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第56話「スアーガ王国へ征かん」

イングラムは無事に救出された。

今までとはまた異なった緊張が全身を逆撫でしたので汗が止まらない。


「ありがとうございました。セリアさん。

それにしても、ヒヤヒヤしましたよ」


額の汗を拭って一息つき

イングラムは感謝の意を述べた。


「……あんな風に来られたらちょっとドキッとしちゃいます」


「しなくてよろしい」


あんなザ・野生児のようなピエンにクレイラを襲わせてなるものか。もしレオンが知ったら激昂してしまいかねないだろう。

それほど親密な関係であるのかはわからないが、きっとそうする。イングラムもそうする。


そして耳うちするようにイングラムは

囁いた。


「いいんですかクレイラ。レオンさんこの件のことを聞いたら怒りますよ?」


「大丈夫、私はレオンしか興味ないから!」


笑顔でサムズアップする。いや先程満更でもない表情をしていたのはどこの誰だったかもう忘れたのだろうか?

記憶力が鳥頭なのではなかろうか。


「レベッカさん、貧血になりたいんですか?

鼻血いい加減に止めてください」


「ご、ごめんなさい。その、あぁいうのは勉強でしか知らなかったから……まさか直で見るハメになるなんて」


「見なくてよろしい」


イングラムはレベッカに近づいてティッシュボックスを電子媒体を通して取り出して

渡す。


ティッシュボックス:残数5箱


音声が残箱を教えてくれる。

有難いものだ、いつなくなってもいいように音声付きにしておいてよかったと思う。


「騎士様、お怪我はない?痛い所は?」


「うん?ああ、怪我はないよ。大丈夫だ」


「よかった……!」


この三人の中で、まともなのはリルルだけのようだ。純粋で、真っ先に怪我の心配をしてくれる、それに、その笑顔は疲れた心を癒してくれる。彼女の優しさにはいつも支えられているのだ。


「ところで騎士様、さっきのお猿さんがセリアお姉ちゃんにしようとしていたこと、なぁに?」


イングラムの脳内で落雷が起こった。

怪我の心配だけをして、レッツゴー!

と言ってくれるかと思いきやまさかの切り出しに思わず思考が止まる。


「あぁ、リルル様。あれは夜————」


「とうっ!」


トップロープから勢いよく跳ねてきたかのようにイングラムはクレイラを鷲掴みにした。そして鬼気迫る表情で力の篭った囁きをクレイラに告げる。


「何言ってるんですか何言ってるんですか何言ってるんですか何言ってるんですか何言ってるんですか!!!!!」


小声で高速連呼。確かに強い声と鬼のような目でクレイラを睨みつけるが彼女は引かない。


「で、でも将来的に必要なことだと思いますよ、イングラム様」


「ここぞとばかりにセリアさんになりきらんでよろしい!!リルルの教養はセリアさん本人から学ばせますぅ!!!!!」


鬼気迫る表情でぬんと顔を近づけるイングラム。その表情はまさに鬼だ。

教育の鬼だった。見た目は般若だが。


「あー!!」


リルルの声に思わず般若の顔のまま反応して振り返ってしまう。理性だけではどうしようもないことが、イングラムにもあるのだ。流石にまずいと思ったのか、元の顔に戻そうとした矢先、リルルは純粋そうに叫んだのだ。


「騎士様!セリアお姉ちゃんにチューしようとしてる!!」


「ぶはっ!!!」


2リットルくらいの量の鼻血を一気に撒き散らしたレベッカ。彼女の辺り一面は落下した紅葉で出来た絨毯みたいになっていた。

それを止めるためにティッシュを何枚も取り出して鼻に詰めるが一向に止まらない。

むしろ湯水のように湧いてくる。

それを差し置いて、般若がリルルに向けて

ゆっくりと直進する。

大きな怪獣の足音みたいな音を響かせながらリルルに目線を合わせつつ腰を下ろした。


「リルルぅ……ダメじゃないかぁ

どこでそんな言葉を知ったんだ?んん?」


般若みたいな顔で問い詰める。

少女は畏怖する様子を微塵も見せずに笑顔で答えた。


「剣士様だよ!」


「よし、わかった」


その返答に冷静さを取り戻したイングラムは普通の顔に戻りそう誓った。だがその前に、彼らはやるべきことをやらねばならない。それは、ルシウスとの合流だった。

しかし、肝心の移動手段が徒歩では、とてもではないが間に合わない。


「さて、どうしたものか……」


イングラムは草の上であぐらをかいて

思考を巡らせる。


「今から歩いても、多分間に合いませんよね」


鼻血を拭きながらレベッカは案を出せずにいた。多分、いや絶対貧血のせいで思考回路が回っていないのだと思う。

そして、クレイラは積み重なった獣と人を木の枝の先でツンツンしていた。


「セリアさん、あなたも考えてくださいよ。何か方法……が」


イングラムがクレイラに視線をやった時

ふと、木の棒の先にある横たわっている二人を見てそれが目に止まった。


「……なんとかなるかもしれん」


「ほ、ほんとですか!」


レベッカが嬉しそうに身を乗り出してくる

また鼻血を撒き散らされては堪らないので

抑えるように言った。


「ええ、ベルフェルクは動物愛護団体の会長を務めているらしいのです。多種多様の西暦動物保護や、過去に存在がほのめかされていた危険なUMAたちを駆除するために……。だから、移動手段に優れている生き物をポケットの中のカプセルにいくつか持ち合わせている可能性があります」


