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第37話「雷馬と風馬は戦場を駆ける」

「い、イングラム様!」


東軍にて慌てふためいた様子の伝令兵が膝を折りながら報告する。


「どうした?」


「あ、アデルバート様が単騎で敵総大将の元へと向かわれました……!」


「何!?」


思わず驚愕するがイングラムはマナを全快する液体を飲んで周囲を観察する。

彼は僅かな違和感を逃さぬよう意識を集中した。すると、北方向より一騎、全速力で駆け抜けている馬がいた。おそらく、あれがアデルバートだろう。


「……何か作戦があるんだろう。よし、俺はアデルを見つつ周囲を探る。お前は持ち場に戻ってくれ」


「し、しかし……!」


「大丈夫、お前たちの平穏な生活を取り戻してくれた英雄だぞ?信じてやらなくてどうする」


「……は、はい!」


伝令兵は不思議と安心したような表情を浮かべて、持ち場へと戻っていく。


「さて、なぜ敵が減っていないのかわからんが……あいつらは魔術で出来たものの類か?」


鬼気迫る死した敵兵士達。東軍の味方兵士達は変わらず防戦の姿勢を取っている。


「気付いていないのだとすれば、そうだな……少し前に出て派手にやるか?こっちの兵士たちもアデルが突出したことに対して何らかの違和感を感じているはずだ。」


イングラムはそう分析して、隊列を組んでいた兵士達に道を空けるように指示する。


「イングラム様……?一体何を?」


「なに、簡単なことだよ。少し敵の数を減らしておこうという俺なりの配慮だ」


「なるほど、我々のために……!ううっ、感動致す!」


感涙のあまり目頭を抑える兵士。ここで流れては色々と困るので慰めてやる。


「あ、あぁ……ところで伝令兵くん。敵の数は何人に見える?」


「え?ええ……1000人程度でしょうか?」


(やはりそうか、彼らには“視えて”いない!1000とは言ったが、俺にはその3倍近くに見えるぞ!)


実は少しだけ興奮しているのだが、それを顔に出ないように抑えつつも馬を蹴って、こちらに向かってくる霊兵たちを迎撃すべく駆けていく。


純白の大地を駆け抜けていく中で

イングラムは自身が騎乗している馬に問いを投げた。


「へいホース、単刀直入に聞くぞ。俺の紫電を纏うことはできるか?」


馬はその言葉が聞こえているようだった。

そして、言葉を理解しているようにも、

馬は僅かに声を震わせて頭を上下する。

理解した。という意味だろう。


「ありがとう。少し疲れやすくなるぞ!」


イングラムは馬の額に手をやってそこに自身の、紫電のマナを送り込んだ。すると紫電は身体を撫でるように迸り始める。どうやらこの子には適性があったようで心地よいのか高い声で鳴き始めて走り始めていく。


(よし!幽霊に俺のマナが効くかはわからんが、物は試しだ!)


敵進軍の中央へと位置したその時、イングラムは馬を止めて、睥睨する。生気が宿っている者たちと、死気を宿っている者たちを彼はなんとなく感覚で理解する。幽霊とかホラー好きが功を奏したか。


「よし、突撃!」


軽く命令すると、馬は再度嘶きながら

イングラムが放つ紫電を浴びて別の馬へと体型を変化させた。滅私と黒を織り交ぜたような美しい体毛と筋骨隆々とした逞しい四肢は紫電を全身に迸らせて、それを軽装のように頭部と4本の脚に纏い額にはユニコーンのように立派な1本角が生成されていた。


「スピードがさっきよりも上がっている……!マナは他の動物の性能も上げるのか!さしずめ見た目は雷馬と言ったところかな?」


馬が脚で大地を駆けると同時に足跡には

熱量を帯びた電撃が残る。それだけ高い質の紫電を、イングラムは生成出来るようになっていた。


霊兵も負けず劣らず、周囲を囲まれたとて

雷馬は嘶きながら紫電を周辺にばら撒く。

霊兵もこれには耐えきれないようで、魂ごと雲散霧消の如く跡形もなく焼失していく。


「アデルは突出しているか、ならルークにこのことを伝えねば……!」


電子媒体を開くと、ノイズとエラー表示がされているが、馬が嘶くとそれは解消された。


「おい!ルーク!聞こえるか!」


〈うおっ!?繋がった!?イングラムくん!アデルが敵の中に突っ込んで————!〉


どうやら相手側のノイズも解消するらしい。イングラムのマナが成長している証なのだろうか。詳しくはわからないが、これを活用しない手はない。


「わかってる!ルーク、お前の風のマナを今乗ってる馬に軽く注いでやれ!特性的に風を纏って突撃出来るはずだ!」


〈は、はい!?言ってる意味がよくわからないんだけども!〉


「いいから感覚でやってみろ!俺は出来た!」


〈いや、だから意味が————〉


またノイズが走って、せっかくの連絡が途絶えてしまった。どうやらアンチジャミングの効果は一時的なものだったようだが、伝えるべきことは伝えることができた。

これで押し返す程度のことはできるようになったはずだ。


「あ、幽霊みたいな奴らがいることを伝え忘れた。いや、逆に知らない方が萎縮しないでいいかも?」


ルークが怖いものを嫌うと知っているから

もしかしたらイングラムは無意識に配慮したのかも知れなかった。






「よぉし、ぶっつけ本番!やってみるか!

