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第57話「狩るもの、狩られるもの」

「皆さまこの度はケツァルコアトルスくん

及びケツくんにご騎乗いただきまして誠にありがとうございますぅ!

この子の性別はぁー男の子ぉ。

歳は人間で言うと推定7歳くらいー!

飛ぶことが大好き人間が大好きな巨大な翼竜くんでございますぅ!

目的地のスアーガ王国までの旅路をー

どうか心ゆくまでお楽しみくださいませませー」


ベルフェルクはふぅ、と電子マイクを口元から話して大きく欠伸と伸びをした。


「ふぉぉぉぉぉ!」


大音量に匹敵するスーパーボイス

四人は思わず耳を塞ぎ、イングラムは一喝した。


「やかましい!ケツくんが落ちたらどうするんだ」


ベルフェルクは振り返ってドヤ顔で言った。


「大丈夫大丈夫、電子媒体で防音対策した

ヘッドフォンさせてるからぁ!

騒音はシャットアウトして、僕らの会話は

聞こえるようになってるのさぁ!」


電子媒体は本当に便利な時代になってきた。モンスターのデータをスキャンしたり

家を照射建築してくれたり

人体の異常を感知してくれたり。


(本当、凄いよなあこれ……)


自身の端末を少し浮かせて見る。

ジャミングや荒天以外の影響を一切スルーして、体内の電気信号で充電が自動になされ場所も取らず、音楽端末や動画端末

ゲーム用端末としても最適枠としてここ15年はトップに君臨し続けている。

尚且つスクリーンを指先で自在に縮小拡大できる。欠点などもはやないのではないかと思うほどである。


「あれぇ……?」


端末の凄さを改めて認識しているなかで

ベルフェルクは何やら不思議そうに声を出した。


「どうした?」


「いやぁ、この子より下にあるのは

牧場みたいなんだけど、なんか家畜が全然いないんだよねぇ……僕ぁ、動物愛護団体の会長なので、こういう道中の違和感も見逃すわけにはいかないんですよぉ……」


イングラムが身を乗り出すと

確かに牧場らしき場所があるのだが

飼われているであろう動物たちが全くいない。これは妙だ。


そして、しきりに説明した後にベルフェルクは一言。


「降りていい?」


「もう?早いよ〜、おじさん〜!」


「私もそう思います、レベッカさんはどう————」


クレイラが後ろのレベッカに振り返る。

彼女の顔は真っ青だった。

乗り物酔いならぬ動物酔いだろうか。


「だ……だい……だいじょうび……わたしは……へいきん……」


「よしベルフェルク、降りるぞ。

ケツくん、ゆっくりと降下してくれ」


事態を重く見て、この後の展開を想像するのならば、降りて横にさせた方がいいだろう。

イングラムはベルフェルクに告げて降りるよう施した。


「了解〜、ケツくんゆっくり降下〜」


鋭利なトサカ部分をちょんちょんと撫でるとケツくんは返事をするように鳴いて、ゆっくりと降り始めた。

場所は牧場近くの入り口らしかった。






「さて……降りたわけだが————」


「動物達の鳴き声が聞こえないのは、ちょっと僕ぁ怖いですぅ…でも見に行かないとぉ……」


責任感を強く感じているベルフェルクは

足をガクガクさせながら一歩一歩前進している。これでは15メートルくらい先にある飼育小屋に辿り着くまでに無駄に時間を食ってしまう。


「おい、ベルフェルク。こっち向け」


パァン、とイングラムは彼の目の前で両手を叩いた。すると、震えていた足はいつものように軽快に戻った。


「うわびっくりしたぁ!

え、なにこれぇ!すごぉ!」


「なに、緊張をほぐしただけだ。

さあ行くぞ」


ベルフェルクの肩を強く叩いて気合を入魂する。クレイラたち女性陣は、ケツくんの付近でレベッカを看病すると名乗り出た。

何か起こればクレイラが対処してくれるだろう。彼女は一撃でUMAを葬った人物だ。

戦闘に関してはおそらく随一だろう。

だから安心して任せることができた。


「花が欲しかったなぁ」


「はっ倒すぞ」


ベルフェルクの我儘に対して

ちょっと恐ろしい返答をしながら進んでいくと、1分もかからずに飼育小屋に到着した。かんぬきは外されているらしい。

イングラムは小屋の中から吹いてくる生暖かい風に違和感を感じて、自分の腰元の剣をベルフェルクに渡した。


「自衛用だ、持ってろ」


「お得意の槍ですかぁ?まあ借りておきますぅ」


「1回500路金ね」


「金取るんですかぁ!?」


「ふっ、冗談だ」


軽いやりとりをしながらベルフェルクに再度緊張が走らないように考慮しつつ、

イングラムは先行して外から中の状態を把握する。すると突然鼻を劈くような死臭と腐敗臭が踏み入れ瞬間に襲ってきた。


「おい、鼻を摘んでおけ。

食前に嗅ぐ匂いじゃないからな」


「ほわぁい」


のんきな返事とは裏腹に、ちょっとびびっているのか、鎧の端っこを摘んで離れないようにしている。


(妙だ……不快な匂いはするというのに

死体が見当たらん)


イングラムは足早になって、飼育小屋の

奥へと向かっていく。ベルフェルクは

それに引きずられるように後についていった。


そして、小屋の出口らしき場所へと辿り着く。それと同時に眩しい光が情景を映し出した。


「これは!?」


家畜用の牛達が、何匹も横たわっていた。

まるで痩せこけたまま衰弱死したように

静かに息絶えている。

イングラムはベルフェルクの手を取って

牛たちに駆け寄る。

そして、電子媒体を起動しながらじっくりと観察する。

自動的に照射画面に移行し、牛達をスキャンすると、結果は1分とたたずに表示された。


〈刃物に突き刺されたような穴と

抵抗したような後が見えます。

内側から吸血をした可能性も〉


「吸血……?環境に適応した蝙蝠の類か?

