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第40話「進路退路を断つ」

ユーゼフが仮面の魔術師と刃を交えていた

時と同じ頃、コンラ軍はやや優勢になっていた。アデルバートの勇姿に兵士たちの士気は一定に保たれ、また東軍西軍の両雄もマナの続いている限り霊兵を迎撃していた。そして、それを眺める白髪長髪の老人が————


「ふむ、だいぶ押され気味のようじゃな?

暫し待っておれ、最高傑作がもう時期出来上がる。あの小僧どもをことごとく返り討ちにできる最高傑作が、な!」


黒い炎で姿を消しながら仙人の声は純白の大地に木霊する。この国の冷気よりも冷たい風が、吹き始めていた。




長身等の大型スナイパーライフルが

高台より設置され、観察兵はスコープで敵の数を素早く数える。


「敵紅蓮の騎士軍!相当数射程距離内に収まりました!」


「……待て、まだ撃つな。アデルバートが残っている。巻き込むわけにはいかん」


イングラムの指示を聞き、返答したまま

スコープから目を離さない。彼の役割はこの超エネルギー砲を放って紅蓮の騎士軍の増援の進路を断ち、士気を下げることにあるのだ。


「今はルークからの連絡を待て。あいつなら最速でアデルバートを連れ戻してきてくれるはずだ。馬より速いからな、あいつは」


「はっ、では指示あるまで待機致します!」


(頼んだぞ、ルーク!)




その願いを聞き届けたのは、10分ほど前だった。イングラムから緊急の連絡が入り

コンラの最終兵器を起動するからアデルバートを連れ戻してきて欲しい、という内容だった。


「兵器を護衛する、か。そっちも大変だろうけど、こっちはそれより少し、大変だよ!」


風馬と共に駆けていく。それを阻まんと霊兵やら一般兵やらが迫ってくるが、マナを纏った名馬の前ではそれも意味を成さない。


「アデル!待ってろよ!」


前方数百メートルに、アデルバートの姿が見えた。実力はお互いに拮抗しているようだがマナの放出量を考えると、敵方が優勢になるのは自ずと理解できる。


だが、ここにルークが加われば一瞬の隙を突いて脱出することができる。そして、集まった敵兵諸共銃撃してしまえば————


コンラが優位に立つのは目に見えている。

ルークは勝利を確信して馬を走らせる。

友を守るため、救うために。





金属と金属が激しくぶつかり合う。

火花が散り、刃は徐々に擦れていくものの

その勢いは一向に衰えない。


「惜しいな、それほどの力と智謀を持っていながら、なぜお前は“国に付く”?」


双刃をたった一つの剣で容易く受け流しながらそんなことを聞いてくる。


「あぁ?決まってるだろ。民たちやマシな貴族たちが平穏に暮らせるようになる為だ。」


「夢物語だ、そんなものは!」


「夢物語だからこそ、叶えたいと思うもんだぜ……?お前にとっちゃあ、そういうもんじゃねえみてえだが」


両手に持った青き刀身と共に体を回転させて相手の剣、その軌道を逸らしていく。

アデルバートに乗せられないように、後退しつつも隙を見て一撃を加える。

ふたりは言葉を交わしながら、戦い続けている。


「……当然だ、そんなものを持つから

“失うのだ”!」


「……なに?」


双刃で受け止めていた魔剣に、ドス黒いマナが脈を打つように流れ込んでいき、膨大なエネルギー波を放出し始める。その勢いに吹き飛ばされつつも、体型を立て直すアデルバート。しかし、顔を見上げた先には、魔剣の鋒があった。


「夢は呪いと同じだ。叶える過程で挫折してしまえば、何もかも失う!」


怪しく揺らめく魔剣を眺めるアデルバート。しかし彼は表情を変えることなく、剣とリオウを見つめている。


「人は生きていれば、どこかで何かしら失うもんだ……お前は区切りをつけられてないだけなんじゃないのか?」


「……っ!貴様に何がわかる!

