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第46話「襲撃せし紅き刃!」

コンラの城ではリオウ率いるシュラウドの精鋭たちが攻めてきていた。相手は寡兵なれど、よく訓練され戦況を自分で判断できる兵士たちだ。対してコンラは、わずか2年という短さで誕生した兵士たちばかり、数で押していても経験の差では敗北してしまう。


「ひぃぃ!シュラウドだ!シュラウドが来たぞぉぉぉ!!!!!」


「押し通る!死にたくなくば道を開けよ!!


敵の恐怖を逆撫でしてしまうほどの圧倒的な威圧感。その形相はまるで阿修羅だ。身体がすくみ、動けずにいる兵士達を攻撃の余波で退けて、主人の進むべき道を拓いていく。


「うわぁぁあ!!!逃げろ!逃げるんだぁぁあ!!!」


「イングラム様やルーク様は何をしてるんだ!?助けに来てくれるんじゃなかったのかよ!」


「自分たちだけ逃げやがったんだきっと……!裏切りやがったんだ!」


兵士の憶測が悪い方向へと傾いていく。

そんな言葉を気にせずに、リオウは怯え震える兵士たちの前に立つ。


「お前たちは今の国王に不満はあるか?」


「え……?」


鬼気迫る表情の部下とは対象的に國崩しの帝王は優しい声で問いかける。一瞬、兵士たちの恐怖が和らいだ。


「コンラを治める今の王に満足しているのか、と聞いている」


「国をよくしてくれたのはアデルバートだ!あの王じゃない!」


「そうだ!あの王なんかじゃない!前の王と同じだ!へらへらして俺たちを見てくれやしない!」


兵士たちの長きに渡り溜まっていた不満が言葉となって敵の王に吐き出される。

その表情は憤りというよりも、悲しみに近かった。


「そうか、では俺たちと共に来い。俺に国はないがお前達が満足できる生活を保証する」


「え……?」


「我が精鋭達も、元はお前達のように不平不満を抱いていた者たちが大半だった。俺はそんな環境を変えてやりたいと思っている。どうだ、コンラを捨てて俺と新しい道を進まないか?」


リオウの足元で尻餅をついている男に

腰を屈めて手を差し伸べる。その表情は凛としていた、嘘偽りを吐く者の物ではないと、一般兵にも理解できた。


「こ、殺したりしないか?俺の母親も、生きられるのか!?」


「無論だ、お前もその家族も私の大切な家族となる。苦労はかけるが俺たちは決して見捨てはしない」


絶対なる安心感、家族に出迎えられたときのような温かさがこの男の言葉には宿っていた。兵士の中には思わず涙を流す者まで

出始める。


「リオウ様、俺たちはあなたについて行きます。ぜひ、家族を……!」


「あぁ、その為にもまずはコンラの王を倒さなければならない。案内を頼めるか?」


「はい!私が先導しますので後ろからついてきてください!」


リオウはシュラウドと顔を合わせて

お互いに頷く。これでまた、夢に一歩近づくことができる。国のない世界に————





ぎぃ、と玉座への扉が開かれる。

そこにいたのは戦慄している執事たちと、未だに何が起きているか理解できていない

アホな国王、オイフェだ。


「お、な、なんだお前達か……火急の知らせでも?」


焦りの表情が執事から伺える。戦禍の中なのだから無理もないが、執事とその仲間たちは味方に対してもびくついている。


「いえ、知らせはありませんが私達は降伏することにしました。そして————」


兵士のひとりが、剣を抜いた。そしてそれはオイフェに真っ直ぐ向けられる。


「わー、戦争中にごっこ遊びでもするの?

混ぜて混ぜてー」


「剣すら握ったことがないあなたが戦えるはずがないでしょ!おやめください!」


玉座へ座っているように諭す執事。

そして、精一杯の力で睨みつける。


「どういうつもりだお前たち!」


「そのままの意味だ。執事殿」


声を荒げた執事の問いを、穏やかに切り捨てる。リオウが玉座へと足を踏み入れた。

そして、剣を向けている兵士を下げさせて

入り口の前に立つ。


「ば、馬鹿な……私達の兵士を殺したのか!?そ、それに……あの三雄はどこへ…」


「さて、俺はお前たちの部下もその三雄とやらも殺してはいないぞ?何かの勘違いではないのか?」


「逃げたのか……やはり部外者など取り込むのではなかった……!“あの方々”に叱られてしまう!」


執事はぼそり、とそんなことを呟いた。

リオウとの距離は数メートル。聞こえる距離ではない。


「さて、お前は何か知っているようだが……それは後々にするとして、コンラ国王オイフェ」


「はーい、なんでしょうー」


「…………」


リオウに対して元気に返事をして手をあげるオイフェ国王。想像していた人物とイメージがかけ離れている。天と地以上の差があった。


(ここでかき回されてはいかんな)


おほん、と咳込みして今一度オイフェを睥睨する。


「まずは貴君の部下の采配、見事だった。

まさかこれほどまでに抵抗され、兵士たちを減らされてしまうとは思わなかった」


「ありがとう〜」


何も活躍しておらず、ただただ電子媒体の特大モニターで戦況を映画のように鑑賞していた者の言う言葉がそれか


「特に、あの三雄と呼ばれる戦士たちは

目に留まる勢いで活躍していた、負傷させないように兵を後退させ、城の防備に徹し、自ら戦線に立ち味方の士気をあげる

というのは死を覚悟していなければ成せない。」


「そうだろそうだろ〜」


えへん、とまるで自分の手柄のように自慢げに胸を張る。なにもしていないのに。


「なので、オイフェ。貴様の首を取り、彼らを譲ってもらおうか」


「え〜っ、彼らは僕のものだい!手と足だい!剣と盾だい!父上だって生きてたらそうした!僕だってそうする!」


彼らに人権はなく、ただの道具として

宣言した。先代もおそらくはそのような発言をしてアデルバートに暗殺されたのだろう。


「ふざけるな!その者がどのような生まれであれ、育った環境であれ、全ての人間には人権が存在するのだ!俺は貴様らのように部下を道具のように扱う輩は生かさんことにしている。シュラウド!」


