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第51話「遠き戦友の言葉」

「あっ————」


しまった、と口が動いて言葉が漏れた。

クレイラはおろおろして周囲を確認するが

他に誰もいないどころか、虫の声すらしない。穏やかな風の音しか聞こえない。

それに安堵したのか、ふぅ、と息を漏らした。


「ええと、ごめん。不安にさせるつもりはなかったんだよ。でも、その、つい自然と口から漏れたというか」


「わかっています。ですが聞いた以上は黙っているわけにもいきません。クレイラさん、教えてもらえませんか……?今の俺には、レオンさんの情報が必要なのです」


イングラムの穏やかかつ真に迫る表情に

クレイラは思わず視線を逸らした。

そして、こっそりと呟く。


「うん、じゃあ……教えるね」


クレイラはどこまで知っているのかはわからないが、今は言及すべき時ではない。

それを了承した上で、イングラムは首を縦に振った。


「うん……ありがとう」


クレイラはお礼を言った後口を開いた。


「レオンは、普通に探していたら、見つけられない」


「……?」


ということは、断崖絶壁の山頂にでもいるのか、はたまた海底近くの海岸にでもいるのか、それとも、魔術的行使によってこの国ではない何処かへ向かったのか。


「……レオンは“ある怪物”をこの世界に顕現させないよう足止めをするために

今は別の場所にいて、戦っている」


「その怪物とはなんです?」


「────」


「神の類いですか?」


クレイラは否定せず、ただ言葉を詰まらせる。あながちイングラムの憶測は

間違っていないようだった。

彼はさらに続ける。


「なるほど、レオンさんは独りでそいつを

止めに行ったのですね……」


イングラムの表情が曇った。

クレイラは慌てたように言葉を紡ぐ。


「でも、レオンはあなたたちを巻き込みたくなかった。想像を絶するくらい、厳しくて、辛いものだから。だからみんなには、この世界で成すべきことを成してほしいって————」


「あの人がそう願ったとしても、俺たちは納得できない。レオンさんがいて初めて全員揃うんです。お互いがお互いを支え合い、助け合える。誰か一人でも欠けたら、意味がない」


イングラムは身を乗り出してクレイラを

覗き込むように顔を近づけた。


「だからどれほど厳しかろうと、辛かろうと俺たちもレオンさんの力になりたいのです。役に立たないのなら、役に立つように

自分を強くすればいい。違いますか?」


クレイラはまたも言葉を詰まらせたが

今度は顔を背けることはせずに真っ直ぐにイングラムの目を見た。そして、くすっ、と笑う。


「やっぱり、イングラムはレオンから聞いていた通りの人だった」


いきなりこんなことを言われて、少し戸惑ってしまう。イングラムは髪をかいて

気を紛らわせる。


「そうだ、レオンから預かっていたものがあるんだよ」


「え?」


「あなたはレオンを助けたいと言った。

その目は覚悟のできてる目だから……ふふ、あの時のレオンと一緒。自分の保身のためじゃなくて、誰かの命のために戦おうとするその目。私好みだな」


「………」


思わず口が閉じるイングラム。自分の言ったことをちょっと経ってから認識して慌ててことを進めようとするクレイラ。


「あ、ごめん。今から見せるのは、レオンが万が一、あなたたちが自分を探したいって言ってきたら見せてやってほしいって託されたものなの。これで、その意思がもっと強くなるといいんだけれど」


ブゥン、と電子特有の音声が流れ、そこから巨大な画面が現れて、その映像の中にレオンがいた。彼が何か話そうと口を開いた瞬間、映像はブツリと消えた。

強制的に消されたようにイングラムは感じた。


「!?」


敵からの横暴か、イングラムは周囲を

警戒しながら見渡す。身体に走り巡る緊張感を容易に解いたのはクレイラだった。彼女は慌てていた。


「あ、ご、ごめん!これあげるから電子イヤホンして!周りに聞かれると色々とあれだから……!あと目を閉じて、映像が頭の中で流れるように設定したから!これで第三者に見られずに済む」


やる前に言えよ。とイングラムは口に出そうになった言葉を押し留めて電子媒体を用いてもらったイヤホンを繋いでモニターと同期し、それを耳にかけて指示通りに目を瞑った。


「ふぅ……」


安堵したクレイラの声が聞こえたのが最後

周囲の音声は完全にシャットアウトされた。意識だけが電子世界に行っているようだった。宇宙にいるような感覚で身体がふわりと浮かび、自然と身体は仰向けになるようになり、その目と鼻の先で先程と同じ画面が出現したのだった。