貴様にはわかるまい!大切な物を奪われた気持ちが!」


リオウは剣を強く振り下ろした。アデルバートは双刃で防いだが、それを押し込んでいく…彼の足元の大地がひび割れてしまうほどに


「失ったさ、俺も……」


「……なに?」


「大切な人だった。だがその人は、屑共の金儲けのためだけに全身の臓器をくり抜かれ、生きたままゴミ捨て場に捨てられていた!それなのに、息絶えるその瞬間まで笑っていやがった…!俺は許せなかった、力がなかった自分を!こんなになった世界を!」


アデルバートの全身に火がついたように

全身の血管が浮き上がる。


「だから殺してきた!同じようなことをしていた貴族共を!無理に笑っているような人々を救うために!」


徐々に押し上げられていくリオウ。

鬼気迫る表情で、言葉を吐き捨てていく。


「俺がどれだけ血に塗れようが罪と罰で身が廃れようが関係ねえ!俺はもう二度と繰り返させねえ!他の誰にも同じ思いはさせねぇ!それが俺の意地、俺の信念だ!」


水の刀身が、僅かに赤く滲んでいく。

強く握りしめた


「力さえあれば……!俺は、仲間を守ることが出来る!」


アデルバートはついに立ち上がって、リオウの剣を二撃の元に弾いて見せた。


「てめえはどっちだリオウ……!弱者を救う側か?それとも見捨てる側か?」


マナ切れを警告するように、水の刀身が

明滅し始める。


「無論、救う側に決まっている!」


枯渇しかけているアデルバートに対して

リオウの魔力は減ることを知らないようだった。未だ吐き気がするほどの巨大なマナを感じ取ることが出来る。


「マナの量が勝敗を分けたな、さらばだアデルバート!貴様の無念を代わりに果たしてやる!あの世で見ていろ!」


「おおっと待ったぁ!!」


振り下ろされた剣を、深緑の風が止める。

リオウは表情を変えずに再び剣を振るった。


「ルーク!何しにきた!」


「決まってるだろ!ここから離れる!」


猛攻を防ぎながら、ルークはアデルバートに手を差し伸べる。その眼差しを見て、青き戦士も何かを察したようだった。


「あっそう!さっさと乗せろ!」


「言われずとも!」


手を掴み取り、馬に乗る。


「逃すか!」


「追って来なくても、あとでまたくるさ!

首冷やして待ってろ!」


風馬はアデルバートの馬と並走して白へと帰っていく。


「アデルバート・マクレインか……なかなかの勇士だな」





「待たせたね!

さあ、撃った撃った!」


ルークは馬を制止させながら城の最上部のベランダへとやってきた。彼は速く撃てと急かしてくる。


「狙うは敵後続部隊の進路及び現状兵士たちの退路です。うまくいけば振動でコンラが移動する可能性もあります」


「それほどの質量エネルギーがこのライフルにあると?」


ルークを無視した観察兵はイングラムを

見てしっかりと頷いた。


「左様です。西暦では確かロケットランチャーと言ったかな?あれと同じレベルの質量がエネルギーとして放射されるわけです。弾道の必要なし、マナは必要ですけどね」



「俺たち3人でギリギリ1発撃てるかどうからしい。アデル。いけるか?」


イングラムの心配を他所に、既に回復薬を飲んでいたアデルバートは既にトリガーに手を置いていた。


「お前らもさっさと飲め、セリアから貰った最後のマナ回復薬をここで使うんだ。」


「OK、トリガーに手を置けばいいんだね」


「了解した。我々3人分最大のマナをここに注ぎ込む。あとは、やってくれるな?」


観察兵は狙撃兵と交代する。マナが充填されていくのを、目視で確かめる。


「凄まじいエネルギー量だ……!

