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第102話「舞踏会乱闘」

振り下ろされる鉤鎌刀を電撃迸る槍で防ぐイングラム。


「なるほど、貴公がソルヴィアの騎士か!」


「元、だ!」


少しの鍔迫り合いの後、二人は互いに跳躍して後退する。


「シュラウドぉぉぉ!!」


暗がりの中で轟く咆哮と蒼い影が

二つの怪しい光を以って天井から急降下してくる。


「でぇぇい!」


二刀の短剣を鉤鎌刀で勢い任せに押し返す。

アデルはシャンデリアの突起部分に手を伸ばして再度急降下し、蹴りを放った。


それを、再び防ごうと鉤鎌刀を盾にする。その時に、僅かに感じた違和感。


(水……!?)


鉤鎌刀をまるで覆うように水の膜が出来ていた。


「イングラム!今だ!」


「あぁっ!雷電槍!」


ぐるり、と槍に紫電を纏い

それを投擲する。槍は音速で空気を引き裂き偃月刀に直撃する。


「なにっ!?マナ同士の連携技か!」


数万ボルトに達する電流が、全身を這うようにして流れていく。が、シュラウドは気絶するどころか、驚愕しただけだった。


「お前何者だ、水と電気で死なねえとは」


「ふ、いささか特殊体質でな!」


シュラウドの一撃をイングラムとアデルバートで防ぐ。ギリギリと金属がぶつかりあい火花が散った。


「ぬぉぉぉあぁぁ!」


次の一撃を前に跳躍するアデルと迎撃するイングラム。槍と鉤鎌刀が激しく激突する。


一撃一撃が必殺技の如き重さ。

全身を叩きつけられるような衝撃が

打ち合っている2人に向けられる。


「ちぃっ!」


「水技・水龍膜!」


空中で小さな魔法陣を描くと

ごうっ、と音を立てて青い何かがシュラウドの周囲を泳ぎ回り始めた。


「イングラム、ちょいと離れとけ」


「あぁ……!」


対空時間を生かし、アデルバートは次の一手を披露する。


「深水・剛圧球!」


周囲のそれは青い津波のように変化して

シュラウドを取り囲んだ。

背丈以上の大津波が、対象を飲み込んでいく。


そして、水で出来た巨大な風船状の膜にシュラウドは覆われた。


「無酸素高水圧のこの膜でいつまで耐えられるか見ものだな」


無駄なこと!


「———!」


身体の自由が制限されるなかで、紅蓮の騎士は鉤鎌刀を外にいた時と同じ速度で薙ぎ払い水の膜を一刀両断、脱出した。


雨を全身に浴びたようになっても、凛とした表情を崩さない。それどころか、身体に異変を起こしていない、という異常も見られた。


「は、バケモノかてめえ。

あの中に入れられればドラゴンですら数秒で溺死するんだがな」


「私は、この程度の力で倒れはせぬ!

いざ、今一度獲物を交えん!」


水を浴びた影響かは不明だが

よりスピードが増したような気がする。振われる一撃も、なぜだか重い。


「ふんっ、全く、俺のマナじゃ相性が悪いらしいな!イングラム、幸いここは水浸しだ。

お前ので一発デカいのを頼む!」


「そんなものは……いや、ある!

だが時間をくれ、あれは少々規模がでかい!」


「おう!任せろ!時間くらいは稼いでやる!」


「頼む!」


イングラムとアデルバートはお互いに手を小さく突き合った。そして、青い影は水浸しのカーペットの上を駆ける。


「我が左右に握りし双つの短刀よ

全てを断ち切る水の刃となりて顕現せよ!」


瞬間的な集約、僅かな集中力を維持して発露させる水の刃、高圧縮かつ密集された水が、波紋を描いて顕現する。


「はぁっ!」


「おらよっと!」


水の刀身と鉄の刀身がぶつかり合う

金属と水、決して火花が散るはずのない存在だというのに、アデルバートの造り出した水はそれを可能にしてしまうほど硬水らしい。


硬水、名前の通り硬い水というわけではないがアデルバートの緻密かつ繊細な技術力とマナの質量によって文字通り硬水の剣が短剣を長剣へと変化させている。火花を散らせるくらい、骨すら断ち切れそうなくらいには、おそらく強い。


「我が右手に収まりし槍よ!神の如き雷を宿し、目の前の強敵を穿ち焦がせ!」


槍を一回転させ、柄から高電圧の紫電を放出させる。迸る雷が如く、イングラムの両手にはその衝撃が伝わってくる。


今でも暴れ出さんと、柄が小刻みに震えているのだ。


「アデル!あとは俺に任せろ!」


「ふっ、よし!」


笑みを含んだ承諾、アデルバートは

二刀の連続攻撃でシュラウドを退かせたあとセリアとレベッカの後方へ跳躍する。


「お前ら、俺の後ろにいろ。

“デカい”のが来るぞ」


二人を庇うようにして、ゆっくり後ろへ後退する。この時、アデルバートの両腕から長剣は消え失せていた。マナの残滓も完全に掻き消している。


(ナノレベルで残しても見ろ、俺たちは骨すら残らねえ)


アデルバートはじっ、とイングラムとその槍を睥睨するように見つめる。

そう、あれはレオンとイングラムがコロシアムで激闘を見せた時だった。


イングラムは当時、慣れない方法で全身に紫電を纏い、レオンに全力でぶつかった。


(あの時よりも、俺は強くなった。

それを見せてやる!)


