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第98話「闇夜の舞踏会」

時刻は既に8時過ぎ。

夕食を食べ終えた一行は、リルルを寝かしつけ、先に舞踏会へ移動する手筈を整え終えたところだった。


「リルルちゃんは私に任せておいて下さい。」


「はい、お願いします。

我々は舞踏会で情報収集をしてきます」


「エレノアさん、何から何まですいません」


エレノアは顔が広い。

馬車の手配やら人での少ない場所の特定やらを明瞭に指示してくれたらしい。

彼女はなかなかのやり手だ。


「いえいえ、いいんですよ!

舞踏会、観客専用の画面から眺めてますね!」


ウインクとサムズアップ。

ニ人は頷いて、宿屋から出て行く。

イングラムは周囲を観察して、人通りが少ないことに気付く、おそらくは、今回の舞踏会が目当ての人々が多いのだろう。

そんな考察をしていると2匹の馬に引きつられてきたキャリッジ式の馬車に乗ったタカ型の亜人族の青年が笑顔で手を振ってきた。


「初めまして、人側の出場者ですね。

どうぞ乗って下さい。エレノアの言う通りにご案内しますよ」


「感謝します。ありがとう。

さぁ、お嬢、お手をどうぞ?」


「あ、うん、ありがとあそばせ」


「いや、そういう使い方はしませんが」


談笑を交えつつ、ニ人は馬車に乗った。

イングラムが先に乗り込み、レベッカの手を引きエスコートする。


(まずは同じ人間と干渉する。

上手くいけば、仲間の情報を得られるかも知れん。あなたはルークの情報を、俺はアデルとレオンさんの情報を集める。いいですね?)


(はい、わかってます!

絶対ヘマはしません!多分!)


(う〜ん不安)


食事の前と後、軽くダンスの予行練習をしたりしてみたのだが、レベッカが思いの外運動神経が悪かったということがわかった。


ただ走ったり飛んだりするだけなら問題はないが、ダンスは下手らしい。

何度か普段着で練習したが、転びかけた。

ルークの親父さんが甘やかした影響なのか、それとも剣に一途になりすぎた影響なのかはわからないが、ダンスが上手くてフォローできる相手が現れて欲しいものである。


と、そんなことを思っていると馬車の青年が話しかけてきた。


「おふたりとも、このような遊興は初めてですか?」


「ええ、私は素人ですから

相手側に迷惑をかけてしまわないかどうか

心配ですね」


「あ、あてくしもあまり得意というわけでは……」


「なるほどそうですか。

でも大丈夫、同族の方は同族で踊れるような決まりがあるんですよ。あなたたちは運がいいです。ダンスが得意な”あのふたり”が参加されるんですからね」


タカ型の青年はくすくすと笑っているようだった。イングラムは首を傾げ、レベッカは手を当てて思い出したようにイングラムに説明する。


「確か、数々の賞を受賞したプロの中のプロだったような?名前はわからないけど、美しいサファイアの髪を伸ばした女性、紳士的な紫色の髪の男性がコンビなんだって言ってたわよ!」


「はい、おっしゃる通り。

ルーデリア嬢とリーゼ紳士ですね。

ふたりの気品は我ら亜人族、そして獣人族に負けず劣らずのものなのだとか。

僕も直接に見たわけじゃありませんが、それはそれは美しいものだそうで、中にはあの一組の為にチケットを高額で買い取る人も出たとかでないとか」


青年は惚気たような声を出して、どうぞ、と写真を手渡してきた。一枚一枚がまるで絵画のように、それはそれは素晴らしいものだった。思わずふたりの視線も釘付けになる。


しかし、顔だけはどの写真もぼかされているようだった。偶然ではなく、これは意図的なものだろうとイングラムは踏んだ。


「ど素人の我々が勝てるのでしょうか」


「む、むむむ……大丈夫!

あてくしが踊って華麗に優勝を掻っ攫って

しまえばよろしいのよーっほっほっほ」


おほほほほと手を当てて豪快に笑うレベッカ。他のお嬢様はおそらくこんな可笑しな笑い方はしないだろう。


「お嬢、キャラがブレてますぞ」


一応咎めておいた。


そして30分と少しが経った頃。

裏入門口へ着いたところで馬車が停まった。


「ここから降りて真っ直ぐいけば

すぐに入り口に入るはずです。

どうぞ素敵な一夜を」


「ええ、ありがとうございました。」


「ありがとあそばせでしてよ〜!」


「いやだから使い方が違いますから」


レベッカが手を振って感謝の意を示しているのだが、何か違う、使い方が違うことを知ってはいるものの、上手く説明できないイングラムであった。


「よし、レベッカさん。いきましょう

なるべく人間のような人と踊れればいいんですがね」


「大丈夫です!なんとかなります!多分!」


彼女の健気さの影響なのか、本当になんとかなるような気がしてきた。

イングラムは自然と笑みを溢して

レベッカを両腕で抱き上げる。


「ひょわっ!?」


「さぁ、パーティー・タイムです!

