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第94話「下見」

「ねえねえレベッカお姉ちゃん!

騎士様は眠ったみたいだよ?」


「うん、そうだね。

私達のわがままに付き合ってくれたんだもの。休んでもらわないとね」


「……お二人とも、イングラムさんが

目を覚まされるまでどうお過ごしになる予定ですか?」


リルルとレベッカは顔を見合わせた。

考えていなかったらしい。


「このままじっとしてても退屈だし、まだパレードまで時間があるので、外を見て回ろうかなと」


「それはいい考えです!

では、私がご案内しましょう!

大丈夫です、仕事のことは私に任せてください!」


エレノアは凄く嬉しそうな表情を浮かべて

サムズアップする。

どうやら悪賢い方へ思考が回るタイプのようだった。彼女は宿の扉の前に立って

ドアノブに手を回すと


「さぁ、皆さん参りましょう!

私の生まれ故郷、スアーガを案内します!」


まるでガイドさんのように高らかにそう発言すると、ドアが開かれた。

先程まで群がっていた亜人の群勢はどこへやら、道が結構空いていた。

エレノアは真っ直ぐ進むと、ある店の前に立ち止まった。


ヤマアラシ型の亜人族がにこりと微笑んで

エレノアにサムズアップする。


「おうこんちはエレノアちゃん!

今日もべっぴんさんだなぁ!!」


店に陳列されているのはどれも見たことのある美味しそうなフルーツばかりだった。

りんごにメロンにスイカにぶどう、どれも季節外れのものが並んでいる。

その中で、エレノアが選んだものは


「こんにちは大将さん!ありがとうございます。さて、目の前にありますは果物屋さん!

名物のドラゴンフルーツです!」


「ドラゴンフルーツってなぁに?」


「美味しい果物のことですよ!

話すと長くなりますが……すいません!これ一つくださいな!」


「へいよぉ!いつもありがとな!

人間の御二方もゆっくり満喫してけ!

はい、500路金な!」


エレノアは財布から500路金を取り出すと

大将の掌の上に置いた。

にっかりと笑う大将は、リルルに小さなイチゴ、レベッカにオレンジを差し出した。


「え、ええと?」


困惑するレベッカに、歯を見せた笑顔を浮かべる大将は口を開いた。


「貰ってくれや。

俺は昔、人間に助けられたことがある。

それによ、あんたらさっきの軍人さんの仲間だろ?だったらよろしく言っといてくれ。エレノアちゃんを助けてくれてありがとうってな」


「うん!もちろん!」


「がはは!お嬢ちゃんは元気がいいねぇ!

どうだ!イチゴうめえか?」


「甘くて酸っぱくて美味しいよ!おじさん!」


「がぁっはっはっは!

おじさんか!まあ嫌いじゃねえぜ!

さぁ!楽しんできな!スアーガはいいところだぜ!」


大将はエレノアに小さく頷くと、彼女もまた

頷き返した。穏やかな笑みを浮かべた彼は

客の呼び込みを始めるのだった。


「さぁ、行きましょう二人とも!

まずは今回のイベントの会場の下見です!

どこからパレードがきて、どこから見えなくなるのか、ベストな位置を毎年参戦の私がレクチャーしましょう!」


「わぁい!イベント会場だぁ!」


エレノアとレベッカはリルルの手を引いて

歩き始める。


「でも人混みが多くて、リルルちゃんは

見えにくいんじゃないですか?」


ふふん、と八重歯を見せて人差し指を左右に振る。


「肩車があるじゃないですか!!!!!」


「………」


「????肩車ってなぁに?」


「えぇ!?肩車知らないんですか!?」


「いや知ってますけど、もっとこう凄いのが来るかと思ったんですよ。

幼児専用ドローンとか、超小型低空飛行機とか」


「そんな危険なものありませんよ!

一昨年ニュースになって一切そういうのが禁止になったんですよ!?

だから肩車が一番なのです!」


といってもレベッカもここ数年は映画しか見ていない、あとサバイバル生活を送っていたので、ニュースに関心は全くなかった。


「うーん、じゃあイングラムさんに肩車してもらうしかない感じかな?」


「わーい!騎士様の肩車ぁ〜!

それで、肩車ってどんなの?」


両手を上げて大喜びしたかと思えばきょとんとした表情で質問を投げてくる。

エレノアはふぅん、と顎を手に当ててリルルという人となりを見た。


「よし、それじゃあエレノアお姉さんが

やってあげましょう。はい、おぶるので背中に回って〜」


「はーい」


エレノアは腰を下ろしておんぶの姿勢を作り出す。それと同時にリルルは言われた通りに素早い動きで後ろに回り込み、飛びついた。


「よしよし!」


エレノアはにっこりと微笑んでリルルを肩の上に座らせるようにして担ぐと、ゆっくりと立ち上がった。


「よいしょ!これが肩車です!

