ダンジョンの戦闘配信? いやいや魔獣達のための癒しスローライフ配信です!!
「おい! お前は今日限りでクビだ!! さっさと俺のパーティーから出ていけ!!」
「待ってくれ! タクの能力はまだちゃんと分かって……」
「その能力が目覚めるのをどれだけ待ったと思ってる!!」
「まだ1年ちょっとじゃないか!!」
「もう1年過ぎてんだよ!! その能力が目覚めることを期待してパーティーに入れてやっていうのに。ここにいられても邪魔なだけだ! 他の能力が強ければ別だが、それすら俺達の役に立たないじゃねーか!!
「役に立たないって、タクは出来る限りの……」
「いいんだ大和!!」
「タク……」
「みんなの気持ちは分かる。俺だってみんなの立場だったら、同じことをしただろう。いつまでもどんな能力か分からないんじゃ。それに戦闘で役に立たないのも事実だし。分かった。俺は今日限りでスターツを抜ける」
「ふん、話しが分かるじゃねぇか。ふん、今日のお前が集めた戦利品はくれてやる。餞別としてな。どうせいつも通り、大したもんじゃないだろうが。ハハハハハッ!!」
「はぁ、やっといなくなるのね、お荷物が」
「これでこれからは、もっと上を目指せるんじゃないか」
「そうですね、邪魔がいなくなれば、効率も上がるでしょうから」
「……それじゃあ」
「あっ! タク、待てよ!! チッ、おい、俺も今日限りでこのパーティーを抜ける!!」
「何だ? あの役立たずと共に行動するつもりか? 幼馴染だから心配してんのか? はぁ、お前は力があるんだ。俺の元に残った方が、お前のためだと思うが?」
「仲間を大事にできない、力しか求めないお前達といたって、何も得られるものはないさ」
「ふん、勝手にしろ。命令を聞けないような奴、俺だっていらねぇよ。だが、お前も本当に馬鹿だな。奴がいなくなった俺達は、すぐに階級を上げて引っ張りだこになるぜ? そうすれば何でもやりたい放題できるようになる。そう、何でもだ。そんな生活を捨てるなんてな」
「どうだか。お前が、お前達が考えているよりも、そんなに簡単に全てが手に入るとは限らないぜ。じゃあな!」
「たくっ、あいつ相変わらず足だけは早いな、俺がちょっと話しているうちに何処まで行ったんだよ。……ん、ああ、いたいた。おい、タクっ!! ってあいつ何やってるんだ?」
「待ってろ、何となくやり方が分かったからな。今からお前を癒してやるぞ」
「おい、タク!!」
「大和、どうしてここに?」
「どうしてここにって、お前を追いかけて来たんだろうが。俺もパーティーを抜けて来たんだよ」
「は? 何でそんな事したんだよ。お前は力があるんだから、残らないでどうするんだよ。まぁ、奴らの性格は問題だけど」
「別に俺が決めた事だから良いだろう。大体俺達は小さい頃から一緒に行動して来たんだから、これからもそれは変わらないぜ。って、今はその話は良いんだよ。それよりもお前、こいつに一体何するつもりなんだ?」
「ああ、ちょっと待ってくれ。俺のあの能力、どうやって使えば良いか、分かったっぽいんだよ」
「は? 本当か!?」
「だから今からそれをやってみるつもりなんだ。ちょっと待っててくれ」
『……きゅうぅぅ?』
「ああ、待たせてごめんごめん。よし、やるぞ。そのまま静かにしてるんだぞ」
『……きゅうぅぅぅ』
パアァァァァァッ!!
