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第30話「迫る脅威」

ここはコンラの中央にそびえ立つ白銀の城

場内には氷で作られた装飾品などがあり

玉座までの道には、左右に十騎ずつ

無人の氷の騎士が立っている。


「国王……アデルバート・マクレイン

戻ったぞ」


「お、戻ったかいアデルバート!

……ん?どうしたい?そんな血相変えて

いつもの君らしくない」


雪でできた白銀の玉座に座っているのは

この国を治める王、クー・オイフェである。女性的な身体つきと声ではあるが

あれでも立派な男性王なのだとアデルバートは言う。


「雪花蝶がコンラの森を飛んでいた。

この国で凶事が起きる可能性がある」


「ええっ!?ど、どどど……どうしよう!

アデルバート!それ以外に何か情報はないのかい!?」


「ない!」


「ええっ!?」


腕を組みながらアデルバートはそう言い切った。しかし、開口一番からずぅっとタメ口である。


「お、おい……王の御前なのだし、その口調はどうかと思うぞ……」


「あー、イングラムくん。別にいいんだ。僕が無理くりにでも家庭教師を頼んだんだからそれくらいは多めに見てるんだよ」


気にしない気にしないといいながら王ははっはっと笑う。アデルバートを信頼しているようだし、彼、彼女?自身の器も大きそうだ。


「いや、笑い事じゃねえぜ。さっさと対策しねえと、後からじゃ国が滅ぶかも知れん」


深刻な表情のアデルバートとは対照的に

王は問題を解く子供のような顔を浮かべていた。そして————


「んー、じゃあ占い師呼ぶ?百発百中のさ」


「占い師ぃ?そんなのがいたのかよ」


聞いてねえぞと付け足してデカイため息を吐く。


「いたいた!君を家庭教師にしろって言ったのもその人だよ!」


アデルバートは小さく舌打ちした。

おそらく“そいつのせいか”とでも思っているのだろうか、あとで暗殺しそうで怖い。


「ねぇ執事ぃ?あの占い師さん今日来てるかな?」


執事は再びどこからともなく現れて、王に耳打ちした。


「えーっ、いないのぉー!?参ったなぁ」


国家試験に筆記用具を忘れた生徒のような表情を浮かべて顔を両手で覆った。


「んぁー!コンラが滅んでしまう〜!」


頭を抱えて声を上げてどうしようと叫ぶ。

王は基本冷静沈着なのだが…この姿は王にあるまじきものであった。


「はぁ……、早朝、朝、昼、夕方と部隊を編成してこの城の屋上で見張るしかねえだろ。夜と深夜は吹雪くから出るわけには行かねえし」


「う、うん……それもそうだ。それじゃあアデルバート!部隊編成は頼んだよ!私は先程まで激務だったのでね!お昼寝する!」


「はぁっ!?」


「イングラムくんにも、悪いんだけど彼を手伝ってあげてくれると嬉しいなぁー!」


「は、はぁ……」


この国のことに関しては全く知らないことだらけだが、この国の王に関しては

一つだけわかったことがある。


(ポンコツ王だな)


「おいっ!ふざけんな!俺が言うよりお前が言った方がみんな集まるだろうが!それに、新参者の俺の言葉に兵士たちが耳を貸すとでも思ってんのか!?」


「えー、君は貴族殺しの英雄だって民たちが口を揃えて言ってるんだよ?君が!君から!言った方が私はいいと思うなー」


「“民達は”だろうが!兵士と民は別物だって教えたはずだぞ!」


アデルバートの怒涛の言葉責めにも

だらーんとした図体を見せて言い返すポンコツ王。


「兵士の中に元民だった子のひとりやふたりくらいいるさー。君に助けてもらった人だっているさー」


「……」


呆れて物言えぬアデルバートはもはやため息を吐くしかなくなった。


「……王様、本日中には執り行いますゆえ

今一度休息させてもらえませんか?私用で疲れてしまいまして……」


えぇー、というような表情を浮かべて

オイフェ王はうーんと考え始める。


「この国の皆を助けるためです。勝手だとは理解していますが、どうかしばらく時間をください」


「しょーがないなー」


ほれしっし、と手を手の甲を前へ突き出して前後へスナップするように動かしている。


「このっ……」


「アデル、ステイステイ。今はストレスを溜める時じゃない!」


後ろから羽交い締めにしてアデルバートの自由を制限する。いや、アデルなら足先から水圧光弾を発射して仕留めかねない。


「足をバタつかせるな!マナを放出するな!やめろ!」


ズリズリと引きずるようにぷっつんとキレそうなアデルバートを連れて行く。

そんはポンコツ王はと言うと大欠伸をして

玉座にて眠ってしまった。





イングラムは怒号を吐き出しかねないアデルバートをすぐさまセリアのいる病院へと連れて行った。氷のように冷静な男の頭が火山のように噴火してしまっては部隊編成も何も出来なくなくなってしまう。


「お帰りなさいませ、アデル様。イングラム様。念の為電子媒体にもご一報を入れておきましたが、ルーク様が目を覚まされましたよ」


「あぁ、見たぜ。よくやってくれた。」


(……あれ?さっきまでの真っ赤な顔はどこへ?)