お馬さん!俺の力を貸すよ!」


馬は疑問符を浮かべて首を傾げているが

この子もどうやら人語を理解することができるタイプのようだった。黒緑色の綺麗な体毛をしている。


ルークはマナを集約させた右手を馬の鼻の上に乗せた。すると馬の体型がスリムなものとなり、両前足には風の蹄のようなものが出現し、額には先程と同じくマナによる1本角が生えた。


「うおっ!?出来た!?」


「る、ルーク様!?馬の形が変わりましたが!?」


「知らないよ!!うわっ!道を空けてみんな!この子なんか走りたがってる!!」


上機嫌にでもなったのか、馬は急に嘶いて

風を纏いながら駆けて行った。それを見た兵士たちは驚きのあまり開いた口が塞がらなかった。


「速い!赤兎馬より速いんじゃないかな

この子!」


かの鬼神呂布が乗りこなした名馬が千里を駆けるのなら、この馬はその倍は駆けることが出来るだろう。それだけ、速いのだ。


(それにしても、自分にマナを注ぎ込んで強化は出来ないのか、もしかして俺の経験値が足りていないだけなのかも)


まあいいか、と思考を切り替えなが生者と死者の入り混じる軍勢の中でその神速の如き刃を振るう。それはまるで人の形を成した嵐のようだ。全てを空に巻き上げて、死者を天に昇らせていく。





「うおお!イングラム様!ルーク様!

流石だ!凄いぞぉ!」

 

大将が突出した北軍では歓声が沸き上がっていた。兵士たちは武器を掲げていて、士気は自然と上がっていた。


「我々は部隊長の与えてくださった役割に順ずる!皆は防衛兵は防御の構え!弓兵隊は敵をすぐ射抜けるように空に矢を向けておけ!!そして見ろ!あれが一騎当千の戦士の力だ!我々の負担を減らすべく、皆様が戦っておられるのだ!」


「「おおおっーーーーー!!!!!」」


「なればこそ!我々は全うせねばならん!

この国を守るために!」


伝令兵の熱い一言が、兵士たちの闘志に火と油を注いだのだった。





アデルバートは馬を駆り、純白の大地を駆け抜けていた。身体を優しく撫でるように

冷たい風が通り過ぎていく。それがなんだか心地が良くて、思わず鼻で笑ってしまった。


(あいつら、臆するどころか攻める気になってやがるとは、ふたりともうまくやってくれたらしい)


思いを馳せながら、彼は敵総大将の目前に迫る。意を決して、アデルバートは馬と共に上空を飛んで、リオウに双刃を振り下ろした。


「コンラの参謀と見受ける。名を名乗れ」


その腰の鞘の剣で一撃を防ぎ、アデルバートを睥睨する。


「アデルバート・マクレイン……ただのマナ使いだ!!」


臆することなく返答する青き戦士に

リオウは思わず口角を上げて笑い、攻撃を跳ね返す。


「お前が貴族殺しの……そうか、久々の強き者だ」


信念の篭る強い一撃を己の剣に受けて

感じた言葉を口にする。


「はっ、そりゃあどうもぉっ!!!」


騎乗している状態での打ち合い。生者も死者も割り込むことなどできない。そんなことをしてしまえば、剣に巻き込まれて死んでしまうし、マナを帯びているあのナイフに触れれば霊兵として活動できなくなるからだ。


重々しくも軽やかに振るわれる剣を双つの刃で受け流すよう軌道を逸らしていく。金属と金属が激しくぶつかり合いながらお互いは攻めの手を決して緩めない。嘶く馬達、それをも想定し相手の一撃を予測して受け流す。


「おいリオウ、さっき俺はお前の質問に答えた。なら俺の質問にも答えやがれ」


「ふむ、よかろう。答えてやる」


未だに激しい剣撃の最中でなんとも穏やかな会話が紡がれる。


「お前、これまで幾つもの国を滅ぼしたな?女子供まで巻き込んで!」


「……抵抗する兵士はやむなく手をかけたが、俺は子供まで殺せとは命じていない。

未来ある幼子を斬るなど、出来るはずもないし、部下にさせることでもない!」


怒号混じりに放たれる黒き剣は垂直に振るわれる。アデルバートはその一撃を防いで馬から降りた。リオウもそれを見て、馬から降り立ってアデルバートを見やる。


(子供に対しては寛大なのか?そもそもなぜこいつは國を滅ぼしているんだ?)


アデルバートはリオウに対してそんな疑問を持ち始めた。そして、ふたつのナイフにマナを注ぎ込んで刀身を伸ばしていく。コンラの環境の影響か、刃は凍りついて、やがてそれは日本刀のように鋭利なものとなった。


「アデルバート・マクレイン。ここは戦場だ。言葉ではなく、己が武器で語り合うべきだろう、違うか?」


「あぁ、そうだな。お前のいう通りだ。

さあて、第二ラウンド始めようか!」

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