『……きゅ? きゅきゅ? きゅうぅぅぅ!!』
「よし、成功だ!!」
「は? 何だこれ? 何でこいつは元気になったんだ? やっぱり名前の通り、回復系の能力だったのか?」
「まぁな。でも回復は回復でも、特別な回復能力だったんだ?」
「どういう事だ?」
「まぁ、詳しい話は帰ってからするよ。それよりも俺にはもう1つ、やる事が残ってるんだ。もう少しだけ待っててくれるか」
「ああ、別に今日はもうやる事もないし、明日からの予定もなくなったからな。時間はたっぷりある」
「……俺のせいで、悪かったな。せっかく高ランキングパーティーに入れたのに」
「良いんだよ。俺とお前の中だろう。それよりも、やる事って何だ?」
「やるのは初めてだな。あれをやるんだよ」
「あれって?」
「俺も今まで使った事のなかった能力は、不明の能力以外に何だ?」
「……まさか、ついにあれをやるのか!!」
「ああ、こう、何だろうな。初めてやっても良いと、お互いの心が通じてる感じがしたんだよ」
「そうかそうか!! ついにあれをやるのか!! よし、早速やろう!!」 ほら、早くやろう!!」
「……」
『……きゅ?』
「ん? どうしたんだ? 早くやろうぜ?」
「お前の態度に、引いちゃってるじゃないか」
「俺が何だって? ほら、何でも良いけど、早くやろう!!」
「はぁ、分かった分かった。ごめんな、こいつの勢いに驚いただろう?」
『きゅ……』
「だけど、こいつは本当に友達思いのいい奴なんだ。ただみんなに関しての態度が、ちょっとすぎるだけで。だから怖がらないで……、いや引かないでくれな」
『きゅう……』
「よし、じゃあやるぞ!!」
パアァァァァァッ!!
《半年後》
「タク、ついにこの日が来たな!!」
「ああ!!」
「どうだ? 今の気持ちは?」
「そりゃあ緊張してるさ。だけど、やるって決めたし、大切なみんなの家族のためにも、少しでもこのチャンネルが役に立ってくれるなら、俺はやれるだけの事をやるだけさ。それに俺には大切な頼もしい家族と、お前がいるしな。きっと上手くいくさ。な、みんな!!」
『きゅいっ!!』
『ぷぷ~!!』
『にょ? にょおぉぉぉ。ブーブー』
いや、いびきかいて寝るなよ……。
「はぁ、お前は全然緊張しないで良いよな。で、晴翔、お前はどうなんだ?」
「俺だって緊張してるさ。機械トラブルがあったらと思うと。なにしろ記念すべき第1回の配信だからな。何としてでも成功させたい」
「別に失敗したって良いじゃないか。みんな色々体験して、良いチャンネルにしていくんだからさ」
「いいや記念の第1回配信なんぞ。ラビ達の可愛さをみんなにしっかりと伝えないと!!」
「あ、ああ、まぁ、そうだな」
俺の名前は井上拓哉。そして俺の隣でニコニコ笑っている魔獣が、俺の家族のラビとププちゃん。それからブーブーいびきをかいて寝ているのがブーちゃんで。今話しているのが、俺の幼馴染で、仕事仲間でもある山口晴翔だ。
今日はとても大切な事をやるために、俺の家に用意した特別な部屋に集まって、最終確認をするところだ。
と、その確認をしていると、1階から母さんの声が。
「拓哉!! お母さん、商店街に買い物に行ってくるわね。夕方行くと今日は休日で、魔獣が大勢出て来て、混んで大変でしょうから!! 何か欲しい物はある!?」
「あー、お弁当頼むよ!!」
「分かったわ!! 配信、お母さんは忙しくて見られないけれど頑張って!!」
「ああ!! やれるだけやるよ!!」
少しして母さんが車で出かける音が聞こえた。
今日は休日だからみんな家族の魔獣を連れて、商店街に買い物に来たり、遊びに来たりして混むから、母さんは午前中に買い物に出かけたんだよ。魔獣が大勢出てくる? 魔獣?
