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第45話「ノルンの神罰」

「ほっほっほ……」


歪んだ微笑みで挑発するヴェルザンディを見て、于吉は穏やかに声を出して嗤う。


「何もしないのならこちらから行くわよ。

初っ端から全力でね!」


ヴェルザンディは神速で于吉の背後を取り

詠唱する。小さな両手では抱えきれないほどの巨剣。3メートル近くあるバスターブレードとも言えるべき形状のそれを弧を描くように振るった。于吉はそれを跳躍して避け、浮遊する。


「ほっほっほ、重たいのかの?儂に当てることすら出来ぬとは、ほっほ」


ヴェルザンディは于吉を見上げるとにやりと笑った。


「!?」


わずかな違和感を感じて背後へ振り返ったその刹那、一つの青いルーン石が凄まじい熱量の暴発して、強力な水圧が干吉を包み込んで動きを封じる。


「そぉれっ!!!!!」


両翼を羽ばたかせて、バスターブレードを

全力で振り下ろす。

巨剣の切っ先がルーンに触れ、水の膜は

解除される、それと同時に干吉の頭部を両断するかの如く血飛沫をあげながら地面に落下していった。


「ぐぬぬぬ……小娘めぇ!」


剥き出しになった左脳の部分を再生させるように、于吉は血の唾を吐き出してヴェルザンディを睥睨する。と、彼女は人差し指を鉄砲のように向けていた。


「バーン」


避けようと身体を動かそうとしたが

もう遅かった。1秒間に5発近くの魔弾が、指先から圧縮されたエネルギーの如く発射されていく。まるで銃のおもちゃを持った幼い子供のように無邪気な笑顔を浮かべて撃ち続ける。


「うぉぉぉぉ!!!!ええぃ!魔法陣じゃ!」


于吉は防壁を展開してなんとか身を守っているが、ガトリングのように何発も掃射されてはいずれ肉体を抉り始めるだろう。

黒紫色の魔法陣を展開してそこに自分を匿うように身を隠す。煙幕が風によって掻き消えたあと、ヴェルザンディは干吉の立っていた場所を睥睨する。


「すぅ……」


一呼吸置いて、瞳を閉じる。闇雲に神性を消費し続けては肉体が限界に達してしまう。そうなる前に、ヴェルザンディはあの仙人の位置を特定しなければならない。


(心眼・心音発動————!)


ヴェルザンディは目を見開く。

いまの彼女の瞳はどのような隔たりがあろうと、死者の心音を聞き取り、居場所を把握することができる。いわば千里眼に近い状態である。


(見つけたわ————)


ヴェルザンディは片腕を広げて、右方のルーンに念力を送り込んで位置を把握させる。ルーンは音を出さず、それでいて鳥のように素早く滑空しながら干吉のいるであろう場所へ移動し始めた。


と、一つのルーンが制止し、発光した後に

爆発した。


「ぐぬぉぉぉぉぉ!!!!!」


煙を纏いながら吹き飛ぶ于吉。それを追撃するように一斉にルーンが突貫していく。


「ノルンを、私たちをなめないで」


ぱちん、と指を鳴らすとルーンはそれぞれ散会して于吉を迎撃する。その質と精密性はスクルドを上回る。高い威力を持ち、色彩豊かな石たちが、熱を帯びてレーザーを撃ち込んでくる。それぞれのルーンが意志を持って、四方八方から遠距離攻撃を繰り出しているのだ。


「ぐぁぁ……おのれ、このぉ!」


「散!」


指示を聞き、干吉から離れるルーン達。

そして、両翼を煌めかせたヴェルザンディは天使のような笑顔で微笑み。


「ヘルのいる地獄へ案内してあげるわ。

クソじじい」


右手に赤き煉獄の炎を左手に青き深海の水をその両手のエネルギーをそれぞれ交差させて空中へ浮かび上がらせる。


「地獄へ堕ちなさい」


その言葉を合図とし、紫色の球体からは

何かが産まれるかのようにウネウネとし始めた。そして現れたのは無数の光の槍。

まるで雨のように降り注いで、干吉の身体を貫いていく。


「最後のとっておきじゃ!」


着弾するまでは5秒近く。足掻くに足掻いて、于吉はありったけの霊兵たちを召喚した。


「儂の盾となれ。少しは役に立つのじゃ」


数百近くの霊兵たちは断末魔をあげながら、紫光の槍をその身に浴び続けた。

次々とこの世から退場していく。


「さて……これ以上はまずいかのぉ……」


無限とも思える連続掃射は、最後の1発が霊兵に着弾したところで大爆発した。

赤オレンジ色の炎が燃え上がるように天に昇り白いコンラを染めていく。


「ノルンの神罰、味わった?」


見下すように、蔑むように于吉のいた場所へ向けてそう吐き捨てた。そして————


「姉さん!」


ヴェルザンディを支えていた羽は消滅し、彼女自身も気を失って落ちていく。スクルドは駆けていき、寸前のところで姉を受け止めた。


抱えている身体からは考えられないような高熱が発していた。ヴェルザンディの身体が仄かに光始めていく。


「姉さん!しっかりして!姉さん!」


スクルドの涙の訴えを、聞き届けたのだろうか、ヴェルザンディは目を開いて笑顔を向けた。


「ふふ、どう?お姉ちゃんも結構やるでしょ?少しは、見習ったかしら?」


「馬鹿……!私なんかのために、神性を使うなんて!」


ぺちん、とスクルドの頬を優しく叩く。

ヴェルザンディの顔は誇らしげだった。


「あなたこそ大馬鹿よ、言ったでしょ?

