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第122話「最強VS最強」

第122話 最強VS最強


朝食から一時間後、二人は山頂に辿り着いた。雲が自分たちよりも低く漂っていてその空は青く澄んでいた。


「綺麗だね」


「そうだな、空気も地上より澄んでる。あそこに見えるオゾン層が直に酸素を振り撒いてるおかげだな」


レオンは空を見上げて指を差したあと、身体を軽く動かして準備運動をする。クレイラもそれを真似て、同じように動かす。


「いやしかし、ここ最近強いやつと戦ってきてないな。久しぶりに骨のあるやつと限界ギリギリの戦いをしたいものだが———」


「レオンはどれくらい強いの?」


「うん?まあ、魔帝都って呼ばれる場所では最強とか言われてたな。ボクボクにだけ」


「ボクボク……?あのモアイ像のこと?」


魔帝都には、レオンに対してイングラムらを除いて、唯一友好的に話しかけにきてくれたモアイ像がいた。

かつてイースター島と呼ばれた島があったその場所で、レオンが暇潰しに潜水している最中、プカプカ浮かんでいるのを見つけたのだとか。

それを、こっそり魔帝都に運んでマスコットにしたのだ。そして、なんとそのモアイ、喋るのだ。小学生くらいの知能は持ち合わせているらしく、ガムガムが好き。


「あぁ、元気にしてるかな。アイツ」


「きっと大丈夫だよ!

またいつか会いに行こう?」


クレイラは笑顔を向けてそう言った。

レオンと記憶を共有しているからその外見も、口調も、そして声も

鮮明に浮かび上がっている。

しかし、実際に会ったことはない。

隣にいるレオンも会いたいと願っているのなら、共に行かない手はない。


「そうだな、さて、と……」


レオンは自分の周囲を見渡し、全身の筋肉をほぐし始めた。それと同時に、クレイラは

レオンの思惑を悟った。彼は、適当な相手を見つけて力を放出するつもりらしい。


「レオン、もしかして疼いてる?」


「ん……?まあな、そこら辺の怪物は

倒したし、ここ最近は手応えのあるやつもなかなか———」


「じゃあ、私が模擬戦の相手をするよ」


「君がか?確かに本で色々な技術を学んでいたのを見ていたが、まだ早いんじゃないか?」


「大丈夫大丈夫、レオンのこれまでの戦闘の記憶も全部ここに吸収したから」


クレイラは自分の胸に手を当てて

頷いた。

レオンは一瞬驚いた顔を見せたが

すぐに笑みを浮かべてクレイラの肩をガシッと掴んだ。


「よし、頼むぞクレイラ。

まずは軽く模擬戦といこう」


レオンは片手で電子媒体を起動し

戦闘用亜空間を展開するように項目を選択する。


〈戦闘用亜空間作動、空間湾曲が始まります。〉


電子媒体がそう溢し終えると、広がっていた世界が歪み始めて暗転し全く別の世界が出現した。

広い野原ような場所で、足元には

草木の感触がある。木々は揺れて

木の葉が舞い散っている。


「ここで良い。模擬戦には絶好のステージだ。」


「うん、空気も心地良いね!

愉しめそう!」


ふたりの声には戦意が籠もっていた。

心の中にある闘争本能が、お互いという相手に対して剥き出しになっている。


「いくぞっ!」


「OK!」


ふたりは中間地点で拳をぶつけ合った。

ぶつかり合った瞬間に凄まじい衝撃波が亜空間世界情景ほぼ全てを“破壊した。”


鍛え上げられたレオンの右足が

迎撃に出たクレイラの左足に阻止される。ぶつかり合う健脚に、激痛を越える痛みが走ってくる。自分に久方振りに痛みを与えてくれたクレイラに、レオンは昂った。


「その迎撃も、俺仕込みか?」


「もちろん」


クレイラは笑顔でそう答え、風を切るようにアッパーを繰り出してきた。

レオンは空気の変化を感じ取り

体をのけぞらせてそのアッパーを回避しつつ足払いする。それを、クレイラは軽く飛ぶようにして避け回し蹴りを繰り出す。

その蹴りを、右腕で防ぐと、ふたりはにやりと笑みを浮かべ


「強いな、本気を出しても良さそうだ」


「いいよ?レオンの本当の力、全部受け止めてあげるから」


「それは嬉しいね!」


今までに浮かべたことのない歓びの感情が

レオンの身体に電流のように走っていく。

これほどの充実した相手は父親と兄達以来か。自分と互角、いや、それ以上の戦闘能力を持った人がここにいる。

錆び付いていた身体が、獣のように脱皮するみたいに綻びを解いていく。


「レオン、マナを使ってもいいんだよ?」


「闇は極力使いたくないんでな。

光でいいか?」


「もちろん。私は全部味合わせてあげるね」


楽しみだ、とレオンは呟いて

左腕を高く上げる。

煌々ときらめく太陽のエネルギーを吸収してほのかに輝き始めた。


クレイラは両腕を大きく左右に広げて

大気を震わせ始めた。

彼女の背後には、火、水、風、雷、土の五つの属性が浮かび上がる。


レオンはほぅ、と小さく呟いて迎撃態勢を取った。

マナのエネルギー波がここまで視覚化できる相手がいるとは驚きだった。イングラムたちですら、全身に惑わせることでようやく視覚化できるほどだった。人生の一生涯をかけてようやくその高みに到達できるか否かのその極地の到達点を、彼女はいとも簡単に見せてくれる。


「避けないと死ぬよ〜!」


倒してしまう。という宣告をされて

自然災害に匹敵しうるマナエネルギーがレオンに向けて一斉に、かつ同時に襲いかかる。軌道を目で観察し、周辺の熱の変化を肌で感じ取り、匂いを鼻で嗅ぎ分け、それぞれのマナの集合体をバク転、側転空中で回転しながら避け、右足を白銀色に光らせながら、回し蹴りを繰り出し全てのマナの一撃を掻き消した。


「———わぁお」


「久しぶりだ、これほど充実した戦いは……兄貴たち以来だよ!」


心底楽しそうに微笑みを浮かべながら

クレイラに向かって突貫し、肘打ちを

打ち込む。クレイラはそれを腕で防いでレオンの腕を掴み取り、腕を引き寄せて叩き伏せた。


(CQCか!)


