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第55話「襲撃原人」

レベッカの剣の仕組みはこうだ。

彼女の体内にある特別な血の能力により

それを剣の中に僅かに染み込ませることにより与えた瞬間のダメージにその血が吸い込まれるように浸透し、受けた直後のダメージが永続する。というもの。

これを解除するには本人の意思で侵入した血を除去することが1番なのだという。

どうやって除去するのかというと、彼女の肉体に触れることによって、効果が相殺される。らしい。


「とまあ、そういう仕組みなわけです。

先程は本当にご迷惑をお掛けしました……

なので、ルークには言わないで下さい!」


レベッカはそう言うと、風を切るような勢いで頭を下げた。

時折ちらちらと2人の様子を伺っている。


「……許すのは構わないんですが、あなたはルークの何なのです?ご友人ですか?」


「あ、いえ……あの人は私の目標というか

師匠のような人というか」


(弟子とってたのか)


「私に剣の凄さを教えてくれた凄い人なんです!」


目をキラキラと輝かせて迫ってくる。

よほど憧れているようだった。


「ということは、お弟子さんということでよろしいので?」


「まあ、そう捉えていただいても構いません。御本人からは許可をもらっていませんが……」


と、頬を赤らめて照れ臭そうに掻く。

イングラムは腕を組みながら問いかける。


「ではレベッカさん、リルルの言った通り

我々の旅に同行するという形で良いんですね?」


「……ええ、何かご不満でも?」


「野宿になりますが、良いのです?」


レベッカはそんなことか、と顔に出して

笑った。どうやらサバイバルは慣れているらしい。


「平気ですよ、以前は飲まず食わずで

7日間生活したことがありますし、体調管理も大事にしてますから」


「ミミズとかミミンズクとか出ますが」


「平気です。虫なら昔飼ってましたから。」


「飢えた男の人が襲ってくるやもしれませんよ?」


「ぶちのめしますので平気です」


クレイラはとんでもないことを口走っているが、そんなことをさせるわけがない。

野郎が来たら使い魔で驚かせてやろう。


「なるほど、あなたの意思は理解しました。ですが、危険な旅になりますよ?」


「承知の上ですよ。ルークくんに認めてもらうための剣技を御照覧あれ!」


「……よろしくお願いします」


クレイラは両手で握手をしてにこやかに微笑んだ。時折本物なのではないかと疑ってしまうが、偽者なのである。

特に口調とか口調とか口調とか。


「お姉ちゃんが増えるよ!

やったね騎士様!」


「俺が喜ぶ前提なの……???」


色恋沙汰には滅法強いイングラムは

素直になっても異性に対してのそういう感情は芽生えない。女性が一人増えようがニ人増えようが彼は気にならないのである。

普通の男性であればハーレムひゃっほう!となるのだが、彼は絶対にそうはならない。なるとすれば幽霊に対してである。


「まあいいか。さて、レベッカさんの意見も聞きたいのですが、スフィリアとスアーガ、どちらに赴いた方がいいと思いますか?」


レベッカは顎に手を当ててしばし考える。

が、何も浮かばないらしく、彼女は一言失礼。と付け加えて地図に手を当てた。

すると、手を中心とした光が地図全体に広がりそこから広大なホログラム浮かび上がった。


「……リアルタイムホログラム!?

まさか……!」


「そのまさかです。

私には地図上にある情報が手に取るようにわかります。しかも画面付きでね」


イングラムが言葉を溢し、レベッカは

それを肯定するように頷いた。

彼女のこれは生まれ持った能力のようで

地図に手を当てると現実の時間とリンクし

実際の状況を場面に移してくれるという優れものだ。

コンラへの道筋も、きっとこの能力を用いてやってきたのだろう。


「驚いた、こんな能力まであるなんて。

あなたが来てくれてよかった」


イングラムの笑顔が眩しかったのだろうか

レベッカは少し俯いて、ど、どうも。と

答えた。


「セリアさんは、どうです?何かわかりますか?」


クレイラは地面に手を置いていた。

そして、レベッカを手招きして

側に座るように促して片手をレぽんと置いて目を閉じた。


「……ここ、スアーガ王国の半径5キロ圏内に弓を持った男の人がいる。多分、マナ使いです」


「……なんですって!?」


「???」


レベッカとリルルは疑問符を

イングラムは驚愕の表情を現した。


「弓使い、俺の知っている人物では

唯一人、ルシウス・オリヴェイラ。

俺の最後の親友の一人です」


ルシウス・オリヴェイラとは魔帝都でも指折りの弓使いであり、火のマナを扱う青年である。兄ルキウスの推薦により特出した身でありながら謙虚であり、同期達にも慕われていた男。彼はレオンに対しても初めから友好的であり、今でも親交を続けている。

