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第101話「王国戦火」

皆様に緊急の通達!緊急の通達です!

國崩しを行う紅蓮の騎士団が我がスアーガ国へと侵入しました!

貴族や民達を平然と嬲ると恐れられています。決して室外へは出ないでください!

繰り返します———!


国中に、何度も何度も轟くのは

紅蓮の騎士団襲来の警告だった。

平民たちは恐れ慄き、扉を閉め

室内に身を固める。


兵士たちは声を上げて防備を固め、迎撃体制をとった。

そして、高台からそれを見下ろすこの国の王は両腕を組み吠えた。


「ははは!人の子が俺の国を襲うか!

まずは好し!」


ガンメタルグレーの鎧を身に纏い

両肩から角のように生えている装飾品は王としての雄々しさと勇猛さを語っている。

鉛色の屈強な顔立ち、漆黒の鬣を備え

高らかに叫んだ。


「兄上、舞踏会場内に尖兵が紛れ込んだようです。対応を———」


「要らんよ、あの場には戦士が二人、いや三人いるだろう。ルシウスから聞いている。

あいつらに相手をさせておけ」


「はっ、承知しました」


かの王の弟も、鉛色の肌と端正な顔立ちであるが、鬣は僅かに剥ぎ取られたかのように生々しい傷跡として半分残っている。


「獅子王ネメアに歯向かうということ即ち!

この国にいる全ての者達に牙を向けるも同じこと!皆の者!まずは小手調だ。雷石投擲器用意!」


「「「おおぉぉぉぉ!!!!」」」


パチン、と指を鳴らすと

投擲器が無数に召喚される。

電撃迸る大岩がいくつも装填されている。


「射程距離内に入ったら迷わず放て!

各々の判断に任せるぞ!

して、弟よ、敵の数は如何程だ?」


「はっ、およそ10万近く、内部にどれほどいるかは不明ですが、遥か目の先に立っているであろう小粒たちは、統率された者たちでしょうが、我々の敵ではありません」


「んー、いかんなぁ、いかんぞ弟よ。

自然とは即ち、狩るか狩られるか、人間も我々亜人族獣人族も、いつ立場が入れ替わるかわからんのだ。気を引き締めてもらわねば」


「———はい、申し訳ありません」


王は腕を組んだまま、迫りくる紅蓮の騎士団を睥睨する。

しかし、口元は僅かににやりと笑みを浮かべていた。


「ははっ、気にするな!

さぁてと、敵の頭は見当たらぬか、立派な馬にでも跨っているものと思ったが、さて……これが陽動ともとれるが」


「ネメア王!ルシウスより伝令です!

敵の頭領はやはり潜伏している模様!」


王は視線だけをよこしてにやりと笑った。

ルシウスから事前に敵の取るであろう予測を立て、それを聞き入れたのだ。


「ルシウス・オリヴェイラか。

奴が人間代表でよかった!」


「ネメア王!敵軍射程距離内に到達!

撃ちます!」


「応!!」


投擲器はまるでガトリング砲のように大量の大岩を放出した。上部に打ち上げるのではなく、狙いを銃身で定め真っ直ぐ撃ち込むように。


「敵、散開していきます!」


敵の進軍する先に出来るは、地面に亀裂が出来て歪むほどの大きな穴、兵士たちはそれを避けつつバラバラに向かってくる。


「うむ!国の内部の方はどうだ」


「はっ、ルシウスが単騎で敵軍を押し留めています。民の避難も大方完了したとのこと!」


「よぉし、中はルシウスとその仲間たちに任せよう!国中に名前を轟かせている猛者がいるのだ、並大抵の者が叶うはずもない!」


がははははとネメアは大きく吠えるように笑った。



宿屋、けもってぃーけもっとでは

リルルは未だに寝付いていた。

緊急のサイレンに気づかないほど、熟睡しているのだ。

それを、慌ただしく起こすエレノアの姿が


「リルルちゃん、リルルちゃん!

起きて、大変なことになってるの!」


「う〜、あと5分だけぇ……」


「リルルちゃん!

その、何で言えば良いかわからないけどとにかく大変なの!みんなが避難してるのよ!」


「ふぇ……?」


イングラムから話は聞いていた。

戦争などという言葉を聞かせてしまえば少女の心の傷を広げてしまいかねないと。だから、敢えて言葉を濁しているのだ。


「イングラムさんたちもきっと避難してるはずだよ、行こう!避難所に!」


「騎士様は、騎士様だから、きっと戦うと思うよぉ……むにゃにゃ」


「リルルちゃん!?」


あれだけ騒がしいサイレンが今も鳴り響いているのだ。単語が発現されていなくとも

子供は鋭い、戦争が起こっているとわかっているのだ。


「……お姉ちゃん、私トイレ行ってきて良い?」


「え、我慢出来ない?」


「うん〜」


避難所のトイレは混んでいる可能性もある。

いくら大きな国だとしても、個数には限界がある。今用を足して避難すれば

少なくとも道中で困ることはないだろうとエレノアは考えた。


「わかった、私が見張っておくから

ゆっくりしてくるといいよ」


「ありがとう———!」


リルルは眠い眼を擦りながらトイレに駆け込み、エレノアが後に続いて扉の前で待機する。


(何も怒らないと良いけど———)