ここは地球で、人間と魔獣が溢れる世界。俺が生まれた時には、すでにこういう光景は当たり前だったけど。この風景が普通に思えるようになるまで、どれほどの時間がかかったか。
昔の地球には魔獣なんて生き物はいなかったらしい。それが起こったのは80年以上前。突然だったらしい。世界中にダンジョンという物が現れて、世界の人々は混乱に陥ったと。
ダンジョンていうのは、宝や謎の物など、とても珍しい、もともと地球にはない物がたくさん隠されている場所で。洞窟だったり、高い塔だっだったり、空間だったりと、様々な物がある。そして昔の人々は、その特別なものに惹かれ、次々とダンジョンへ入っていく事に。
しかしダンジョンの中には、特別な物だけではなく、命に関わるような危険な罠や。魔獣と呼ばれる、もともと地球にはいなかった、とても危険な生き物で溢れていて。その罠や魔獣により、かなりの人々が命を落としたと。
そして魔獣達は、最初はダンジョンから出てくることはなかったが、時々外にも出てくるようになってしまい。そんなダンジョンや魔獣達を恐れた人々は、どうにかダンジョンを消し去ろうとしたのだが。結局何をしても、どうすることもできず。
そんな絶望していた人々だったが、ある時を境に、人々はスキルという、特別な能力を授かる事になった。何故それを授かれたのか、どうやれば授かれるのか。調べたが、ダンジョンがどうして現れたのか分からないのと同様に、理由は分からず、今もそれは分かっていない。
しかしそのスキルによって、人々は魔獣と戦う能力を手に入れ、それからはダンジョン攻略をするように。そしてダンジョンに入った人々がもたらした、ダンジョン産の物によって、世界は大きな発展を遂げた。
今では全ての人ではないが、ダンジョンに関わりながら生きている。そう社会の一部となったんだ。
そして恐れてばかりいた魔獣達も、詳しく調べていくうちに、人と敵対する魔獣ばかりではなく、人と良い関係を築く魔獣達もいると分かり。また魔獣に関する素晴らしいスキルの登場により、今ではダンジョンの外で幸せに暮らしている魔獣達もたくさんいる。
ラビとププちゃんとブーちゃんも、みんなは俺がダンジョンで出会った魔獣だぞ。
ラビはフェザーラビットと言われる、うさぎに似ている魔獣で、背中に天使の羽のような羽が生えていて、空を飛ぶ事ができる。大きさは大人で、普通のうさぎの2倍くらいの大きさだ。ラビはまだ子供だから、大人の半分くらいの大きさかな。
ププちゃんはスライムなのだが、今までに確認されているスライムの種類は100を超え、ププちゃんはその中の、ウォータースライムという水のスライムだ。
大きさは人の頭くらいの大きさで、水に関する魔法を使う事ができる。それと体を様々な形に変えることもでき、色々な事ができるぞ。
そしてブーちゃん。ブーちゃんはカプリシャスキャットという、猫に似ている魔獣なんだけど。大きさは普通の猫の3から4倍だろうか。しかもまぁ、言うのもあれなんだけど、みんなボールみたいにまん丸で。体が重いのかあまり動かない。今だって俺におんぶをさせているくらいだ。
だけど本気で動くとなると、体に見合わずかなりの速さで動くもんだから、俺も最初それを見た時はかなり驚いた。ウサギのように早く動くラビよりも早く、下手をしたら動いている姿がまったく見えない。
そんないつもは自由気ままに、ほとんど動かないカプリシャスキャットだけど。ダンジョンで出会うのはかなり難しく、少し前までは幻の猫と言われていたほどで。今でもダンジョンから出て暮らしているカプリシャスキャットは、そんなにいない。
俺の場合は、ダンジョンで俺が作ったお菓子を、休憩がてら食べていたら。いつの間にか俺の側に来ていて、食べたそうにしていたからあげることに。
そして休憩が終わり、ダンジョンを進んだんだけど、何故かずっと着いてきて。ダンジョン探索が終わり帰ろうとすると何とダンジョンの出口までついてきたんだよ。
どうも俺のお菓子がかなり気に入ったらしく、どうにも離れなかったため、そのまま家族になる事になった。
と、こんな感じで、今ではみんながダンジョンと共に暮らしているぞ。
