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第70話「天からの授かり物?」

「ねえ君、本当に空から来たの?」


「ダァ!」


しつこいよ!という顔だ。

そうだと言っているようだ。

赤ん坊は嘘をついた事例は後にも先にも存在しない。


「ううむ、ではコウノトリが本当に?

いやでも、大型化してついつい落とした。

という可能性も否定はできないぞ?」


テシテシ、と小さな手でイングラムの頬を

打つ。違う違うと否定しているようだ。

しかし、言葉が分からなければどうしようもない。憶測で語るほかないのだ。


「しかし、この子は先程から俺たちの言葉を理解しているようにも思える。

そんな気がするんだが、どうだ?」


「それじゃあ、簡単なマルバツクイズでもしてみる?この歳でわかるなんて子はいないだろうし」


クレイラの提案は尤もだ。

もしこれで問題を正解し続けることができたら、この子は並外れた知能を持っていることになる。


「よし、では俺から問題を出そうか」


イングラムはマルとバツを地面に描いて

赤ん坊の視線に合わせて言葉を投げる。


「おほん、ではまず第一問。

リンゴは甘い。マルかバツか」


赤ん坊は頭に電球ランプを浮かべて

青色の円形に向かって這って行った。


「ダァ!」


「正解だ。よくできたな?偉い偉い」


イングラムは抱き抱えて頭を優しく撫でてやる。赤ん坊はご満悦そうに笑顔を浮かべて笑う。そして、クレイラに視線を投げる。


「よし、次はクレイラだ。

何か問題を出してあげるんだ」


「OK!それじゃあレベル上げるよ!

第二問、現在の日本の都道府県は全て48個ある!マルかな?バツかな?」


赤子は少し顔を顰める。

答えを模索しているのだろう。

だが、10秒もしないうちに、この子はバツの方へと這って行った。


「ダッ!」


「正解!日本は都道府県合わせて47つあるよ!それに、今海の底だからね!

仮に増えてたとしても確認のしようがないよ!よぉく頑張りました!偉い偉い」


クレイラは赤子を抱き上げて頭を撫でた。

この子の笑顔はなんだかとても安らぐものを感じる。日陰にいる時に静かに光を注いでくれる太陽のような、暗い夜道を照らしてくれる小さな星のような、何とも言い難い感覚があった。


「よし、次は俺だ。次は難しいぞ?」


「ダァッ!」


大丈夫!とでも言っているかのようだ。

赤ん坊はぐずったりせずにクレイラの胸元に手を当てて落ちない様にしつつ、イングラムを見つめている。


「では第3問、これで最後だ。

君の両親や家族は今も健在である。

マルかバツか?」


赤ん坊はその問いを投げかけられても顔色ひとつ変えず、クレイラにマルの方へ行くように指をさした。


「マルでいいの?」


こればかりはクレイラも答えを持ち合わせていない。イングラムはこの子がこの問題を答えることを躊躇うかどうかを確認したかったのだ。しかし、予測は外れ、子の家族は健在なのだという。


「ダァ!」


早く動いて、と言わんばかりにクレイラの頬をふにふにしている。

が、それをイングラムが制止した。


「よし、君の知識が高いことはよくわかった。では、普通に意思疎通もできるということだな?」


赤ん坊は手を上げて微笑んだ。

構わない、という意思表示かもしれない。


「よくわかった。して欲しいことがあれば

憶測で君に聞こう、嫌なことがあればすぐに身体をつねるなりフニフニするなりして教えてくれ、頼めるかな?」


「ダァ!」


もちろんさ!と言うように赤子は元気に手をあげる。本当に賢い子だ。


「ねぇ、名前付けない?

この子あの子呼びじゃ可哀想だよ……」


「……それもそうだな、君は名前はあるかい?」


赤子は手をあげて反応する。

どうやら名前は持っているようだ。

しかし、どうやって聞き出すか————


「クレイラ、この子の記憶を読み取って

名前を知ることは出来るか?」


「出来るけど、あれ結構精神負荷が凄まじいからできればあまり使いたくないかな…

3人以上ならまだしも、イングラムだけに負担をかけさせるわけにはいかないし」


それもそうか、とイングラムは納得する。

確かに連戦が今後また起こらないとも限らない。であれば今の彼女に読み取り能力を使わせるのは苦であろう。

仕方なしと割り切り、イングラムは

赤子に目を向けた。


「???」


「そうだな、君が喋れるようになるまで

仮の名前を付けよう」


ガァン!と驚きの表情を浮かべて冷や汗をかきながら首を横に振りまくる。

よほど名前を知ってもらいたいらしい。


「そうだねぇ、花咲薔薇子」


「なんという和名……」


ここは日本ではないのだぞ。と突っ込みを入れたいところだが、それを赤ん坊がやった。高速で這い、クレイラの体を登り

凄まじい剣幕で威圧した。

眉と目を細め殺気を込めて睨みつけて

高速平手打ちを連続でかました。


「ご、ごめん……」


「和名はナンセンスだ。

せめてもっとまともな名前にしよう。

そうだなぁ…おーい、こっちにおいで」


「!」


赤子はまたもや高速移動してイングラムの両腕まで這うと、彼の瞳を見つめ始めた。


「きゃぁぁ……」


「うっ、眩しい眼差し……

悪しき心が浄化されていく、いや邪念は全く持ち合わせていないがな。さて————」


イングラムは子を観察した。

透き通るような白い肌にもちのように柔らかな全身、身に纏っているものは一般的な赤子用の衣装ではあるが、雰囲気はどこか言葉にしにくいものがあった。


「名前は、なんですかねぇ?」


そう呟きながら高い高いをして喜ばせる。

キャッキャと声を上げて笑顔を溢すと

赤子は地面を指さした。


「何か伝えたいのかな?