「なるほど、では起こしてから交渉するんですね!さすがイングラム様です!」


ツンツンしながらこっちに顔と尊敬の念を向けるクレイラ。全く尊敬の念など感じないが素直に受け止めておく。


「ええ、そうしましょうか。

俺はフィレンツェのようにレオンさんの私物を無断拝借してぶっ壊すような真似はしません。こいつが起きるまで待ちましょう。とりあえず、レベッカさんの貧血を治さないとですね」


イングラムはクレイラと協力して

鉄分豊富な海産物や山菜を取りながら

ベルフェルクが目を覚ますのを待った。





「う、うぅん……僕ぁ一体」


重たいまぶたをゆっくりと開くと

目の前にはイングラムが腕を組みながら見下ろしていた。


「うわぁぁ!般若だぁ!」


誰が般若だ、と突っ込みたい気持ちを抑えてイングラムは腰を下ろしてベルフェルクの顔を覗き込んだ。


「やっと起きたかベルフェルク。

さっきは大変な目に合わせてくれたな

愛護団体会長としてそれはどうよ」


ベルフェルクはそれを聴くと申し訳なさそうに俯きながら謝り始めた。

根は素直なのである。


「ごめんなさい、本当にイングラムくんと

美女美少女がいるとは思わなかったんだよ」


本当にしょげている。負のオーラが視覚化できてしまうほどだ。


「まあ悪気はなさそうだし、よしとしよう」


「いやそんなぁ!僕、気持ちと手元のもので誠意を示すってレオンくんから教わりましたのでぇ……」


ナイスです。と心の中で感謝するイングラム。そして、ベルフェルクは呟いた。


「そういえば、ドラゴンくんは?

延長するんですかぁ?

お怪我等していませんかね?」


まずい、と一瞬冷や汗をかいたが

イングラムはすぐさま切り替えした。


「ルークが延長したいのだそうだ。

ほいこれ、延長料金の1万シード」


ぽん、とベルフェルクの足元へ置かれる

1万路金。

これでご飯が1週間は食べられる。


「ええっ!?こんなにぃ!?」


「あぁ、こんなに。ところで気になっていたんだが、お前はなにしにここに?」


ベルフェルクは頬をポリポリと掻きながら

あっけらかんとした表情で答えた。


「スアーガ王国に商売しにやってきました

あそこは初めましてになりますかねぇ。

なぁんて口が滑っても言えないのでござまさぁ!」


イングラムと女性たちは顔を見合わせて

頷き、改めてベルフェルクの方へと顔を向けた。


「な、なんですかぁ!?」


「ベルフェルク、実は俺たちもスアーガに行こうとしていたところなんだ。

あそこは人間を危険視している亜人や獣人たちが多い、ピエンくんだけでは心許無いんじゃないか?」


「え……!本当ですかぁ!?」


「あぁ、俺はお前を守るだけの力を持っていると自負している。道中も危険なモンスターと鉢合わせする可能性もあるだろうし

悪くない提案だと思うんだが、どうだろう?」


ベルフェルクは確かに、と呟いて女性陣を

チラ見する。


「確かに獣畜生と一緒はちょっとごめんですねぇ……だったら花のある方が僕もお世話様になります、何がとは言いませんが」


「それは許さん」


ベルフェルクはむくりと立ち上がり

女性陣に向けて頭を下げた。


「しばらくの間お世話になりますベルフェルク・ホワードと申しますぅ!

綺麗なお姉さん美少女の皆様!

どうか何卒よろしくお願いしますぅ!」


イングラムはベルフェルクの肩に手を置き

軽く自己紹介した。


「彼は俺の同期で、今は動物愛護団体の会長をやっているらしい。色んな動物を配合して地球の自然環境を再構成しようとしているんだ。」


「おじさん動物さんとお友達なの!?」


「……ワンちゃんはいるの?

モフモフさせてくれないかな……?」


リルルとレベッカは食い付いた。

レベッカも動物が好きらしい。

意外だったが、乗るのが嫌と言われなくてよかった。

だが、一人だけ。セリアに変身していた

クレイラはイングラムの方を見ていた。

何か言いたそうだったので近づいて耳を貸す。


「?」


「ねぇ、恐竜とか……いるの?」


「いますよ」


「!?」


クレイラは驚きの顔と笑顔を見せてくれた。どうやら彼女は恐竜が好きらしい。


「ヴェロキラプトルとか、ドロマエオサウルスとか……ディプロドクスとか!?」


「いや、後の二つはわかりませんが

いるんじゃないですか?」


「ありがとう聞いてみ————」


ぽぉん!と何かが投擲されて

そこから翼竜のケツァルコアトルスが

出現した。

翼幕を大きく羽ばたかせて鳴き声をあげる。

「さぁ皆さん。専用の手綱を手に取ってください〜!今から飛びます飛びます」


「おい!待て待て!乗るから少し待て!」


イングラムの制止の元全員が

ケツァルコアトルスの背中に騎乗して

手綱を手にし、専用ベルトを装着した。

それを理解したのか、ケツァルコアトルスは大きく羽ばたいて、空を飛び始めたのだった。

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