そうしてそんな世界で生きている俺達は今日、初めての事に挑戦しようとしていた。それは配信だ。
俺が小さい頃に、ダンジョンに入ったプレイヤー達が、魔獣達とのバトルや、ダンジョン探索などをカメラで収め録画配信したり、生配信をするようになった。
小さかった俺にはその配信が、それはそれは迫力があり、その現場にいなくても、自分もその場にいるような感覚を味わうことができて。どれだけ興奮して、その配信を見ていたか。プレイヤー達のかっこいい姿にも惹かれ、プレイヤーの真似もしていたし。
しかし現実は……。でもあるパーティーを追放された時、俺はある能力に目覚めることができ。そのおかげで、自分がやりたい事を見つける事ができたんだ。
そしてそれをやるための手段が配信だった。まぁ、配信と言えば、その内容は昔からほとんど変わらず。今もダンジョンでの戦闘配信や探索配信が人気で。配信チャンネルのランキングは、ほぼこれでランキングが形成されている。
じゃあ俺も同じような配信チャンネルを作ったのか? いいや、俺はまったく違う配信チャンネルを作った。
というか俺はあるスキルが目覚めた事で、ある大切な事に気づいてさ。同じような戦闘配信をするよりも、その大切な事を配信した方が良いと思ったんだ。
ただそれが、見てくれる視聴者さん達に伝わるかは分からない。やっぱり戦闘のようは、迫力がある配信じゃないと、と。俺達のチャンネルに気づいても、知らん顔をされる方が多いだろう。
今日は俺達にとって、記念すべき初めて配信をする日だ。第1回目だ。ホームページを作り、SNSなどで宣伝してきたが、どれだけの視聴者さんが集まってくれるか。
本当は少しでも集まってほしい気持ちはある。ただ、たとえ1人も見にきてくれなくても、それでも俺はこの配信をすぐにやめるつもりはない。いつか俺達の気持ちが伝われば……。
まぁ、実際問題、視聴回数が少ないとお金にならないからどうする? と言われると困るんだけどさ。でもそこは、きちんと別の仕事をしているから大丈夫ではある。
「さて、配信まであと2時間。最後のチェックをするぞ。今日は挨拶と、みんなの自己紹介、それから俺達のチャンネルが、どんな事を配信するのか説明だな。後は説明しながら、実際にそれをやってみせる。それで良いんだよな」
「ああ。俺のスキルはもう協会に掲載されていて、調べれば分かるだろうから、俺のスキルについても話しながら。他にもこうして、魔獣達を癒すことができる、配信をしていこうと思っています。なんてどうかな?」
「だな、俺達のチャンネルの趣旨を、しっかりと伝えた方が良いもんな」
俺達は2時間後に迫った、記念すべき第1回の配信内容について、機材の確認、使う道具の確認、話す内容の確認をどんどんして行った。そして2時間後……。
「よし、始めるぞ。心の準備は良いな」
「ああ!! 初めは全員一緒にだ!」
……カチャ。
「あーあー、声は聞こえていますか? 映像はきちんと写っていますか?」
第一声が、これもどうなんだと思うけど。それに一応俺と晴翔も、手元できちんと配信されているか確認しているけれど。もしかしたらって事もあるからな。コメントが返ってくるかも、視聴者さんが居てくれるかも分からなかったけど、声をかけてみた。すると。
“こんにちは、初めまして”
“初めまして、ちゃんと聞こえていますよ”
“こんにちは。映像OKです”
“始まった!! こんにちは!!”
“ちゃんと聞こえて、映像も見えています!! こんにちは!!”
「皆さんこんにちは!!」
まさかのたくさんのコメントが返ってきて、急いで返事をする俺。そして晴翔が目配せして手元をチラッと見ると、視聴中の数が200を超えていた。思っていた以上の人数に、さらに慌てる俺。
「え、ええと、み、皆さん、こ、こんにちは」
「おい、記念すべき第1回の配信なんだぞ。しっかりしろよ」
『きゅいぃぃっ!!』
『ぷぷぷ~っ!!』
『にょおぉぉぉ!!』
「ほら、みんなもしっかりしろって言ってるじゃないか。顔見てみろよ、さっきまで凄く意気込んでたのに、お前の今の姿を見て呆れてるし、どんまいって顔してるじゃないか」
「あ、わ、悪い!!」
“え? 何?”
