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第105話 再会

「リルル!大丈夫か?」


「き、騎士様———!私は……!」


「いい、何も言うな。わかっている」


イングラムは優しく笑って頷き

今にも意識を失いそうなリルルを安心させた。


「あり、がとう……」


リルルは目を閉じて眠るように意識を手放した。イングラムは抱き抱えたままゆっくりと立ち上がり、エレノアにリルルを託した。


「エレノアさん、リルルをお願いします」


頷くエレノア。そして、全身の生々しい傷口を抑えながら、魔術師は吠えた。


「イングラムぅ!その小娘を寄越せ!

そいつは接触者なんだ!邪神復活に欠かせないパーツなんだよぉ!」


「人をパーツ呼ばわりする奴にリルルを渡すわけにはいかないな」


呪詛を吐き捨てるかのように

そう言った魔術師を、イングラムは冷徹な視線と言葉で返した。


「魔術師、やはりお前は危険だ。

今日ここで仕留めさせてもらおう」


イングラムは槍を顕現させ、柄を握りしめて切っ先を向けた。


“仮面の魔術師よ、苦戦しておるようじゃな?”


「———」


仮面の魔術師を庇うようにして、仙人の于吉が煙と共に現れた。

イングラムにとっては、コンラから続く因縁の相手である。


「ふん、まだ成仏していなかったのか?」


「ほっほっ、青二才が吠えるではないか。少しは、まともに戦えるようになったか?」


しがれた声で嗤う老人に、蒼い太刀筋が見舞われた。

上半身と下半身の繋ぎ目を一刀両断する。


「ほぉ?蒼い小僧、生きておったのか。そやつからは、死んだと聞いていたがな?」


ずれていく視界をよそに、于吉は蒼い影を見て嗤う。


「イングラム、こいつは俺とルシウスでやる。お前はあの仮面野郎と決着をつけて来い。」


「アデル……!」


「イングラム様、こちら、マナの回復剤になります。どうぞ使ってください」


いつの間にか、後ろにはセリアが立っていて、一つの小さな瓶を渡してくれた。


先の戦いからまだ時間が立っていないことを考慮してのことだろう。流石気が利いている。イングラムはそれを服用するとセリアに頷いて見せる。


「ありがとうございます。

これで戦える」


イングラムは跳躍して仮面の魔術師に槍を振り下ろした。


「ほほほっ!させぬ———!」


未だ分裂した身を治さない于吉が杖を地面に叩いて、腕から衝撃波を放つ。

音速を越えるスピードで、イングラムを吹き飛ばすのは時間の問題、魔術師と仙人の目には明らかだった。が。


「それは———」


「俺たちのセリフだ、老いぼれ」


紅い炎と蒼い水が、その衝撃波を

相殺したのである。

イングラムは背後を気にすることなく、一撃を見舞うことができた。

しかし、仮面の魔術師はあろうことかその一撃を腕で受け止めた。


「はっ、はははぁ!

お前ひとりならば倒せる!」


ぐにゃりと腕の骨が折れる音と感触が、槍を媒介にしてイングラムの両手に伝わってくる。しかし、苦悶に溺れることのない魔術師は指を鳴らして魔法陣を召喚、イングラムごと自身をどこかの場所へとワープさせた。


「ちぃっ、青二才共め」


いつもの冷静な魔術師であればあんな愚行は犯すまい。やはり、少女が目の前に現れたことで思考が回らなかったのか。


于吉は内心ため息をつくと、紅と蒼のオーラを身に纏う2人の青年を睥睨する。


「おいライオン頭、お前はいつまでそうしているつもりだ!部下を使え!まだ助けられる命があるはずだ!」


「……!そうだ!レネアさん!

このワクチンを使ってください!

早く使わなければまた被害が大きくなってしまう!」


于吉の頭部を越えて、ルシウスは

レネアにワクチンを投げ渡した。

それを、部下の一人がキャッチする。


「レネア様、今は争っている場合ではありません!一刻も早くこのワクチンを散布しましょう!今ならまだ間に合います!」


「しかし、罠かもしれん……人の子の言葉なぞ……!」


「その時はその時です。

今は、ルシウス殿の渡してくれたこれしか望みがありません。それにもしこれが偽りであったなら、人の子を改めて罰すれば良い、違いますか!?」


「———くっ」


「さっさとしろ!」


アデルの恐喝にも近い一言が木霊する。


「ほっほっほ!やらせんぞぉ!」


于吉は分身を作り出してレネアに迫る。

膨大な魔力をその身に宿しながら突貫し、その魔杖を振り下ろす。


「おおっとぉ!弟に手は出させんぞ?」


金属と杖がぶつかり合う。

火花が散り、そこにはにやりと笑う獅子王がいた。于吉は苦虫を噛んだような表情を浮かべて分身を消す。


「弟よ、俺の命令を無視した理由は後でたぁっぷりと聞く。今はルシウスの言葉を信じろ!民たちを救うのだ!兵器の近くに俺の兵は待機させている!」


「兄上、愚かな弟にお聞かせください。

なぜそこまで人の子を信じようとするのです!?」


「俺が人の子を信じるのはただひとつ!

諦めずに前に進もうとするその姿にこそ俺は惹かれるのだ!諦めぬ心こそ、人の子が持つものだ!我らには長らく忘れていたものを、彼らは持っている!それだけだ!」


「諦めない、心──」


「さあ行け弟よ!