セリアのいる部屋まで荒げる声を必死に抑えて赤鬼のように真っ赤な顔をしていたアデルバートが、部屋に入った途端にいつもの顔に戻っていたのだ。


「……?あの、イングラム様?」


「いえ、ルークは今どこへ?」


「ルーク様なら隣の安静室にいますよ。

リルル様たちもそちらに」


セリアに案内されるように隣の安政室に移動する。そこには、落ち着いた呼吸のルークが安心したように眠っている。リルルは、ドードーリアンと戯れていた。


「あ、騎士様!蒼髪様!お帰りなさい!」


「あぁ、ただいまリルル」


イングラムは小走りで駆け寄って彼女と目線を合わせて、頭を撫でてやる。


「よく待っていられたな、偉いぞ。」


「えへへー、ドードーリアンさんと遊んだり、セリアお姉ちゃんがお話ししてくれたから寂しくなかったよ!」


やはりリルルは強い。慣れない環境で、知らない人ともすぐ打ち解けてここに馴染もうとしている。


「そうか……よかったなリルル。お姉ちゃんともドードーリアンともお友達になれて」


「うん!!」


微笑ましい光景を入り口付近から眺めているアデルバートとセリア

そして————


「アデル様、おやすみできる部屋は既に用意してあります。いつでもお申し付けください。」


「助かる。イングラムはきっとリルルの側に付くだろうから、セリアも今のうちに休んでおけ」


セリアは驚きの表情を浮かべてアデルバートを見る。彼はただ真っ直ぐに2人を眺めて呟いた。


「……セリア、俺はあいつらがここにきたのは偶然じゃないと思ってる。そして、お前に最初に会った時もな」


「アデル様……?」


今度は不思議そうにアデルバートの顔を見上げた。何故今更そんなことを言うのだろうと得体の知れない何かがセリアの中で心臓のように脈を打ち始める。


「この戦いが終わったら、俺はこの国を出てあいつらと一緒にレオンを探したい」


「……アデル様!それでは契約に違反します。皆様が危険に————」


「大丈夫、既に手は考えてある。それにはセリアの協力も必要だ、手を貸してくれるか?」


アデルバートの眼差しは真剣そのものだ。

彼は本気で、レオンを助けたいと思っている。2年も側で仕えてきたセリアにもその意思は伝わってきた。


「もちろんですアデル様。私は、あなたに助けられた時からどこまでもついていくと誓っています」


助けてもらったあの頃から、彼女の命はアデルバートの物になっている。共についていかないことなどありえない。


「よし、じゃあ用意してもらいたいものをひとつ」


右手人差し指を立ててセリアにお願いする。


「……?何でしょう?」


疑問符を浮かべながら首を傾げる。

その物とは————


「髪の毛くれ」


「?????あの、なぜ髪の毛を?」


「出来れば毛根ついてるやつで」


「もっとこう、希少なものかと思ったのですが……わかりました。」


セリアは少し距離を置いてお辞儀をするポーズを取ったまま制止した。


「どうぞ」


ちょんちょんと自分の髪を指差すセリア。


「……えぇ、俺が取るのかよ」


それに困惑するアデルバート。頭部を覗き込むようにして、摘むように二本の指を使い、質の良いものを見極める。


(ふ〜む……これだっ!えいっ!)


直感でセリアの髪をプチっと一本抜き取る。葵色の綺麗な毛が明かりに照らされる。


(……綺麗な髪だ、相変わらず)


目を細めて眺めているアデルバートを横に

ちょっと痛そうに髪を押さえるセリア。

その一部始終を、目を覚ましたルークは見ていた。


(……?????)


なんで髪の毛を取っているのか彼にも理解できなかった。考慮することを放棄して声を出す。気付いてもらえるように


「あー、おはようみんなぁ」


「ルーク!」


「剣士様!」


「……うん、ふたりともおはよう。迷惑かけたね。そして久しぶり、アデル」


「おう、ようやく目を覚ましたか。普段欠伸すらしないやつがよくもまあぐっすりと眠っていたもんだぜ」


頭の中では起き上がっているつもりなのに

肝心の身体に力が中々入らない。たった3日で、全身の筋肉は衰えてしまうのだ。


「あの……起き上がれないので誰か手伝って下さいません?」


「手伝おう」


イングラムが率先してルークの側に立ち

背中を優しく押し上げて後ろへ倒れ込まないように支えながらベッドから起こしてやる。


「ありがとう、助かったよ」


軽く会釈して全員を見つめる。


「ルーク様、しばらくはリハビリが必要ですね。まずは筋力を通常に戻さなくてはなりません。」


「はいっ!頑張らせていただきますぅ!

ところでそのリハビリっていうのはセリアさんがパートナーでございますでしょうか?ヤル気がもりもり湧いてきましたぞ〜!!」


「残念、俺だ」


意気揚々、素晴らしく興奮していたルークの闘志に氷を溶かした水を注ぐようにアデルバートが手を上げながらもの凄く低い声で言い切った。


「あ、え……はい……」


「なんだぁ?テメェ……」


ものすごく残念そうな反応に対してものすごく怖そうな表情で呟いた。それを聞かせないように、(怖がらないように)イングラムは事前にリルルの両耳を両手で塞いでいた。


「お食事などは私がお持ちしますから……

病院食ですけど……」


「全然大丈夫ですっ!!!!!

あと出来れば食べさせてもらえると元気になるのが早くなりますので前向きな検討をですね──」


(こいつ、もう一度眠らせた方がいいんじゃねえのか?)


(ルークはセリアさんのような女性がタイプなのか……ふぅん)


手をコキコキと鳴らすアデルバートと目をパチパチさせながらそんなことを思うイングラム両名であった。

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