第129話「マナの性質、肉体評価」
今回はちょっとえっちです
時刻は夕方の五時頃に差し掛かる。
地平線に太陽が沈んでいくのを見て、
アデルバートは旅館に泊まることを提案するのだった。
狭霧の森の十数キロ手前にある旅館は
和風を感じさせる装飾が所々に彩られていた。スギの木やクスノ木の木々の香りがまるで森の中にいるように思わせてくれる。
「いらっしゃませぇ!予約無しで泊まれて電子媒体込みの振り込み可能な旅館にございます!
名前はまだ無い!がははははは!」
スキンヘッドに鉢巻、そして和服に身を包んだ旅館の大将が豪快に登場して簡潔に説明してくれた。
「お客様は、女性5人、男性3人ですね。
お部屋は男女ともにご一緒に出来る鳳凰というお部屋と、男女別に泊まれる琉議阿とありますがどうされますか?」
桜柄の綺麗な和服を着た女将さんが
丁寧な口調で聞いてくる。
「女将さーん!私、騎士様と一緒に寝たい!
お布団でぬくぬくしたいー!」
「ダメに決まってるだろ」
アデルバートがひょいっ、とリルルの首根っこを持ち上げる。頬を膨らませるリルルをクレイラに預けてアデルバートはそれぞれ別にして欲しいと伝えた。
「いーやーだー!騎士様と一緒に寝るの!」
セリアは困惑し、クレイラは大きなあくびをし、ソフィアはポリポリと頰を掻いている。
「リルル、それは流石に無理だ。
俺だけが一緒になるわけにもいくまい」
「私は、昔みたいに同じ布団で寝てもいいけど?」
ソフィアは若干顔を赤くして
恥ずかしそうに俯きながら言った。
「おいソフィア!昔の話を持ち出すな!
あと無理だろ!2人用の布団なんて!」
「えー!2人で寝たの!?
ずるい!背中流し合いっことかもしたんだ!
お風呂の中でタオルをぷくぅって膨らませたりしたんだぁ!」
そんな話を、リルルが聞き逃すはずもなく、そしてソフィアはそれを否定することはなかった。
「うん、したよ?」
「うわぁぁぁん!ずるい!
私も背中流すのぉ!」
そんな会話を、ドデカい聞き耳を立てていた女将は聞き逃さなかった。
「ございますよ?お布団」
「え?」
「ございますよ?相合い傘ならぬ相合い布団。お2人様限定の超・スウィーティな時間をお過ごしするにはもってこいです!!」
「いいや、結構だ。男女別にしてくれ」
「蒼髪様っ!」
聞いたことのない少女の怒号。
余程ソフィアとイングラムのごっこ(とリルルは思っている)が羨ましかったと見える。顔を赤くしてアデルバートを睨みつけた。
「やかましい、他の客に迷惑だろうが。
てことで女将さん、それに大将。男女別で頼みます」
「かしこまりました。お風呂は一階の
露天風呂のみとなりまーす」
リルルは全身を小刻みに振るわせて
ソフィアを睨みつけた。
若干涙目である。
それに気づいたソフィアは笑顔を浮かべて手を振った。煽りに煽る。彼女も馬の骨と言われたことを根に持っているらしい。
精神年齢的にはどっちもどっこいどっこいである。
「おめえら喧嘩してんじゃねえよ。
さっさと風呂に浸かってこい」
「ぷぅ!」
「ふふふ………」
女性陣は先にお風呂を済ませてくるらしい。クレイラに抱き抱えられてもなお、リルルはアデルバートを睨み続けていた。
それはもう姿が見えなくなるまで
「アデルくん、大丈夫かい?」
「餓鬼の扱いには慣れてる。
次に我が儘言うなら撃鉄を鳴らしてやるさ」
「うん、それはやめようね」
友の心配をしたルシウスはアデルバートの冷徹ぶりに思わずストップをかける。
こんなことが実際に起きてしまえば
この旅館は営業どころではない。