いや、それにしては傷痕のようなものが大きすぎる。まるで人間に傷つけられたような————」


あらゆる可能性が点と点となり、線となってつながっていく。こんなことができる生物は

彼の中であいつしか居なかった。

と————


「ぎゃぁぁぁ!人型ゴッジィラぁぁぁ!」


「なにっ!?」


ベルフェルクの叫ぶ姿に思わず振り返り

その正体を捉えた。

イングラムたちをを囲うように立っていたそいつらは緑色の身体に背中にトゲのような背びれを無数に生やし宇宙人のグレイのような黒一色の瞳を持ち鋭く剥き出しになった牙と、切り裂くために出来た爪を突き出して威嚇していた。


「ほぉ……もしやとは思ったがお前達が吸血の犯人か。チュパカブラ!」


イングラムがその名を叫んだと同時に、

そいつらは一切に飛びかかって襲いかかったのだった。







「うぅ…面目ない」


一方その頃。

レベッカは未だ青い顔をして横になって

休んでいた。酔いに滅法弱いらしい。

さっきから面目ないしか口走っていない。


「セリアお姉ちゃん、レベッカお姉ちゃんは大丈夫なの?」


「はい、私が手当てをしていますので

もうちょっとすれば立てるようになりますよ。(多分)」


リルルの不安を和らげるように、確かな腕を用いて治療しているクレイラは

彼女に笑顔を向けていた。


「ねぇ、何か来るよ?」


後ろからざわざわと、何かが聞こえてくる。草木をかき分けてのそっと姿を現すときのようなそんな感じの音が。


「リルル様、私から離れないようにしてくださいね」


「うん……!」


物音のする場所に向けて、クレイラは

指先を鉄砲のように向けた。

いつでも迎撃できるように、エネルギーを集約させている。

それは7色に光ってとても綺麗な物だった。


ガサガサ音は更に大きくなり、リルルが服を掴む力も大きくなってくる。

と、そんなことは梅雨知らず。

音の正体が草むらから出現した!


「ロリっ子万歳〜!」


両手を広げて歓喜にむせびながら

突進してくるのはヒト型の蟹だった。

いや、蟹型のヒトか?

どちらにせよリルルは叫んだ。


「蟹のお化け〜!」


「シュート!」


五大元素の指弾を怪物に向けて放った。

避けることをせず、それをモロに受けた蟹は断末魔の如き雄叫びをあげたのだった。


「ぷぎゃらぁぁぁぁ!!!」


炎が肉を焼き

水が自由を奪い

風が体を裂き

雷が感覚を奪い

土が動きを拘束した。


「熱い!冷たい!寒い!焦げる!

動けねぇ!」


蟹男は膝をついたまま

ちらっとクレイラの方を向く。

彼は何かに気付いたようだった。


「あれ?あの時倒れてたお姉さん?」


「は?」


「いやいや、忘れるとか酷いなぁ。

俺が止血剤を使ったおかげで無駄な血を出さなくて済んだんじゃないですかやだぁもぉ」


クレイラは必死に微かに残る記憶を頼りにするが、全くこの男の顔が思い浮かばない。

それもそうだ、当の本人は気を失っていたのだから。見ることすらできる状況ではなかったのだ。


「ところでっ!リルルっちゃん!

また逢えたね!運命かな!結婚しようか!」


「嫌だ」


ドストレートな告白をドストレートに

キッパリ断るリルル。

イングラムが側にいれば撫でていたことだろう。彼の幼女好きは有名だった。


「がぁん!せっかく再会したのに!

もういい萎えた!」


(この蟹男……私の元素指弾を食らっても

跪くだけだなんて……普通の怪物なら

塵芥のはずなんだけど……出力間違えたかな?)


後ろを向いて腕を組みあぐらを掻く蟹男。

クレイラは己の指を眺めて異変がないか調べる。と、回復しかけてきたレベッカが

声を発した。


「あ……暴食魔!」


「ぼーしょくま?」


「なんですそれ?」


レベッカはやっと治ったというのに

また真っ青な顔をし始めて彼の説明をし始める。


暴食魔──

ユーゼフ・コルネリウスの二つ名である。

彼は随一のハンターでありながら

その強大な食欲から世界中の国を飢饉に陥れかけた大犯罪者なのである。

深海に沈めようとも勝手に浮かび上がるし

火山に投げ飛ばそうとも炎が焼くことを拒み絶対零度の刑に処しても少女の声を聞き

自ら脱出するなど、高い耐久力と生命力を持つ人型モンスターとも言われているのだ。


「ひっでぇなぁ!みんなだって腹へったら

ご飯食べるだろ!?

なんで俺だけ悪いみたいに言われなきゃならんわけ!?

ほんと俺を凍らせたアデルまじ許さねえ」


青いかには顔を赤くして激昂する。

それは至極当然なのだが、彼は食べる量が

最低でも1トン以上は喰らう。

生態系すら脅かしかねないとして

全国で指名手配されているのである。

そんな男が何故こんなところにいるのか


「おじさん、何しにここにきたの?」


「うん?怪物狩りだよ!(そして食べる)」


にっこりと微笑んでユーゼフは目的を語ったのだった。

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