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第80話 神々の同盟 インド編

インドの三神の一人であるシヴァは、妻のパールヴァティと共に地上界にある人類の畏怖する姿を遥か上空にあるソラリスのインド領域から見下ろしていた。


「なんだあれは。なんの予兆も無しに大災害とはな……ノストラダムスの予言で奴が何年か越しに当たったというわけだ!ハッハッハッ!」


青白い肌に、黒くて長い髪と紫色の瞳。

人に近しい姿でありながら破壊の神である彼は豪快に笑い、その光景を消して背を向けて歩き始めた。


「待ってくださいシヴァ様」


それを美しくも優しい妻パールヴァティが

手を強く握りしめて止めた。振り返った際に見た彼女の目は不安の色に染まっていた。それをよろしく思わないシヴァは、彼女に慰めの言葉をかける。


「どうした、パールヴァティ。お前にそんな顔は似合わないぞ?」


「私たちの子が、インドの民達が恐れ慄いて生まれた土地を離れています。見捨てるおつもりなのですか?」


「——————」


シヴァは目を細めて空を仰ぐ。


「俺達は信仰されるべき存在だ。遥か昔に下界の者達の祖をインドの地に生み落とし、成長と繁栄を永久とも感じられる間見守ってきた。地球で災害が起こるのは珍しい事じゃないさ。しばらくすれば収まる。放っておけ」


そう言って、彼はパールヴァティの手を優しく離して背中を向け、歩き出した。


「ならばシヴァ様。私だけでも彼らを救いに向かいます。どうか、お達者で」


「———おい!待てパールヴァティ!」


下界に向かって落ちようとしていたパールヴァティの手を強く握りしめ抱き寄せる。

あと少し遅ければ、彼女はこのソラリスを離れインドの民達を救いに向かっただろう。


「馬鹿!俺達は決めただろう!インドの民達にどのようなことが起ころうと見守ると!あの太陽に誓ったじゃないか!」


パールヴァティは顔を伏せて

悲しげに嗚咽を漏らした。


「そうだとしても、今回の規模はおかしすぎます。シヴァ様。私は感じるのです。

遥かな海の底に眠る。邪悪な気配を———」


その言葉を聞き、シヴァは頭を掻き分けて

まさか、と呟いた。


「ちっ、例の邪神とやらか。だが、破壊神である俺の敵ではない。奴が完全に目を覚ます前に俺が叩いてやる!パールヴァティに涙を流させた償いをさせてやらなければなぁ!!」

 

シヴァの全身からは怒気が溢れ出た。

遥か海の彼方へと殺意を向けて阿修羅の如き形相で睨みつける。

空が震え、インド領域全体が激しく揺れ始めた。


「一人は無謀ですよ。シヴァ」


「ブラフマーか……俺は奴を一捻りにしてやるだけの力がある。

お前たちの力など邪魔になるだけだ!」


破壊神に声をかけた男の名はブラフマー。

創造神の名を持つインドの三神の一人である。


「シヴァよ。お忘れですか?今の時代は信仰と祈りが徐々に減ってきている。私たちの力もそれが影響で無意識に、少しずつ削がれていっているのです。いくら破壊神のあなたとて、一筋縄ではいかないでしょう」


パールヴァティの方に優しく手を置いて微笑むブラフマーは、常に出している4つのうち3つの顔を体内に取り込んでいた。

それゆえに普通の男性と変わらない容姿をしている。灰色の髪に褐色の肌を持ち、夕陽を思わせる美しい双眸を持つ彼は創造の時にのみ、4つの顔をその肉体に出現させ、宇宙を創り出すのである。


かつては5つあったのだがシヴァとの喧嘩の際に切り落とされてしまっており、頬には火で切断されたような痕が残っている。


「決めつけたなブラフマー。もう1つ顔を切り落としてやらないとわからないようだな。貴様いつから俺を下に見るようになった!?」


シヴァは怒り背中に無数の青い炎を出現させた、そして左右の鞘から剣を抜くと鋒をブラフマーに向けた。


「シヴァ様!おやめください!怒りますよ!」


「えっ……」


その一言、本当に何気ない一言でシヴァは

ドゥルガー、そしてカーリーになった姿の妻を思い出していた。


若き日のあの頃。何の役割も持たない純粋な破壊のみを目的としたあの姿に変身したパールヴァティはシュムバ、ニシュムバという兄弟のアスラの軍と戦ったときにカーリーとなりてアスラ軍を謀殺し、勝利によった彼女はダンスを踊り出した。


さすがのシヴァも戦慄し、あまりの恐ろしさゆえに手にしていた剣を落としたほどだ。そして、このままでは地球が壊れると悟ったシヴァはカーリーがダンス中に両足を浮かせた途端にスライディングして突っ込み自らの腹を下敷きとしその衝撃をで受け止めて地球への影響を最小限にしたのである。