即座に立ち上がってクレイラの顔に向かって蹴り上げる。彼女は腰を落としてそれを避け足払いするものの、レオンは僅かにジャンプしてクレイラの背後を取り、唯一残った大木へと投げ飛ばした。


音速を越える速度、普通であれば叩きつけられ、全身を強打するほどのものなのだがクレイラは自身と木の距離を把握して脚がつくちょうどのところで木を壁蹴りするように蹴って、レオンに降下しながらキックを繰り出した。

レオンは腕をクロスしてその一撃を受け止める。ヒシヒシとした痛みが、両腕を通して全身に伝わっていく。

生きている実感が、彼女と闘うことで

少しずつ得られていった。


「どうして避けなかったの?」


「どうしてかな、君の全力をこの身で感じたかったのかもしれない」


レオンの腕を壁蹴りするようにして距離を置き身体を空中で回転させながら着地する。

もう彼女の瞳に戦意は宿っていなかった。


「これ以上やったらこの亜空間が消滅しちゃうなぁ。やめとく?」


「あぁ、そうしよう。

まあ、お互いまだまだやれるし、気が乗ったらまた模擬戦でもしようか」


「ふふ、賛成!私もたまにレオンと戦いたいし、その方がお互いにとっても効率良いもの」


「そうだな、はははは!!」


ふたりはお互いの顔を見合って

何かがおかしくなって笑い始めた。

程よい汗と爽快感が気分を落ち着かせてくれたのかもしれない。


〈おふたりとも、亜空間が予想以上に大きなダメージを負っています。現実世界では自重下さい〉


天から声が聞こえてくるように電子媒体がそう警告する。

周りの風景を見渡すと、確かにところどころノイズが走り始めていた。

ただ単にその場にいるだけであれば影響は出ないが、衝撃波やらマナやらを放出しすぎるとこの世界自体がダメージを負う。

下手をすればそこで空間が歪み始めて

中にいる存在もろとも消滅させてしまいかねない。


〈すぐおふたりを元にお戻しします。

瞳を閉じてください〉


「あぁ——————」


レオンは言われる通りに、目を閉じた。

右手に彼女の確かな温もりを感じながら

ふたりは現実世界へと戻っていったのだ。





「あれから、もう5年かぁ。

レオンはどうしてるのかな、きっと今も邪神を食い止めてると思うけど———」


クレイラは回想を終えて、星が瞬く空を見上げていた。星々はクレイラを優しく照らしている。


「寂しく、ないのかなぁ……」


あの後からしばらくしてレオンはクレイラに「後輩達を頼む」と言って姿を消した。

邪神達が蔓延る怪奇の世界へとたった独りで進んで行った。彼の背に恐怖はなかった。


いや、見守ってくれる人に不安を抱かせたくなかったのかもしれない。

自分が死んでしまうかもしれないのに

彼は最後まで後輩たちと、そして何よりクレイラの身を案じていたのだ。


「……レオン、約束は守ってるよ。

今は、ルーク以外のみんなが揃ってる。

彼もきっと私が、ううん、私達が見つける。だからこっちは安心して。邪神を封印することに専念していいんだよ」


遥か空、この地球の全ての世界と繋がっているその先へ、クレイラは自身の思いを口にした。約束は必ず果たしてみせる。

彼女は手をギリギリまで伸ばして、空を握りしめた。その表情は実に満足げなものだった。


(……いつ目覚めればいいのだろうか)


ソルヴィアの騎士は途中から目覚めていた。

どこら辺からかと言えば、クレイラがまだ小さかった頃の時からだった。

彼女がひとり二役するその声を、聞いていたのである。溢れそうになる声を何度堪えたことか。しかし、その必要はもうない。

あとは自然に、うーん、と目を擦りながら目を覚ませばいいだけだった。


「んー、懐かしいなぁ。

昔の姿に戻ってみようかなぁ。

でもまた他のみんなにイングラムの隠し子だ!とか言われたらちょっとあれだよねぇ……」


クレイラの視線が眠っているイングラムに向けられる。

そして、彼女はムクリと立ち上がりイングラムの顔に自身の顔を近づけると

ものすごい笑顔で


「ねぇ?イングラム?」


迫ってきたのである。

そしてさらには、彼女は気づいていたのだ。

イングラムが意識を取り戻していることに。


「ねぇ、わからないと思った?

呼吸乱れてるよ?」


「……いや、君なら動くと思っていたよ。

そしてすまない、盗み聞きするつもりはなかったんだ。あとありがとう。助けてくれて」


「問答無用!」


「ぐぉぁぁぁぁぁ!!!!!」


クレイラは恥ずかしさから鉄拳を喰らわせた。イングラムが再び目を覚ますのはそれから数時間後のことだった。

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