良いきっかけだ、人の子を、信じてみろ!」


「———はいっ!」


レネアは自身が連れてきた兵と共に立ち上がり、散布できる場所へと駆けていく。


「おのれ獅子王!貴様は物分かりのいい奴だと思っていたがな!」


「はっはっは!ヘラクレスと同じくらい、俺は頑固ものだからな!今度はヘマはしないつもりだ!慢心も、油断もしない!」


その漆黒の剛腕から放たれるラリアットは于吉の首元で炸裂した。


「ぬぅぉっ!?」


身体が宙に浮かぶような感覚、喉元に集中する激痛。込み上げる衝撃を抑えるために、于吉は喉に手を当てる。


「ジェヴォーダンの獣よ!

来るがいい!」


杖をこつんと叩く、上空から落下してくるのは禍々しい青と赤の入り混じった負のエネルギーを纏った巨大な狂犬が現れた。


「ほほぉ?見事な犬だな!

是非手合わせ願いたい!

人の子よ、その呪い師は頼んでいいか?」


「あぁ!終わったら手を貸すぜ、ネメア」


「はははっ!その前に倒してしまうかもな?

さぁ犬!楽しいお散歩の時間だ!!こっちへ来い!」


ネメアは挑発するようにジェヴォーダンの獣を誘い出す。立派な犬歯を見せながら、ジリジリと距離を詰めていく。


後方へ気を配りつつ、跳躍して広い場所へ移動していく。それを追いかけるようにして

怪物は建物から建物へと飛んでは壊していく。


「随分大胆なライオンだ。

自分の街を気にも止めねえとはな」


「ははは、豪快さなら随一だがらね。あの人は」


「ククク、青二才ども、笑っていられるのも今のうちじゃ、貴様らはリオウに滅ぼされる運命よ」


「相変わらず好き放題やってるらしいな。が、それも今日までだ。クソジジイ。まずはお前から葬ってやる」


「行こう!アデルくん!」


戦友の言葉に思わずマスクの下の顔が綻ぶ。


久方ぶりに会うルシウスはとても逞しく思えた。


「おう、俺たちの力、見せてやろうぜ」


拳を突き出すアデル。

それに微笑んで、ルシウスは拳を突き合わせた。


「ほっほっほ、随分と余裕じゃのう?

じゃがワシにも策はある。

出でよ!呂布!項羽!」


「———」


「———」


数万年も前に死したはずの人間が、人間とは思えぬ気迫を身に纏って黒紫色の妖しいオーラの中から古代の中華の鎧を身に包んだ二人の英傑が立っていた。


「ほっほっほ!“復元蘇生!”

実に素晴らしい!海の底で浮かんでいたこやつらの骨があったことは幸運じゃった!

実際こうして、お主らにお披露目できるのじゃから!」


「ふんっ、くらだねえ!

死人を復活させて手駒にするなんざ、てめえ……性根から腐ってやがるな!」


「———!!!」


呂布が凄まじい気圧でセリア達の方を向きながら、方天戟を振り下ろした。

それを、蒼い影が受け止めた。


「ちっ、馬鹿力が!

こんな奴がいたとは思えねえな!」


「アデルくん!」


「———!!!」


項羽が二つの獲物を以ってルシウスの行動を阻む。


「くっ!邪魔をしないでください!」


顕現させた弓で項羽の一撃を逸らして

矢を連射する。

それら全てを、項羽は叩き落とした。


「くっ、このままでは于吉が———!」


「ほっほっほ!ではの青二才ども!

せいぜいおもちゃと遊んで楽しんでおるがいい!」


ルシウスもアデルも古の英傑に阻まれ

于吉に対して手も足も出ない状況。

仙人は笑いながら空中へゆっくりと浮遊し、そのまま消え去ろうとしたその時、二人の上空から凍てつく波動が于吉へ降り注いだ。


「ぐぉぉ!?」


奇襲にも等しいその一撃は于吉を落下させるには充分だった。


「……今のは、誰だ?」


「今の感覚は、まさか!」


純白の影は突如飛来し呂布と項羽を押し倒して吹き飛ばした。


「やっほぉ!ルシウス!

やぁっと抜け出せた」


彼女は二人に振り返って笑顔で手を振る。


「クレイラさん!」


「———誰だこの女、お前の彼女か?」


「あ、貴方は、確かアデル!

閉じ込めたこと、許さないんだからね!」


「あ?あぁ、お前だったのか、あの犬っころの正体は」


指を指して頬を膨らませるクレイラと

思い出したかのように手をポンとするアデルバート。


「お、のれぇ!」


クレイラは于吉の方へと振り返り、

アデルバートとルシウスも于吉へ視線を向けた。


「そこのじいさん、あなた、レオンを作ったね?」


「なに?何故そんなことがわか———」


クレイラは目にも留まらぬ速さで

腕から生やした紅蓮の焔の如き輝剣を首元に突きつける。


「許さないよ?

私の大切な人を侮辱したんだから」


(この娘!強い!)


どうっ、と紅い剣先から生じた凄まじい衝撃波が干吉の全身を吹き飛ばしていく。


「二人とも、あいつは私がやる」


「しかしあいつは———」


「お願いアデル。私にやらせて」


捕まえた時とは違う。

あの飄々とした風のような少女からは考えられないほどの怒気が彼女の背中から滲み出ていた。


「わかった、気をつけろよ」


クレイラはにっこりと笑って于吉が飛ばされた場所へ飛んでいく。


「よし、ルシウス、やるぞ!」


「あぁ!」


二人の戦士は古代の英傑の前で

それぞれの獲物を構えたのだった。

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