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第207話「目的」

「……おいベルフェルク。

説明しろ、なぜ俺達を止める。

お前の目的は一体なんだ?」


ソルヴィアの避難区域にてイングラム達は、全ての避難民達の保護を終えていた。そして戦おうとした矢先にベルフェルクに行動を制止されてしまう。

それを不審に思ったアデルバートは、警戒しつつも疑心の目をベルフェルクに向けていた。


「決まっている。

紅蓮の騎士を滅ぼせばこの世界は貴族中心の腐った世の中に進んでしまうからだ」


ベルフェルクは訝しげな表情を浮かべながら、王城のある場所を睨みつける。


「なるほど、貴族が腐った政治をしていると……君はそう言いたいんだね?」


ルシウスは納得は示しつつも、首を横に振った。


「けど、僕は貴族全員がその政治をしているとは思えない。中には良識のある人物もいる、スアーガを治めているネメア様のようにね」


イングラムは腕を組みながら2人の言い分を聞き入れる。


「ネメア様……そうか、よく考えればあれは、ギリシャ神話の獅子の名か」


イングラムの脳裏に、スクルドやヴェルザンディの姿が浮かぶ。ベルフェルクの言いたいことは理解できた。彼もまた、神に類する存在なのだと。


「スクルド様やヴェルザンディ様のように、神話上の怪物が地に降り立っているとしても不思議ではないだろう。

神と同等の存在なら、姿を変えるのも容易いしな」

 

ルークのその言葉に頷きながら

ベルフェルクは呆れたかのように呟く。


「だが、人間は別だ。

地球史上最も私欲に忠実なソレは、地上を統治するのではなく、支配し始めた。

それは旧石器の頃から今に至るまで衰えた試しがない」


イングラムはベルフェルクの言葉を咀嚼する。確かに人類は、誕生から今に至るまで他の生命を奪い、自らの住処を拡大してきた。環境を破壊し、自然界には存在しえない社会階級を作り上げ、同族を道具のように扱うまでに堕ちた——ベルフェルクの憎悪には、そうした歴史への絶望が宿っているのだろう。


「だから、俺はソルヴィアやコンラがどうなろうと知ったことじゃない。

むしろ良いことなんじゃないかと感じている」


「なに……?

君は紅蓮の騎士軍が正しいと思っているのか!?」


ルークが目を見開きながらベルフェルクの胸倉を掴む。

しかし彼は平然とした表情を浮かべたままだ。


「お前達は何も知らないようだな。

奴らはこの腐った人間社会を根底から潰し、一から再生させるつもりだ。人間を奴隷や道具にするよりもまともだろう?人が人として生きられるんだからな」


「それでも人命を奪っていることには変わりないだろう!?

どうしてそんな酷いことが言えるんだ!

ベルフェルク!

貴族の中には良い人だっているはずだ!」


「良い人がいるだと……?

お前は貴族に虐げられたことがないからそんな善人ぶったセリフが言えるんだ!」


ルークの両手を片手で押し返し弾き飛ばす。

ベルフェルクは怒りを露わにしながらここにいるかつての同胞へと、姿のないフィレンツェにも敵意を向ける。


「貴族が人を物のように管理して

まるで自分達が神にでも成り代わったかのような振る舞いをする……

実力がなければ、例え血が繋がっていようとその存在ごとなかったことにされるんだ。

貴様にその屈辱がわかるものか!」


「ベルフェルク、お前は……!」


アデルバートもイングラムも

初めて怒りを露わにするベルフェルクになんの言葉もかけることができなかった。


「俺は、紅蓮の騎士の意思に賛同する」


ベルフェルクはイングラム達一人一人に視線を送る。彼のその雰囲気が変化しているのを感じながらも、ルシウスとルークは彼の思いに否と唱える。


「僕は、君の考えには賛同できない。

確かにそのような背景があることは事実だ。

だけど、それを力で封じることが正しいことだとは、僕は思えない」


「俺もだ。

貴族と言えど彼らも俺達と同じ人間だ。

話し合えばきっと分かり合える。

少なくとも俺とルシウスはそう信じている」


ベルフェルクはやはりな、と言い、鼻で笑った後に視線をイングラムとアデルバートに向けた。


お前達はどうなんだと、その細められた鋭い瞳が訴えている。アデルバートはそれに応えるように口を開いた。


「……俺はベルフェルクの意見に賛同する。

だが、紅蓮の騎士の下についたわけじゃない。コンラ王の仇を取ろうとも思ってない。あくまで、共感できるってだけだ」


残るはイングラムだけ。

だが彼には、地上のソルヴィア王に命を救ってもらった恩がある。しかし同時に、そこで貴族が行ってきた悪行も見てきているため

結論を出すことが出来なかった。


「俺は、答えを出すことは出来ない」


どちらの考えも理解できてしまうために、イングラムはそう言う他なかった。


「さあ……もういいだろう?

僕達はソルヴィア王を助けに行く!」


ルシウスが痺れを切らしたように避難所の出入り口に向かうが、それをベルフェルクが土のマナで行く手を阻止する。


ルシウスがベルフェルクを睨みつけるが彼は無視してイングラムへ言葉を溢す。


「随分甘くなったな……出会った頃の方がまだまともだったぞ?」


「なに……?」


ベルフェルクはイングラムの前に立ちながら顔を覗き込む。


「あの鋭利な刃物のような眼……全てを寄せ付けない重圧感……レオン君を倒すことだけを目標にしていたあの時のお前なら、悉くを打ち倒したはずだ」


魔に魅入られるような不気味な感覚がイングラムを襲う。背中に冷水を勢いよく叩きつけられたような、人でありながら人らしからぬベルフェルクの瞳は緩やかに揺れていた。


「ベルフェルクお前……その眼はなんだ!?

