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第213話「赤と黒の衝突」

「貴殿ら、どういうつもりだ!

リオウ殿は待機を命じておられたはずだ!」


シュラウド・レーヴェンハイトは

血の匂いにまみれた玉座の間にて

鉤鎌刀を呪術師于吉と仮面の魔術師に突きつけていた。


両名はそれに臆することもなく、不敵に笑いながらお互いを見やっている。


「どういうつもり……?

知れたこと、我が契約者の身が危ないとあらば駆けつけるのが道理じゃろうて……のう?魔術師殿?」


「左様、貴君がここで命を散らせば

抱いていた夢は儚く消え去ってしまう。そんなことになれば、我々が手を結んだ意味がない」


リオウは2人の言葉に疑問を抱く。

一対一の戦いで、リオウが敗れる確率はゼロに等しかった。


伏兵はシュラウドが蹴散らし、そしてこの国の最強たる戦士はリオウが追い詰め、抵抗する為の剣をも弾いた。危機と言葉にするには、あまりにも状況が違いすぎる。


「貴様ら……俺に知られたくないことがある。

という風な顔だな」


リオウはシュラウドの隣に立ち、剣の鋒を魔術師の喉元に突きつけた。


「故意であれなんであれ、これは立派な反逆行為だ。貴様らとは今日限りで、縁を切らせて貰うぞ」


「ほっほっほ、良いのですかな?

儂らは術の使い手、貴方達武闘派では太刀打ちできますまい?」


「シュラウド、手を貸してくれ!」


「仰せのままに、リオウ殿!」


于吉の言葉を横に受け流し、武士は呪術師に向き合い、その主君は魔術師に向き合い中間地点にて激突し、両者は距離を置く。


「ほっほっほ、流石は“合肥の守護神張遼の再来”と呼ばれているだけはありますな。剛と柔を兼ね備え、攻撃に迷いがない」


「同じ時代を生きた貴公にそう褒められるのは、不愉快だ!」


鉤鎌刀が再び振るわれる。全てを断つ剛の一撃は、于吉の右肩を両断する。


しかし、衣服が破れるどころか、肉を切られた衝撃で流れ出るはずの血液が出てこない。

刃は身体を通り抜けた。


「幻影か、小細工を……!」


間髪いれずに、二度目の攻撃を頭部に振るう。しかし、やはりその攻撃は直撃しても手答えはなく、于吉の頭部が靄のようにぼやけてしまうだけだ。


「ほっほっほ、お前さんに儂は倒せなんだ」


目の前で発しているようで、四方から発しているようにも聞こえる。

これは彼から発せられる幻聴であった。


遥か昔の三国志の時代。

呪いを使った敵国君主の暗殺は珍しいものではなかった。

于吉はかつて、孫呉の小覇王孫策を呪いで殺している。その手腕を、于吉は今再び使用しているのだ。


「呪い如きで我が武を破れるものか!」


「それで散らなかった者はおらんよ。

悶え苦しみ、死による恐怖を味わうが良い!」


「ぬかせ!」


人間が一生を懸けて辿り着けるかどうかの極地、一撃で三度、人の急所である頭、心臓、骨を斬り伏せる。


しかしやはりというべきか、シュラウドの攻撃は直撃するものの、靄となって避けられてしまう。


「ほっほっほ、どうした?

痛くも痒くもないぞ?

風の方がまだ心地よいわい」


リオウの冷静沈着な剣撃は、魔術師の肩へと振り下ろされた。

鈍い金属音が響き、刃は相手の肉を断つことができなかった。


「ふははははは!!

レイ・ハイウインドに敗れ、必死に鍛錬を続けた結果がこれだというのか!?笑わせてくれる!」


「あの男は確かに強かった、貴様以上にな!」


炎、氷、雷のマナが上と左右三方向から飛んでくる。

リオウはそれを確かに見据えて剣に波動を宿らせると、それを悉く打ち破った。


「ほう、私以上に強いと?」


「貴様とは違う、あの男の攻撃には強さだけではない、確固たる感情があった」


腰を屈め、一気に魔術師と距離を詰めつつ剣を振るう。その度に、彼の身体から放出されるマナがあらゆる属性となってリオウの攻撃を相殺する。


「私にも信念はある……!

この星の全ての力を私の物とし、やがて宇宙の力を手にするという信念がな!」


光線のように唸る五つの属性が、それぞれ異なる速度で迫る。王の剣は、それぞれを斬り伏せ、魔術師の眼前まで駆ける。


「この程度の力しか出せない貴様には無用の力だろう。地球の力だけでも強大だというのに、その更に上の力を貴様が得ようなどと誰も望まん!」


全ての人間たちが支配などされれば、また自分たちのような存在が多く生まれてしまう。

リオウたちが、そんな愚行を許せるはずがなかった。


「あらゆる生命を支配し、道具として使い捨て、欲望のままに謳歌する!そう"理解"させればいい!お前の望む秩序のない社会が生まれる!素晴らしいだろう?」


リオウは魔術師の言い分を聞き終えると仮面の奥で笑いながら、赤い絨毯へ剣を振り下ろした。

玉座が震撼し、魔術師の身体がふらつく。


「貴様程度の器では、水ですら自ら溢れ落ちよう。

結局は私利私欲を働き、酒池肉林を堪能したいだけの塵だろう」


「な、に……?

私を、塵だと……?」


「塵に塵と言って何が悪い?