しかし、エレノアの不安はすぐに的中してしまう。宿屋の扉が突如蹴り倒される。

目の前に現れたのは不気味な赤い眼をした亜人族だった。


「ぅ———ァァ!」


「———この感じ、この匂い!」


エレノアは匂いを感じ取り、ジリジリと後退する。僅かな死臭が、狼並みの嗅覚を持つ彼女の嗅覚に反応した。しかも、普通の死臭ではない。


「何かを、取り込んだ……!?」


「ァァァア!!」


(まずい、私は狼型だけど、護身術とか習ってないんだった!)


エレノアは近くの食器やら何やらを投げて

なんとか時間を稼ごうとするが、どれも無意味に終わる。両腕を伸ばして口が裂けるまで開口するそれは、まさしくホラー映画のゾンビに等しい。


(噛まれたら終わり……!

何か刃物、刃物———!)


全身に汗を掻きながら手探りで何かを探す。しかし、武器になりそうなものはひとつもない。


「リルルちゃん、まだ終わってないよね?」


「うん?うん、もう少し〜」


自分が背にしている扉の向こう側で

リルルの返事が聞こえた。


「お姉ちゃんがいいよって言うまで

そこにいてもらえるかな?」


「なんで?」


「うん、ちょっと、お客さんが、ねっ!」


ドアノブに肘を置いて、足で顎を蹴り上げるが、上を向いただけですぐに顔の向きを戻してきた。


(あぁもう!何でこんな展開に!?

例の軍団とやらがなにか散布でもしたの!?)


ジリジリと距離を詰められる、顔を近づけられてしまえば、首筋にかぶりつくだろう。

そうすれば無惨な光景が少女の眼前に広がるのは間違いない。


(ええい!一か八か!)


エレノアがタックルをしようと力を込めた、その時———!


「大地の鎖」


突如声が響いた。

出入り口の方向から伸びる琥珀色の鎖が

ゾンビの首をキツく締め付ける。

そして、それを引っ張って地面に叩きつけた。目の前にいたのは、ただの商人だった。


「……あなたは?」


「ほぇぇ?僕はただの商人ですぅ!

あー、それよりも!避難所はこの化け物が溢れ返ってるので行かない方が無難ですう!」


ベルフェルク・ホワード

他人に戦える自分を決して見せない商人が、彼女らを助けにやってきた。


「溢れ返ってるって……?

見てきたんですか!?」


「はぃぃ、この人みたくゾンビみたいになって亜人たちをみるやいなやお食事タイムです」


そんな状況下から一旦戻ってきたこの男。

息一つ切らしていないし、服装も汚れていない。背中に大きな荷物を背負っているくらいであとは、手から鎖を出しているくらいか


「あの、その鎖———」


「あ……」


しまった、と言うような表情を浮かべて

顔に手を当て、ため息を吐くと。


「ごめんなさいお姉さん。

これ商売柄の演技、こいつらから守ってあげるから、このことは他の連中、イングラムたちには内緒で」


「わ、わかりました!」


「終わったよお姉ちゃん〜

あれ?開かない!?」


「うわわっ!?ごめんごめん!」


エレノアは慌てて扉の前から退いた。

そして手を拭いているレベッカがやってくる。


「あ!商売人のお兄さん!」


「ほぁー!リルルちゃんもいたのかあ!

ここは危ないから僕と一緒に来てね〜」


「はーい!“戦って守ってね!”

お兄さん!」


(———この娘、やはり)


ベルフェルクはリルルを睥睨するように

一瞬だけ眉を顰めると、すぐキョトンとした表情に変わった。


「さあさあ行きましょう行きましょう!

前後左右注意してレッツラゴー!」


「行くって、どこへですか?」


「んー?ルシウスくんのとこですが」


「ルシウス……?あの人類代表の、今回の会議に参加したって言う?」


「YES、彼が今回の紅蓮の騎士軍の

進行を進言してくれたおかげで、部隊は迎撃態勢、民たちは避難完了!安全安心かつ被害は最小限に済む、はすだったんですがぁ

闇取引の麻薬が亜人さんたちに散布されてしまったんですねぇ。それが今の惨劇なわけですがぁ」


「麻薬……!?

亜人の体内細胞を数分足らずで壊死させるっていう」


「おおっと、それ以上は———」


ベルフェルクはしっ、と親指を立ててリルルの方へ視線を送る。

過激な言葉を聞かせるわけにもいかない。


麻薬の意味はわからずとも、死と言う言葉には反応してしまうからだろう。

エレノアはこくりと頷いた。


「それじゃあ、行きましょう〜!

大丈夫、二人は僕が守って必ず送り届けると決めましたので〜」


「商人さん、どうか、よろしくお願いします!」


ベルフェルクはこくりと頷いて

出入り口に踵を返すのだった。


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