帰りは、リンゴのタルトだったり、
フルールから帰ってきたときはチョコレートやキャンディとか。
食べたらきっとくるくる回るほど喜ぶだろうと思うと、つい…ついな。
それから時間があれば少し出かけて、夕食を一緒にとって近況を聞く。
ビールのシーズンは3月で終わりだが、3月になるころにはフィンはなんとか片手にグラス3個まで持てるようになったらしい。
「いや~私ってすごくない?まだまだやったことないことってたくさんあるのねぇ~」
と言って笑っている。そうだな。お前とずっと一緒にいたら、ずっと楽しいんだろうな。
ついつられて、笑ってしまう。