“確かに魔獣達の顔見ると”
“あの子達がラビとププとブーだよね”
“ラビがしっかりしろで”
“ププがどんまいで”
“www”
“ブー、足が届いてないwww”
“あれ、呆れてしっかりしろよって蹴ってる、であってるよなw”
“絶対そうだよw”
“それなのに足が届いてなくて、空を蹴ってるwww”
“可愛いぃぃぃ”
“ねぇ、可愛い子達呼び捨てじゃ可愛くないよ”
“ラビちゃん?”
“ラビはラビたんが良いんじゃない?”
“みんなは何が良いですか?”
“ラビっ子”
“ラビたん!”
“ラビたんかなぁ”
“ラビラビ”
“ラビたんが良い!”
“みなな待て待て、後でアンケートとってもらおう”
“まだ挨拶も始まってないから!”
“魔獣達に呆れられただけだから”
“www”
“そうそう”
凄いな、もうラビ達の呼び方を考えているぞ。じゃなくて。そうだよ、挨拶。まだ挨拶すらしていない。
「ゴホンッ、あーあー。改めまして、ご挨拶をさせていただきます。初めまして、【もふっとチャンネル】の、俺は拓哉です。そして俺に呆れているのが、俺の大切な家族の、フェザーラビットのラビ、ウォータースライムのププちゃん、カプリシャスキャットのブーちゃんで。それから俺の隣に居るのが、幼馴染でこのチャンネルのメンバー、カメラ担当の晴翔です。今日は記念すべき第1回の配信を見に来てくださり、ありがとうございます!!」
“初めまして!!”
“こんにちは!!”
“みなさんも初めまして!!”
“初めまして、今日の配信楽しみにしていました!!”
“こんにちは!! 私も楽しみにしてました!!”
“初めまして!!”
「初めての配信で、とてもドキドキしていますが。今日は最後までよろしくお願いします」
“よろしく!!”
“よろしくお願いします!!”
“この日を待っていました!!”
“よろしくお願いします!!”
“わぁ、なんか嬉しいなぁ”
「えー、まず今日の配信内容なんですが。まずはやっぱり、俺達の詳しい自己紹介からしたいと思っています。ラビ達のことを詳しく知りたい方も多いと思うので。それからこのチャンネルのコンセプトを少しだけお話しして、後は今後どんな配信をするのかを、少しだけですが実際にやっていこうか……」
話している最中だった。今まで俺のことを蹴ろうとして蹴れていなかったブーちゃんが、急にむくりと立ち上がり、俺にテーブルから下ろせと言ってきた。
今回は初回ってことで、みんなによく見えるように、テーブルに乗せていたブーちゃん。でもそこそこのサイズだから、次回の配信からは俺の隣にクッションを置いて、一緒に配信しようと思っていたんだけど。
「何だよ、話し中だぞ」
『にょお』
「分かったよ。すみませんみなさん、ちょっとブーちゃんが降りたいみたいなんで降ろしますね」
そうことわってから、俺はブーちゃんを下へ降ろす。晴翔がすかさずカメラを持ち、ブーちゃんにカメラを向ける。下へ降りたブーちゃんは、ゆっくりゆっくりと歩き始め、ベランダの方へ。
そしてベランダに着くと、ベランダにはブーちゃん用の、外用クッションが置いてあるんだけど。そのクッションにおもむろに仰向けで寝転ぶと、数秒もしないうちにブーブーいびきをかいて寝始めた。
「待てブーちゃん!! 今日は初めての配信だから、起きててくれって言っただろう!! 後でゆっくり思う存分寝て良いからって頼んだだろう!!」
慌ててブーちゃんの所へ行く俺。何度もブーちゃんの体を揺らすが、まったく無視で寝続ける。と、慌てる俺に、晴翔がコメントをちゃんと読めと、ジェスチャーで伝えてきた。それにまた慌てて俺。
「す、すみません。配信なのにこんな、それにみなさんのコメントをちゃんと読まないといけないのに……。え?」
“マジかwww”
“何かと思ったらw”
“まさかの爆睡www”
“イビキが独特だなw”
“か、可愛い”
“やべ、笑いすぎてお腹痛い”
“魔獣はあれだけ落ち着いてるのに、保護者がwww”
“拓哉さん、ちゃんと配信できてるから、そんな慌てないで”
“そそ、魔獣達みたいにどっしりとw”
“コメントだって、全部見られるわけじゃないし”
“でも頑張って見てくれようとしてるところはグッ!!”
