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第42話「凶つ者」

「オラオラオラァァア!!!」


「えいっ!やぁっ!とぉっ!」


「ふふふ、さあ、女神の技を味わいなさいな!」


エルフたちの猛攻撃が紅蓮の騎士軍を圧倒している。こちらの被害は抑えられ、敵軍に対しては大きな痛手となっただろう。

士気が下がり続け、逃げ惑う兵士たちも現れ始めた。


そして、その光景を休憩がてら城の上で観察する三雄達は彼女らに頼らざるを得なくなっていた。

肉体の疲弊が激しい、ということもあるだろうが。今は両足に精一杯の力を入れても

立ち上がることすらできない。


「皆さま、北東西の軍は全て退避させております。彼らも根を詰め過ぎたのでしょうか疲労している者もおります」


「無理もねえ、今回が初めての実戦なんだ。よく誰1人として死んでないと思うよ」


アデルバートは彼らを素直に称賛した。

防衛戦に徹していたおかげで、ほとんどの敵兵が足止めを受け、進軍が困難になっていたのだから


「本当、よくやった……ん?おい、そういやあのバカ王はどこ行った?」


「……あれ?そう言われれば確かに。

先程までメロンクリームソーダを飲んでらっしゃったのですが」


「呑気な奴、この戦いが終わったら

あいつの顔面ぶん殴ってやる……」


力の入らない拳を精一杯握りしめて

挑発と煽り行為をしているバカ王を思い浮かべる。1発殴るだけなら身体が悲鳴をあげずに済みそうだ。


「はぁい!元気かしら?」


と、4人の上空で軽やかな声が響いた。

スクルドが様子を見にやってきたらしい。

全員は顔をあげて笑顔で手を振るスクルドを見た。


「元気に見えるか、これが……」


見上げたままで、アデルバートは

ぽつりと呟いた。


「動きたくても動けないって感じね…

なら、これをあげるわ」


3人の手元に赤い球体がゆっくりと降りてきた。緑色の回復球と同じようなものだろうか?


「この心が穏やかになる感覚は……回復球ですか?」


「そう、けどただの回復球じゃないのよ?

結論から言えば、疲労完治、マナ全快

身体の調子を回復させてくれるグレードアップ版なの!効果はそのうち来るから

今から飲んじゃってちょうだい?」


「……では、いただきます!お、リンゴ味だ」


「この香りと味から見て、リンゴの種の一つである王林か……美味い!」


「全快するなら味なんてどうでもいいけどな……あ、美味え」


シャリシャリとしたフローズンのような

食感にも似た感覚で喉を通っていく。

なぜリンゴ味なのかはわからないが

無味より全然いい。


「OK、飲んだわね!それじゃあ私はあの子達の相手をしてくるから、またあとで様子を見に来るわね!」


あの子達、と言い放って指を指したのは

疲弊しかけている紅蓮の騎士軍兵士たち。

スクルドにとっては、余興に等しいのだろうか。


「ありがとうございます!スクルド様!」


「気にしないで!したくしてしてることなのだから。それじゃあまた!」


お礼を言って、3人は再びへたり込む。

それと同時に、スクルドは空を駆けて

紅蓮の騎士軍に突撃していった。


「ふぅ、なあおいイングラム。ルーク」


空を見上げたままふたりの名前を呼ぶ。


「あの女が同盟相手で良かったよ。助かった」


電子媒体で連絡を取っていた時は終始悪態だったアデルバート。しかし今は違う。

彼女のカリスマ性とその実力を目の当たりにしているから、同盟のありがたみが身に染みているのだ。


「お前達が来なかったらと思うとゾッとしないな。改めて感謝する」


イングラムとルークは顔を見合って

思わず声を出して笑った。


「なんだよ、俺だって素直にお礼くらい

言うぜ?」


「いや、昔に戻ったみたいでつい笑ってしまった。ルシウスは元気でやっているだろうか」


イングラムは空を見上げながら、そんなことを呟いた。


「きっと大丈夫だろ。あいつも頑丈だしな」


「ふっ……そうだな」


ははは、と3人は笑い合う。

狙撃兵はなんのことかわからないまま

スナイパーライフルのスコープを覗いていた。少しでも暇を潰すために。


「……なんだ、あれは。」


「あ?どうした?」


震えるような声を出す狙撃兵。その表情はまるでこの世のものでない物を見てしまった者の顔だった。


「おい、どうした、何がいるんだ!」


「いや……人が、同盟国のエルフ兵を次々となぎ倒しているんですよ……それも、敵の総大将ではありません!とてつもない強さです!」


「なに……?」


アデルバートは使い魔を使って空からその様子を偵察させるように命じた。

こうすることで、電子媒体状でも外の様子が見れるのだ。


「アデル?」


「……馬鹿な、なぜあいつが敵側にいるんだ!?」


使い魔の誤認情報かもしれない。何かの間違いであってほしいとアデルバートは身を乗り出してエルフ兵たちが迫っている方向を向いた。そして、その目に映ったのは————





「うわぁぁぁぁぁぁ!!!!!」


大勢のエルフ兵たちがまるで土埃のように巻き上がって倒れていく。

ただ一歩、その人物は歩いて進んでいく。

しかし、それを阻む者が2人、立ちはだかった。


「おいてめえ待ちな!」


「僕たちの仲間をよくもこんな酷い目に合わせてくれましたね!

