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第226話「それぞれの目的へ」

「大魔女リディアだと?知らねえな」


アデルバートはその魔女の名を聞かされても首を傾げた。魔帝都での歴史の授業でも、彼女の名前ひとつも聞いたことがないのだから無理もない。


「無理もないわよ、今では彼女に関する情報は全て規制されてしまっていて知る事も出来ないもの」


「で、なんでそんな西暦の魔女の書籍が必要なんだ?」


「彼女はマナ使いの祖とも言える存在よ。

その一部には、あらゆるマナについて詳細に触れられている。

あなた達のマナの練度もきっとそれで高める事が出来るはず……けど、それは副次的なもの。

本命は、オーディン様を戦闘可能の状態にまで回復させることなの」


「さっきも言っていたな?」


北欧神話最高の神と称されるオーディン──


彼の神は今消滅の危機に瀕しており、それを帳消しにするには宇宙のマナのひとつである光のマナが必要なのだという。


「無論オーディン様だけではないわ。

トール様や、そのご子息様達の回復も光のマナの力が必要なの」


「それが地上にある、ということか。

そして憎たらしくも、その情報があるというのが俺達の嫌悪する魔帝都とはな……」


アデルバートの表情が怒りに染まる。

スクルドは申し訳なさそうに思いながらも彼の冷静を欠かすことのないように慎重に言動を選んだ。


「ファティマ皇族の跡地と魔帝都への侵入……捜索する連中を二手に分けた方が良いわね」


アデルバートは何度も舌打ちする。魔帝都が余程嫌な場所なのだとスクルドは嫌でも認識させられる。


「どちらのルートもあなた達人間にしか入ることが出来ないように仕組まれているらしいの。お願いね、アデル」


「わかりましたぁ!スクルド様ぁ!」


明らかに声色の明るい声が響く。


風のマナを操るルークのものだった。


彼は勢いよくむくりと起き上がり

爽やかな表情で微笑む。


「起きたか、で、どこから話を聞いていた?」


「うん?ああ、オーディン様の維持がどうのこうのって……」


「最初からじゃねえか!

だったらさっさと目を覚まして聞きやがれってんだこの野郎!」


目覚めた直後にヘッドロック。

ルークはギブギブとアデルバートの二の腕にタップするが、その威力はなお増した。


「いでででで!!!

ギブアップ!ギブアップだって!」


「おい、他の奴らも起きてんじゃねえだろうな!起きてんならさっさと身体を起こせ!」


苛立ちを表情に孕ませながら、仰向けに横になっているルシウスとベルフェルクに怒声を吐き捨てる。


「あ、アデル……乱暴なのねぇ。

ほら、早く目を覚ました方がいいわよ」


残りの2人の目覚めを信じて、というかとばっちりを受けないように、スクルドは彼らの心臓に手を当て、より強力な治癒魔法を身体に施した。

そのタイミングを見計らって、ルシウスとベルフェルクが目を覚ます。


「女神さんがそばに居るとはな。

悪くない目覚めだ」


「おはようございます。

スクルド様。貴方の治療のおかげで目が覚めました」


ベルフェルクに続き、ルシウスも目を覚ます。そしてタイミングよく、安倍晴明やソフィア達が合流した。

スクルドはアデルバートがエルフィーネに聞こえるように無線を通すと、その場でここで起きたことを詳細に話し、自身の頼み事を伝えた。


◇◇◇


「……と、いうことなの。

私的なお願いだというのは重々承知しているけれど、どうかお願いするわ」


「では、魔帝都への潜入は僕とルーク君でやり遂げます。

アデル君とベルフェルク君はファティマ皇族の跡地をお願い出来るかな?」


ルシウスが判断し、2人へ振り向く。

ベルフェルクは不満そうだった。


「貴様らとつるむくらいなら1人で潜入した方がマシだ。俺は1人でやるぞ」


過去のしがらみからか、ベルフェルクはやはりそう言葉を紡いだ。

アデルバートはベルフェルクの胸倉を掴み身体を持ち上げる。


「いい加減にしろテメェ、いつまで過去のしがらみに囚われてるつもりだ」


「また殺されかけたいのか?

今すぐそうしてやってもいいんだぞ!」


「2人とも、やめなさいよ」


セリアとソフィアが間に割って入り

仲裁する。2人はなおも火花を散らし続けるが、ルシウスはそれを放置してスクルドへ提案する。

それを聞いた彼女は、少し思案すると自身の考えを述べた。


「2人だけでは少し心許ない気がするわね。

魔帝都への侵入へは、もう少し増やした方がいい気もするわ……」


「ふん、ファティマ皇族の跡地へは俺とセリアで行く。生まれた場所なら、なんらかの仕掛けがされていてもおかしくないだろうしな」


「私もついて行くわ、跡地だなんて

面白そうだもの。イングラムへのいい土産話にもなりそうだし」


ソフィアが名乗りを上げ、ベルフェルクの腕を掴み、無理やり挙手させた。


どうやら強制的に連れて行くらしい。


「おい離せ!何故俺まで参加しないといけないんだ!ふざけるな!」


「なら、僕とルーク君、レベッカさんとエルフィーネで魔帝都へ潜入しようか。僕は私用で行く予定だったし……」


「学校かぁ……この歳になるまで行ったことがないから、少し楽しみかも……!」


「う、あそこへ行くのかぁ。

嫌だけど仕方ない」


レベッカとルークの幼馴染コンビは

それぞれ正反対の反応を示している。


「ありがとうみんな、それじゃあ

よろしく頼むわね。

この対価は必ず恩で報いるから」


「連絡はどうすればいい?

