第11話 何者?
次の日からさっそく、フィンは働き出した。
制服はこの地方独特の白いブラウスに、裾に模様の入った赤いスカート。そこに黒のエプロン。胸の大きい子はドンッ、と胸が目立ってしまうデザインなんだが、フィンに関しては心配なさそうだ。
本来はお祭りの時の衣装なのだが、フルールからの観光客も多いので、あえて制服を同じ形にした。男の子は黒のズボンに赤のベスト。
仕事については支配人のテオに任せてある。まずは店のフロアーから始めるらしい。
先輩に聞きながら床磨きをしていた。あの子は何をしていても楽しそうだ。
笑っているフィンを眺めながら、事務所と執務室がある店の2階に上がる。
留守中の醸造所と店の帳面に目を通す。ほんの少し前に立ち寄ったが、リックが急いでいたので次の日には出立してしまったから。
今年も麦もホップも出来が良く、仕込みも順調だった。
昨年より樽を増やして、多めに作っている。地元に卸す分もだが、観光で来る客の消費が多くなってきたから。
近くに作った宿泊施設の稼働率もいい。地元の住民にはなんてことない郷土料理が素朴さで受けている。
仕事のなくなる冬の間に、若者が働ける場が出来たのは良かった。年寄は観光客向けのお土産を冬の間に作っているし。
……
「あなたは何者なの?」
フィンに聞かれたことに答えられなくて、話をそらしてしまった。
俺は…何者なんだろうな。
帳簿を閉じて、窓の外を眺める。
高い山はもう、山頂が白くなり始めた。