「紫電纏い!」


天から轟く轟雷は建物を穿ち、イングラムへと落雷した。


「おおおおぉぉぉぉぉ!!!」


紫の雷が、騎士の身を覆い尽くした。

それはまるで、雷の化身。

周囲の酸素に反応して、プラズマとイナズマが交差しながら迸る。彼の周囲には数万ボルトにも及ぶ電球が無数に、かつバラバラに浮遊している。


「さあシュラウド、短期決戦といこう。」


「よかろう!雌雄を決さん!」


左手に召喚、いや、自動的に作られたのは正真正銘の雷の槍だ。

人工的な貴金属で打ち鍛えられた右手の槍と遥か天より降り注いだ天災を引き起こしかねない力を宿した自然の槍がイングラムの闘志を燃やしていく。


通常時であれば、左手に持っている槍がイングラム自身を焼き焦がすだろう、が、それは彼が雷を纏っていることにより防がれている。彼は今、歩く天災なのだ。


「———っ!」


二つの槍の連続攻撃、片や風を貫く音

片や迸る雷鳴の音。

シュラウドはたった一つの獲物で、その二撃を防ぎ、軌道をずらした。


「チッ!」


「まだまだぁっ!」


化身の追撃が迫る。

防ごうとすればするほど、耐え難い衝撃と振動に襲われる。近づきさえすれば天からの怒りによって黒焦げとなってしまうだろう。

そんな無様な最期は遂げたくはない。


「雷電槍!翔べ!」


雷電槍を全力で投擲する。

風が音を奏でるよりも疾く、紫の光源は無数にバラけてシュラウドを取り囲み、爆散する。


「ぐぬぅぅ!」


「五体満足か、ならばもう一手くれてやる!」


双槍が円を描きながら轟轟と光を集約していく。


「我が身は雷、我が心は鋼なり。

敵を穿つ滅紫の光とならん!」


そして、イングラムは一閃の雷となった。

音速を越え、光を越えた一撃。シュラウドの手にしている武器や鎧諸共貫通する。


「———ぐふっ!」


鉤鎌刀を支えにして、シュラウドは膝をついた。


「まずは、見事———!」


イングラムも、全身の肉体から雷のマナが消えていく。


「はぁ、はぁ、あれを喰らい生きているとは———な」


そして、槍を支えにして膝をついた。


「絶縁体を練り込んだステンレスの5倍の硬度を誇る鎧をこうも容易く焼き焦がすとは……末恐ろしいものよ!」


先に立ち上がったのはシュラウドだった。

そして、満足げな表情を浮かべる。


「イングラム、亜人たちは皆麻薬によりゾンビと化している。が、商人とそこな女性とが手を合わせれば必ず皆を元に戻せるだろう」


「なぜ、そんなことを俺に———」


「この案は我が主君の命ではないからだ。私は単に貴族を滅せよと命じられたまで」


「おい待て、リオウはどこにいる!」


アデルバートが身を乗り出して

シュラウドに近づいてくる。


「あの仮面の魔術師の独断だろう。

私は、この手のものは好かん。

故に、伝えたまでだ」


シュラウドはアデルバートの質問を

無下にし、セリアに視線を向けた。


「シュラウド様……もしや、あなたが私の分身を治療して下さった方ですね……?」


セリアが物悲しげな表情を浮かべて問いを投げる。


「うむ、しかし、そうか。

分身でよかった。あの傷は痛々しい、女が負うべきものではない」


「ありがとうございました。

感謝します」


セリアは一歩前に出て、丁寧なお辞儀を見せた。シュラウドはふふ、と笑いながらこくりと頷く。


「イングラム、アデルバート。

またいずれ戦場でまみえよう、その時は、この様な惨禍のない場所で戦いたいものだ」


シュラウドは降りてきた天井を仰ぎ、跳躍して姿を消した。


「ふん、まあいい。俺たちでリオウを見つけてとっちめるだけだ。行くぞお前ら」


ドレス姿のレベッカがアデルバートの前に出て立ち塞がる。


「あのぉ……ルーデリアさん、ですよね?」


「あ?あぁ、まあ……」


「どうやってあんな綺麗な女装をされたんですか!?!?あとその黒マスク剥いでいいですか?」


「ダメです」


「イングラム様。この国にはルシウス様もいらっしゃると聞きます。私達で急ぎ合流し、お助けしましょう」


「セリアさん、アデルにもあとで色々と聞きたいことがあります。これまでのこと、洗いざらい話してもらいますよ?」


「はい、必ずお話しします。

アデル様!」


アデルバートは頷いてセリアを抱き抱えた。彼は目配せして、お前もやれ、とイングラムに指示する。


「よし、レベッカさん。ここから離れますよ。リルルやエレノアさんも助けに行かなくては!」


「はい!」


レベッカは笑顔で頷き、アデルバートはセリアを抱いたまま跳躍し、イングラムもそれに続いた。

半壊した舞踏会場には、静寂だけが残った。

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