電子媒体に信号を送ればいいのか?」


「ええ、そうしてくれると助かるわ」


スクルドは優しそうに笑うと、ヴェルザンディを抱えてソラリスへと消えていった。


「で、陰陽師さんはどうするの?」


「俺はジャックを追うことにする。

アイツはクソッタレ変態どすけべ野郎だからな。俺達が封印しねえとな……」


安倍晴明は蘆屋道満を封印した式神を弄りながらそう答える。

彼は大型の白い狐、コンコンを呼び出して背中に跨った。


「見かけたら教えてくれ。

アンタらの電子媒体に名刺送っといたから」


「陰陽師果汁農園代表取締役社長……?」


女性陣全員の電子媒体には届いている。


が━━━━━━


「おい、届いてねえぞ」


男性陣には届いていないらしい。


「あ?どうせ同じチームで行動すんだから、お前らにゃ必要ねえだろ?」


「あぁ?

最近のビジネスマンはろくにマナーも守れないらしいな?」


アデルバートと安倍晴明がバチバチに火花を散らす。


「くだらん……さっさと互いの目的の為に動いた方が吉だろう。時間はないんだ」


ベルフェルクは悪態を吐きながら、飛行船プリンツ・オイゲンのある方向へと身体を向けた。


「助けていただいてありがとうございました。安倍晴明様」


「おう、元気でな皇女様。

いつかまた会おうぜ」


セリアはきちんと頭を下げると

安倍晴明は臣下のように振る舞うと、女性陣に手を振りながら空の彼方へと飛んでいった。


アデルバートはシュラウドを抱き抱えると、セリアに「行くぞ」と催促する。


「かしこまりました。

アデル様」


ルーク達は重量の重いユーゼフを必死に引きずり、遅れながらプリンツ・オイゲンの中へと戻っていった。


「おい、スクルド」


「なあに、ベルフェルク」


2人きりとなった途端、腕を組んでいたベルフェルクはスクルドに視線を投げた。そこには敵意も無い、明確な疑問が孕んでいた。


「大魔女リディアの話だ。その書物がなぜ魔帝都にある……?

なぜそこにあると“アンタが知っている?”

わかっていることがあるなら、俺に教えてくれ」


「……その情報、実は匿名でこちらに流れてきたものなの」


「偽情報、或いは邪神どもの策略の可能性とは考えなかったのか?」


「その痕跡はなかった、内容も真実味を帯びていたわ。

そして、根拠も──」


腕を組んだまま、あらゆる可能性を思考するベルフェルクだが、結論を出せるだけの情報が少なすぎた。


「何者なんだ……あんたたちにコンタクトを取れる人間は」


「……アナタの筆跡よく似ていた。

けど、わかるのはそれだけ」


「俺の筆跡……?

調べてみる必要があるな」


◇◇◇


シュラウドを医療室へ運んだ全員は、操縦室にて改めて集合した。


「よし、それじゃあ改めて確認だ。

これからそれぞれの目的地へ向けて移動する。

俺とセリア、ソフィアとベルフェルクはファティマ皇族の跡地へ向かう」


「僕とルーク君、レベッカさんとエルフィーネは書類を見つける為に魔帝都へ行く。

僕以外は新入生として行動してもらうよ。

ルーク君、知り合いに会ってもあくまで初対面のフリをするんだ。いいね?」


「それは構わないけど、入帝届は出してあるの?ましてや3人分なんて……」


「そこに関しては僕に考えがあるんだ。

魔帝都に到着したら伝えるよ」


と、ここで両手をあげて主張をする女の子が1人いた。


「はい、はーい!

剣士様、弓兵様、私もがっこーへ行きたい!

行ってみたーい!」


「リルルちゃん、僕達は魔帝都へ遊びに行くんじゃないんだよ。君も危ない目に遭うかもしれない。怪我を負って痛い思いをしたくはないだろう?」


遠足へ行くテンションでそう述べる

リルルに、ルシウスは厳しい現実を優しい言動で突きつける。


「それでも行きたい!

私だけお留守番してても、みんな不安になるでしょ?やっぱり連れていけば良かったって後悔しても遅いんだよ?」


リルルの言う通り、戦う者達がいなくなったこの船内で、敵がそれを好機と判断して襲ってきて、人質として利用されてしまう可能性も充分にあり得る。


イングラムと共に行動してきた期間の長さの影響なのだろうか、妙に説得力ある発言にルシウスは困惑する。


「フッ……痛いとこを突かれたな?」


「人質にされるよりは、俺達が守った方がいいだろう。

リルル、いい子に出来ると約束出来るかい?」


「善処する〜!」


約束は出来ない、とリルルは幼いながらにしてそう述べた。

一体誰がそんな言葉を教えたのだろう。

自然にどこかの映画やドラマで吸収するのだろうか。


「子供を連れ回すのは不得手だから助かるわ。みんな頑張ってね?」


「私も私も!おばさんと一緒じゃなくてよかったぁ!」


ソフィアの中の何かがキレた。

赤いオーラを纏わせながら、シワを寄せ微笑んでいる。


「誰がおばさんだって?」


距離を詰め、ゆっくりと腰を屈めながらリルルの頭をガシッと掴む。

しかしリルルはそれに動じず、微笑みながら指を指した。


「目の前にいるじゃない?」


怒りに満ちたソフィアのシワを指を指す。

浮き出た血管の感触を楽しんでいる。


「このガキぃ!」


「わぁ!年増が怒ったぁ!」


阿修羅の表情を浮かべながらとっ捕まえようとするソフィアの横をすり抜け、更に煽り散らかして行く。


「やかましいっ!!!

気が散るからそこで大人しくお煎餅でも食ってやがれ!!!」


怒号を飛ばしたアデルバート以外は皆苦笑しつつも目的地の中間地点に着くまでそれぞれの持ち場へと戻っていった。

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