「はっ!」


シュラウドは自身の獲物を手に取って

一歩一歩近づいていく。ゆっくりと、確実に


「ひぃっ!おいお前たち!王をお守りするんだよ!何をやってるんだ!」


「わー、おじさんかっこいいー!」


慌てる執事とヒーローに出会った子供のような感想を述べるオイフェ王。対照的なふたりであっても、シュラウドは与えられた命を成すのみだ。


彼の歩幅が大きかったからかすぐに玉座の階段へと足を伸ばし始めていた。執事は必死の表情で慌てふためき吹き矢を取るが、全身がガクガクと震えて狙いがつかない。


「ねえねえどしたのー?」


「どけ……!」


ギロリと凄まじい眼光で睨みを利かせると

執事はひぃっ!と声を上げて尻餅をつき

その場を這って逃げ始めた。しかし、入り口の付近でそれは強制的に止まる。リオウが彼の眼前に剣を突き刺したからだった。


「言ったろう執事殿、貴様には聞きたいことがあると」


「ひぃぃい!命だけはぁぁあ!!」


「あぁ、全て吐くまでは生かしておいてやる。俺は自白剤など使わせたくないからな

素直に吐けよ?」


「はひぃぃぃ!!!」


執事は元コンラの兵士たちに賭博されて

その場で組み伏せられた。


「う、裏切り者共め!この仇は必ず返してやる!」


もはや声を上げるしかない。執事は必死に叫ぶが兵士たちは気にも止めず真っ直ぐに玉座を見つめていた。


「お、王様〜!!!!!」


シュラウドが眼前までやってくる。

オイフェ王は首を傾げたままでまだ玉座に座っている。


「辞世の句があるなら、聞いておこう」


「んー?そんなのないよー!戦国時代の日本人じゃあるまいしー」


最後の最後までこの男は自分らしさを醸し出している。臆する表情などまるで見せていない。死ぬのが怖くないと、言っているようだった。


「ふむ、では、いくぞ」


シュラウドは王の首筋に自身の獲物を当てる。ツー、と赤い筋が流れくるのを確認すると、それを持ち上げて王を見下ろした。

彼はいつまでもにこりと微笑んでいる。

このような時代でなければ、きっと穏やかに暮らせていただろう、そんなことを思い浮かべながら、思い切り振り下ろした。


「切り捨て御免!」


鮮血がシュラウドの肩周辺に飛び散った。

黒に近い血の色だったから、兵士たちは

絞り出したような声で震えた。

しかし、紅蓮の騎士の隊長は堂々としていた。切り伏せたあと、目を閉じてやり両手を胸に当ててやる。最期まで笑っていたせいだろう、コンラの国王は穏やかな表情のまま死んだ。


シュラウドは距離を置いて、座ったままの死体をしばらく眺めて、後ろを向いて歩き始めた。


「リオウ殿、クー・オイフェはこの手で

始末致しました」


「……あぁ、ご苦労————!」


リオウの穏やかな表情が一変する。

そして————


「シュラウド!後ろだ!」


「なにっ!?」


紅き一閃が、シュラウドの真横を通り抜け

壁を穿った後に破壊した。


「ふう、感謝させてもらうわ、やっと“檻”から出られたんだもの」


死んだはずのオイフェ王の身体から妖美な声が響き、彼だった頭蓋骨がまるで卵のようにひび割れていく。シュラウドが即座に背後へと跳躍し、リオウと肩を並べる。その時には既に容姿端麗な美女へと姿を変えていた。中性的だった容姿からは想像もつかないほどの美人である。


「あー、いたた…斬られたところがまだ痛いわ……」


「うほぉ!なんと美しい!!!!!」


肩まで伸びた黒紫色の長い髪と血のように紅い双眸。女性にしては長身で、妖美な雰囲気を纏っている。見る異性を射抜くのも容易いだろう。着用している物はどこか異国の物のようだった。


「あら、ありがとう。でも執事さんは私の好みじゃないわね」


と、言いつつ彼女は執事にウィンクを投げる。見えない槍に突かれた執事は

声を荒げて失神した。


「……どうなっている?なぜ男が女に変わったんだ……?」


女性は2人に気付いて、目線をそちらへ移した。ふたりは冷静に、自身の武器を構える。


「へぇ、勇者なのね?私と交えたいのかぁ……ふうん……」


ぼうっ、と殺気がオーラとなって顕現する。穏やかな口調からとは思えないのどのものだ。


「いいわ、ウォーミングアップでおしまいにしてあげる。私と戦えるなんて

ラッキーね?」


「貴様は一体何者だ!?」


シュラウドが表情を変えぬまま

問いを投げる。それに対して、彼女は口角を上げ、髪をかき分け、答える。


「私はオイフェ。国の中で姉妹喧嘩をしただけの、まあそこそこ強い女よ」


女は昔を思い出して自嘲するように

吐き捨てた。

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