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第99話「困惑と魅惑」

「こ、こんばんは!

伝説のダンサーとお会い出来るなんて夢見たいです!私、レベッカって言います!」


「あら、元気な方ね。よろしくレベッカ。私はルーデリア。仲良くしましょう?」


美しいサファイアの髪は腰元まで伸びている。水色と白を基調とした美しいドレスが、彼女の髪をより一層美しく際立たせている。

ドレスよりも、髪の方に目が行く。


「あらあら、髪ばかり見ていてもつまらないでしょ?目を見てお話ししましょうよ。ね?」


ルビーのような赤い瞳に、レベッカは思わず見惚れてしまう。褐色の肌が、肩から手袋にかけて露出している。どこか妖艶な雰囲気がこのルーデリアからは感じられた。

彼女はレベッカの肩をギュッと掴んでウインクする。


「ふふ、貴女と踊れるといいわね。

今宵は、同性同士の踊りも出来るのよ。踊りは得意かしら?」


「いえ、あんまり得意じゃ、ないです。」


「そう、でも気にしないで?

フォローしてあげるから」


ルーデリアの声はまるで魔性の声だ。

レベッカですら惚けてしまうほど、

心の隙間を優しく埋めてくれるような感じだ。クレイラやリルル、エレノアとはまた違った安心感が、彼女から感じられる。


「……レベッカお嬢。大丈夫です?

顔、赤いですが」


ルーデリアとの間に割って入るイングラム。

レベッカの顔は僅かに赤くなっていた。


「え?あ、あぁ……なんだか熱くなってきたみたい。」


「ならお水をお持ちしますよ」


「あぁ、私の分もお持ちくださる?

あなたの入れたお水、興味あるわ。

とびきり痺れる奴をお願いするわよ」


「は、はぁ……」


そして、イングラムの背後からぬっ、とリーゼが顔を覗かせてきた。


「失礼、ルーデリア様は我が儘なお方なので、お願い致します」


「わかりました」


イングラムが背を向けて水を取りに行く。


「ふぅ、レベッカお嬢様にはお優しいダンスでお願いしますよ?お怪我をされてしまえば、イングラム殿が悲しまれます」


「……そう、そうね。

気をつけるとしましょうか」


「……?」


(イングラムの名前に反応した……?

このルーデリアって人、一体———)


「お待たせしました。お水です」


「ありがとうイングラム。

お水いただくわね」


ごくり、ごくりと水を豪快に飲み干して行くルーデリア。

そして、飲み終えると舌をぺろりと出して唇についた水を舐めてコップをイングラムに渡す。


「ふふ、ごちそうさま。

あなたの淹れ方、なかなか独特ね?

痺れたわ」


「はぁ、独特ですか……というかなぜ、俺の名前をご存知なのです?」


ルーデリアとリーゼは顔を見合わせた。

そして、彼女はニヤリと笑顔を浮かべると口を開いた。


「あなたはソルヴィアの元騎士で、リルルとそこのお嬢様、クレイラという変幻自在の“なにか”といっしょにレオンという魔帝都最強の戦士を探している。違うかしら?」


「———!?」


ニ人の顔色が驚愕に染まる。

それを眺めて、彼女はますます言葉を溢していった。


「ふふ、私、情報通なの。

ルシウスもベルフェルクのことも、あなたが出会ってきた神たちのことも知ってるのよ?もちろん、あの嫌悪感丸出しの魔術師のこともね」


(フィレンツェのことまで、それに

クレイラのことを人と言わない辺り、

この女、一体何者なんだ———!?)


「ふふ、まだわからない?

なら教えてあげるわ、私は———」


「お嬢様、どうやら始まるようです。

ネタバラシは後ほどに致しましょう」


リーゼがルーデリアの口元に人差し指を立てて、優しく制止した。

彼女はつまらなそうに鼻を鳴らすと天井のシャンデリアを眺めた。


〈レディース・アンド・ジェントルマン!

本日はようこそ闇夜の舞踏会にお越しいただきました!堅苦しい説明は抜きにして参加者の皆様は指定された列へお並び下さい!」


「ふん、途中で割り込むなんて面白くない支配人ね。まあいいわ、どちらかと踊ることになったら耳打ちで教えてあげる。リーゼ、貴方もきちんと教えるのよ?」


会場内に響くアナウンスに対して

苛立ちを見せるルーデリアは、リーゼに指示を飛ばす。


「えぇ、承知しております。

それでは御二方、後ほどお会いしましょう」


リーゼはルーデリアの手を引き、

彼女は手をひらひらさせてその場を去って行く。


「レベッカさん、あのニ人は一体……?」


「さぁ、私にも何が何だか……」


(イングラムさんの名前を聞いた時、あの人、少し笑ったような……?

気のせいかな?)


「さて、俺たちもそろそろ行きましょう。

水飲んでくださいよ?」


イングラムの言葉にハッと我に返るレベッカ

は水をごくごくと飲み干してコップを突きつける。


「お待ちを」


そそくさとコップを戻しに行くと、即座にUターンして帰ってきた。相変わらず仕事が早い。


「よし、それじゃあ行きましょう!