俺に一度も手傷を与えていないお前には、お似合いだろう?」


魔術師の腹部に衝撃が走り、そして同時に頬が斬られる感覚が脳に触れた。


「波動の……剣!」


リオウの剣に瞬時に宿った膨大なエネルギーは歪んだ球体のような形を成しながら魔術師の身体を押し上げ、一気に吹き飛ばしていく。


「ぐぉぉぉぉ!?」


瞬く行為すら与えないその衝撃は、魔術師の全身ごと堅牢な城壁へと叩きつけた。


「魔術師よ、俺は以前から気にしていたことがある」


「……?」


「貴様のその仮面の奥には、どんな顔が見えるのだろうと……」


地を蹴り上がり、宙へ浮かびながら

大気を蹴り上げて魔術師の眼前へと迫る。


「な……!?」


「今ようやく、その面を拝むことが出来る」


悪魔のような笑みを浮かべ、リオウは動くことのできない魔術師の身体を剣で押さえつけ左腕の手で仮面を掴みかかる。


「魔術師ーっ!何をしておるか!」


下方から于吉の慌てたような声が聞こえてくる。リオウは更に口角をあげて、より強い力を持って仮面を引き剥がしにかかる。


「やめんか、やめんかぁぁぁ!」


于吉はシュラウドの攻撃をすり抜けてその身体を一目散にリオウに飛ばす。


この反応は、何かを暴かれそうになった時に見せる表情だ。

シュラウドは間髪入れずに叫ぶ。


「リオウ殿っ!」


黙しながらの主人の頷き、それにシュラウドも続き自身の鉤鎌刀をリオウ目掛けて投擲する。


「はっ、馬鹿め!自身の主人ごと突き殺すつもりか!」


于吉はしてやったりと呟きながら、リオウへ急接近し、呪いの籠った杖を勢いよく振りかぶる。


「だがそれも良し!これで儂らの野望は叶うのだ!

散るがいい、ファティマの忘れ形見、皇子ジーク・ファティマよ!」


「貴様……やはり、何か知っているようだな!」


于吉の眉間にシワが寄る。

この男は、独自に調べ上げていたのか。


リオウは左腕を突き伸ばし、于吉の杖は、ちょうど振り下ろされたタイミングでリオウの左腕に位置した。その瞬間シュラウドの鉤鎌刀は、于吉ごとリオウを貫いたのである。リオウが実際に負傷したのは、左腕だけであった。


「な、にぃ……!?」


驚嘆する呪術師と、何も出来ない魔術師。

そして、その後方から迫る紅い影。

気配すら悟らせぬ気迫が、その存在ごと包み込んでいた。


「深淵へと散るがいい、呪術師よ!」


予備の剣を両手に振り上げていたシュラウドが、于吉が実体化した隙を突いて振り下ろしたのである。


「ぬおあああああああ!!!」


地面に吸い寄せられるように叩きつけられる于吉。その光景は酷く生々しいもので、両断された于吉の身体からは赤い血が前頭部から

滲み出ていた。


「ぬぁぁぁ……!

青二才の分際でぇっ!」


「その青二才に貴様は敗れたのだ。

潔く負けを認めよ、于吉!」


鬼神の如き重圧感が于吉の全身を覆う。


呪術師の脳裏には、かつて孫呉から合肥を守り抜いた鬼神、張遼が浮かび上がっていた。


「ひ、ひぃ……!い、命だけは取らないでくれぇ」


こうしてみれば、ただの老人が攻めてきた戦士に怯えているだけに思えるだろう。


しかし、相手は三國から今の時代まで生き抜いた最古の呪術師、この命乞いが演技だということもシュラウドは見抜いた。

彼の目に油断の二文字はなかった。


「さあ、化けの皮を剥がさせてもらおう。

魔術師よ!」


「くぅっ、そうはさせん!

あのお方のご命令を果たすまでは!

于吉ぅぅ!“アレをやるぞ”!!」


「ぐふっ、よかろう……!

どうせ後も無いのじゃ!

後味は悪いが、死ぬよりはマシじゃろうて!」


強固な仮面がようやく引き剥がれるかもしれないというところで、魔術師と于吉との身体が不気味に光り始めた。

リオウは危機を察知してシュラウドの隣へ降り立った。


「リオウ殿、この禍々しい気配は……!」


「ああ、例の赤子に酷似しているが

何かが違う!」


2人の身体の輝きがより一層に増していく。

それに伴い、この城が激しく揺れ、真っ直ぐ立っていることすら難しくなりはじめている。


「崩れ落ちるか、シュラウド!

俺の手に掴まれ、波動の力で外へ出るぞ!」


「御意!」


シュラウドはリオウの左手を手に取り、リオウはそれを確認すると、剣を自分の後方へ突き出した。


「波動の剣っ!」


歪んだエネルギー波が剣から後方へ放出され、その衝撃を利用して2人は崩れかけている玉座の間から脱出した。


外へ吐き出された2人は体勢を整え終えて立ち上がる。

それと同時に、玉座は崩れ落ちるように砂塵を巻き上げながら消え去った。


「……シュラウド、これを飲んでおけ。

どうやら休んでいる暇は無さそうだ」


リオウは回復薬を手渡し、2人はそれを飲む。

先の戦いで消耗した物をゼロへと戻すと禍々しい存在感を放っていた

”なにか”が降り立ってきた。


「あの2人の気配はまだある。

ということは、召喚したのか、この悪魔を!」


2人の目の前に降りてきた悪魔は

蛇のような鱗を持ち、奇怪なコウモリのような翼、三つの醜悪な罪人の顔が覗いている。


「悪魔サタンか、面白い……!

シュラウド、コイツを外には出すなよ?」


「御意、この命を賭けてこの悪魔を屠りまする!」

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