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第199話「願い、そして望み」

「クレイラ、身体は大丈夫なのか?

こんな奴らのために無茶を……!」


「ベルフェルク、そんな言い方しないで。

これは私がやりたくてやっていることなんだから」


ベルフェルクが苦虫を噛み潰したような、苦しそうな表情を浮かべながら紅獅子達を睨みつける。


「君の過去は知ってる。気持ちも理解できる。

けど、レオンは復讐してほしいから君を助けたんじゃない……それは、わかるでしょう?」


「……それも、そうか。

少々血が登り過ぎていたらしい」


踏みつけていた足をどかして、ふうと深呼吸する。そして数歩背を向けて歩くと、クレイラを儚げな表情で見つめる。


「すまなかったクレイラ、俺は君の力を浪費させるつもりはなかったんだ」


「謝る相手が違うでしょう?」


礼儀正しくクレイラに頭を下げる

ベルフェルク。

しかし、彼女の言葉に彼の表情が、また曇る。


「……どうしてそいつらに謝らなきゃならない?」


今更立ち上がった2人を、まるで切り捨てるような視線のまま苛立ちの声を上げた。


「こいつらに謝る必要はない。

例え君の頼みでも」


「……わかった、それが君の望みなら。

でもベルフェルク」


クレイラは人差し指を、目の前に立てた。


「みんなと力を合わせる必要がある時は、一緒に戦ってね?」


「それは……善処しよう」


ベルフェルクの無機質な微笑み。

一応は約束してくれたと思っていいだろう。

クレイラは安堵の溜息を吐きながら負傷した2人の元へ駆け寄ろうとするが、それを手で制されてしまう。


「ダメだ、こいつらの為に君の力を使わせるわけにはいかない。ここは俺の薬を使わせてくれ」


ベルフェルクは心底嫌そうな表情を浮かべながら回復薬を大量に用意し、それをドバドバとかけ始めた。


「ちょっと!こいつらってなによ!

それにぶっかけるなんてレディに対して失礼でしょ!」


「うるさいぞ億年老女。

それはイングラムの肉体なんだ、お前の意見は聞いてない」


「はぁんっ!?喧嘩売ってるの!?」


「そんなに怒るとシワが増えるぞ?」


鼻で嗤うベルフェルクの容赦ない言葉が紫狐の精神を逆撫でしていく。

億年老女と呼ばれたこと、女性が指摘されて欲しくないことをあえてバカにしたような態度で呟く。紫狐のびちょぬれな姿もあって、威厳はどこへやら消えてしまった。


「こらっ」


こつん、とクレイラの軽いゲンコツが炸裂する。


「いたっ、なにするんだクレイラ」


「言い過ぎだよベルフェルク。

君のことは理解しているけど、せめて概念たちには少しは優しくしてあげて、彼らに恨みはないでしょう?」


「断る」


優しく論するように告げるも、彼は首を横に振りながら拒否する。

そんな一連のやりとりの最中でも、彼の作った回復薬は効果が高いらしい。


ベルフェルクが作ってしまった傷は、まるで元からなかったかのように完治してしまった。


「料金は後で請求させてもらう」


ベルフェルクは視線を後方へと向けた。

騒ぎを聞きつけた女性兵士達が列を成し一糸乱れぬ行進をしながらやってくる足音が聞こえてくる。


中央の兵士達は神輿のようなものを担いでいて、そこにはソルヴィアの王が座っていた。


「はぁ……ソルヴィアの王か。

地上の奴がここにいるのなら、もう少し話が通じるんだろうが。

おい、いつまで這いつくばっている?さっさと立て、紅獅子は憑依を解除しろ」


呆れたように呟くベルフェルクは

身体を旋回させると、先の美しい褐色肌の女性に変身した。


紫狐は立ち上がり、紅獅子はペルーネ、もといルーシーに身体の権利を返した。それと同時に、ソルヴィア王が目の前にやってくる。


「この騒ぎはお前達が起こしたのか?」


「はい、ですが理由がございます。

実は———」


ベルフェルクはユーゼフが暴れたので、それを食い止める為にあれやこれやと手を尽くした結果騒ぎとなってしまったことを王に説明する。


「ふむ、なるほど……して、ユーゼフはその倒れた建物の下敷きとなっているのだな?」


「ええ、そうです。

ですが王様、問題はあの人的厄災のみにあらず、この国に紅蓮の騎士軍が迫っているとの情報が入っています。

どうやら飛行船が奴らの手に渡ってしまったようですね」


「なんと!?それはまことか!?」


「この映像をご覧下さい。

地上に住む私の知己がステルスドローンを用いて撮影したものです」


頭を垂れながら、電子媒体に送られたとされる映像を宙に照射する。


そこには紅蓮の騎士の総大将のリオウと側近シュラウド、そして彼らと取引している人物に焦点が当てられ、素早くズームされる。


その人物の正体はチラリとこちらを向き、映像はそこで途切れた。


「フィレンツェ……!!」


グラハムに戻った彼女が驚嘆の声を上げる。


「グラハムよ、今の男は貴様の知己か?」


王の鋭い眼差しが向けられる。

彼女はおそるおそる首を縦に振った。


よもや、同期の人間が国崩しという重罪に加担していたとは誰も予想出来なかったのである。


「ならば、責任を取って紅蓮の騎士軍はお前が止めるのだ」


「グラハムだけというのはだいぶ心許ないかと、なにせ連中は、地上のソルヴィア……いえ、貴方の弟君を手にかけた連中なんですからね」


ベルフェルクの言葉に目を見開く国王は次第に身体を震わせて激昂する。


「やはりそうか、信じたくはなかったが……この映像を見て否定する事はできまい。グラハム!」


「はい」


「弟の弔い合戦だ。

奴らは必ず我が国で仕留めねばならぬ!

