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第43話「アデルの決断」

「どうした?みんなしてそんな顔して」


涼しげな顔を浮かべて、レオンの攻撃は3人の防御力をもってしても止められないようだった。


「レオンさん……!なぜあなたが紅蓮の騎士側にいるのです!この5年間どこにいっていたのですか!?」


彼に出会えた喜びと、彼が敵側についていたことに驚きながらも、冷静に現状を把握しようと質問を投げる。


「では丁寧に一つずつ答えるとしようか。

俺があそこにいるのは、助けてもらったからで、その行方不明の間は治療に当てがっていたのさ」


「助けてもらった……?治療……?」


「さて、質問には答えた。これ以上俺の邪魔をするのなら、お前たちとて容赦はしない。引くなら今だが、どうする?」


レオンは笑顔を浮かべて警告する。しかし、盟友をむざむざ見殺しにするわけにもいかない。3人は揃って首を横に振り、拒絶した。


「そうか、残念だよ。出来れば手を出したくなかったんだが」


レオンから滲み出る灰色の闘気は、視覚化されてしまうほど凄まじいエネルギーを放出していた。それに気圧されるように、3人は攻撃を防いでいるにもかかわらず後退している。


「おいスクルド!さっさとこの場から退け!ここは俺たちがどうにかする!」


「いいえ、私も戦うわ、もう誰も犠牲にしたくないから……!!」


アデルバートの忠告を横へ受け流し、スクルドは立ち上がった。それと同時に、3人はレオンの回し蹴りを間一髪で防いで、スクルドと並行するように後退する。


「4人でやれば傷を負わせるくらいは出来るし、その男についてはそちらの方が詳しいでしょう?」


「ええ、ですがレオンさんとは昔一度戦っただけで、全力を知っているわけではないのです……!」


「あいつは閃撃っていう独自の技を使う。

スクルド、あんた自身も見たし食らったはずだ。それを全力で回避して対応するしかねえ、今はまだな」


レオンは4人を見ている。殺気など微塵も感じないというのに、嫌な感覚が精神を逆撫し、身体が萎縮してしまっているが、4人は諦めてはいなかった。


「今のお前たちで俺に勝てるつもりか?

悪いが、俺はこのまま突っ切らせても楽ぞ」


レオンはそう4人に忠告して突貫する。


〈3人とも、お願い。少し時間をちょうだい、私がとっておきを準備してあいつにお見舞いしてやるから〉


3人は頷いた。そしてほぼ同時に彼らはレオンの方へ顔を向き直したが既にレオンは懐に飛び込んできていた。攻撃は既に繰り出されているようで、あと少しすれば、顔面を下から粉砕するだろう。しかし、そうはならなかった。


〈三女に手を出すなんていい度胸してるじゃない。愚民〉


天から凛とした声が響き、四方から銀色の鎖がレオンの両腕と両足に何重にも巻き付いて動きを拘束する。


「……これは」


レオンは力んでその鎖を外そうとするが

やはり外れない。とてつもない神性が宿っているようで白銀のオーラがそれから滲み出ていた。


〈……っ!なかなかの馬鹿力ね!でも、時間は稼げるはずよ!愚民どもと三女はさっさととっておきを用意しなさい!〉



「ヴェルザンディ姉さん!ありがとう、せっかくの神性を使わせてしまって……!」


スクルドは姉に感謝しながら、そのとっておきを準備する。背後に無数に浮かび上がる北欧のルーン。色とりどりのそれは、眩く光を放ち始めてレオンの周囲を囲うように飛んでいく。


「————————」


〈この鎖は死霊共の類を巻き付ける物なの。生者に意味はないけれど、今のあんたには効果があるみたいね〉


スクルドが集約した太陽光エネルギーを

ルーンに照射する。強烈な熱波を纏いながら、ルーンを伝いレオンの身体をレーザー光線のように肉体を灼いていく。


「————ッ!」


「始祖オーディン様……どうか、未だ未熟な私に力をお貸しください!」


〈……!まずい!早くして三女!こいつ、馬鹿力どころじゃない!〉


レオンの力は予想以上らしい。本来であれば死霊を永遠に縛りつけて魂のみにしてしまうことが可能なのだが、その男の力は神にも近しい物らしい。


レオンを縛っている白銀の鎖がギチギチと音を立てていた。鎖が破壊される前奏であると、ヴェルザンディは理解していた。このままでは4人とも死んでしまう。


「おい!ルーク!イングラム!あいつの身体を押さえつけろ!レオンが偽物なら、殺すことに躊躇いはねえ!さっさとしろ!」


「わかった!無茶はするなよ!」


イングラムとルークはレオンの後方に回り込み、身体を押さえ込んだ。

アテルバートはにやりと口角を浮かべた。

そして————


「我が体内に宿りし紺碧の魔力よ!!

