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第130話「露天大波乱!?」

かぽん


奥に設置されているししおどしが溜まりきったお湯を露天風呂に流していく。

装置から注がれるそれは、和のと心雅さを感じかせた。


「ふぅ、いい湯だなぁ……」


「ええ、本当に……これまでの疲れが嘘みたい」


レベッカはエメラルド状に光る露天風呂に肩まで浸かり、後ろの横に並べられた岩に背を預ける。そして電子媒体から召喚されたナトリウムイオン水を飲み干す。


「ぷはぁ!美味すぎる!」


顔拭き用のタオルを額に巻いて

まるで親父のような反応を見せる。

彼女達以外には、誰も客はいないようだ。

セリアはリルルを抱き抱えて段差のある場所で腰を下ろし、半身浴をする。


「セリアお姉ちゃん!どうして深いところいかないの?」


「肩まで浸かってしまうと、心臓に悪影響を与える可能性があります。それに、のぼせることもあって、意識が朦朧としやすくなってしまうんですよ」


「ふぅん、でも深いところ行きたい!

泳ぎたい!」


「リルル様、お気持ちはわかりますが

今の身長的にはここがベストです。

万が一に溺れてしまって、イングラム様に心配されてしまうかも知れませんからね」


「むぅ……じゃあ、クレイラお姉ちゃんのあれは?溺れてるの?」


リルルは頬を膨らませつつ、クレイラの方を指差す。

セリアはその状態に思わず目を見開いた。


「ぐでぇ〜……」


クレイラは水死体のように仰向けに浮かんでいた。全身を浮かせた状態で、ゆっくりと回転している。


「ク、クレイラ様!?」


「大丈夫ですよセリア。

彼女は生きてる、ただ眠ってるだけで……」


慌てるセリアをソフィアが冷静に論する。

しかし、あの状態は危険だ。

いつ意識を失うとも知れない。

彼女はうとうとしてて眠そうだったから、余計にそう思わせた。


「クレイラお姉ちゃん〜お腹に乗るよ?」


「ダメレスぅ……うにゃ……」


リルルはセリアの腕の中から脱出して

飛んだ。両腕の力が驚きで緩んでいたせいだろう。


「ええっ!?なんで飛べるんですか!?」


「騎士様の真似!」


幼女だから2メートル近くしか飛べないが、それでも落下時の衝撃は凄まじい物だろう。

リルルに悪気はない、ただ純粋にお風呂を楽しみたいだけなのだ。多分


「だ、ダメですリルル様!

これから来る他のお客様にもご迷惑になります!あぁでも、私はあんな風に飛べないですし……どうしたら」


クレイラは浮かびながらぐでっとしていたが、閉じていた目を見開いて上空から降りてきているリルルを見た。


(私とあの子の距離は役十数メートル

あの体格なら衝撃でお湯を飲み込んで溺死するかも、体の機能はまだまだ未熟だし……)


仕方ないか、とクレイラは再び目を瞑り音もなくその場から姿を消した。

水面下では何かがその場で動くと必ず

波紋が発生する。鳥が水辺から飛び立つ時と同じように、しかし、クレイラはどうやったのか、それを発生させずして姿を消したのだ。そして———


「はい、キャッチ〜」


リルルの両脇に手を通したクレイラが

耳元でそう呟いた。その場にいた全員が、その光景に目を見開く。


「えっ!?えっ!?えぇ!?」


「はい、落下するからね。

目ぇ閉じてた方がいいよ?

水に飛び込むのって結構痛いから」


そういうと、クレイラは自分を下地にして落ち始めた。片手でしっかりとリルルを抱きしめて離さないようにする。

そして、彼女はもう片方の手で落下予測地点になにかを描いて、そのまま笑みを浮かべる。


「あぁ!落ちて溺れてしまう!」


水面下に引き込まれるように、2人の影は落ちていく。

ソフィアもレベッカも慌てて移動しキャッチしようとするが、距離的に間に合わない。

そして、もう落下寸前の位置まで来た。

リルルは恐ろしさから全身を丸めて目を瞑る。と———


ぽよん

と、まるで弾力のあるゼリーのように

お湯はリルルとクレイラを優しく包み込んだ。水柱が立たないことを不思議に思った3人はゆっくりと駆け寄る。


「すごい、クレイラさん!

