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第205話「国崩しの真相」

ベルフェルク・ホワードは地導船から身を乗り出し、両腕を大きく広げながら降下していく。


空気抵抗を最小限に抑えて、風向きを読みながら陸地へ着地出来るように身体の向きを変える。


(紅蓮の騎士か……奴らが国崩しをいつ始めたかは知らんが、社会的階級と秩序を崩そうとしている

のはこれまでの動向で明らかになっている。

だが、本当にそれだけが目的なのか……?)


降下地点には獣の鳴き声も人の影もない。


それを確認したベルフェルクは通過地点に足場を出現させてそれを勢いよく蹴り飛ばす。


全身の負担を身体に残さない最適な形で、ベルフェルクは地面に着地した。


「フィレンツェ……奴は金だけは一丁前にあるからな。

度重なる国崩しが奴の一族のバックアップで行われて来たとなれば、重罪だろうよ」


ベルフェルクは不敵で不気味な笑みを浮かべる。国崩しは無論重罪ではあるがそれを支援した人間にも同等の罪が課せられる。最低でも懲役15年はくだらないだろう。


フィレンツェが牢屋から顔を覗かせてここから出せと泣き喚く姿を想像するだけで、心と身体が元気になってくる。


「はははっ!よし、一仕事開始だ!」


全身に漲るやる気を携えながら、最後に確認されたであろう船の位置を探るべく空を見上げる。


「視覚、聴覚強化……」


嗅覚と味覚の五感の内の2つの機能を低下させ、視覚と聴覚の機能を向上させる。


鷹の3倍の視力と、コウモリの3倍の聴覚を、一時的に得ながら広大な空を凝視する。

彼は神経と思考を全てリセットし、空を飛び交う船にのみ焦点を当てる。


「船影、四つ。エンジン音も確認した。位置230度方向……視覚強化っ!」


今のベルフェルクの瞳はミクロレベルでもくっきりはっきりと対象を捉える事が可能である。彼は訝しげに四つの船を交互に見据えながら、電子媒体に手を取った。


〈ベルフェルク様、お伺いします〉


「透視薬ひとつ。後払いかつ即使用で頼む」


〈かしこまりました。

後払い決済、完了。お買い上げの商品の効能が購入者の身体に現れます〉


ベルフェルクの強化された視覚に

透視化可能な薬の効果が現れる。彼は類稀な探索センスを用いて、紅蓮の騎士軍が搭乗していると思われる飛行船を見つけ出した。


その船にだけは、明らかに人数オーバーに引っかかりそうな大勢の兵士達がいて、操縦席には赤い甲冑に身を包んだ紫髪の青年が立っていたのである。


ただ、フィレンツェの姿は見当たらない。


(チッ……いないか、もしいたのならばこの場で撃墜させたものを……)


舌打ちしながらも、電子媒体でクレイラの連絡先に紅蓮の騎士が向かっていることを伝える。

すると、彼女からすぐ返信がきた。


〈教えてくれてありがとうベルフェルク〉


「いや、礼には及ばない。

君の口からイングラムたちに連中が向かってることを伝えてやってくれ」


〈━━━どうしても和解するつもりはないの?私も間に入って取り成すよ?〉


クレイラからの言葉は確かにありがたいが、ベルフェルクの脳裏には当時の嫌な記憶が、大樹の根のように深く張っている。


それを早々簡単に引き抜くことなどできない。

そんなことに時間を割くくらいならばさっさとレオンを助け出すことに行動を移す方が何倍もいい。


「クレイラ、君は今回の戦いに参戦しない方がいいだろう」


〈私だけ指を咥えて見ていろってこと?

悪いけどそれは━━━━〉


「その力は誰のために使う?

イングラムどものサポートのためでも、ましてやリルルとかいう小娘を守るためでもない。レオンくんを助け出すためだろう?

クレイラ、君は大切な人と再会した時の時間を、少しでも長くしたいとは思わないのか?」


ベルフェルクの言葉には彼なりの望みが滲み出ていた。家族として機能していないハイウインド一族。そんな中でレオンはクレイラを心の支えとしている。その支えがいなくなればどうなってしまうのかは想像に苦しくない。


「君がいなくなれば、レオンくんは哀しむどころじゃなくなる、だから━━━」


〈わかった、私はリルル達を守ることに専念する……それでいい?〉


リルル、という言葉に内心舌打ちしつつも、これ以上の交渉は向こうも引かない事を理解して渋々承諾して通信を終える。


「クソッ、あいつらに感化されでもしたか……まあいい、俺は俺の仕事をするとしよう」


ベルフェルクは空を見上げながら移動する船に向けてマナを放出し、雲より高く跳躍した。船体の甲板に降り立ちながら、足音を立てずに気配を消しながら内部へと潜入していく。