地面に下ろしてあげよう?」


「ばっちいから土に触ったらダメですよぉ?」


あやしながらイングラムはゆっくりと腰を下ろして赤子を地面に近づけた。

人差し指を懸命に伸ばして、何か書こうとしている。


「文字も書けるのか!?

ううむ、仕方ない、すぐ土を落とせば問題ないか。」


赤子は騎士の手助けもあって

無事に文字を書くことに成功した。

どこか古風な書き筋で、字はフィレンツェよりも達筆だった。

読みやすくて綺麗な文字だった。

しかし————


「うぅむ???」


「………」


「ダァッ!ダァッ!」


これが私の名前だよ!と言っているのだろうか。イングラムは赤子を上下に揺らしながらあやしつつ、思考する。

クレイラは両腕を組んでうーんと唸っている。


「「どこの文字??」」


ガァン!と赤子は驚きの表情を浮かべて

汗を垂らしはじめた。


「クレイラ、この文字を読んだことは?

どこかで似た字を見なかったか?」


「ううん、私もレオンも他国の文字勉学には不得手でね、そこら辺は学んでないの。

イングラムはどこかで見たことない?」


イングラムは腰を下ろして改めてその文字を眺める。しかし、見覚えはなかった。


「うーむ、わからんな。

少なくとも現代のものじゃない。

古い時代の文字。ということくらいしかわからんが……そもそも、なんでこんな文字をこの歳で書けるんだ?」


イングラムの疑問点に赤子は目を輝かせて

うんうんと首を縦に振る。が、ニ人は地面の文字に夢中になっていてそれに気付いていない。


「適当に書いたにしては、随分書き慣れてる感じだったけど……うーん?」


今度はクレイラに対してうんうんと首を振りまくるが、やはり2人は文字に夢中で気付かない。流石に首が疲れて来た。


「とりあえず、何かの情報には間違いないだろう。電子媒体に画像として保存しておこう。解読機能もつけねばな」  


「あれ、どうしたの?

なんか凄く疲れてるね?喉乾いた?

純度ほぼ100%の水飲む?」


赤子はゆっくりと首を横に振った。

乳酸が首元に溜まって、酷い痛みが襲っているのだ。


「あら、いらない?

んー、じゃああれかな?ミルクとかいるのかな?」


「ふむ、食事が必要か。

照射配達でミルクでも購入するか……」


「でも栄養価は人からの方が高いって聞いたことある」


「それが無理だから買うんだよ」


イングラムは電子通販を起動して

ミルクの欄を選択する。


「飲みたいのある?」


「……ム」


この子が選んだのは


【人体に限りなく近いミルク!

ミルマノイド!

栄養価満点、ごく少数でお腹いっぱいになる赤ちゃん専用プレミアムミルクです!】


と説明欄には書かれている。

値段は1パック10000路金ほど。


「うわ高い」


「残金に見合わない……さすがプレミアムだ」


残金は500シード程、他の欄も見てみたが

どれもとても買える物ではなかった。


「ダァ!!!」


イングラムの顔をフニフニして不満だ。ということを伝えてくる。イングラムは可愛さに屈さずに返答する。


「仕方ないだろ家が焼けたんだから!

現金の引き出し用がないんだよ!

銀行も近くにないし!」


「ダゥ……」


赤子はクレイラの胸元を見る。


「え……?いやいやいやいや!?

出ないよ!?妊娠すらしたことないのに!?」


手を高速で振って無理だと伝えるが

赤子の口元からは大量の涎が溢れんばかりに垂れていた。きっとずっと飲んでこなかったのだろう。この子のこれまでのことを考えると、妙に納得してしまった。


「……まあ、近くに買う場所もないわけだし。

諦めろ?さっきいた農村なら近くにあるが、まあ戻るのも手間だし、なによりまだ

あいつがたむろしてるだろうなぁ」


「あのエセ偽善者の馬鹿。

千代先まで呪うからね…」


「随分長く呪うな……」


「ダァムゥン!」


赤子は凄まじい力でイングラムを揺さぶる。

その力はとても赤子から出ているものとは

思えなかった。呼吸が止まるほどに、それは強過ぎたのだ。


「ごわっぷ!?首を絞めるな!

なんだこの腕力、並じゃない!

死ぬ!死ぬぅ!」


「あー!わかった!わかったよぅ!

だからイングラムに八つ当たりしないでぇ!」


こうして、渋々食事を与えるハメにもなり

結局、名前も決まらぬまま

陽は暮れて、夜になってしまうのだった。


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