「おぶぁ!!さっき食べたカレーがぁ!!!」


「■■■■■ーーーー!!!!!」


数分間ダンスを踊ったカーリーは正気を取り戻し、泡を吹いているシヴァを見下ろすと世界最古のテヘペロっと舌を出したのだ。



「いや、やめますやめます!お願いだから怒らないでくださいパールヴァティ!」


早口で剣を鞘に戻すとブラフマーを、お前のせいだからなとでも言わんばかりに睨みつけて、ふんっ、とぷいっと顔をそむけた。パールヴァティはにっこりと微笑みながら二人の手を取って半ば強引に握手をさせた。


「お、おいっ!」


「仲直りの握手、でしたか。私は別に怒って無いんですがね」


驚愕するシヴァと表情を変えぬブラフマーは少しの間握手を交わしてすぐ手を離した。


(全く、だが言うことを聞かなければ

姿を変えられる、ドゥルガーはともかく

カーリーは俺の手には負えん。

怒らせると怖いからなぁ。見た目が特に)


シヴァは握手した方の手をこっそり下着で拭き取って、改めて二人の方へ向き直った。


「で、どうする?俺ちちでそのルルイエとやらに乗り込むか?」


「無謀ですね、あそこはかの者たちの領域。そう易々と行動に移せるものではありません。下手をすれば神核を食い潰されてしまいますから」


「ではどうしろと言うのだ!」


ブラフマーもそれがわかっていればすぐに答えは出せただろう。だがシヴァのその問いに対して彼は口籠ってしまった。


(私は構わないのですが、シヴァが

プッツンしてしまうかもしれないですし……ヴィシュヌに相談してみましょうか?)


ブラフマーは他国の神々と同盟を組もうと

考えてはいたのだ。しかし、プライドの高いシヴァのことである。


「奴らの力など借りずとも、我らインド神たちがこぞってかかればいい話だ!

ゼウスやスサノオなどと組むだと!?くだらん!」


と、言うに決まっているのである。


「参りましたねえ……」


「おい、なんで俺の方を見てため息を吐く?その顔3つにしてやろうか?」


その言葉を聞いたブラフマーが渋い顔を

していると、背後の神殿から声をかけてきた者がいた。


「何を話しているのだ?おお、シヴァの奥方も来ていたか!」


聞こえてきた声の持ち主はとても力強かった。その人物がこの神殿の上を歩けば神々しい光が足元から溢れてくる。

短く赤い髪は前方に何房かに垂れていて

綺麗な肌色をしている。

彼こそインドの三神の一人であり、宇宙の

維持を司る神なのだ。


「ヴィシュヌか……!お前の意見はどうだ。俺は俺たちの国の力のみで奴をねじ伏せると言っているのだが、ブラフマーは頑固だろう?首を縦に振らんのだ」


「ふむ……我は同盟を発案したいと思うのだが如何か?」


ヴィシュヌはぬんとあぐらをかいて

頬をポリポリと掻きながらそう言った。

その言葉に思わず目を見開くのはシヴァだった。


「なにぃ!?正気かヴィシュヌ!!

インドこそが最強なのだ!

他の国の奴らなど足手纏いにしかならん!

オーディンを見てみろ、悪戯に争って一度は自らが滅んでいるではないか!!

ゼウスなども以てのほか!