姉は妹を守るものだ、って。それに、別に死ぬわけじゃないわ。そんな顔しちゃダメじゃない」


「……」


「それに、馬鹿って言う前に言うべき言葉があるんじゃない?」


「えぇ、そうね……ありがとう姉さん、私達を助けてくれて」


スクルドはヴェルザンディをぎゅっと抱き寄せて瞳から涙を零す。


「愚民共はついでよ」


イングラムとルークも合流し、ヴェルザンディを表情を窺う。


「ヴェルザンディ様……」


腰を屈めてヴェルザンディを見る。


「愚民共、よく聞きなさい。今城では大変なことが起きている。シュラウドとリオウが王のところへ向かっているわ」


今にも途切れてしまいそうな声で

そう伝える。


「なんですって!?」


驚愕するイングラムは城へ向かおうと立ち上がるが


「慌てないで、“彼女”なら大丈夫。あなたたちが行ってはかえって邪魔になる」


ヴェルザンディが制止する。スクルドも口走っていたが、彼女とは一体何者なのだろうか


「……ソラリスに一旦戻るわ。神性を回復させないと、三女、手伝ってくれる?」


「もちろんよ姉さん。イングラム、ルーク、私は姉さんやエルフの仲間たちと共に一度ソラリスへ戻るわ。またどこかで逢いましょう」


スクルドは涙を止めぬままに笑顔を浮かべて小さく手を振る。そして二人の女神は太陽の光に包まれて地上から姿を消した。


「………行ってしまったな」


「本当、居てくれて助かった。うん、本当にね」


ふたりは女神たちがいた跡を見つめてシェルターへ向かうことに。紅蓮の兵士たちは散り散りだ、落ち武者狩りをしている気力はないだろう。避難民たちの安否を確認してから、そこからコンラを脱出することにした。


「アデル……お前は英雄だ。俺たちは永遠に忘れはしないだろう」


「さようならアデル……レオンくんは必ず俺たちが見つけるよ!」


ふたりはアデルバートを埋葬し、十字架を突き立てた。彼の生年と没年を刻み、魂が安らかに眠れるように祈る。


「よし、行こう」


充分に時間を費やして、ふたりは立ち上がる。湧き上がる激情を抑え込み、足早にシェルターへと向かって行った。






シェルター内の遺体は、衛生兵が全て

埋葬した、鼻を突くほどの強烈な死臭や腐敗臭も特殊消臭剤を撒いて元に戻してやった。子供にはあまりにも強烈すぎるから


「ねえねえ、衛生兵さん。お姉ちゃん助かるかな?」


「うん、大丈夫だろう。呼吸も安定しているし」


美しい紫色の髪をした女性は横になっており、そこですぅすぅと寝息を立てていた。

穏やかな呼吸は、意識を取り戻してくれた証でもある。


「衛生兵さん、さっきの強そうな人は

お友達?」


「はっはっは、いや、違うよ僕とあの人は部下と上司みたいな関係さ」


防音シェルターだから、思う存分に声を出して笑う。しかし、幼い少女には言葉の意味が理解できていなかったようだ。彼は改めて訂正する。


「うん、そうだね。わかりやすくいうなら、生徒と先生のようなものだろう」


「先生!知ってるよ!

ガッコーってところで色々なことを教えてくれるんでしょ!?騎士様や剣士様も言ってた!」


目をキラキラさせて、言葉を無邪気に返す。行ってみたいのだろうか、確かにあまり教養はされていないように見える。

衛生兵はそう思いながらも、別の問を投げてみる。


「……そのふたりはどんな人なんだい?」


「えっとね!騎士様はとっても強くて!

剣士様はとっても速いの!」


「————」


強いと速いしか情報が入ってこない。

教養力の影響もあるだろうし、きっとまだ幼いから、ということもあるのだろう。

衛生兵は唖然としながらも、頭を横に振って思考をクリアにする。


「そうか、君は凄い人たちと知り合いなんだね。」


「うん!あとね!あとね!蒼髪様もね!怖いけど、とっても優しいの!」



(蒼髪…コンラの英雄か。戦場がやけに静かだが、まさかな————)


「国を守るためだって、言ってたの!

誰も傷つけたくないんだって!」


「————!」


少女の言葉に、思わず言葉を詰まらせる。

そうだ、自分を拾ってくれたあの人も

同じようなことを言っていた。


俺のところへ来ないか?

お前の力が必要なんだ、もう誰も傷つけさせないためにも


「……いい人だな、青髪様は」


自分の主君と思わず重ね合わせてしまう。

顔は見たことはなくとも、きっといい人なのだろうと、無意識に理解した。


「うん!この戦争が終わったらね!

また遊ぶ約束したの!私、楽しみなんだ!」


「そうか、そうだな……」


(もしかしたら、アデルバートとリオウ様は分かり合えることが————)



人の気配がした、衛生兵は思わず態勢を整える。腰元に用意した魔道具をいつでも展開できるように準備する。


「……ねえ、どうかしたの?具合、悪い?」


「お嬢ちゃん、僕や強いお兄さんが君の

お姉さんを治したことはふたりだけの秘密にできるかい?」


「え?う、うん!出来るよ!私、約束守れるよ!」


よし、と衛生兵は頷いて腰を屈めて

頭を優しく撫でてやる。


「よし、指切りだ」


「うん!指切り!ゆーびきーりげんまん!

うそついたらリンゴそのままでのーます!

指切った!」


(うん?なんかとんでもないものだった気がするが……まあいいか)


とてつもない違和感を覚えながらも衛生兵は指を切った。少女は純粋だからきっと約束を守ってくれるだろう。なぜだかそんな暖かな気持ちが胸にこみ上げてくると同時に、シェルターの扉が開く。それを見届ける前に、衛生兵は姿を消したのだった。


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