レッツラゴー!」


ささささと忍者走りの如く移動して、ニ人は

会場へと入っていった。





「こんばんは、参加者の方でしょうか」


受付の方で軽く会釈をしてくるのはおそらく支配人だろう。こちらも優雅かつ紳士的にお辞儀で返す。が、レベッカは礼儀作法のことは知らないのでズカズカとモデル歩きをしつつ、受付口にばん、と証明書を叩きつけた。


「ええ、左様ですわよ。

こちら証明書でござりますればですの」


「は、はぁ……確認しますね」


「ははは、申し訳ない。

お嬢は世間知らずの箱入り娘、お義父上に甘やかされてきた身ゆえ、ご容赦を」


「いえいえ、そういった方も最近は多いので……でも、人間側の人にもそういうタイプがいらっしゃったんですねえ、びっくりです」


支配人は電子媒体で本物か偽物かを確認して、ニ人を観察すると、にっこりと笑った。


「確認が取れましたので、どうぞあちらへ

ホールとなっておりますので、出場一覧表をご確認いただければと思います」


「左様ですの?では向かいますわよイングラム!一位の座はあてくしとあぬぁたでゲッチュ!しますわよ!いいわねですわね!?」


「お嬢、口調がめちゃくちゃですぞ」


「はは、ではどうぞ〜」


二人はとことこと歩き出す。


「ご、ごめんなさい。

お嬢様口調ってよくわからなくて」


「いや、普通でいいんですよ普通で。

いつものレベッカさんでいいんです」


「ほ、本当ですか?

ならいつも通りにやりますね」


「ええ、俺の胃を痛めないためにもお願いします」


「は、はい、ごめんなさい」


とことこ歩いていると、入り口から光が溢れていた。あそこがおそらくホール。

レベッカは胸の高鳴りが止まらない。

先程からイングラムの手をギュッと握っている。


「いてててててて!!!」


「わぁ!ごめんなさい!」


「まったくもう!俺が握りますから」


イングラムはレベッカの手を包むように手を握った。彼女の掌に覆い被せるような感じで。


「あ、ありがとう……ございます」


「ルークじゃなくてすみませんね。

こんな騎士で我慢して下さい」


「あー、いやいや!?

とてもドキドキしているというかなんというか。いやでもサマになってるというか———」


イングラムはレベッカに目配せし、人差し指を唇近くに立てた。


「———!」


レベッカもその意図を理解して

口を閉じる。そして、真っ直ぐに進んでいくと———


天井を見上げずともわかるほどの豪華絢爛なシャンデリアが淡い白い色を放出していた。


そして、赤いカーペットは会場全体に

敷かれていて、他のメンバーは既に集まっているようだった。


「どうやら俺たちが最後らしい」


「ふ、ふふふ……これはこれで、ある意味いい的になりますね……ふふふふ」


「怖い怖い」


亜人族や獣人族の面々がイングラムとレベッカを白い目でみるように凝視する。

レベッカは冷や汗が止まらないらしく

握っている手がベチャベチャになってしまっていた。


(落ち着け、まずは人間を探すんだ。

例のプロダンサーなら歓迎なんだ……なっ!?)


見つけた、イングラムは無数にいるチームメンバーの中で、そのプロ級のダンサーを

見つけてしまったのだ。


「褐色の肌、水色のドレス、サファイアの様な蒼い髪、間違いない、ルーデリアだな」


「あ、あわわわわ!

あれが、リーゼ様ですか!?

かっこ———」


「シッ!」


ガバッと口に手を当ててレベッカの思考を正常な物にさせる。


(ダンス以外で目立たせてどうする!

声を出すな!)


(ごめんなさぃぃ!!)


そんなやりとりがバレたのか、紫式部の髪をした紳士的な男、リーゼが堂々とした歩き方でレベッカの元までやってきた。


「おや、珍しいこともあるものだ。

お嬢様、どこのご出身で?」


「あてくし、レベッカと言いましてよ!

出身は、ええと、スフィリアよ!

貴方はどこご出身?」


この女、適当言った。


「私は、そうですね。

もう跡地しかありませんが、ソルヴィアの生まれです。しかし、スフィリアの方でしたか。色白の方もいらっしゃるのですね。

お勉強になりました。」


(ソルヴィアだと……?)


リーゼはにっこりと微笑みと、イングラムの方に視線を投げる。


「貴方は、レベッカ嬢のお付き人……

いいや、その歩き方は正に騎士そのものだ。元騎士、といったところかな?

私とはどこかで会っただろうか?」


イングラムはその言葉に思わず驚く。

しかし、それは胸の内に留め、表面上は冷静を装った。


「……いえ、本日が初めてだと思いますが」


「そうでしたか、これは失礼。

どうです?ルーデリア様に会われてみますか?」


リーゼは冷徹な笑みを絶やさないまま

すっ、としなやかな手でルーデリアの方へ向き直る。すると、彼女はドレスの裾を小さく持ち上げて挨拶をしてきた。

レベッカも同じように挨拶を返す。


「舞踏会に人同士が会う機会など

ほとんどありませぬゆえ、お嬢も人と話したいのでしょう。いかがですレベッカ嬢、

まだ時間はありますから、お話でも?」


「いいんですか?

ぜひお話ししたいです!」


「レベッカ嬢、失礼のないように頼みますよ?いや本当に」


「ふふん、大丈夫大丈夫!

ルーデリア様〜」


レベッカは裾を持ち上げてそそくさと向こう側に走っていく。


(はぁ、まったく子供なんだからぁ)


やれやれと頭を抱えて溜息を吐く。

と———


「あなたは、ソルヴィアのインペリアルガードだった方ですね?ええ、お嬢が顔を知っています。私も噂はかねがね聞いておりました。」


「……それはそれは、光栄の至りですね」


「イングラム・ハーウェイ。

まさか生きていてくださったとは、ぜひ

あなたもお嬢にお話ししてあげて下さい。

きっと、お喜びくださる。」


「ええ、後ほどであれば……」


リーゼはにこりと微笑んで、イングラムから背を向け、歩き始める。

その身の佇まいは、只者ではないとイングラムの直感が伝えてきた。


(あの男、ソルヴィアの生まれだと?

まさかな……)


イングラムは彼の顔を知らない。

だから会ったはずがないのに、こうも親近感が湧くのが、不思議だった。


(とりあえず、情報収集だな)


イングラムは気持ちを切り替えて

本来の目的を改めるのだった。

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