アイツがパールヴァティの隣に立ってみろ!俺は気が気でならんわ!」


シヴァは愛するべき妻を寝取られてしまうのではないかと不安に駆られていた。

もし手を出そうものなら蒼き炎で全身を焼き焦がす気でいた。しかし、その不安をヴィシュヌは一蹴する。


「いや、それに関しては心配なかろう。

かの者の妻であるヘラが見張ってくれている。風の噂によれば、食う寝る遊ぶの時も常に片時も離れないとかなんとか。

浮気をさせないためだろうて、浮気はいかんぞ浮気はぁ……」


「お前が言うな!!!!!」


シヴァの突っ込みは最もである。

このヴィシュヌという神は10000人を越える妻を有している。日夜分身して全員分の相手をしていると言うのだから凄まじい。

妻同士が喧嘩をしないのも、初めて出会った時の関係を維持している結果なのかもしれない。


「いやぁ、我の場合全員正妻だからね。

浮気じゃないよ。浮気ダメ、絶対!」


「説得力ゼロだ!阿保!」


ブラフマーは一通りのやりとりが終わるのを見定めると、むんとシヴァの前に立った。


「ヴィシュヌが同盟を組むと言ってくれて助かりました。私もそうしようと思っていたところなのですよ」


「俺は却下だ!いくらなんでもこれは譲れん!」


シヴァはブラフマーを一蹴するように

顔を背けると頑固として同盟を拒否した。

それを見かねたパールヴァティは

その背を優しく包み込むように抱き寄せた。


「シヴァ様、お正月と呼ばれる冬の日本に

大黒天として毎年行かれているとお聞きしています。彼ら日本人も、貴方からすれば

愛すべき民たちなのではありませんか?」


「——————だから同盟を結べと?」


シヴァは一瞬揺らいだが、頑なに顔を向けなかった。それでもパールヴァティは優しく語りかける。


「シヴァ様、どうかお願いです。

他の国の神々と同盟を結んでくださいませんか。どうか、パールヴァティのわがままをお聞きになってはくれませんか……?」


「ぬぅ……」


ブラフマーとヴィシュヌは隣に立って

頑張れと小声で応援していた。

そして、両名の妻も参戦し、応援し始めた。それでも、頑なにシヴァはうんとは言わない。


「はぁ、仕方ないな!シヴァ!こうしよう!これは風の噂で聞いたある方法なのだがな?」


「なんだ、くだらん事だったら許さんぞ」


ヴィシュヌは人差し指を立てて、苛立つシヴァに提案した。


「日本人がよくやる方法でな。やりたい人とやりたくない人に分けるのだ。え〜と確か名前は〜」


「多数決では?」


ブラフマーが一言添えてヴィシュヌに伝えた。


「そう!それよそれ!多数決しないか?

同盟を組むか否か、数で決めよう。

こっちを向け!」


「ふん、俺の手はその気になれば

無尽蔵に増やすことが出来る。

貴様らが勝つとは到底思え———」


シヴァは腕を組みながら顔だけを向けた。

そして度肝を抜かれた。

ブラフマーの妻と、ヴィシュヌの10000人超えの妻がそこには立っていたのである。

おまけに他のインドの神たちも集結していた。


「はい!はーい!では多数決を取ります!

みんな列に並んでください!」


いつの間にかシヴァから離れて手をパンパンと叩いて整列させるパールヴァティ。彼女の顔は笑顔だった。


「なっ、お、おい!!

パールヴァティはそっち側か!?」


「よぉし皆の衆!

同盟を組みたい者はシヴァの奥方の列へ!

組みたくないと言う者はシヴァの列へ並び

立つがいい!はい、よーいどん!」


ヴィシュヌがそう言って一度だけ大きく手を叩いて鳴らすと、全員が一斉にパールヴァティの列へと並んだ。シヴァの列には誰一人としていない。


「母上には叶いませんよ父上。パオン」


「ぐぬぬ……」


シヴァとパールヴァティの子である

ガネーシャがそう呟と、シヴァはギリギリと奥歯を噛み締めて手を強く握りしめた。

爪が肉を食い込んで血を流しても、彼は握るのをやめなかった。

と、そこへ


「シヴァ様、私、貴方が愛しき子のガネーシャの首をチョンパしたこと、忘れてませんからね?」


「————!!!」


覗き込んだパールヴァティの顔はドゥルガーを通り越してカーリーの物へと変貌していた。ように見えた。

シヴァは身震いしながら全身に冷や汗を垂れ流す。


「む、むぅ……仕方ない!だが条件付きだ!ブラフマー!ヴィシュヌ!

聞けぇい!」


「なんでしょうか?」


「聞ける範囲なら聞くぞ」


二人はシヴァに身体を向けて顔を伺った。


「ゼウスがパールヴァティに手を触れたら

俺は奴を殺す!それが条件だ!!!!

いいなっ!?」


彼らは顔を見合わせて、まあそういうことならと頷きあってOKを出した。


「ふんっ!分かればいいのだ!

さあパールヴァティ!食事の用意だ!

とびきり辛いカレーライスを一つ頼む!」


「はい、ではお席までお持ちしますから

先に行ってらしてくださいね」


シヴァは腕を組みながら奥歯をギリギリさせ奥へと消えていった。

それと同時に、ヴェルザンディが姿を現して二人の前に膝を折った。


「ヴィシュヌ様、ブラフマー様、そして

パールヴァティ様。

我が主人の提案、受け入れていただき恐悦至極にございます。まさかシヴァ様のご協力までいただけるとは思いませんでしたが……」


「いえいえ、私も他国と同盟を結びたいと思っていた矢先のことでしたのでタイミングが良くて助かりました。ね?パールヴァティ?」


ブラフマーは笑顔でパールヴァティの方向を向いた。彼女も笑顔を浮かべてそれをヴェルザンディに向けている。


「はい、シヴァ様も一緒であれば、より邪神を御しやすくなります。今は国と国とが手を取り合うには充分な機会です。オーディン様は良き機会をお与えくださいました。あの方に「ありがとうございます。」とお伝えください」


「はっ、必ずやお伝え致します。

それでは私はこれにて———」


ヴェルザンディは颯爽と立ち去ろうと

身体を起こして背を向ける、しかしそれを

パールヴァティが制止した。


「ヴェルザンディ様、どうせなら

我が国のカレーライス、食べて行かれませんか?ブラックライスとレッドルー、極上の美味しさが待っていますよ?」


「えっ、あ、いや私は主人の元へ急ぎ

このことをお伝えせねばならぬ身ですゆえ……」


「まあまあ!遠慮なさらず!

ブラフマー様もヴィシュヌ様もご一緒にどうです?」


パールヴァティはひょいっとヴェルザンディを抱き上げるとそのまま奥へと向かっていった。


「お、では我らも食べに向かうとするか!

なぁ!ブラフマー!」


「ええ、ちょうど空腹でしたし、いただきましょう」


ヴェルザンディはこれがきっかけで

カレーがトラウマになってしまったとか

なんとか。

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