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第107話 二度目の告白

 一週間の謹慎(きんしん)が解けて登校してすぐ、アローラは教室の空気が変わっている事に気づいた。

 具体的に言えば、取り巻きたちの態度が変化していた。


 アローラに寄ってこなくなっただけではない。

 彼らは一様に、ノアとシャーロットの様子を(うかが)っていた。

 上の者が下の者に向けることは決してない、()びへつらう視線を向けていた。


 これまで、ジェームズやアローラにそうしていたように。


 心底腹が立った。

 自分よりもノアやシャーロットを選んだ奴らにも、そんな奴らと群れようとしない二人にも。

 お高くまとまってる自分たち格好いい、とか思っているのだろう。


 また、ノアとシャーロットに認められているおかげでクラス内の地位を向上させたアッシャーやサミュエル、ハーバーにも、アローラは苛立っていた。

 特にハーバーなどはEランクの平民、底辺中の底辺だというのに。


 しかし、苛立ちはしても、アローラにできる事はなかった。

 ノアはあのケラベルスを倒したのだ。

 到底自分が敵う相手でない事は、ケラベルスが使役していたダーナス相手に恐怖したアローラが一番よくわかっていた。


 発散する場所がないため、ストレスは溜まる一方だった。

 トイレでコソコソと自身の噂話をしていた奴らには「群れる事でしかイキれない雑魚のくせに」と言ってやった。

 怯えた表情で逃げ出す彼女らを見て少しはスッキリしたが、到底ストレス解消にはならなかった。


 それでもある時、楽しさのかけらもなかった生活に光が差した。

 魔法学の授業で、ノアとの共同作業を先生に命じられたのだ。


 条件反射で顔をしかめてから、アローラはふと思った。

 覚醒した今のノアは、もしかすると結構な優良物件なのではないかと。


 身分と身長を除けば、ほとんどジェームズに勝っているだろう。

 実力はまず間違いなくノアの方が上だし、性格もそうだ。どちらとも付き合っていたアローラだからこそ、断言できる。


 思い返せば、ノアと別れたあたりからアローラの歯車は狂い出した。

 彼さえ取り戻せればなんとかなる。そう思った。


 実験でも、ノアとは普通の会話を交わす事ができた。

 そもそも、あんなフラれ方をしておいてもなお、ノアはダーナスに襲われているアローラを助けようとしたのだ。

 自分に惚れているのは確定だろう、と自信を抱いたアローラは、ノアを取り戻すべく行動を開始した。


 初手として、好きな映画にでも誘おうと考えた。

 スミス家はそちらの方面に影響力を持っている。

 ノアの好きな映画のチケットを二枚用意する事くらい、造作のない事だった。


 席はもちろんVIP席を用意した。

 周囲の観客からは見えない構造になっていて、お偉いさんがお忍びで、特に愛人を連れて鑑賞する際に利用する席だ。


 そこで、あわよくば手を出させようとアローラは計画した。

 テイラー家やブラウン家のような歴史のある大貴族は難しいだろうが、新興勢力のスミス家なら、サター星の刺客の撃退という魔法師として十分過ぎる実績を上げたノアを婿(むこ)に迎え入れる事も、十分に可能だ。


 ちなみに、ノアがWMUダブリュー・エム・ユーに勧誘されて入隊した事は一部の大貴族以外は知らない情報であり、アローラもそうだった。

 それでもスミス家に勧誘できるほど、ケラベルスを倒した功績は大きかったのだ。


 しかし、ノアはアローラの誘いを断ってきた。

 顔を伏せなければならないほど苛立ったが、アローラはすぐに思い直した。


 断られたのは、あくまでノアがシャーロットと付き合っているからだ。

 ポジション的にシャーロットが上というだけで、ノアからの評価までそうだとは限らない、と。


 アローラは、ノアの中で自分がシャーロットより下であるはずがないと思っていた。

 彼女の中には、二人はシャーロットがノアの心の弱い部分につけ込んだだけの繋がりの薄いカップルであるという根拠のない考えがあった。


 自分と付き合っていた頃の事を思い出しでもすれば、ノアは必ずシャーロットを捨てて戻ってくると確信していた。

 なぜなら、アローラとノアは相手の弱みにつけ込んで付き合っていたわけではないのだから。

 

 それに、実家から干されているシャーロットと違い、アローラは次期当主だ。

 その夫のポジションが、平民のノアにとって魅力的である事は間違いないだろう。

 権力に興味のない人間なんているはずがない。


 しかし、今の自分がノアからの見栄えが良くない事くらいは、アローラも自覚していた。

 だから、一度接触した後は、むしろ距離を取った。


 教室でノアとシャーロットがイチャイチャしているのを見て、アローラは哀れみを禁じ得なかった。

 シャーロットはただの盗人だ。同情と恩義で保っているだけの関係を、真の愛情による運命の出会いと勘違いしている。

 滑稽だな、と内心で嘲笑(あざわら)った。


 そして定期テスト最終日、アローラはノアを手紙で呼び出した。

 一人でくるように条件をつけたのは、シャーロットの前ではノアも色々とやりづらいだろうと思ったからだ。

 ノアが自分との復縁を選ぶ事は、アローラの中では既成事実と化していた。


「今までの事は本当にごめんなさい。前はジェームズのせいだなんて言っちゃったけど、あれは間違いだった。ジェームズに流された私が悪かったって、今ならわかるよ。その罪は、これから一生をかけて償っていく。だからもう一度、私と付き合って」


 自分なりの誠心誠意の謝罪をしてから、アローラはノアに人生で二度目の告白をした。


「ごめん。君の気持ちには応えられない」

「……えっ?」


 アローラは自分の耳を疑った。


「な、何で……?」

「前も言ったと思うけど、僕は君の事を信用も信頼もしていないし、馴れ合う気もない。馴れ合う気もないのに、付き合うはずがないでしょ?」

「……で、でも、私たち、うまくいってたじゃない! ノアだって楽しかったでしょ⁉︎ もう一度——」

「その楽しかった時間を壊したのは君だよ」

「っ……!」


 ノアの冷たい視線に射抜かれて、アローラは言葉を詰まらせた。


「確かに君との時間は楽しかったよ。けど、今の僕にはシャルがいる。僕には彼女以外見えていないし、見る気もない。一生を添い遂げたいって、心の底から思ってるよ。だからもう、僕には構わないで」

「そ、そんな……! わ、私の体だって好きにしていいし、スミス家もあげるからっ!」


 アローラは胸元のボタンを外しながら、ノアに詰め寄った。

 瞳に哀れみの色が浮かべながら、ノアは首を横に振った。


「いらない。僕と君の物語はもう終わってる。僕が君との過去を振り返る事はないから。告白してくれてありがとう。それじゃ」

「っ……!」


 遠ざかっていくノアの背中を、アローラは追いかける事はしなかった。




 それからどれくらいの時間が経っただろうか。

 十分かもしれないし、一時間かもしれない。もしかしたら一分も経っていなかったかもしれない。


 アローラはゆっくりと顔を上げた。

 瞳は血走り、口元には狂気的な笑みが浮かんでいた。


 近くの木に止まっていたカラスの飛び立つ音を聞きながら、彼女はつぶやいた。


「……なるほど。私が間違っていたみたいだね」


 いっそ恍惚(こうこつ)とした表情で、彼女は続けた。


「わざわざ奪い取る必要なんてなかったんだ。だって、席が埋まっているのなら、空けてから座ればいいだけなんだから」

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