魔法使いみたいですね!」


「ええ、本当、びっくりしちゃった。

それにしても、スライムみたいね、これ」


「ん〜?言わなかったかな?

私魔法使いなんだぁ〜」


眠気からか、半分うとうとしかけていて適当な事を言っている。だが、その腕には確かにリルルを抱いていた。

彼女は幼い命を守ったのだ。


「クレイラお姉ちゃん……」


「ん……もうあんなことしちゃダメだよ?

セリアもみんな、びっくりしたんだからね?」


目を閉じながらそんなことを呟く。

威厳や説得力など皆無だが、注意されたことは初めてだったので、リルルは潤んだ。


「はい……じゃあセリア、あとはよろしく〜。私はもうひと眠りしようかなぁ〜」


そう言って、クレイラはリルルをセリアに引き渡してもう一度水死体のように浮かび始めた。


「ほ……リルル様。大丈夫ですか?

高いところ、怖くなかったですか?」


「ごめんなさいセリアお姉ちゃん。

みんな、私、楽しくてつい……」


確かに、彼女はずっと外に出ずに遊ぶことも出来なかった子だ。遊び盛りの歳なのに、時代が、世界がそれを許さなかった。

王の監視下に置かれていなかったせいもあるが、周囲に子供達がいなかったこともある。それが、今になって爆発してしまったのだろう。それを考えれば、皆怒る気にはなれなかった。セリアは優しくリルルを抱き寄せて頭を撫でてやる。


「いいんですよ、わかってくれれば……でも、もう危ないことはしないでくださいね?イングラム様達が知ったら、きっと怒るでしょうから」


「うん、気をつける」


「はい、ではセリアお姉ちゃんとの約束です。指切りげんまんしましょうか」


リルルは小さな小指を立ててセリアの小指と交わった。ふたりの声が露天風呂に響く。


「いやはや、感動ですねぇソフィアさん。あれ?ソフィアさん?」


「……ひっく」


レベッカが目をうるうるさせている隣でソフィアは顔が赤くなっていた。

それに凄く酒臭い。どんな種類のやつを飲んだらそうなるのか。


「あのぉ、できあがっちゃってます?

ソフィアさーん?」


「うへぇ、イングラムぅ!」


「うわぁ!?」


ベロッベロにソフィアは酔っていた。

先程酒豪だとかなんだとか言っていなかったっけ?とレベッカの頭の中で記憶が蘇る。

そんなことは関係無しと言わんばかりにソフィアは胸元をレベッカの胸元へ押し付けてくる。


「さみしかったんらからねぇ????」


「わわわ、ここは女性専用ですから!

イングラムさんは入ってこれませんよぉ!?」


白い肌が特徴だったソフィアの身体は

桃色がかっていた。

これは完全にできている。

引き剥がそうとするも、その力は予想以上に強かった。火事場の馬鹿力並みである。


「へへぇん?じょうらんはなぁし!」


呂律が回っていないし話も聞こえていないようだった。ソフィアはどぅん、とレベッカを背中ごと押し出して転倒させる。ざばんと大きな水柱……いや、湯柱が立った。


「げほっ、げほっ!

ソフィアさん!さっき酒豪だとかなんだ言ってたじゃないですかぁ!」


「うへぇ、イングラムぅ、おおきくらったれぇ……ちゅーしよー?」


「あわわわわ!私の唇はルークだけと決めてるんです!クレイラさんにどうぞ!」


「お断り〜ふにゃ〜」


全身を絡みつかせて両手で抱き寄せる。

凄まじい酒の匂いが鼻腔を突いた。


「うっ、なんて凄まじいアルコール度数。

何度のものを飲んだんですかぁ!?」


ソフィアの電子媒体が起動して

購入履歴を3D表示してくれた。

悪戦苦闘するレベッカに代わり、リルルを膝の上に乗せたセリアが読み上げる。


「ええと、スピリタ酒……“旧ポーランド原産の物を飲酒専用に改良したものです!どんな酒豪でもおちょこ一杯で出来上がり!極上の酔いをあなたに———— ”

これって消毒に使われる第4危険物じゃないですか!?どうしてそんなものがお酒に……?」


「……あぅ、私もなんか酔ってきた……」


「え?あの、レベッカ様?

