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第28話「ストロングベリーを探せ!」

翌朝の午前9時。アデルバートはイングラムが泊まっている病院に顔を出した。


「迎えにきた。さっさと行くぞ」


「ひっ」


開口一番に声を出したのはリルルだった。出したことのないような声をあげる。


「あ?」


凄まじい視線に凄まじい重圧感に凄まじい悪寒がリルルを包み込む。


「き、騎士様……怖いよぉ……」


鎧をぎゅっと強く握りゆさゆさと眠っているイングラムを揺らす。


「おい」


「騎士様ぁ!!!」


呼ばれている騎士様、まだ頭の上に無数のZが浮かんでいる。リルルは嗚咽混じりの声を出して

ぶんぶん揺する、さらに揺する。


「お前、リルルだったか?」


「ひゃいっ!?」


あまりにビビりすぎてもはや元の声がどんなだったかも忘れて涙が目に溜まる


「怖がんじゃねえ、俺はイングラムの友達だ。よろしくな」


アデルバートは握り拳をリルルの目線まで持ってきて、ぱっ、と手を開く。包み紙に入った美味しいキャンディと小さなオレンジ色の花だ。


それを見たリルルは頬を赤くしてわぁと驚く。


「俺の名前はアデルバート。アデルでいい。イングラム借りてっていいか?」


ふりふりと首を横に振る。ドラゴンさんは専用の治療室に移動してしまったし、セリアはルークの経過観察に行っている。このままではひとりになってしまう。


「……そうだなぁ、じゃあこうしよう。俺のお友達をお前に貸してやる。物々交換だ」


アデルバートは後ろに回していた左腕を見せて、その掌から小さな三つ首のドードーが出てきた。


「わぁっ!可愛い!」


「ドードリアンって言うんだ。お留守番してる間、仲良くしてくれるいい子だぞ」


「ほんと……?」


アデルバートは腰を下ろして頭を撫でて優しく言ってやる。


「あぁ、本当だ。お前の騎士様に誓ってな」


その言葉に、嘘はないとリルルは無意識に感じ取って、その小さな両手でドードリアンをなでなでする。


クエっ!と大きな声を上げて頬擦りするドードリアン。


「喜んでるな。おめでとう、お友達になれたぞ」


アデルバートはそう言うと、リルルの手の平に自分の掌を近づけて、ドードリアンが飛ぶのを待った。


「わぁっ……!」


ピョン、と飛び乗ってクエクエっと声を上げて喜んでいる。


「よし、飛び乗ったか。リルル、その子を頼んだぞ」


「うん!わかった!蒼髪様!」


不意に笑みが溢れるが、マスクのおかげで

バレることはなかった。リルルの側で寝息を立てているイングラムの首根っこを引っ張りながら、背を向けてその身体を床に引き摺り始める。


「あ、あの蒼髪様……それはちょっと……」


「気にするな、元からこういう仲だ」


ズリズリと引き摺りながら病室をあとにするアデルバート。そしてそれをポカンと見つめるリルル病院には小さな小さな鳴き声だけが聞こえた。






アデルバートは国の中で一番冷たい水が汲める池にやってきていた。そして、イングラムをそこにはったおすと、アデルバートは両手を池の上に伸ばして呟き始める。


「この国の清らかなる冷水よ。我が友の目覚めの一端となりたまえそぉいっ!」


膨大な量の水をマナですくい上げてそれをイングラムに向けて放り投げた。


「ぐあっ!?」


「おう、目覚めたか」


「こ、ここは……?俺は病院にいたはずだぞ?」


「起きねえから引っ張ってきた。どうだ、気分は」


イングラムは不機嫌そうに髪の毛を掻き回して深々と溜息をついた。


「これが心地よい目覚めに見えるか?」


「いいや?寧ろ最悪だろうな。だが、今は時間がねえ、ルークを助けるためだ。今日くらいは我慢してくれ」


そう言われて、怒る気力より起きる気を起こしたイングラムは立ち上がって全身の塵を払う。


「さて、アデル。そのストロングベリーはどんな形をしてる?サイズはどれくらいだ?」


「マッチョマンの握り拳みたいな形をしてて、大きさは握り拳くらいだな。」


「……???」


イングラムは思考を放棄した。マッチョマンの握り拳なんて言われてもわかるわけがない。

どんなフルーツだよ!くらいにしか思わなかった。


「まあ、探すにはかなりの根気と気力がいる。地面に生える時もあるし、木の枝に実る時もある。手間取るぜこれは」


「あ、あぁ……とりあえずそのストロングベリーの画像はないのか?参考にしたいんだが」


今度はアデルバートが困った顔を浮かべる。

名前を言ったのだから見たこともあるはずだし、実食もしたこともあるはずだ。


「いや、実は俺も聞いたことがあるだけでな。実際に使ったことがあるのはセリアだけなんだ……」


「————」


「………」


絶句のイングラムと黙り込むアデルバート。

セリアを呼びに行こうとも思ったが、

