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第58話「暴食魔は幼子に惚れる」

「いやね、ここら辺でUMAらしき怪物が出るっていう依頼が出てきてたからさ。

賃金稼ぎを兼ねて出向いてるってわけさ!!!というわけで!さぁ!」


ユーゼフは両手を大きく広げて

腰を下ろした。その視線はリルルを捉えている。なにが、というわけで!なのか。

全く理解出来ない。


「お姉ちゃん……私あの人怖い」


クレイラの後ろへ隠れるように

リルルは後退した。その光景を見て思わずショックを受け、顎が垂れ下がった。


「そうですね、私の後ろにいるのは良い

判断です」


「お姉さんまでそういうこと言う!

血を止めてあげたのに!」


自分で顎を元に戻して治療したということを主張する。リルルはそれを間近で見ていたはずなのに首を縦には振らない。

ユーゼフは思わず落胆した。


「んなバナナ!」


オーマイガーと、両手で顔を覆い

己が心境を身体で表現する。

しかし、肝心の三人は誰もそれを見ていなかった。別の何かに気を取られていたからである。


ガサガサと音がなり、それに注意を向ける

クレイラとレベッカ。

今度は一部の草むらだけではなく、草むら

全体が揺れていたのだ。


「っと……嘆き悲しむのも程々にした方が良さそうだ」


ユーゼフは狩人の顔付きに変わり

周囲を睥睨する。


「チュッ……なんだっけ、チュー……?

チューリップだか、チュッパなんとかだったか」


と、その名前を思い出そうてしていた

ユーゼフの上空に黒い影が忍び寄る。

リルルは思わず叫んだ!


「おじさん!上!」


「ほぉいよっ!」


ユーゼフはボウガンを顕現させて

襲いかかった怪物に無数の弾丸をぶちまけた。陽の光のおかげで何発命中して穴が空いたのか鮮明になった。

ドサリ、とUMAの一種であるチュパカブラは

息絶えながら地面に落ちた。


「まずは1匹ぃ……!」


仲間の死に呼応したように

5匹ほどのチュパカブラが咆哮をあげながら女性陣に向かって一斉に飛びかかってきた。


「させませんよ!」


クレイラはリルルを後ろへ下がらせたまま

右手で地面を打ち砕いて、大地の柱を

出現させて全てのチュパカブラを串刺しにした。


「ふぅ……ノルマ達成です!」


「お姉ちゃんすごい!」


もはや血濡れた光景を見ても畏怖しないリルル。彼女はセリアになっているクレイラに称賛を送った。


「ふふ、レオン様からの賜物ですよ」


「あれ?セリアお姉ちゃんは

蒼髪様推しじゃなかったの?衣替え?」


「え?蒼髪様?衣替え?」


まずい、リルルから変な目で見られ始めた。クレイラはその肝心の蒼髪様。

すなわちアデルバートのことをあまり詳しく知らない。そしてこの姿の本人のことに関しては全くの無知である。そこら辺をイングラムに聞いておくべきだったと後悔した。このままでは変身していることがバレてしまう。そう思うと自然と焦りが

募ってきた。


(ま、まずい……どうしよう……)


ちらり、とレベッカの方を向いた。

彼女は既に回復し、クレイラの表情のわけが理解出来ずに首を傾げている。

そして彼女の出した答えは————


「あ、リルル様。ちょっとここでお利口さんにしていてくださいね!」


返答を聞く前に素早くレベッカの元へランナー走りで走ってくる。

余りの勢いかつ唐突さ故驚いた。

そしてクレイラと入れ替わるように

ユーゼフがエリマキトカゲ走りの勢いでリルルに突撃してくる。


「リルルぅーー!!結婚しよう!!」


「やだ」


「ぐはぁっ!」


いつでもハグできる姿勢でダッシュしてきたユーゼフのニ回目の告白を、リルルは笑顔で拒絶した。

鋭利な刃物がユーゼフの心に深く突き刺さる。そして、彼は足を止めぬまま大木に激突した。


「ううっ!ちくせう!俺だって、可愛い子と旅がしたいんじゃ!世の中理不尽!世知辛い!」






「と、言うわけで私はセリアという人の姿にそっくり変身しているわけなんだ……。

レベッカならどうにか受け入れるかなって思って相談したんだけど、ねぇ、協力してくれないかな?」


「え?えぇ……別に構わないけど」


クレイラはレベッカにことの顛末を説明した。セリアは髪の毛1本を残して消えたためその彼女に懐いていたリルルが悲しむと思い良かれと思って変身したということを。


「ありがとう!じゃあほら、戻ろう!

リルルのところに!」


レベッカは手を引っ張られて

リルルのところへ一緒に走っていく。


「あれ?何あの蟹型の入り口みたいなのは」


「わかんない。そんなことよりセリアお姉ちゃん!レオン様ってどんな人?」


大木に刻み込まれた蟹型…いや人型の跡。それが木に貫通したのだろうか。その先には横たわって声を殺してないているユーゼフの声が聞こえた。そんなことお構いなしにリルルはレオンという人物に興味を持ったらしく

セリアにズンズンと近寄ってきた。


(ね、ねぇレベッカ。お願いだから合わせてね?)


(どう合わせろと……)


時間がないのでとりあえず頷いたクレイラは笑顔で腰を下ろしてリルルを迎えて抱いた。


「教えてお姉ちゃん!」


「レオン様はですね、それはそれは強く逞しく優しく慈悲深く宇宙の果てよりも広い器の持ち主であらせられます」


今までと比べ物にならないくらいの笑顔で

クレイラはレオンのことについて語る。


「へぇ……他には他には?」


「他にはですね————」


上空に巨大な影が浮かび上がり、三人は同時に上を向いた。


「フーラフラフラフラ!人間、見つけたり!捕らえたり!フーラフラフラ!」


「なに?宇宙人?」


「フーラフラフラ!