「さて、じゃあ俺たちも男湯の露天風呂に浸かりに行こう。飯の前に湯浴みしたいしな」
イングラムの言に、2人は賛成の意を示しレンタルした浴衣を手にして露天風呂へと足を運ぶのだった。
男性サイド 脱衣場にて
「ふぅ、しかしこういう感じ、懐かしいな。
あの頃を思い出す」
アデルバートは魔帝都にいた頃を思い返していた。入帝した時も、こうやって皆で風呂に浸かったものだ。
「あぁ、入浴制限とか人数制限とか
快くない制度が山ほどあったからな。
その点、ここは時間制限だけで、他は大した縛りはない。
基本的なルールさえ守れればいいんだ」
バスタオルを腰に巻いて意気揚々と端と端を結ぶ。容易くほどけることがないようにしっかりと。
「騒いだりしなければいい。
飲み物も中に溢さなければ購入可能になっているし、なかなか贅沢なんじゃないかな?」
自販機に売っていたフルーツ牛乳を
腰に手を当て、飲み干したルシウスはそう言った。
「あぁ、というかお前、それは風呂上がりに飲むもんだろ。なんで入る前に飲んでるんだ。」
「え?脱水症状対策だけど?」
きょとんとした表情でそう返答する。
彼なりの予防法らしいが、アデルバートは難色を示していた。
「アルカリスエットにしとけよ……」
それは風呂上がりにこそ至高に感じるのであって、飲む前に飲んでも普通の牛乳と変わらない。と。
「あれはこれより糖分が高い、僕の眼がそう言っている」
「じゃあ塩でも舐めてろ」
「ははは、辛辣だねぇ」
がちゃん、と取り出し口に落下した
イチゴ牛乳を取り出して蓋を外し、
また飲み始める。ほのかなイチゴの香りがイングラムとアデルバートの鼻腔を刺激した。
「おい、全部制覇する気か?
それ一本200円だぞ?」
「うん、制覇するよ。入る前と入った後で味の変化を楽しみたいんだ」
「まあいいけどよ……糖尿病にはなるなよ?」
「あぁ、その点は心配いらないよ。
僕のマナは火だから余計な糖分は燃焼できるんだ。つまり、いくら甘いものを摂取しても糖尿病になるリスクはゼロだ」
「あ、そう……じゃあ寒さとも無縁なわけだ」
「極化じゃない限りは平気だね。たとえ今のまま放り出されても1ヶ月は耐えられる」
「……でたらめだな、お前のマナは」
「アデルくん、君の水のマナの効果だけど……深海5000メートルまでシュノーケリング無しで深水出来て、かつ身体の中で酸素を含んだ水分を肺の中で抽出することができるから息継ぎも必要ないらしいじゃないか。
水中の抵抗も無く、地上と変わらない動きができるとも聞くし、実際のとこどうなんだい?」
「お前の言った通りだ。だがデメリットの方が高いぜ?それ以上の深水は身体を圧縮させられてオジャンになる可能性もあるし、肺に水を入れるってのは中々にキツい、下手すりゃ地上で溺死する。その上水中で動き回るとなるとかなりの集中力と神経を研ぎ澄ませなきゃならん。正直キツい」
「ふむ、たしかに僕の場合も下手をすれば外の酸素と反応して焼死する可能性がある。それに、触れただけで貴金属が焼きを入れた鉄のように熱く感じることもあるし、メリットは薄いね」
アデルバートとルシウスはちらりとイングラムの方を見やる。
「うん?雷のマナについてか?」
「あぁ、ルシウスのを聞いたからにゃ
お前の特性も知っておくべきだと思ってな。
聞かせてくれ」
ふむ、とイングラムが腕を組みながら化粧水を塗りつつ、説明を始めた。
「雷のマナは空気中の電子を体内に取り込むことで右手右足にプラス電子を、左手左足にマイナス電子を蓄えることができる。
