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第79話「神々の同盟 高天原編」

昔々の神のお話

西暦2020年某月某日


某地域付近の海域にて、海底都市ルルイエが浮上した。その日から地上は数多の災害に見舞われた。天から降り注ぐ漆黒の稲妻が大地を抉り、空には高速で飛び回る謎の黒い飛行生物が数多の動物を吸血し、喰らっていった。


犠牲になった存在は多く、人間も混じっていたという。

そして海からは巨大な渦を巻く津波。

ビルを飲み込む不気味な青い炎。

数多の怪奇現象ともとれる災害が世界中の至る場所で確認されたのである。


それを、遥か彼方から見下ろす一人の神がいた。


神の帝国ソラリス

ここでは、かつて地球で覇を競い合った神々が大気圏付近に作り上げた巨大な帝国である。現在の地球のように国と国とが国境の境目にあり、神獣や聖獣などがこぞって生活している。まるで地球を鏡写にさせたような、何もかも反対の位置にある国々はそれぞれの神の支配する領域なのである。


「……人類はギルガメッシュの宣言以降、

彼らは我々の力や知恵を借りずにここまでやってきた。だが、それも今日までかもしれないな」


そう呟いた男の名は、北欧神話最強の神

オーディンであった。

白菫色の肩まで伸びる髪を揺らしながら

彼は深々と黒紫色のハットを至極色の瞳を凛と輝かせ、差し出した方の片目を隠すように傾けて被った。


眼下に映る聖なる雲が映した世界の惨劇を見て、どうにかしなければならないと思っていた。


そして———


「ウルズ、ヴェルザンディ、スクルド。

急で悪いがこちらに来てくれないか」


〈承りました、オーディン様〉


その声は過去を司る女神ウルズの声だった。5秒も経たないうちに、ノルンの三女神がオーディンの元へ馳せ参じ、腰を折り頭を下げた。


「お待たせしました。ウルズです」


「同じく、ヴェルザンディです」


「スクルドです」


「みな、まずは来てくれてありがとう。

要件を伝えよう。君達には他国へ赴いもらいゼウスやスサノオ、ヴィシュヌたちと同盟の話をつけてほしい。その理由は、もちろんわかるな?」


「はっ、理解しております。

オーディン様、では私ウルズが日本神話の

スサノオ殿のいる高天原に向かいましょう」


「では私、ヴェルザンディはインド神話のヴィシュヌ殿の元へ」


「———私は、ゼウス様の元へと向かいます」


オーディンはこくりと頷いて、ウルズ達二人は即座に行動を開始した。

姿が見えなくなるのを確認したオーディンは未だにその場で腰を折ったままのスクルドに疑問を持ち、質問した。


「スクルド、どうした?

ゼウスのことで不安でもあるのか?」


「はい……その、彼は色々と有名ですから。私如きで彼が耳を貸してくれるかどうか……」


「うむ、そうだな。

彼は手口やら武勇やら、他の髄を許さない。でも安心してくれ、もし君や他の同郷の者達に手を出そうとするなら、その時は私が彼を殺す。約束しよう」


オーディンは不安げに震えているスクルドの肩に優しく手を置いた。

見上げた彼女が見たのは、絶対的な安心感を与えてくれる主神の笑顔だった。


「何かあればすぐに教えてくれ。

私がすぐに向かう」


「はいっ!これより任務を遂行します!」


スクルドは姉達に続き、ギリシャ領域の方へと飛んで行った。


「さて、フェンリルやロキ達はどう動くだろうか。向こうに加担して欲しくはないが———」


オーディンはかつてラグナロクで敵対していたロキ達親子のことを考え始めた。

敵対し、一度はオーディンを飲み殺したとはいえ、彼はその圧倒的な力と能力を買っていたのである。

ロキもあの変幻自在かつ巧みな話術で神を時には助け、時には仇した。

盲目の息子バルドルを間接的に殺したことは今でも許すことはできないが、その能力は誰にも真似できないものだ。だからこそ、こちらの陣営につけたい。


「わだかまりは未だに解けてはいないが

今は同郷の私たちがいがみ合っている場合じゃない。人類や動植物たちの存亡がかかっているんだ……なんとしてもこの同盟、成功させなければ」


オーディンはぽつりと呟くと、雲の上に広がる映像を消して、どこかへと姿を消した。


日本領域 高天原


薄い霧に包まれ、高い山々に囲まれ身の丈ほどの生える草の中で一人の大男が咆哮していた。


そして、それを耳を塞いで聞いている一人の女性もいた。

その咆哮は雨となり、周辺は嵐を起こして

災害規模になっている。


「あぁちくしょう!むしゃくしゃするぜ!

あぁ!?」


「ひぃっ!いきなり大きな声出さないでよぉ!スサノオったらもう!心臓がいくつあっても足らないよぉ!引き篭もるほかない!」


背中に立派な太陽を模した装飾を浮かせながらびびり怯えている美しい女性は

太陽神アマテラスである。

今にも大岩のある洞窟に行こうとしているのだが、矢のように降ってくる激雷が邪魔でスサノオの側にいるしかなくなってしまった元祖引き篭もりである。


「るせぇ姉貴!

ゼウスの野郎!ふざけやがって!

よりにもよって姉貴を寄越しやがれだとぉ!?ざっけんなおらぁぁ!!!」


背中に付けている無数の雷太鼓が

激雷を奏でて地面を焼き穿つ。

それだけ彼は今ストレスマッハなのである。


「だからぁ!引き篭もるって言ってるじゃないのぉ!ゼウスの絶倫癖は私たちだけじゃなくて、他の神々も知ってるじょーしきじゃない!」


「んなことしたってアイツは稲妻ぶつけてぶち壊すに決まってる!んで姉貴をキャッキャウフフするつもりなんだ!許せねぇ!