ダンスの上手い人と当たりますようにぃ!」


「さて、先程のプロとやらと踊れればいいがな」


緊張しているレベッカを他所に

イングラムは手袋をギュッと締めて周囲を観察し始めた。


「では、皆様指定されたダンサーと

踊って下さい!各々電子媒体に転送されているはずです!」


アナウンスがそう言い終わると、その場にいた電子媒体が反応して、一覧表を表示した。


「……ルーデリアと踊るのか。

ふ、まるで操られているようで小気味悪いが、いいように使わせてもらうぞ」


「私はリーゼ様と5番目に踊るのか。

1から4番目の人、踊りが上手いといいけど」


どうなるかはわからないが

少なくともイングラムたちの探している以上の情報を手にしていることは先の会話で明らかになっている。こちらも聞き出さなければならない。


「よし、レベッカさん。

ではまた後で、俺はあのレディと踊ることになりましたから」


「えっ、気をつけて、くださいね?」


心細いという感情が表に出ている。

仔犬のような目でこちらを見ないでほしい。

行きにくくなる。


「んふ〜、あらぁ、素敵なお方だことぉぉほほほほ」


(重圧感がすごい人と当たったぞ……)


ふくよかすぎる体型とミチミチいっているドレス。上手く踊らなければ破廉恥になることは確定だろう。


(面倒だな)


とりあえずイングラムは、モーツァルトの作曲した音楽に合わせ、鈍重な女性とダンスを踊るのだった。


(ぐぬぬぬ……!すこぶる重い!)


一方、レベッカはそわそわしていた。

一通りの礼儀作法をイングラムに叩き込まれたはずなのに、緊張ですっかり抜け落ちてしまったのだ。


「だ、で、ど、顔と名前しか出てない!

でもみんな同じような背丈の人ばかり!」


表示画面を見てみると、中の中くらいの顔の人な相手だ。背丈はイングラムと変わらないが、雰囲気が全く違う。下心満載だ。


「おやぁ、レベッカちゃん、ここにいたんですかぁ……うへ」


(写真と違う!!

詐称だ!顔面詐称だ!訴えてやる)


顔面が月面クレーターのような有様、口から汚水処理場の匂いが立ち込めてくる。不潔男子だった。


(うわ、くさ、近寄りがたし!)


そそそ、とレベッカは距離を置いて

外国人風に返答した。


「ワタシレベッカチャイマース!!

クリストファー・コロンビアデース!

サヨナラァ!」


しかし男は素早い動きでレベッカを

拘束した。


「ひっ———」


「んふふ、君のその反抗的な目が気に入ったなぁ。お金いくら欲しい?いくらでも貢ぐよ?んふふ〜、だからさぁ?ねぇ?

お持ち帰りしていいかなぁ?」


「結構でございますぅ!!!」


男の力は凄まじい、引き剥がそうとしても逆に食い込んでくる。


(やばっ、折れそう)


「あー、レディいけませんいけません!あー、ぶつかるー(棒)」


イングラムが鈍重な女性をレベッカを襲おうとした人間に投げ飛ばした。


あと数センチレベッカが近ければ巻き添えを喰らっていただろう。

イングラムの微調整は神だった。


「おい、大丈夫か?」


「う、うぅ……怖かったよぉ〜」


駆け寄ったイングラムが見た彼女の顔からは

既に涙が瞳に溜まっていた。が、どうにかしなくてはならない。あと数人、踊りこなさなくては。


そんなことを思っていた矢先、緊急アナウンスが入った。


えー、会場内の皆様にご連絡致します。

舞踏会にご参加された方の半数が腹痛を訴えてご辞退されました。

怪我人も出ておられるようなので、ご無事な方同士のダンスをするようにとのことです。

以上。


「なんというタイミングだ。

これで重っ苦しい人と踊らなくて済むぞ!」


「うぅ……鼻に汚水処理場みたいな匂いがぁ……」


ガッツポーズのイングラムと

鼻を必死に拭き取るレベッカ。すると、ひとりの男性がやってきて、レベッカに紳士的に腰を下ろし、消臭剤を渡した。


「こちらをお使いください。

ハーブの香りが不快な匂いを消臭してくれますよ」


「———!リーゼさん!」


「あらあら、人間側の出場者は私たちだけになってしまったようね。その子の鼻のケアが終わったら、ぜひエスコートしてくださいな、騎士様?」


「……ええ、喜んで」


ルーデリアは穏やかに微笑んで、その手を差し出した。


「じゃあ、よろしくね?」


(レベッカさん、俺は先に踊ります。

目的を忘れないでくださいね?)


レベッカはこくり、と首を縦に振った。


「レディ?鼻は大丈夫ですか?」


「あ、はい!もう平気です!

さあ、リーゼ様!踊りましょう!」


リーゼは不敵な笑みを浮かべ、もちろん。と

言葉を溢した。


アマチュアとプロダンサーのコントラクションが今会場に咲き乱れようとしていた。


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