国崩しを終わらせるっ!」


「かしこまりました。

微力ながらお手伝い致します」


この間まで下心丸出しの国王の顔つきが、君主に相応しいものへの変わっていく。


血の繋がった肉親と袂を分かっても、やはり身内が手にかかっては黙っているわけにはいかないのだろう。


イングラムも弟の方には世話になった。

なのでその感情と想いだけは賛成できる。


「そこの褐色の女子、紅蓮の騎士軍は飛行船を手にしたと言ったな?

あといかほどで我が国へ到着する?」


「……どの形状の船を手にしたのかは不明ですが、最短でも3日、最長で5日と言ったところです。軍備を整えるならば今からでも取り掛かった方が良いでしょう」


うむ、と力強く頷いた国王は周囲の女兵士達に軍備を整えるように命令を下す。


彼女達は敬礼した後に各々の持ち場へと散っていった。


「奴らの強さは聞き及んでいる。

地上のソルヴィアやコンラも1日と経たずに滅ぼされてしまった。

散っていった者たちの為にも、どうかお前達の力を余に貸してくれっ!」


国王は深く頭を下げて申し出た。

グラハムはその手を取りながら強く頷いた。


あの時、目の前で助けられたはずの多くの命が無惨にも散っていった。

しかし今は違う、それに対抗しうるだけの実力と経験を彼女らは兼ね備えてきたのだ。頼れる仲間もいる。


「無論です。

もう二度と国を滅ぼさせたりしません」


全員でかかれば対抗出来る。

紅蓮の騎士がいかに強大であろうと

フィレンツェが裏で糸を引いていようとも。

狡猾な策略が待ち受けていようとも

ここで歩みを止めるわけにはいかない。


「ルーシー、クレイラ、ベルフェルク。

お願い、私はもう目の前で国が滅ぶのを見たくないの、力を貸して!」


「もちろんだよ。

今の私達ならきっと紅蓮の騎士を倒せる!」


ルーシーとクレイラは力強く頷き

王は満足げに笑い、自分の城へと戻っていった。


「レオン君を助ける過程でアイツらがそれを阻むというなら、この力で止めるだけ。

貴方たちの為じゃないから」


ベルフェルクがイングラム達を毛嫌いしている理由が今ひとつ浮かばないが、今だけは敵対するつもりはないらしい。ひとまずは安心と、グラハムは安堵する。


「けど、紅蓮の騎士は前にスアーガに攻め入ろうとしていたんだよね?

でも結局はゾンビもどきの連中だけを使って、とうのリーダーは姿を見せなかったみたいだし、なにか理由があるはずよ」


「そうね、その理由も捕まえる前に聞き出さなくては……」


クレイラの言うことも一理ある。

当時はアデルバートやルシウスが避難所にて、迎撃態勢をとっていたが、結局は尖兵だけを送り、自身は手を下さずに撤退している。


「あのライオンさんが強かったから?

うーん、でも決めつけるのも根拠が足らないわね……」


「なら俺の方で情報を集めてこよう。

一度地上に降りることにする。

あの馬鹿野郎のことも、念の為に」


ベルフェルクが変身を解いてクレイラの不安を拭う為に宣言する。

フィレンツェの悪行のこともついでに探ってくれるらしい。


彼の商業経験さえあれば軽い弁舌で

色々聞き出してくれるだろう。


「ならこちらはレベッカさんの復帰に尽力しよう。

ルークとアデルが戻ってきたら早速動くとしようか」


グラハムもルーシーも元の男性の姿に戻り、2人はユーゼフがぶっ飛ばされた方向へ視線を向ける。


「……ユーゼフくんはどうする?

あれじゃしばらく目を覚まさないかもしれないけど」


「性格に難はあるが……戦力になるのは間違い無いだろう。

叩き起こそうか」


ルシウスの言葉を尻目にイングラムはユーゼフの元へ駆け寄った。

潰れた瓦礫が大量に覆い被さっていて腕が隙間から見えていた。


そして微かに、唸り声のようななにかが聞こえてくる。


「うーん……リルルちゃん、そこ、すごく、その、いいよ……興奮するんごねぇ……」


その言葉に、イングラムの中の父性本能がユーゼフという名の蟹に対して激しい怒りを抱いた。


「さっさと起きんかこのロリコンガニがぁっ!」


紫狐の概念の力も相まって、人間が受ければ完全に干からびてしまうであろう雷の一撃を振るう。


「ぴにゃぁぁぁたぁぁぁ!!!」


しかし、それでもユーゼフは五体満足で眠りから覚醒する。

人類はこの男を研究材料にした方がよいのではないだろうかと、イングラムは頭の片隅にそう思ってしまうのだった。



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