それに、お前から溢れるその神性は……うっ……!?」


その異様さに、その異質さに気付いた。

彼の手が肩に置かれた瞬間、自分の中にある何かが顕現してしまいそうだった。


全身に悪寒が走り、一瞬視界が暗転しかけた。


(全てを見透かされたようなこの感覚……そして命そのものを容易く抉ってしまいそうな凄まじいまでの“憎悪”……!)


「妙だな……まだあの女神の力を使ってはいないはずだが……イングラム、どうやって気が付いた?」


頭部を掴まれる。

抵抗しようと頭では理解していても

両腕が動かなかった。両足が動かなかった。

まるでマリオネットのように、ぶらりとされるがままに宙に身体が浮かぶ。


「ベルフェルクっ!」


「イングラムくんを離すんだ!」


ルークとルシウスが突貫する。

しかし、彼の放つ謎の重圧感が、それ以上の行動を制止した。


「ほう、そういうことか……!

イングラム……お前の中には“既に神がいる”。

そうでなければ俺の中にある神性に気付くことなどできるものか!」


「なに、を……!

俺は、神の力など……!」


「なるほど。あくまでとぼけるつもりなのか。まあいい、その身体に直接聞いてやるさ」


ベルフェルクは瞳を大きく見開くと

イングラム達4人を巻き込んで空間が

湾曲し、そして歪んでいく。


時間にして数秒、彼らのいる場所は煌々と陽の光が照らす広大な砂漠地帯だった。しかしそこの砂は全てが太陽に照らされ続けた影響なのか、血のように赤くなっている。


彼らの背後には、雄大な真紅のピラミッドが立っていた。


「━━━━━」


まるでゴミを捨てるように、ベルフェルクはイングラムを投げ飛ばした。


そのおかげでようやく身体が動いた。

血の気が抜かれたような錯覚が掻き消えて、イングラムの全身を太陽の光が照らしていく。


「ベルフェルク……お前は、お前は一体!」


「俺が在学中、お前達に見せていた姿は毒による影響で狂っていた“フリ”をしていた姿だ。

友のように接するのは苦痛だったぞ?

かつての俺の家族のように、お前達は俺を腫物扱いしたんだ。その鬱憤を、今ここでようやく晴らせる!」


「おい……ベルフェルク。

念のために聞くが、俺たちを殺すつもりじゃねえだろうな?」


アデルバートは腕を組みながらベルフェルクに問いを投げる。


「まさか、俺はそれほど優しい人間じゃあないさ」


にこりと微笑みながら、身体の中に眠る神気を解放させる。周囲の赤い砂漠が巻き上がり、太陽光を遮りながらイングラムの目の前に立ち塞がる。


「死んだ方がマシと思えるほどの苦痛を与えてやる……!全力でなっ!」


ベルフェルクは腕を地面に叩きつけると、そこから琥珀の紋様が顕現し、彼の身体に黄金が取り込まれていく。

凄まじい熱風が吹き荒れ、破壊の警鐘が天空に鳴り響く。


“イングラム!早く立ちなさい!

彼は神の力を、エジプト神の神性を解放するつもりよ!”


「やはりそうか、ベルフェルクは茶亀の他にも、神の力を……!」


滅雷の紫狐の言葉にハッとし、イングラムはゆっくりと呼吸を整えて立ち上がる。


「俺達も━━━━━!」


参戦しようとルーク達が駆け寄るが

それをイングラムが制止する。


「待て!俺一人にやらせてくれ……あいつは今、復讐に呑まれている!」


「何バカなことを言っているんだ!ベルフェルクの実力は僕が1番よく知っている!

君一人では━━━━━!」


「あの時の償いをしなくてはならない!頼む、ルシウス!」


(ベルフェルクは、俺の中に神がいると言った。その言葉が本当ならば、俺の中に眠る神を今ここで引き出してやる……!)


全員が手練れの戦士だ。それに、ルークにはスサノオの力が眠っている。


かの暴風の神の力を使えば、ベルフェルクに対抗するには充分可能はずだ。


「お前ら、下がるぞ。

イングラムがケリつけるって言ってるんだ。

見届けてやろうぜ」


アデルバートの強く芯の籠った言葉に渋々頷き、後方へ下がるルークとルシウス。


「ありがとう……必ず勝つ!」


ベルフェルクは鼻を鳴らすと肉体は黒く染まり、黄金の軽装飾が現れ、王のマントを砂塵に靡かせる。


「言っておくが、レオン君を助けるのに足手纏いは必要ない。

お前たちが俺に負ければ、あの時の屈辱を、絶望を身を以て体感させてやる!」


彼の周辺を包むように漂う黄金の光

そして金色に輝く戦杖。

全ての人類を憎悪する凄まじい怒気がこの砂漠の領域を全て覆い、そして支配していく。


「かつてエジプトの砂漠を紅く染めた破壊神セクメトの力、その身を以て知れ……!」


「なんて重圧感だ!

しかし、負けるわけにはいかない……いくぞ──ベルフェルク!」


イングラムは槍を顕現させ、ベルフェルクに獲物を向けるのだった。

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