否!我は宇宙人ではなく!フライング・ヒューマノイドなるぞ!よーくも我らが同志チュパカブラたちを滅してくれたなフーラフラフラ!」


3メートルくらいある身長。黒焦げ茶色の皮膚、そして緑色の不気味な瞳を持ち、空中に浮いている。武器のようなものは見当たらないが、隠している可能性も否めない。


「ふらいんぐ?」


「ひゅーまのいど?」


レベッカとクレイラはなんだそれといった

表情でお互い顔を見合わせる。

その言葉に激昂したのか、ヒューマノイドは


「お主達!我らUMAのことを知らぬと申すか!ええっ!?今まで何を学んできたフラフラ!」


頭に血が上っているのか

ピキピキと眉をひくつかせている。


「魔術体術剣術槍術医術サバイバル技術あとレオ————」


「剣一筋だなんだけど?」


「私は……騎士様一筋かな!」


クレイラの大好きな人の名をリルルに聞かれぬように大声で剣一筋と吠えるレベッカ。

そしてその後に頬を赤らめて名を挙げたリルル。それに対して彼は怒り狂った。


「んもぉぉ!怒ったフラ!惚気やがって!

であえいであえい!西暦でちょくちょく目撃された割と有名な同志たちよ!!」


しん、と静寂がこの一辺全体を包み込んだ。

鳥の囀りも聞こえず、風が草木を揺らす音も聞こえず、かといってUMAたちが一斉にヒーロー番組の敵怪人のようにわんさか現れるはずもなかった。


「おやぁ?フラァ?」


こんな予定じゃなかったと首を傾げる

ヒューマノイド。

思わず同調して首を傾げる三人。

何度手を掲げてもその割と有名なUMAの方々は出てこない。


「親フラだってさ……どうしよっか私たち」


「とりあえず、イングラム様達のところへ向かいましょうか!」


「わーい!騎士様のところぉ〜!」


三人はもはやヒューマノイドをスルーして

飼育小屋へと向かって歩いていく。

リルルはお姉ちゃんたちの手をとって

笑顔満開だ。


「うわぁ、メキシコの同志の写真を思い出すフラ……ってぇ!待てえぇい!」


はっとしたのか、超スピードで先行し

三人の前に降り立つ。

おまけに表情はカンカンだ。


「なによ、急いでるんだけど」


レベッカの苛立ちの視線がヒューマノイドに向けられるが、彼?は動じない


「喧しいフラ!この新たな時代、我らUMAが表舞台に立つ時が来たのだ!昔々からずぅっとSNSで

「UMAっぽくね?草生えるわ!」

とかこちとら色んな人間どもに言われて来たのフラ!こちとら人間が数減らすまで存在を醸し出してはあえて消えたりしてやってきたんだぞ!やっと出番が来たのだぞ!フラ!少しは労われ!」


「「「わー、すごーい」」」


三人は真顔の拍手と棒読みの言葉を送った。興味もないので賛辞程度に送ってあげた。致し方なく


「棒読みは心にグサっと来る!やめて!」


「いい加減にしてよ、私たち急いでるんだから」


「ちぃ、いい気になりおってからに!

もういい!我だけでも貴様らを血祭りにあげるには充分すぎるほどの力を持っているのよ!今更泣いて謝っても許さな————」


言い終わる前に

レベッカは鞘に手をかけながら駆け出して

無限にも思える血の斬撃を繰り出した。

そして、クレイラの凍てつく鎖がヒューマノイドを葬った。


「っっっ————」


「さて、全身とお喋りな口を封印したことだし、イングラムさんのところに連れてく?」


「うん!騎士様喜ぶと思うよ!

ゆーま?だっけ?大好きだし!」


「ではそうしましょう。

引きずって連れて行きますね!」


三人は笑顔を振りまきながら

涙を大量に溢しているフライングヒューマノイドを引きずって小屋の中に向かって歩いていく。すると突然————


「いや待てぇい!」


後ろから聴き慣れた蟹の声が聞こえた。

それは若干嗚咽混じりで、それでいて

怒りを孕んでいた。


「はぁ、今度は何?

あ、暴食魔か。立ち直ったの?」


呆れ果てたレベッカが声の方向を振り返った。彼女のイメージである狂人さが微塵も感じられなかったため、普通に返答する。


「そいつをよこせい!

俺の非常……おほん、そいつは依頼対象の

一種、連れていかせないよ!」


「えぇ……戦う気ですか?

私たちと?」


苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた

クレイラはそう漏らした


「うん!そしてリルルちゃんをイングラムくんからもらう!」


笑顔でそう宣言するユーゼフ


「おじさんが騎士様に勝てるわけないよ」


「えぇ?じゃあユーゼフ様が!

お姉さんたちを説き伏せて見せよう!

物理でな!」


蟹男はそういうと、得意の大きな戦斧を振り回して地面を叩きつけた。


「あぁ……こうなるんですね。私としてはあまり気が進まないのですが……」


「やりましょう、セリアさん。

こういうタイプの男は、徹底的に分からせるしかないです」


そういって、クレイラは神々しい光を両手に纏い、レベッカは鞘から血のように赤い剣を抜いて、それぞれが構えた。


「リルル様は————」


「リルルは————」


「リルルちゃんは————」


「「私達が守ります!」」


「俺が貰う!」


こうして、美しい女性陣と

ただ独りの蟹男のリルルを巡る戦いが始まったのだった。

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