時間が無駄になるし、今のルークには彼女がついていなければ症状が進行してしまうらしい。それだけは避けねばならない。


「見たこともない?」


「文字媒体の本でしかない」


「あぁ……そう」


思わず顔で手を覆って哀しそうな顔を浮かべるイングラム。アデルバートはそんなことを気にせずにズカズカと歩き始めていく。


「おい、アテはあるのか?」


「所感だがあるにはある」


アデルバートは地面に両手をつけて何やら詠唱し始めた。


「我が身に宿し水よ、友を救うストロングベリーの道標を作りたまえ」


すると、一筋の青い糸のような線が一本

現れて、蛇のように雪の大地を這っていく


「よし、どうにかなるかもしれんぞ!」


イングラムはガッツポーズをし

アデルバートは額に冷や汗をかいていた。


「……はぁ、はぁ、こうも広いとマナを拡大するのも一苦労だぜ……はぁ、はぁ……」


全速力で走った後のように息を荒くしながら

アデルバートは同じ動作を続けている。


「……い、イングラム、俺のことはいい。早くストロングベリーを探してこい」


「いや、俺それを見たことがないから探しようがないんだが」


「……ちっ、仕方ねえな。むんっ!」


舌打ちをしながら片手だけを地面につけたまま

アデルバートは何やら印を結び始めた。


「雪分身の術!」


そう叫ぶと、イングラムの隣に煙があがり

そこからもう1人のアデルバートが出現した。


「ええっ……なにそれ」


思わず素の本音が口から漏れてしまったが

アデルバートはそんなことは気にしていないようで


「雪分身の術だって言ったろ。ほら、俺の分身と探しに行ってこい。俺は糸の筋を維持するのに忙しいんでな!声かけんなよ!」


「あぁ、うん……」


もうなにがなんだかわからないが、彼が忍者の末裔なのではと思い始めたイングラムなのであった。





雪の森を散策し始めて1時間が経った。陽が出ているおかげで寒さは緩和されている。イングラムは分身とともに青い筋を頼りに雪をかき分けていた。


「くっ……進めば進むほど足を取られていくな。不思議な地形だ……」


分身は答えない。寡黙なだけなのか喋れないだけなのかはわからないが


「なぁ、分身さんアデルは無事なのか?」


分身は腕を組みながらイングラムを睥睨する。


「なんでだよ」


フリフリと手を振って否定する。

どうやらイングラムを睨んでいたわけではないようだ。


「無事ではない、と?マナが尽きかけているのか!?」


それも違う、と分身は否定する。じゃあなんなのだと問いただそうとした瞬間に、何やらシュルシュルと怪しげな音が自身の背後から聞こえてきた。


アデルバートの分身は焦った表情で背中を指差す。急げ急げと急かしているようにも見えた。


「全く、なんなんだ一体————」


巨大な白い蛇。アルビノ色素の蛇だ。

体長は5メートル程度、犬歯がサーベルタイガーのように発達していて、そこからは白い液体が垂れ出ている。


「おおっ!蛇だ!」


歓喜したのも束の間、白蛇の白い液体がイングラムの肩を保護する鎧に滴り落ちたのだ。


「あっつ!?」


鉄を熱で溶かしているかのような音と見た目に反して超高温の酸、そして二本の犬歯と青い舌が特徴のこの白蛇はアデルバートの分身を尾で弾き飛ばすと改めてイングラムを睥睨し威嚇するように咆哮した。そして、彼は見た。この蛇の背中には、何かのフルーツが生えている。


「ほう、もしやストロングベリーを主食にしているのか?ちょうどいい、身体をほぐす運動相手になってもらおう、なんなら俺に飼われてもいいぞ!養育費は要相談だがな!」


拒否する!と返すかのように蛇はシャーと口を開けて威嚇した。なんとなく察してしまったイングラムは少し落胆しながらも槍を構える。


「やれやれ、この世界は楽しみに満ちているな……!」


しかしながら、彼の口角は不思議と上がっていたのだった。





「ドードーリアンさん、ご飯食べた?」


病院の個室で、リルルは小さなお友達と

会話していた。人差し指で優しく頭を撫でてやると、嬉しそうにクエクエと鳴いている。


「えへへ、そっかぁ、お腹いっぱいなんだね」


ドードリアンは彼女に懐いたらしい。頭を擦り付けてマーキングらしき行為をしている。


「私ね、独りじゃなくなったよ。騎士様も剣士様も、蒼髪様もセリアお姉ちゃんもみんないるの」


微笑みながらそう語りかける。


「でも————」


クエっ?とドードリアンは首を傾げ頭に疑問符を浮かべる。


「なんでかな…、私ね。“楽しいな”って、感じられなくなっちゃったみたい」


哀愁漂う笑顔を見せながら?優しくドードリアンにそう言い聞かせた。人の言葉を理解しているのかはわからないがドードリアンは頬をすりすりしてリルルに甘えた。

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