青く透き通る水よ!忌まわし友の幻影を今ここに滅さん!」


今までに比較出来ないほどのマナが暴発する。全身に青い龍のようなオーラが顕現し

アテルバートに集約していく


「うぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」


そしてそれは、渾身の一撃としてレオンの心臓部に放たれた。


「封深・剛水破!」


レオンの全身を包み込む高圧式水膜は小さな穴の一つ一つに侵入していく、陸にいながら深海に閉じ込められたかのような不可思議な感覚に襲われていく。それに伴い呼吸や抵抗も水中にいる時とあまり変わらないため動作を抑え込むにはうってつけだった。


「今だ!こいつの動きを封じているうちにさっさと撃ち込め!!」


「……ありがとうアデルバート!」


片手を高く掲げ、周囲のルーンを自身の背後へと移動、それぞれのルーンが光り出して、そこから光熱エネルギーを照射させる。押さえ込んでいるイングラムとルークを識別でもしているのか、それはレオンにのみ見舞われた。


「ぐぉぉぉぉ………っ!?おのれ、神代の下級の神の分際でぇっ!」


「いいえ、私だけじゃないわ。ここにいる3人と姉さんの力があったからこそ、やり切ることができたのよ!少しは勉強なさい!偽者さん!」


「ただでは……死なんぞ!!!」


レオンは自身を拘束している鎖と、それを押さえ込んでいるふたりの戦士を波動で突き飛ばす。ドス黒いマナを片手に放出しながら、スクルドに突貫する。


〈三女!逃げなさい!〉


(身体が、言うことを聞かない!?)


そしてぐしゃり、と何かが弾け砕けるような音がまるで耳元で聞かされているように響き、スクルドの美しい顔に、赤い血飛沫が飛んだ。


「……え?」


アデルバートはスクルドを突き飛ばして

自らが身代わりとなったのだ。


「ふ、みすみす親友が手を組んだ仲間を殺させるほど、俺は器が広くねえんだよ!」


胴体を貫いたレオンの片腕を自ら押さえ込んで懇願する。


「今だスクルド!こいつを殺せ!今この機を逃せばどうなるか、お前は理解しているはずだ!」


「で、でも————!」


〈三女、その愚民の言う通りにしなさい!

でなきゃあなたもただでは済まないわ!〉


思わずイングラムとルークを見てしまう。

同盟相手の友人を手にかけてしまうことの

恐怖が、無意識に身体を動かしていた。


2人の表情はそれは険しいものだった。

せっかくこの国で再会した友人をよもや再会した国で失うとは思いもよらなかったのだから。


「スクルドッッ!!」


アデルバートが怒気を孕んで名を叫ぶ。

このままでは猶予がない、仲間の命や国の人々の命が危険だと、一言で物語っていた。


「ごめんなさい————!」


スクルドは目に涙を溜めながら

ルーンで顕現させた剣をアデルバートもろともレオンに突き刺した。

自身への苛立ちと力のなさを痛感しながらも彼女はそのまま深々と刃を突き立てていく。


「ぐ……あぁぁ、離せ!離せぇっ!!!」


「は、誰が、離すかよ!

テメェみてえな偽者が、俺の仲間に成り済ますんじゃねえよ!!!!!」


アデルバート自身にも耐えがたい激痛が全身を蝕んでいるはずだ、それでも相手を押さえつけているのは、彼の意地ゆえだ。

吐血をしてもなお、力は緩まることはない。いくらレオンが抵抗しても、それ以上の力で押し留める。


「さあ、地獄へ案内してやるぜ!偽物野郎が!」


アデルバートは最後のマナをナイフに注ぎ

レオンの首を掻っ切ってやった。血液が噴水のように溢れ出て、レオンは力を振り絞りアデルバートに肘打ちを打ち込み倒れ込んだ。


〈三女を傷つけた報いは受けてもらうわ〉


ヴェルザンディの冷徹な声と共にレオンの肉体はみるみる朽ち果てていく。砂の白が海によって崩れさるように


「あ、ぁああああ!!!!俺は、俺はぁぁぁぁあ!!」


最後は全身を発火させて、ドロドロに溶けて消えていった。そして、この大地の風が

偽りの肉体だったものを遥か空の彼方へと運んでいった。


そして、アデルバートは仰向けに倒れた。


「アデル!しっかりしろ!!!」


イングラムとルークが駆け寄り、抱き抱える。


「おい、あいつの偽者を作った奴を代わりにとっちめてくれよ?俺はマナの使いすぎで大分参ったからな」


「馬鹿言うな!一緒にレオンさんを探す約束はどうする!?」


「あぁ?そんなの、決まってるだろ?

いちいち、口にする必要もねえよな?」


呼吸は確かに荒い。それに、彼の体温が徐々に低下していくのも直に感じ取っていた。足先が、指先が、身体が、段々と冷たくなっていく。


「スクルド、お前は成すべきを成した。

人をひとり手にかけたくらいで落ち込むなよ、仮にも皇女サマだろうが……しっかりしやがれ」


「でも、私はあなたを————!」


「だから、気にするなって言ってんだろ……少し、休ませろ……」


ルークが握っている手が、するりと地面に落ちた。アデルバートは己が命を懸けて戦い抜いた。


「アデル……!!」


友の声は、もう届くことはなかった。

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