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第133話「旅の前の反省会」

翌朝、ソフィアとイングラム、アデルバートは立ちすくんでいるクレイラの前で正座をしていた。


「「「「「ごめんなさい」」」」


そして全員見事かつ綺麗な土下座を見せる。

最初に顔をあげたのはソフィアだった。

申し訳なさそうに口籠もりながらも

彼女は誠意を見せて反省していた。


「スピリタ酒を露天風呂で飲んでしまってごめんなさい。リルルちゃんやセリア、レベッカにまで影響が出るなんて思いもしなかった。今度からは他の人のいないところで飲むよ……本当にごめんなさい」


「俺は、その、好奇心に負けてクレイラだと確認を怠ってしまったことを反省します。ごめんなさい」


「俺はイングラムを止めずに傍観していたことを謝罪する。すみませんでした」


「——————」


クレイラはそれを聞くと、笑顔を浮かべみんなの肩に触れ回る。


「ん、いいよ。もう気にしてないし

ソフィア、レベッカたちにもきちんと謝ってね?彼女たちも被害者なんだから」


「わかった……」


うなずいて、ソフィアは後ろの隅に立っているリルル、レベッカ、セリアの方へ向くとごめんなさい、とちょっと艶のある感じで謝罪した。


「大丈夫だよソフィア、私は酔ったことに対して全然怒ってないよ」


「そう、ありがと———」


笑顔を浮かべて頭を撫でてやろうとしたソフィアの手をガシッと、幼女の力とは思えないような握り加減でリルルは笑顔を浮かべていた。


「でもね、私のふぁーすときすをセリアお姉ちゃんにあげちゃった原因を作ったのは許せないかな?」


明らかに怒っているオーラを纏っているのに、表情面では純粋無垢な笑顔を浮かべていた。


「あ……ええと、それは、その……

ごめんなさい、いや、本当にごめんなさい」


ソフィアは掴まれた手を離そうとして

もう片方の手で振り解こうとしたが

なかなか解けない。


「あの、リルルちゃん?

その手をそろそろ離してくれない?」


「だからね、罰を受けて欲しいかなって」


「ば、罰ですか……?」


あまりの圧に、ソフィアはリルルに対して、無意識に敬語になっていた。

これは受け入れなければならないだろう。

少女が昨晩のことを記憶していたことも驚きだが、何より、大切な初めてを同性に与えてしまったのだから。


「うん、馬の骨って呼ぶね?」


「は、はい……かしこまりました」


罪を償うための罰を、ソフィアは受け入れた。まるで幼い王女に平伏す歳上の召使いのように立場が逆転してしまった。

その光景を見ていたクレイラ以外の面々はさぞ震えあがっただろう。

いまの彼女には、さすがのイングラムでも止められない気がする。


「それで、イングラムとアデルの件だけど」


「……な、なんだよ」


クレイラの最も低いトーンのその声に

アデルバートとイングラムは戦々恐々としていた。リルル以上に恐ろしいことを宣告されてしまう気がして、心なしか身構えてしまう。


「この件、レオンと共有させてもらうからね」


「「えっ」」


レオンと共有──


その言葉に2人は思わず顔を見合わせた。

脳裏で雷が落ち、ガラスが砕け散るような音が聞こえた気がした。

レオンは普段は敵を作らなければ壁を作らずに誰に対してでも人当たりのいい優しい性格の人物である。


しかし、その反面、彼は怒らせるととてつもない。ただ一度、彼は昔に激昂したことがあった。圧倒的なその力、天災のようなもののような、明らかに苛立ちと殺意が満ち満ちたその全身

歩けばタイルが亀裂を帯び、壁の強度が落ちて、風も吹いていないのに書類が吹き飛び、机は彼が振り向くだけで薙ぎ倒された。


その光景を、彼らは遠巻きから眺めていたのだ。どうしてそんなことになったかは聞くことはできなかったが、そうなってしまうほどの件を、彼らは起こしてしまった。


後からやめておけばよかったと、あれほど後悔したことはない。2人は僅かに震え頭を抱え、少し彼と再会することに躊躇いを覚えてしまうのだった。


「ルシウスも、私を助けてくれなかったし」


「えっ」


そして飛び火する。


クレイラが怪異だとされる前、ロビーの広間でコスプレ大変身会をしていた時、3人は助けもせずただ眺めていた。


民衆に混じり拍手をし、民衆に混じり歓声をあげていた。クレイラはじっと彼らを見ていたのだ。“なぜ助けてくれないのか理解できない”と。

だからこそ、ルシウスにも罰を与えねばならないと、クレイラは今回の判断に至ったのだ。


「じゃ、もうこの話終わり!

はい!ごはんごはん!食べに行こっか〜」


悪魔の顔から天使の顔へ

切り替えるクレイラは浴衣をひらつかせて部屋を出ていく。

どんよりとした空気が、鳳凰の間に重くのしかかっていた。


「なあイングラム」


「あぁ、わかってる」


アデルバートの言おうとしている言葉をイングラムは理解していた。


「……僕、死ぬかもしれないんだよね?」


「その前に兄貴と出会え。そうすればもう後悔はないはずだ」


「う〜ん、会えるといいなぁ、会えるかなぁ?」


天井を見上げてちょっと目頭が熱くなるルシウス。そんな彼の肩に、2人の友の手が触れた。


「大丈夫だ、死ぬ時はみんな一緒だ!