◇◇◇


船体の操縦席には腕を組みながら深々と思考を巡らせているリオウがいた。


「リオウ殿、3時間後にソルヴィアに到達予定とのこと、既に全員戦闘準備を終えております」


シュラウドは主人の思考の邪魔をするまいと現状を伝えて小さく頭を下げながら背中を向けて一歩を踏み出そうとした。


「今から言うことは、独り言だと思って聞いてくれ」


「…………」


シュラウドは一瞬表情を険しくし、一歩後退した後で振り返った。


「俺は……俺はかつて滅ぼされた皇国ファティマの第一皇子だった」


ファティマ皇国──


かつて貴族しか存在しない国と称され民の誰もが贅沢に過ごし、交易や交渉で他国とも手を取り合い、友好関係を築いた王朝、その国であった。


しかし━━━━━


「俺が幼い頃、配下である貴族どもがクーデターを起こし、父と母が殺された。

祖父母も謀殺され、俺はまだ幼かった妹と共に必死に逃げ回った」


リオウに妹がいたとは初耳だった。

主人の紡ぐ言葉は、後悔と無力さに

そして貴族達に対する怒りで溢れていた。


「俺は妹を守ることはできずに離れ離れになってしまった。

俺は、貴族どもに復讐を誓った。

王族の頃の名を捨て、リオウと名乗り国を攻め、滅ぼすことにしたのだ!」


リオウは更に続ける。

今の貴族達が各地で頭角を表し始めたのは皇国ファティマの資金をクーデターを起こした連中が使ったからだと


「俺は奴らが奪った祖国の金品を回収しファティマ皇国を再興する。

唯一にして絶対の貴族として━━━━」


「リオウ殿、あなたは━━━━」


リオウは拳を強く握りしめて

シュラウドへと向き直った。


「リオウは私の本当の名ではない。私の本当の名はジーク・ファティマと言う」


「ジーク・ファティマ……

貴方がかの皇族の人間だったとは思いませんでした」


「ふっ、かつて第一皇王となるはずだった男が、今や国をしらみ潰しにしているなどと亡き両親が知れば、さぞ嘆くことだろうな」


リオウは、悲しげな表情でそう溢したあと、天井を仰いで言葉を紡ぎ続ける。


「だがそうしなくてはならない。

家族の無念の為に、そして、どこにいるかもわからない妹のためにもな」


「妹君は、今どうされているとお思いですか?」


シュラウドは主人の逆鱗に触れてしまうのではと内心冷や汗をかいたが、どうしても聞かずにはいられなかった。リオウはそれを汲み取ったのか、儚げな表情で問いに応える。


「もし生きていたとしても、まっとうな精神ではないだろう。

貴族どもに弄ばされて、全てがズタボロになっているはずだ」


リオウは楽観視していなかった。

最悪の結果しか考えられずに

大切な妹の無事を想像できないでいた。


かつて自分達が受けた過去の惨劇が、今も深く心にトラウマとして根強く残っている影響なのだろう。

シュラウドはそれ以上、言葉を紡ぐことは出来なかった。


「だが、妹は……レティシアは探して取り戻さねばならない。必ず助ける。その為にお前達の力を貸してくれ!

報酬は望むままに与えると約束する!」


それでも彼は、懸命に自分の道を進もうとしている。その道を切り拓くことに一切の躊躇いがなかった。ならばその身を粉にして阻むものを蹴散らすのみ。


「承知いたしました。

我が身、我が武はリオウ殿に捧げたもの。その願い、我々が粉骨砕身の働きを以てお応えします」


シュラウドは跪き、リオウに改めて自分なりの忠義の将としての在り方を見せる。

その忠節にリオウは、シュラウドの肩に手を置き力強く頷いた。


「あぁ、よろしく頼む。

お前のその武勇、そして皆の活躍を頼りにしているぞ」


シュラウドは跪いたまま、深く首を垂れる。

臣下の忠誠に感服しつつも、リオウはソルヴィアのある方向へ向き直る。


「ソルヴィアよ、貴様らのもう片方の翼。

我ら紅蓮の騎士がへし折り、国として二度と飛べぬようにしてやる」


腕を限界まで引き伸ばしながら何もない虚を掴み取る。

目に見えぬ闘志を迸らせながら、強く強く握りしめ、リオウはソルヴィアのある方向へ腕を組んで視線を向けた。


◇◇◇


(リオウ・マクドールが偽名……。

さらには皇帝の御子息だったとはな)


ベルフェルクは身に包んでいる黒い外套の効果で自身から滲み出る気配を完全に遮断し、この飛行船と身体を一体化させながら、操縦室のある地下へと潜伏しつつそこから会話を盗聴していた。


(これはいい収穫だ、最後に素顔を確認してから離脱するとしようか)


ベルフェルクは聴覚と味覚、触覚の3つの感覚を視覚に費やして視力を向上させた。

かの第一皇子の素顔を捉えるために物質を透過させる能力を付与させてリオウを凝視する。


(……顔だけ見ればまるで女のようだ。

まあ、そっちの趣味はないがな)



心の中でそう吐き捨てつつも、さらによく観察していく。紫色の髪が兜の中で上手く纏まっていて決して1本も垂れ下がっていることはなく、その瞳もまた、藍紫色の美しい色をしていた。


「……なぜか妙に気になる顔だが、まあ、今はどうでもいい」


その容姿にどこか違和感を覚えながらも、記憶の片隅に置いてテレポート機能を用いて飛行船を後にするのだった。

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