「レオンさん……!」


画面の中で、レオンが試行錯誤しながら

画面を覗いたり、揺らしたりしている。

よくよく見ると、片目に眼帯を施していた。


〈よし、映ってるな!〉


うんうん、と頷きながら

頬をポリポリ掻くと、レオンは言葉を紡いだ。


〈これを見ているということは、君たちはクレイラと出会い、俺を探そうと決意したって認識するぞ〉


画面の中のレオンはふう、と呼吸を正して

画面の前を向く。その瞳はイングラムの

ことをはっきりと捉えているように感じた。


〈もう一度確認するが……君たちがこれを見てるってことはクレイラともう出会ってるってことでいいんだよな?〉


レオンが誰かに確認しているようだ。

おそらくクレイラだろうか、共に確認をしているようだった。


〈そして驚くだろうが、これが見られているということは、俺はこの世界にはいない。事が済んでなければの話だが〉


(どういうことだ……???)


イングラムは浮遊しながら、レオンの言葉を黙して聞いていた。

彼の言葉のどれもが、今後と彼の運命を左右するに値する重要なことなのは確かだ。


〈お前たちの旅は、多くの苦難や試練が待ち受けているかもしれない。死んだ方がマシってくらいキツいこともあるだろう。

でも、それでも尚俺を諦めないっていうなら、神様と知り合ってソラリスってところに向かってほしい。そこには、神々がいる〉


人差し指を立てて微笑み、それを空に掲げる。彼は続ける。


〈俺のいる場所は、神性を持たないと

まず辿り着けない。そんな場所にある。

ならどうやって神性を人間の身体に宿すか……方法は二つある〉


レオンは指を二本立てて言葉を紡ぎ続ける。


〈一つは神の神性を借りること。もう一つは、神話時代に神々が用いたとされる武器を手にして使いこなすことだ〉


これが難しいんだがな、と腕を組みながら呟きつつも、レオンはもう一度画面を見た。


〈条件自体は単純だが、そう簡単に環境が揃うかというと多分不可能に近いだろう〉


落胆したように言葉のトーンが下がる。

彼は歴史が好きだから、ショックなのだろう。先に出会っていると伝えたら、どんな顔をするのだろうか。


〈まあそんな条件が奇跡的に揃ったらようやっとその入り口に辿り着けるわけだ〉


レオンはしみじみとした表情を浮かべて

画面をもう一度見た。


〈さて、と……俺の用件はこんな感じだけど。最後に一つ、大厄災について俺が見聞きした情報を共有したいと思う。

おそらく、これも重要になるだろうからな〉


そう呟くと、レオンの表情が一気に曇り始めた。それは画面越しにもヒシヒシと伝わってくる。


〈大厄災……西暦2020年に起きた第6回目の大量絶滅の総称だってことは知ってるよな?〉


旧西暦大陸に位置した各国の火山が兆候もなく一斉に噴火し、大地震が起こり、100メートルを超える大津波が押し寄せ、サイクロンと呼ばれる巨大竜巻が出現。

さらに追い討ちをかけるように未知の細菌やウィルスが蔓延し、地球上のあらゆる生物は大量に絶滅した。

それが、生き残った人類が後世に記したとされる大厄災である。


〈それの真実、地球の神と邪神同士が喧嘩した余波の影響らしい。

その西暦が終わって早い何万年と経った今、大厄災は再び動き始めている。

俺はそれを止めるように頼まれたんだ。

依頼主は一人、一つの組織だが、まあ片方はお前たちもよぉく知ってる奴らだよ〉


レオンはうんうん、と頷きながらそう言った。そして彼は立ち上がり、最後に


〈さて、俺を探すつもりなら、一緒に厄災を止める気があるならさっき言ったこと、全部実行してくれると助かる。そうすれば、俺も生きて帰れる確率が高くなるしな。天国での再会になるか、はたまた生きたままの再会になるか……まさしく、神のみぞ知るってやつだ。それじゃあ、そろそろ行くよ。元気でな。クレイラと仲良くやってくれ〉


そういうと、画面はプツリと消えて

電脳世界は再び色を失くしたのだった。

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