生物上で言うところの帯電状態だな。
この両方の電子を交差、結合させることによって初めて電撃が発生する。
紫電とかはまあ少し特殊で、片手に両方の電子を結合させて放射しているんだ。生身で放てば焼けるような衝撃が走るため、俺は絶縁細胞と呼ばれるものを鎧のあらゆる場所に隙間なく付着させている。
落雷や焼ける衝撃から守るための細胞だと思ってくれていい。メリットは建物のブレーカーが落ちた時とか、電気を通したい時とかに便利だし、雨が降ってる時なんかは俺が避雷針の役割になってマナの力を強化できる点だな。10代の頃は1000万ボルトくらい身体に溜めてたかな……ちょっと痛いけど」
「うん?待て、ということはお前、雨の日は進んで木のそばとかに行くってことか!?」
「あぁ、言ったろ?避雷針の役割になってると、それに、俺は晴れより雨の散歩のほうが好きだし、雷に撃たれてマナも強化されるし、一石二鳥だろ?」
「なるほど、強化型のマナか……
打たれれば打たれるほど強くなると
デメリットは?」
「デメリット?
そうだな、空気中に電子がないとマナが放出できないこと、絶縁体持ちの相手には効かないこと、塩分濃度が一定でないと海とかに落とした時にマナが拡散しないことぐらいか?」
「おいサラッと恐ろしいことを言ったなお前。ということはあれか?
俺が塩分の入った水を纏えば俺は死ぬのか?」
「識別機能を消せば、おそらくは」
「…………」
アデルバートは口籠もり、頭に手を当てながら深々と息を吐いた。
「ふむ、なるほどよくわかった。
あとは風と土についても詳しく知りたいところだけど、いかんせんルークくんは行方不明だし、土の使い手には会ったこともないし、勝手が分からないね……」
そう言いながら、ルシウスはコーヒー牛乳を手にして、蓋を開けた。それをアデルバートが取り上げて飲み干す。
「あぁっ!?コーヒー牛乳!?」
「……飲み過ぎだ、何回往復してんだよ」
イングラムが瓶置き場に目をやると
先程まで空だった空き箱に溢れんばかりの牛乳瓶が置かれていた。
「入る前の最後の一杯が……」
しかも、自販機を見ると品切れの電子文字が浮かび上がっている。
イチゴ牛乳、フルーツ牛乳、コーヒー牛乳、普通の牛乳、ヨーグルト牛乳、全部だ。
アデルバートはまたしても溜め息を吐いた。
「レオンじゃあるめえになんでそんなに飲むんだよ」
「美味しいじゃないか、温泉に設置されてる牛乳」
「……」
「なぁ、そろそろ入らないか?
混み合う前に上がってしまおう」
「そうだね、行こうか……あ、レベッカさんにコーヒー牛乳を買っておいてもらうように頼んで———」
「やめておけ、止まらないだろお前」
「……ケチだね」
「他の客の分飲むやつが言うセリフかぁ?」
「ほら、早く行くぞ。」
イングラムはふたりの肩を叩いて
露天風呂の入り口へと向かったのだった。
女湯サイド 脱衣場にて
「おおっ、セリアさんナイスバディですね!
ボンキュッボンてやつですか!」
「あ、あのぉ……裸を人に見せるのは慣れていないので、あまりそうマジマジと見ないでいただけると嬉しいのですが……」
恥ずかしそうにして両腕を使い、胸元を隠す。そんなセリアの身体つきはもはやモデル並みのものだった。身長160cm、体重50Kg。
余計な肉は付いていない、胸はCよりのD。
お尻もそこそこ大きい。そんな彼女の肉体を美男美女好きのレベッカは観察していた。
「素晴らしい、羨ましい肉体です!
まさにダビデ像に相応しい!」
「あの、ダビデ様は男の方では———」
「そして、ソフィアさん!