覚悟してください!」


「————忠告しておく、死ぬぞ?」


その者の声はおよそ人間のものとは思えないほど恐ろしく不気味な声人間以上の寿命を持つエルフの彼らですら

全身に冷や汗を掻くほどだった。


「はん、こちとら何万年と戦い続けてんだ!今更引けるかよぉ!」


ブルックが両腕を最大限に膨張させて

突っ込んでいく。


「ダメです!ブルック!その人から離れて!」


フィルの頭の中で警鐘が鳴り響いた。

嫌な冷や汗がさらにダラダラと吹き出してくる。それほどまでに、あの人間が危険だと身体が知らせているのだ。


「————!」


あっという間の出来事だった。ブルックが瞬きをした瞬間に相手に振り下ろしたはずの片腕が消えていたのだ。


「な、に————!?」


「ブルック!」


「ば、馬鹿野郎!後ろだフィル!」


小さき体を覆い尽くす影は右足を浮かせてフィルの身体に一撃をみまった。


「が、はっ————!?」


「この奇妙な武器が連中を狂わせてたのか。ふん、いらんな」


痛みの衝撃を抑え込むように両腕で腹部を覆う。それと引き換えに槍を手放してしまう。それと同時に、人間はその槍を掴むと

所々大きな凹みができていき、もはや武器として振るうことは不可能なほど変形してしまった。


蹲るフィルと、腕を押さえるブルックは

その男を睥睨する。


「ぐ……くそ、なんなんだこの人間は……!?化物か!?」


「……おい、そこのエルフどもお前たちの落とし物だ。返すぞ」


片手に槍、片手に巨腕を持ってそれぞれの持ち主に返そうと、それを投げた。2人の視線は一瞬、自分の物に目が行った。それが間違いだった。すぐさま視線を人間に移したが時すでに遅く、フィルには強烈な回し蹴り、ブルックは巻き添えを喰らう形で氷でできた壁に吹き飛ばされる。


「そこのイケメン君、後ろ

気をつけたほうがいいわよ?」


指先を銃の形にして頭に突きつける。美しくも怒気に満ちた声のスクルドが

そう宣告した。


「さて?気をつけるのはそちらだと思うがな?」


「くっ————!」


強烈な速度の足払い。しかし、スクルドには空中を浮遊する能力がある。それは効かなかった。が————


「上に気を付けろ」


スクルドが上を見上げた瞬間地上から跳躍した男が太陽光を遮る影となった。


「閃撃・空狼脚!」


腕を組みながら、男は凄まじい連続蹴りを

スクルドに叩きつける。秒間5発以上の猛攻が、全身を貫くようだ。


(馬鹿な……人間離れしているっ!?)


速くも遅く感じた10秒間最後の一撃で、スクルドは地面に後退せざるを得なくなった。浮力を低くしてゆっくりと大地に降り立つ。少し遅れて、謎の戦士も降り立った。


「大した力ねイケメン君。私に傷をつけるなんて、何万年ぶりかしら……」


「……三神の一人か?“大人のような”背丈からしてお前がスクルドだな?」


「……それが何か?」


全身を舐め回すように見たあとに

彼女の正体を看過した。


「俺は大変な歴史好きでね。後輩たちに教示をしたこともあるほどだ。無論、お前のことも知っている。“あいつの影響下はどんな気分だ”?」


「ふうん……知ってるのね。私、今から貴方が大嫌いになるわ」


「構わないが」


無数に展開した攻撃用のルーンが一筋の光を放ち、それがルーンごとに交差していきながら、極光の神撃を下す。

しかし敵はそれをまるで知っているかのように躱して近づき、スクルドの顔を片手で押さえ、地面に叩きつけた。


「あまり神性を使い過ぎるな。お前を庇ったウルズとヴェルザンディが浮かばれんぞ」



「黙って!!!!!」


地面がスクルドの形状に抉れて持ち手に若干の空白ができた。それを活用して、彼女は距離を置く。


(この男が使ってるマナは何!?五大元素じゃない、ならもっと別の————)


「考え事なら寝てからにしたほうがいい」


「————!」


スクルドの眼前に迫ってくるのは純白の長棍。続いて迫る第二撃は、漆黒の短棍だった。


(疾いっ!加速のルーンを上回るスピードなんて————!)


ルーンよりもまず、攻撃をくらうだろう。

そう覚悟し、スクルドは男を睥睨する。

しかし、一撃と二撃は、戦士たちによって

阻止された。


「————ほう?」


男は口角をあげてにやりと嗤う。その目の下には、アデルバート、ルーク、イングラムが立っていた。


「おい、てめぇ!なんでそっち側にいやがる————!!!」


「……どういうことなのか説明してよ!!」


「なぜです!?なぜ貴方がここにいるんですか!?レオンさん————!!!!!」


その名を呼んだ、レオンはあの時と同じ穏やかな表情で————


「よう、久しぶりだなお前ら」


そう笑った。

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