まあ私は160ちょっとなので、大体170くらいかな?どうです?リルルちゃん。高いでしょ?」


「わぁっ!たっか〜い!!」


両手を空に大きく伸ばしてまるで雲を掴むように動かす。

エレノアは落ちないようにしっかりと両腕を固定して、時折様子を伺う。


「ねえねえレベッカお姉ちゃん!私騎士様より大きいかな!?」


「うーん?イングラムさんの身長かぁ。

いくつかなぁ?70は越えてるだろうなぁ。

長身系イケメンだよね」


「うん!かっこいいよね!」


「ふふ、恋する乙女ですねぇ……。

お姉さんは賑やかで楽しいですよ。

ところでレベッカさんは好みの方はいらっしゃるので?」


エレノアはさりげない視線と問答を突きつける。突然のことだったからレベッカは


「ふぁっ!?

い、いやあのその……」


この慌てようである。


「ははぁん?いらっしゃるんですね?

意中の男性が……確か名前は、ルークさん?」


「わぁぁぁぁ!!??」


「うん!そうだよ!

レベッカお姉ちゃんは剣士様のお話をする時に優しい顔になるの!大好きなんだよ!」


「うぇぇぇぇリルルちゃん!?

なななな何を言ってらっしゃるでございますかねぇ!?」


「ね?好きなんだよ」


リルルはエレノアの顔を覗き込むようにしてひょっこりと頭を下ろした。


「ふふ、そうですね。

大好きな方みたいです」


エレノアもにっこりと微笑んで

羨ましそうに二人を交互に見つめた。


「羨ましいですねぇ。

亜人族にはそう言った感情が湧かないので

少し体験してみたいです」


「エレノアさんは、同じ亜人族に恋をされたりはしないのですか?」


レベッカは不思議そうに

疑問をぶつけた。


「うーん、そもそも、亜人族と言っても

私のような狩る側の種、狩られる側の種と二通りに分かれます。オオカミがライオンに恋をすることはありません。逆もまた然りです。遺伝子系列も違いますから、子孫も残せませんし。それに、オオカミ型亜人族って今はもう10数人程度しかいない希少な方なんです。男性は皆遠くへ狩りに出かけたまま帰ってこないことが多いので。父も祖父もそうでしたし」


「……そう、でしたか。

ごめんなさい。変なことを聞いてしまって」


「いいえ、いいんですよ。

私の方こそ暗い話をしてごめんなさい。

あっ、着きましたよ!」


エレノアはすぐに思考を切り替えて

明るめの声を出した。

巨大な看板が門の前に飾り付けられている。

どうやらここがパレードの出現位置らしい。


「むむぅ?今回は幅が広いなぁ。

去年よりもある……?30センチはあるかな?

でも、いつ工事をしたんだろ?」


エレノアは小さくしゃがんで、指で幅を

測定する。電子媒体で去年の写真を見ても

それは一目瞭然だった。


「そんなに広いんですか?

てことは、大きな乗り物がたくさんここに来るということですね?」


「わーい!おっきな乗り物ー!」


(ん〜?なんなんだろう?

この引っかかるような感じは。

野生的本能が警鐘を慣らしているような気がしなくもないんだけど……)


「エレノアさん?」


「いやいや、なんでもないですよ?さあ、次はこの奥で開かれる舞踏会場へ参りましょう!」


「はーい!」


リルルは元気よく手をあげて返事をしながらゴーゴー!とエレノアへ進むように指示する。


「よしよし、ではじゃんじゃん進みましょう!」


そして、10分後、到着したのは大きなお城だった。


「お、これが今回の会場のようですね。

ふむ……?やはり去年と規模が違う?

おかしいな、毎年こんなことはなかったのに」


「それだけ大きな舞踏会、ということじゃないんですか?」


「…………んー、私からはなんとも。

でも、噂によれば今回は、亜人、獣人の他に人間の組みも参加するとかなんとか、とびきり上手く踊る一組の美男美女が出場するそうです。ええと、確か———」


電子媒体を開いて、エレノアはその記事を大きくズームすると説明を始めた。


「黒いスーツの似合う紫の髪の男性と

淡い水色のドレスを着た蒼い髪の女性、

数々の舞踏会で賞を総ナメした。

とのことです。今回はその方々が出場されるようです。今日の賑わいもその効果でしょうか?」


「へぇ!紫色の髪の男性かぁ……ちょっと気になりますね」


エレノアは顎に手を置いてうーんと思考している。レベッカの言葉はまるで反応していない。


「パールズ・ブルー……二人のカラーイメージから来たタッグ名ですか……ふぅむ、蒼い髪の女性かぁ」


エレノアはうーん、うーんと周りをうろちょろし始めた。


「“青い瞳の男性”なら、見たことがあるんだけど……」


エレノアはぼそっとそんな言葉を呟くと

頭を横に振ってレベッカの方へと

向き直った。


「まあ、気にしすぎても仕方ありません。

さて、宿に戻りましょう!

夕食の準備です!」


「はーい!」


リルルは変わらずに頭の上にいる。

横に振っても落ちない彼女はなかなかの握力を持っているかもしれないと思うレベッカなのであった。

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