まさかスピリタ酒って、周囲にも影響を?」


だが、彼女らに近い場所にいるクレイラは顔を赤くしている様子はない。

離れているセリアですら、影響を受けかけているというのに


「……い、いけません、リルル様に悪影響が出る前にここから脱衣場に向かわないと……」


酒気を僅かに吸っただけでこの効果だ。

セリアの顔も真っ赤になっている。

リルルに被害が出る前に彼女は身体を動かそうと手すりを手にした。


「クレイラ様、お先に上がりますので……すみませんがお2人をお願いしてもよろしいですか?」


クレイラはふりふりと手を振った。

オッケーやっとくわの返事だ。

セリアはそれを確認するとリルルの手を引き寄せた。が———


「うへぇ、セリアお姉ちゃん〜」


「リルル様!?既に酔われていたのですか!?」


辛うじて正気を保っているセリアに迫るのは酔い潰れた幼き魔の手だった。

なんだか手先がいやらしい。


「リルル様!?これは危険です。

このままではのぼせるだけでなく、体調悪化も起こり得てしまいます。

早めに脱出を———んんっ!?」


「セリアお姉ちゃん〜。

なんか気持ちがいいよぉ?

お酒って〜、さいこうらねぇ????」


セリアに口付けするリルル。

アレを飲んでいない少女にまで宿る酒気。

覆い被さる小さな身体はスピリタ酒に

包まれていると言っても過言ではなかった。

唯一正気なセリアも、これには危ういだろう。


「あぅ……頭がふらついて……ダメです、医者として私が意識をしっかりと

……持たない、と……」


「このぬのじゃまら〜え〜い」


セリアの手を払い除けて、布を解き始めてタイルの上にセリアを寝かせると、リルルは満面の笑みを浮かべる。


「綺麗だなぁ、私もぉ、大人になったらぁ……こんな風にぃ、なれるかなぁ?」


「ぁ……いけません、ダメですリルル様。これ以上はナンセンスですぅ!」


いよいよセリアにも酔いが回ってきた。

訳の分からない単語を口にして全身を真っ赤に高揚させる。


「あー、面倒臭いなぁもう!

眠気が覚めた!」


クレイラはがばりと浮遊をやめて起き上がり、百合百合していたレベッカとソフィアを手刀で気絶させて背中に背負い続いて水面下を走り危険な体位となったリルルを右手で抱き寄せて体内の酒気を抜きながら脱衣場へ運び、嘆いているセリアを左腕で抱えながら

脱衣場へ移動開始する。


「ぐぉっ……重い……3人+子供はキツい……こんな!ところで!酒なんか!飲むから!

私が!寝れないんじゃ!ないのっ!もうっ!」


脱衣場へ到着、足でマットを移動させソフィアとレベッカをそこへ投げ

リルルを横にしてセリアを椅子に座らせた。


「はぁ、はぁ、はぁ……ソフィア、迷惑かけて運んだ礼にあなたが見た“今のレオンの記憶”共有させてもらうからね!」


ソフィアの頭に手を当てて、クレイラは目を閉じて神経を集中させる。

ソフィアと邪神たちと攻撃を避けながら必死に彼女を助けようとする姿を

クレイラは垣間見た。

そして、自然と笑みが溢れる。


「レオン、無事なんだね。よかった。

必ず、みんなで助けに行くから……

待っててね。レオン」


両方の目から透明な筋が溢れる。

大切な人が生きていてくれたことにホッとしながら、溢れた涙を腕で拭い、全員の酒気、露天風呂の酒気取り除く作業に取り掛かるのだった。

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