雷に風に水……三つのマナが混ざりあっていくのを感じる……!」


紫、緑、青と三色のマナエネルギーは

ライフルに満タンになるまで注がれた。

あとは、撃ち抜くのみ。


「ふぅ……なかなかにしんどいなこれは」


「あ、あぁ……立っているのもやっとだ」


アデルバートとイングラムはへたり込む。

そして、瓶を縦に振るが、もう一滴もこぼれ落ちて来ない。ルークも続いて腰を下ろした。


「「「はぁ」」」


3人は同時に息を吐いて、この純白の大地に広がる白い酸素を深々と吸い込む。

肺の奥にまで浸透してくる冷たくも柔らかい空気が全員に生ているという安心感を与える。


「よし、皆さん!準備が出来ましたよ!

あとはタイミングを見計らって……!」


「わーい!撃て〜!」


どこからともなく現れた人差し指が

トリガーのボタンを押し込むと

ライフルが発射カウントを始めた。


「わーすごい!これが本当のライフルかぁ!」


銃身先に3色の光が螺旋を描き交差するように混じり合っていく。チャージ音もなかなかかっこいい。


「……王!?なぜこのようなところに!?」


あまりに突然のことだから狙撃兵も呆気にとらわれていた。


「やー、暇だから来てみたらなんか面白いことやってるなーと思って!こういうのやってみたかったんだよ!こう、バンバン!て銃を撃つのをさ!」


「馬鹿野郎!!!!!」


アデルバートの天にも轟く怒号がコンラの空の果てまで響いた。その声量はあの森の鳥たちですらどこかへ羽ばたいてしまうほど。


「ふぇ?」


「てめえは、人の苦労を台無しにしなきゃ

気が済まない特殊性癖の持ち主かなんかなのかぁ!?ええっ!?」


本当なら首根っこを掴んで持ち上げたいところではあるが、マナが過不足のために

今は立ち上がることすら出来ない状況、喋ることで精一杯だ。


「お前あとでお前本当に覚えとけよお前お前お前ぇ!!!!!」


だから彼は目力に凄まじい殺気と怒気を含んだ赤い双眸で睥睨する。


「まあまあ、見て見て〜!」


王が指を差すのは、敵進軍及び退路と思わしき場所だった。そこの中央に向かって、弾丸が1発放たれた。轟音を上げて着弾し、亀裂を生み、それがヒビ割れて、激しく振動する。紅蓮の騎士軍兵士たちは立っていることすらままならないようだった。

先に自軍の兵士たちを避難させておいて正解だった。


「パリーン!」


王がそう叫ぶと、その通りに大地は割れて

氷は大きく2つに分裂した。兵士たちはしどろもどろで、慌てている様子を見せた。


「ねえねえ見て見て!あの人たち

困ってるよー!僕の英断がいいところで活躍したねー!」


(((まぐれだな)))


3人は揃って塀の隙間から覗き込むように様子を伺いながらそんな言葉を頭の中に浮かべた。


「よし、ファクシー援軍をここで投入する!中央で立ち尽くしているあいつらを攻めるぞ!」


イングラムがスクルドの連絡を入れると

すぐさま彼女は応答した。


〈OK!そこに送り込めばいいのね!

任せてちょうだい!〉


スクルドは意気揚々としていたし

彼女の背後からも轟くように声が聞こえてくる。準備は万端のようだ。


「よし!お願いします!皇女様!」


イングラムがそう叫ぶと、それぞれに分断された氷塊の上空に魔法陣が展開し、そこから降り立ってくるのはファクシー王国のエルフたちだった。


「私たちはファクシー王国!コンラ側に加勢に馳せ参じた次第!タイタニック号に乗ったつもりで安心なさい!」


スクルドは高らかにそう宣言する。コンラ側の兵士たちは士気が上がり、紅蓮の騎士軍側の兵士たちはパニックに陥り始めた。


「さあ行くわよ!盟友に手を出したらどうなるか!思い知らせてあげなさい!」


それぞれの場所にいるファクシー軍は

まるで勝どきをあげるように武器を掲げて

進軍し始めた。

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