“その辺はそのうち慣れるよ”
“だから今日はゆっくりどっしり”
“うん今日は、【もふっとチャンネル】の、ゆっくりどっしり配信で決まりだな”
「あ、ありがとうございます」
視聴者さんの温かいコメントに、ちょっとジンときてしまった。俺は深呼吸をして、ブーちゃんをそのままにラビ達の元へ戻り、続きの配信を始めた。
「……と、これが俺達のチャンネルのコンセプトです。あまり見られない配信で、あまりにもゆったりした配信に思われるかもしれませんが、いかがでしょうか?」
それからはブーちゃんは寝たままだったけれど、予定通りに自己紹介から始め。このチャンネルのコンセプトまで、話しを進めることができたよ。
“なるほどなぁ”
“確かにこういう配信は、今までになかったよな”
“魔獣のことを考えれば、この配信は大切だよ”
“俺、戦闘配信ばっか見てたぜ”
“まぁ、実際そういうチャンネルばっかりだからな”
「みなさんそうですよね。俺も高校1年くらいまでは、戦闘配信ばかり見ていましたから。ですが俺にそんなカッコイイ配信は無理なので、そちらのカッコイイ配信はそちらの方々に任せて。俺と晴翔は、魔獣達のための癒しスローライフ配信をしようと思います」
ドキドキしながら反応を待つ。すると……。
“俺は良いと思うよ”
“俺も”
“私も”
“ゆっくりした生活送りたい魔獣だっているだろう”
“私のピピちゃんも癒してあげたい!!”
“そうだよ、戦闘は任せちゃえば良いよ!”
“ゆっくりできる場所があった方が絶対に良いもんな”
“俺、これから必ず見にくるぜ”
“俺も。俺には魔獣の家族はいないけど、きっとここのチャンネルにくれば、ゆっくりできるきがする”
“これから配信頑張ってください!!”
“応援します!!”
「あ、ありがとうございます!! これから【もふっとチャンネル】を、俺達をよろしくお願いします」
良かった。受け入れてもらえた。俺は嬉しくて大声を上げて喜びたかったが、なんとか堪え。改めてよろしくお願いしますと、挨拶をしようとした。もちろん晴翔もカメラを一旦固定に戻して俺の隣に立ち、共に挨拶をしようとしたよ。だけど……。
コメント欄が今までの応援コメントから、急にザワザワとし出して。思わず挨拶前にコメントを追ってしまった。
“え? ヤバッwww”
“飽きちゃったのかなwww”
“www”
“w”
“それにしたって何で? www”
“そこに丁度それがあったからwww”
“可愛いぃぃぃw”
“あれ? 今まで俺達何の話しをしてたっけwww”
“絶対これ、予定と違うよなw”
“拓哉さんと晴翔さん、立ち上がって挨拶しようとしてるもんね”
「あ、あの、どうしましたか? 俺達何か失敗したでしょうか?」
何に視聴者さんが盛り上がっているのかが分からず、思わず聞いてしまう俺。晴翔も困惑している。
“緊張して気づいてないっぽいw”
“後ろ後ろw”
“可愛いパンチが見えてるし、可愛い鼻歌が聞こえてます!!”