そうなる前に俺がアイツの首刈ってやる!

あぁこらぁ!?」


苛立ちからあぐらをかいて自転を殴り続ける。それから発生するその激雷を、黒くも青い一筋の刃が断ち切った。そして、その剣の持ち主は姿を現し高天原の惨状を見て深々とため息を吐いた。


「うるさいよスサノオ、客人が来ていると言うのに相変わらず荒々しいなお前は」


「兄貴か、って、俺に客人だ?誰だよソイツ、喧嘩売ってきたのか?お?」


青い鉢巻を額に巻いて、青く綺麗な和服に身を包んだ青年がやってきた。彼は月の神ツクヨミ。アマテラスの弟でありスサノオの兄でもある。


「阿保、北欧領域からウルズ様がお前に相談があると言ってやってきたらしい」


「ウルズ……あの三女神の一柱か。

よし、話を聞くか」


「ひぃん!他国の間者とか戦国時代では

敗北必須の奸計じゃない!

嫌だ嫌だ!怖いよぉ!」


ビビり散らして大岩の向こうへ駆け出そうとするアマテラスをツクヨミが裾を掴んで阻止する。あぐらをかいていたスサノオは急に冷静になり、英雄的性格となってウルズを迎えに行った。一部の場合を除いて他の神と対する時は彼はヤマタノオロチを退治したあの時の性格で交流するのである。


「スサノオ様、我が主人オーディンが

同盟を組みたいと申しております。

お受けいただけますでしょうか」


ウルズは腰を低くして、スサノオの顔を見上げながら、要点を突いてきた。

その言葉にスサノオはまず疑問を投げつける。


「何故だ、この国が建って幾星霜、争いの兆候などなかったではないか。

他国侵略は禁忌として我ら神々はそう誓ったはずだ。その要件如何なるものか」


「実は、海底都市ルルイエが浮上しました。あの邪悪が再び地上を侵略せんと復活しかけているのです。

今や地上には過去に類を見ないほど恐ろしい惨劇に見舞われています」


「……なんだと!?では、今回ここに来たということは、“奴”は前回よりさらにその力を増している。と、そう言いたいのだな?」


ウルズは頷きながら額に汗を垂らしていた。スサノオがそれが嘘偽りではないことを悟りウルズに顔をあげるように言った。


「顔を上げられよウルズ殿。兄上、姉上。

お二人にもお力を貸していただきたい。

私一人では、きっと力不足だ」


スサノオは兄姉へ向いて土下座をした。

圧倒的な力を持つスサノオですら、今回

どうなるかは未知なのである。

だからこそ、兄弟力を合わせて邪悪を断たねばならないと判断した彼は、プライドを折って兄と姉に懇願する。


「う、うん、いいよ……私の太陽の力が役に立つのなら……うん。日本人のみんなも守らないといけないし」


「わかってるよスサノオ

僕たちも可能な限り力を尽くす。

ウルズ様、我ら日本の神は北欧の神と同盟を結びます。すぐそちらに向かう支度をしますゆえ、主神オーディンにお伝えください。」


「御三方、御助力感謝致します!では!御免!」


ウルズは姿を消し、完全に気配はなくなった。すると途端に、スサノオは先程の性格に戻ってにやりと口角をあげた。


「はっははぁ!!暴れられるぜ!

やったな姉貴!兄貴!」


「「はぁ———」」


ずっとさっきのままで良かったのに、と

二人の神はぽつりと見つめ合いそう零し合うのだった。


そして1時間後、ツクヨミが戻ってきた。


「父上には万が一に備えこの国に残ってもらうように進言してある。

もし僕たちが失敗したとしても、あの力があればきっとこの国は大丈夫だ」


「え、本当?お父様は私達が行くことを許可してくれたんだね?」


「う、うん。そうなんだけどね……」


「お袋のことはまだ諦めてないっぽいか?」


「いや……それはなんとも言えないよ。

僕たちは母のことを全くと言っていいほど知らないからね」


と、そんな風に言ってはいるものの

イザナギは岩の隙間を作っては黄泉にいる妻イザナミのことを時折見ているのだと言う。追っかけられた当時と違い、相当美人になったとか。


「ふぅん……」


スサノオはそれを聴いて腕を組みクシナダとスセリのことを思い出していた。愛しき妻と娘は今地上でどうしているのだろうか。と、そんな彼の頭の中で激雷が轟き

いい詩が浮かび上がったのだ。


「ここで一句読むぜ」


「「読まんでいい!!!」」


澄んだ笑顔を浮かべて愛する妻と娘に考えた詩を読むと宣言したスサノオを

姉と兄の凄まじい剣幕の表情に渋々読むのをやめてしまった。


「ちぇっ、けちんぼ姉貴けちんぼ兄貴め」



そこに生えていた岩を、怒られて帰路につく小学生が小石の如く蹴り飛ばした。

何万キロという距離を飛んだそれは

何かに直撃したのか


「いってええええ!!!バカヤロぉぉぉぉっっっ!!!岩がズレんだろ!!!

処すぞこら!!!誰だよこんな岩っころ蹴った奴ぁ!!!ふざけるなぁぁぁぁ!!!!」


と、まるで近くで吠えているかのように

岩を押さえて絶叫するイザナギの声が木霊した。アマテラスとツクヨミはお互いに顔を見合ってクスクスと笑ったという。

スサノオはなぜ笑っているのかわからず

首を傾げたとか。

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