我ら3人生まれた時と場所は違えども」


「同年同月同日に死す。

俺たちはそう言う間柄だ!!

なっ!?」


「えぇ、桃園の誓いなんてした記憶が無いんだけど……」


いつから義兄弟になったのか。そんなことをしたらルークが仲間外れになってしまうではないか。ユーゼフとフィレンツェがいるとも思ったが多分ルークは首を横に振るだろう。

彼とも早く再会したいものだ。


「よし、死ぬ覚悟は出来た。

お前ら、行くぞ!飯だ!」


アデルバートはもう覚悟を決めた。

セリアの手を引いてクレイラの後を追い、ルシウスは立ち上がってレベッカをエスコートする。パタン、と閉じられるふすま。

取り残されたイングラムとリルル、そしてソフィア。


「……俺たちも、ご飯行こうか」


「はい」


「うん!行こう!和食かなぁ?

洋食かなぁ?中華かなぁ?」


るんるんとしながら、リルルはイングラムと手を繋ぎたそうに笑みを浮かべている。


そうだな、彼女は大切なものを喪った。

手を繋ぐくらい、騎士としてしてあげよう。

イングラムは優しく手を握ると、ソフィアに

もう片方の手を差し伸べた。


「行こう、ソフィア」


「はい」


ソフィア、既にリルルに対して恐れを抱き始めている気がしないでもない。

彼女の葛藤に、イングラム入ることが出来ないでいた。




食堂に全員が向かっていると

ロビーの入り口付近には長蛇の列が出来ていた。凄まじい混み具合である。

見たところ何十キロと続いているようだった。


そう、この大盛況の要因を作ったのは

良くも悪くもクレイラだ。

彼女は様々か姿形の女性に変身して

この旅館の利益を爆発的なものにしてしまったのだ。大将や男性たちのリクエストに応えただけなのに、こうも反響があるとは本人も思わなかったのだろう。


「変身!」


クレイラは大将たちに見つかる前に

姿形を変えてイングラムの腰の鞘と剣に変身した。騎士の身体に鞘の一つや二つ増えたところで民衆は気にも留めないだろう。

彼女はそう判断したのだ。

食事には、ありつけないとは思うが、

下手に混み合うよりは我慢したほうがいい。


イングラムたちが食堂に入った瞬間。

受付の女性が不気味なほど微笑ましい表情を浮かべていた。


「おはようございます。お客様の皆様。本日、お客様ご一行はお食事を無償にするよう申し付けられています。席も特別席をご用意しておりますので、どうぞこちらへ」


周りの人達はジッ、とイングラム一行を見つめる。舐め回すように観察した後、彼らは、深々とため息を吐いた。


(もう少しだけ我慢してくれ、クレイラ)


せめて特別席に着ければ、彼女も食事にありつけるはずだ。イングラムはクレイラに気を遣い、受付の女性と平行になって歩みを続ける。


「騎士様!浮気だよぉ!浮気ぃ!」


「——————」


あの歳で状況を察しろ。というのが難しいだろう。リルルに状況把握はまだ早すぎる。

なので、周りにいるセリアたちがたしなめるのだ。


「リルル様、うわき、というのがなんなのかはわかりませんが、イングラム様はそのようなことはなさらないかと、きっとお腹が空いていて、我慢が出来ないのだと思いますよ」


笑顔でセリアはそう言った。

リルルもそう言われるとそうか、と言った表情でちょっと諦めた感じを出している。


「そういえば、クレイラお姉ちゃんは?」


「——————」


セリアは笑顔のまま固まった。

彼女に代わるようにアデルバートが

リルルの頭を撫でてこう言った。


「いいか、リルル。

クレイラはな、お花摘みだ」


「お花摘み?」


「あぁ、昨日クレイラはな、このお店にいいことをしてくれたんだ。だから人気者になって色々とたくさんの人に対応することで大変なんだ。だから、今は外でお花を積みに行ってる」


「へぇ〜、どんなお花かな?」


「さあな、ワスレナグサとかチューリップとかパンジーとか、きっとそこら辺だろ。花のことはよく知らないけどな」


適当に繕いつつ、アデルバートは

前を向けと言ってリルルを前に向かせる。


セリアと手を繋いでいるとはいえ、余所見をしていたら守れるものも守れない。


「到着致しました。どうぞごゆっくりくつろいでくださいね」


到着したのは、他の宿泊客とは違う

団体専用の襖付きのクロステーブルのある場所だった。きっと大将は気を利かせてくれたのだろう。女性は笑顔で襖を締めると、ようやくクレイラが鞘から元の姿へと戻った。


「ふぅ、やれやれだわ……」


いつバレるのかとヒヤヒヤしていたが

どうにかなった。

後は食事をしてここを出るだけだ。

食堂用の電子媒体を起動させて

皆は各々ありつきたい定食を無事に頼むことができた。

無論、帰りもクレイラはバレることなく、一行は旅館を後にできたのだった。

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