貴女のその真っ白な肌、そして見事な谷間……素晴らしい。頭の天辺から爪先までうっとりしてしまいます……んふ」
セリアの言を無視して、男みたいなセリフを次々と吐いていく。中身は男か?
「あら、そう?
レベッカもなかなかにいい身体つきだと思うけど?」
ソフィアの肉体はもはや外国美女と言っても差し支えないほど見事なものだった。
身長165cm、体重55Kgの彼女の身体はまさに純白そのものと言っていい。
そう、身体全体が焼けていないのだ。
あれほど露出の高い鎧を身に付けていたにも関わらず真っ白である。
胸はDだろうか、C寄りでもなく、Eよりでもない。ど真ん中のDだ。
「いやいやいや、私なんてそんな大したことは……こりゃあたまげたぜ。クレイラさん半端ない!!」
「?????」
服を脱いだクレイラの見事な銀髪と
絹のような透き通った肌が目に留まった。
身長160cm/体重は測定不能らしいが
それにしても見事な身体つきである。
多くの女性の求める黄金比を彼女が持っていると言っても過言ではない。
胸のサイズはE寄りのDか。頭から爪先まで、まるで美を体現した彫刻のように美しい。
「あの、どうやったらそんな綺麗な身体になるんですか!?教えてくださいよぉ!師匠!」
ふぁさり、と銀髪の長い髪が胸元を隠すように覆い被さる。
「ん〜?私は特に意識してないかなぁ。
触れたらこうなってたし、あと師匠じゃないよ……ふわぁ」
「触れる!?何に触れるんですか!?
ちょっと気になりますねぇ!」
「レベッカ、中身おじさんて言われない?」
クレイラは首元をもみほぐしながら
どストレートに聞く。
「イエスです!」
なんとも清々しい返事だ。
クレイラは若干瞼を重くしつつも、畳んだ服をカゴに入れる。しかし、その背後には蒸気機関車のように鼻息を荒くしたレベッカがいた。両手をわにゃわにゃと動かしている。
「すき焼き!」
ナイスバストを背後から揉み解す。
黄金比ボディを持っている彼女ならば
そこも極上と柔らかさと弾力を持っているはずだ。男達の極楽浄土を、レベッカはひとまず先に体験しようとがばりとそれを掴んだ。
はずだった。
「……ん?」
おかしい、極上の揉み心地が両手を通して脳に快楽という感覚を伝えるはずなのに、手は虚空を掴んでいた。上下に手を弄っても、それらしいものはない。
「え?あれ?なんで?どうして?」
「ふぁ〜……それじゃあお先に〜」
「お待ちをクレイラさん!」
「ん〜?」
「あの、胸は!?
極上の触り心地はいずこへ!?」
ご褒美を取り上げられた猫のような目でクレイラに訴える。
「レオン以外の人間に触らせてなるものか断じて!」
物凄い形相と威圧感を纏ったクレイラはそう叫んだ。身体中がビリビリする。
レベッカはうん?とクレイラの胸元に目をやると、胸が生えてきたように元に戻っていたのだ。どういう原理かは知らないが、クレイラは胸のサイズを自由に変えられるらしい。
ますます羨ましい、黄金比ボディを手に入れた美女には、あのような特典まで付いてくるのか、レベッカは膝から崩れ落ちて涙を拭う。
「う、うぅ……極上の揉み心地がぁ
黄金比ボディがぁ」
「あの、レベッカ様。
お風呂、入りませんか?」
「そうよ、せっかく来たんだから、ゆっくり浸かろう?」
「うう、わかりましたぁ……」
レベッカはソフィアとセリアに慰められて渋々露天風呂へ入っていく。リルルはしばらくポカンとした後に
「ねぇ!レベッカお姉ちゃん!
私の肉体の評価は!?」
思い出したようにしてゆっくり歩いて行った。