しかし、本当にルシウスだという保証はどこにもないのだが。


「…スアーガ王国に向かっているんですか?」


イングラムはその人物がどこにいるのかを

クレイラに問う。答えはすぐに返ってきた。


「ええ、向かっています。

私達との距離は、およそ10キロ程度

モンゴリアン・デスワームを使役して地面から進めば徒歩よりも速いスピードで到着できます。通常5時間のところ、1時間半で」


「えぇ……、なら徒歩の方が良いですね。」


イングラムが顎に手を当ててそう考えている矢先、森がざわめきながら鳥達が空へと飛んでいった。そして————


「うぉぉぉぉちょっとちょっとストップストップストップぅぅぅ!でござますぅぅぅ!!!」


聞き覚えのあるござまさ口調が木霊した。

どこから来るのか予想がつかない。

前は上からだと思ったら横から突撃してきたし、今回はどこから来るのか。


「みんな、今すぐ伏せ————

ぐへぇ!?」


伏せろ!と言い終わる前に地面から何かが

飛び出してきた。

それは何かの生物らしく、イングラムの腹部へと直撃する。

今日はやたらと腹部がダメージを受ける日らしい。

イングラムは勢いよく木の上まで弾き飛ばされたのだった。


「イングラム様!」


「騎士様!」


「イングラムさん!」


二人美女と一人の少女に名前を呼ばれる。

彼は大丈夫だ、と手で合図をした。

そして、その飛び出してきた変な何かは

地面に着地したらしい。


「ダメだよぉ、ピエンくぅん

もっとこう、勢いを殺して掘り進んでくれないと、イングラムくんみたいに吹き飛ばされちゃいまさぁ!

あれぇ!?イングラムくんだ!本当にいたんだぁ!ビックリ!」


ベルフェルク・ホワードは知らなかったよぉ。と付け加えて木の枝に干されているイングラムに向けてがははと笑った。

彼を背負っているのは、けもくじゃらの原始人らしかった。

あの体格と位置、そして小柄。

そしてイマイチなネーミングセンスから察するにあの動物は————


「ウウ!ガウガウ!」


「あー、なるほどぉ!

いきなり初対面の人が多すぎてわけわかめ草生え放題ってわけだねぇ?」


「……」


ホモ・サピエンスだろう。

よもや人類すら遺伝子改良してしまったのか。ベルフェルク・ホワード。恐ろしい男である。


「……ウホッ!」


ピエンくんは一通り女性陣を

観察するように目を配ると声を荒げた。


「ウホホ!ウホウホホイ!」


「ほぉ、なるほどぉ〜?そこの紫色の女の方、お名前はなんとおっしゃるんでしょうか〜」


「え?セリアと言いますが……それが?」


まさかのご指名制だった。

いや、誰を指名してもダメなのだが、

早くどうにかしないと取り返しのつかないことになってしまう。

イングラムは木の上から降りようとするが

その瞬間に枝が鎧の隙間に引っかかって魚の干物のように吊るされてしまった。


「あっ!クソッ!枝が!このっ!」


「いや、この子が大変あなたを気に入ったらしくて、お嫁さんにしたいと言っているんでさぁ!」


「ええっ!?」


「ダメダメ許しませんそんなこと!!」


驚愕して口に手を当てるクレイラと

必死に動いて叫ぶイングラム。

未だに折れそうにない頑丈な枝に苦戦している。


「いやぁ、ホモサピエンスは一途ですからご心配なくぅ……きゃー!朝から夜の営みぃ〜!!」


ピエンくんは勢いよくベルフェルクを

地面に投げつけて、クレイラに取っ組みにかかる。ぐへぇっ、というベルフェルクの声が聞こえた気がしたが、今はクレイラが最優先だ。


「ひゃっ……!?」


「セリアさん!逃げるんです!

早く逃げて!お願いだから!」


取っ組みかかってきたピエンくんは

小柄ではあるが筋肉質故に力が強い。

まあクレイラならば余裕で撃退できるだろう。ベルフェルクが延びている今がチャンスだ。しかし彼女は抵抗しようとしない。

ピエンの両眼がハートになっているのにも関わらずだ。


「わーっ!リルルの教育に悪い!

レベッカさん!せめて手でその子の目隠しを————」


レベッカは鼻を両手で押さえて鼻血を止血している。まさかとは思うが、あの両者を

自分に置き換えているのか。

そして被害を受ける間際のクレイラは

なんだか顔を赤らめている。

イングラムは最後の手段に出た。


「あー、レオンさんが見たらどう思うだろうかー、きっと、嘆き悲しみエンダーしてしまうかもしれない」


慌てすぎて棒読みになってしまったが、彼女には効いたようだった。

レオンという言葉にはっ、としてクレイラは延びているベルフェルクに向けてピエンくんに巴投げを繰り出した。投げ飛ばされたピエンくんはベルフェルクにのっかかる形で気絶した。


「よしっ!」


折れそうな枝の掌の中でガッツポーズするイングラム。

そして、リルルは何がなんだかわからないといった表情でイングラムを見ていた。


「騎士様ー!大丈夫ー?」


「あ、今下ろしますね!イングラム様!」


「お願いします」


クレイラは跳ね起きして、木によじ登り

イングラムを救出したのだった。

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