“腹ポコポコもwww”
“チラッと一瞬みたけど、本人寝続けてるしw”
俺と晴翔はバッ!! と振り向いた。そしてそこに見えたのは。ブーちゃんのヒゲに、シュッシュッ!! とパンチを繰り出して遊んでいるラビの姿と。体を伸ばし、手のように形にー変えて、ブーちゃんのお腹をポンポコ叩きながら、鼻歌を歌っているププちゃんの姿だった。
『きゅいっ!! きゅいっ!!』
『ぷ~ぷ~♪ ぷ~ぷ~♪ ポンポコ、ポコポコ♪』
それをやられているブーちゃん本人は、チラッとラビとププちゃんを見た後。まぁ、ご自由にと鳴き。そのまままたブーブーといびきをかいて寝始めた。
緊張と、視聴者さんに思いが伝わり応援してもらった事で、気持ちが上がっていたのか、ラビ達の動きに全く気づかなかった。鼻歌にも気づかなかったよ。
「な、何やってるんだ。ほら、みんなこっちに来て、もう1回挨拶するぞ!!」
慌ててラビ達を迎えにき、抱き上げようとする。が。
『きゅいぃぃ……』
『ぷぷ~……』
まさかの不満の声を上げる2匹。
「いやいや、せっかく乗ってるのに、じゃないから! ほら、ブーちゃんも起きてくれ!」
『ブーブー』
「いやいや、いびきで返事するなよ!!」
「ほらみんな、挨拶だけしよう。そうしたらまた好きな事をしていて良いから」
晴翔も手伝ってくれて、みんなをテーブル前まで連れて行く。
“めちゃ不満顔www”
“え? 邪魔するなって言われたのwww”
“ウケるwww”
“よっぽど乗ってたんだろうなwww”
“お腹痛いwww”
“しかもいびきで返事ってwww”
“え? 魔獣ってこんなに面白い反応するっけwww”
“はい! 俺ファンになりました!!”
“私の方が先にファンになりました!!”
“おそらくみんながファンになりました!!”
「す、すみません、バタバタしちゃって」
“いいよいいよw”
“変にしっかり真面目に淡々と配信されるより、ぜんぜんこっちの方が良いよ”
“な、作ったんじゃなくて、すの日常を見れた方が、こっちは楽しいもんな”
“そして魔獣達の面白いがもっと見たいwww”
“それなw”
「あ、ありがとうございます」
俺は今だに文句顔の3匹を、俺達の前に並べてからしっかりと立ち直し。改めて挨拶をした。
「俺達の配信は今日から始まります。皆さんに、魔獣達に、楽しんでもらえるよう。そしてこの配信で少しでも魔獣達を癒し、魔獣達がスローライフを送れるよう、様々なことを配信して行く予定ですので。【もふっとチャンネル】を、これからよろしくお願いします!!」
“よろしく~!”
“チャンネル開始、おめでとうございます!!”
“これからの配信、楽しみにしてます!!”
“そしてハプニングも楽しみにしてますw”
“俺、次回も絶対に見るぜ!”
“第1回目からこんなに楽しいなんて”
“応援してるぞ!!”
“気楽に頑張ってな!!”
「「ありがとうございます!!」」
視聴者さん達が、どんなことを言ってくれているかラビ達に伝える。するとブスッとしていたラビ達が、ニコニコ笑ってくれた。ブーちゃんは『にょ!』と一言だったが挨拶してくれて。視聴者さんが達がそんなラビ達に盛り上がる。だが……。
挨拶は終わっただろうと、早々にブーちゃんが離脱。それを追うようにラビとププちゃんも離脱して。まさかのさっきの姿に。いびきをかいて寝るブーちゃん。そんなブーちゃんのヒゲとお腹で遊ぶラビとププちゃん。それでまたコメント欄は大爆笑。
結局その後の配信は、一応問題なく終わらせる事ができたんだけど。終始配信内容よりもラビ達の行動で盛り上がる配信になった。
まぁ、視聴者さんが喜んでくれる事が1番だから良いんだけどさ。まさか最初の配信が、こんなにバタバタするものになるとは思わなかったよ。
そうして後に、この記念すべき俺達の第1回目の配信は。ラビ達のファンになってくれた視聴者さん達により、伝説の配信即飽き遊び配信、として語り継がれることになり。新しく登録してくれた視聴者さん達が話しを聞き羨ましがる、という流れが出来上がることに。そして……。
《現在》
「皆さんこんにちは!! 【もふっとチャンネル】の拓哉です! そして俺の大切な家族の、ラビとププちゃんとブーちゃんと、メンバーの晴翔です!! 今日も魔獣のための、癒しスローライフ配信、始めて行こうと思います!!」
俺達は今日も、魔獣達のための、癒しスローライフ配信を続けている。
お読みいただきありがとうございます。
『これは面白い』『続きが気になる』『もっともっと読みたい』と思っていただけたら、
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